- 更新日 : 2025年9月5日
建設業法における一括下請けの禁止とは?例外や罰則などもわかりやすく解説
建設業法では、受注した建設工事を元請企業が下請業者に丸投げすることを禁じています。違反すると、元請企業だけでなく下請企業も行政処分を受けることもあるため注意が必要です。
本記事では、建設業法における一括下請けの禁止について解説します。例外や罰則などもわかりやすく解説しますので、建設業にかかわる人は確認しておきましょう。
目次
建設業法における一括下請けの禁止とは
一括下請けの禁止とは、受注した建設工事の全部または主要な部分を下請業者に丸投げすることを禁じる建設業法の定めです。同法第22条1項及び2項では次の通り定められています。
- 建設業者は、その請け負った建設工事を、いかなる方法をもってするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
- 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならない。
最初に、一括下請けが禁止されている理由と禁止に至った経緯について解説します。
一括下請けはなぜ禁止されている?
一括下請けが禁止されている理由の1つは、建設工事を発注した顧客の信用を裏切らないためです。顧客は建設業者の実績や評判などを判断材料として工事を発注したにもかかわらず、知らない下請業者が工事することになると顧客の信頼を裏切ることになるためです。
また、一括下請けによって建設工事の質が低下するリスクも考えられます。元請業者が中間マージンを取ることで、工事に当てる費用が減るからです。
さらに、受注者と工事の実施者が異なるため、顧客の要望が届かないことや、問題が発生したとき元請業者と下請業者が責任を押し付け合う事態なども考えられます。
一括下請けはいつから禁止されている?
建設業法は1949年に制定され、一括下請けについては次の通り規制強化されています。
- 1953年:一括下請けの禁止の強化(無許可業者への一括下請けも禁止に)
- 2006年:共同住宅を新築する建設工事について一括下請けを全面的禁止
しかし、一括下請けの定義が曖昧で不適切な事例が発生していたため、2016年10月14日に国土交通省が建設業者に通知し、一括下請負の禁止に関する判断基準を明確化しました。
参考:国土交通省 一括下請負禁止の明確化について(H28.10.14通知)
一括下請負に該当する条件
一括下請負に該当するのは、以下の2つのケースにおいて、元請業者が受注した工事の施工に「実質的に関与」していると認められない場合です。
- 受注した建設工事の全部または主たる部分を一括して下請業者に請け負わせる場合
- 受注した建設工事の一部分のうち、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を一括して下請業者に請け負わせる場合
「実質的な関与」の有無については、前述の国土交通省「一括下請負禁止の明確化について(H28.10.14通知)」(以下、国土交通省通知)で元請・下請が果たすべき役割として判断基準を設けています。
実質的に関与があれば一括下請負に該当しない
下請業者に実際の工事をすべて任せていても、実質的な関与があれば一括下請負には該当しません。元請業者が実質的に関与するとは、次の「元請業者が果たすべき役割」をすべて行うことです。
(元請業者が果たすべき役割)
施工計画の作成 |
|
---|---|
工程管理 |
|
品質管理 |
|
安全管理 |
|
技術的指導 |
|
その他 |
|
一括下請負に該当するか否かの判断は、元請業者が受注した建設工事ごとに行います。
建設業法第26条で配置が義務づけられている主任技術者または監理技術者を工事現場に置いていても、実質的な管理・監督業務を行っていなければ、元請業者が果たすべき役割を遂行したことにはなりません。
合法的な一括下請けの条件
建設業法第22条3項及び4項には、一括下請けの禁止についての例外規定が設けられています。発注者である顧客の承諾があれば、一括下請けを認めるというものです。ただし、書面または情報通信技術(オンラインや電子メールなど)を使用する方法で顧客から承諾を得なければなりません。口頭で承諾を得ても、合法とはいえません。
また、共同住宅や多くの人が利用する施設などの建設工事については、顧客の承諾があっても一括下請けは認められませんので注意しましょう。
一括下請けの禁止に違反した場合の罰則
一括下請けの禁止に違反した場合、行政処分の対象となる可能性があります。具体的には、営業停止処分が下されるのが一般的です。また、違反を繰り返した場合、建設業許可の取り消しも考えられます。前述の通り、元請業者だけでなく下請業者も処分の対象となることを覚えておきましょう。
