【確定版】令和5年度(2023年)税制改正まとめ

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1.はじめに

令和5年の税制改正関連にかかる法案は、内閣が提出した原案どおり令和5年3月28日に成立し、4月1日に施行されました。

税制改正は、各省庁や各団体からの要望をまとめた税制改正大綱が毎年12月中旬に閣議に提出され、その後に税制改正案が財務省と総務省で取りまとめられ、2月に国会に提出されます。そして、3月末に国会での承認を経て、4月1日から施行されるというスケジュールで動いています。

今回の税制改正では、令和5年10月1日から開始するインボイス制度についての改正が多数あり、当初の内容よりも制度が複雑になってきています。ただ、小規模事業者にとっては税負担が軽減される措置が多数盛り込まれる内容となりました。

電子帳簿保存法の改正については、帳簿保存要件が大幅に緩和され、以前よりも電子帳簿保存に取り組みやすくなりました。今後は、領収書請求書のすべてを電帳法に対応できるよう、保存方法を変更していく企業が増加することが予想されます。

個人課税関係では、NISA制度の拡充や恒久化、相続税や贈与税の資産移転税制の改正などがあり、全体的に多くの人に影響のある改正が多かったように思います。

本記事では、税制改正で確定した内容のうち、法人業務に関する事項、特に「インボイス制度に関する改正」と「電子帳簿保存法に関する改正」を中心にご紹介していきます。

経営者や法人業務に関与されている方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

2.インボイス制度に関する改正

(1)インボイスを導入する免税事業者の負担軽減措置(2割特例)

免税事業者が、自ら選択してインボイス発行事業者(課税事業者)になった場合には、納税額を売上消費税額の2割として計算することができる2割特例の措置が設けられました。

この2割特例の適用を受けようとする場合は、事前にインボイス登録申請書以外の届出書等を提出する必要はなく、令和5年10月以降分の消費税申告書に「2割特例適用」と記載