一括下請けの禁止のルールを守るためのポイント
一括下請けの禁止ルールを守るための主なポイントは次の通りです。
- 元請業者が管理・監督を徹底する
- 下請法を遵守して下請業者へ発注する
- 国土交通省の判断基準をチェックする
各ポイントについて解説します。
元請業者が管理・監督を徹底する
元請業者の実質的な関与があれば一括下請負に該当しないため、ルール違反にはなりません。
実質的な関与の有無は、「元請業者が果たすべき役割」を果たしているかどうかで判断します。元請業者は管理・監督を徹底することによって、法令違反のリスクを回避できます。
また、「施工体制台帳(※)」を作成して施工体制を明記することで、管理・監督が容易になるでしょう。請負業者と下請業者のそれぞれの役割や責任が明確になります。
※工事の範囲や工期、安全管理体制、工事参加業者の責任範囲などを定めた台帳です。所定要件に該当する工事の下請け時、請負業者は作成が義務づけられます。
下請法を遵守して下請業者へ発注する
下請業者への発注についても注意が必要です。元請業者が果たすべき役割を下請業者には発注してはいけません。国土交通省通知では「下請業者が果たすべき役割」を定めているため、発注内容決定時の参考にしましょう。
また建設業法では、請負契約について「当事者は対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実に履行しなければならない」と定めています。「不当に低い請負代金」や「著しく短い工期」などの禁止ルールについても理解が必要です。
国土交通省の判断基準をチェックする
国土交通省通知(一括下請負禁止の明確化について(H28.10.14通知))では、一括下請負に該当するかどうかの判断基準が規定されています。同判断基準をきちんとチェックして、元請業者と下請業者の役割分担を決定しましょう。
Q&A形式で具体的な判断例も掲載されているため、一括下請けの禁止ルールを理解するのに役立ちます。
禁止ルールを遵守してリスク回避と信用維持を図ろう
建設工事の一括下請けは、建設業法で禁止されています。違反すると営業停止などの行政処分を受けるだけでなく企業としての信用を失うリスクもあります。
請負業者が禁止ルールに違反しないためには、建設業法や国土交通省の判断基準に従って元請業者と下請業者の役割分担を決めることが重要です。法令を理解・遵守して企業の信用を守り、継続的な企業の発展の基礎としましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
改正下請法の施行はいつから?変更点や対応策を解説
下請法は、委託事業者と中小受託事業者の間で行われる取引の公正を守るために制定された法律です。2025年の改正では、名称や用語の変更、従業員数基準や運送委託の追加、価格交渉義務化、手形払いの禁止など大幅な見直しが行われ、2026年1月1日から…
詳しくみるステマ規制とは?対象となる行為の具体例や事業者の注意点、違反リスクを解説
ステマ規制とは「PRであることを隠してする広告への規制」を意味します。景品表示法で規制されている不当表示に新たにステマが加わりましたので、事業者は注意しなくてはなりません。 具体的にどのような行為がステマ規制に引っかかるのか、注意点や違反リ…
詳しくみる民法117条(無権代理人の責任)とは?無過失責任についてもわかりやすく解説
民法117条は、無権代理人の責任についての要件と効果を定めた条文です。無権代理人とは代理人としての権利を有さないで代理人行為を行った者を指し、代理行為を実施できないため、代理人が自分自身のために行った行為とみなされ、すべての責任を負います。…
詳しくみる独占禁止法とは?違反した企業の事例や規制内容、罰則をわかりやすく解説
独占禁止法は公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とする法律で、中小企業を含む事業者が対象です。独占禁止法に違反すると公正取引委員会から排除措置命令が出され、無視すると罰則が科されます。事業者…
詳しくみる労働契約法とは?基本事項や改正のポイントをわかりやすく解説
従業員を雇用するときは、労働基準法や最低賃金法などを守ることはもちろん、「労働契約法」に規定されている労働契約の原則に従って、契約の締結や変更を行う必要があります。労働基準法など、その他の労働法との違いがわかりにくいかもしれませんが、当記事…
詳しくみる民法644条の善管注意義務とは?違反した場合や判例、改正点などわかりやすく解説
民法644条の善管注意義務は、委任契約の受任者に課せられた義務です。委任契約以外にも民法644条が準用されています。また2020年民法改正後、従来の文言のまま規定が残っているため、善管注意義務の理解を深めておかなくてはなりません。本記事では…
詳しくみる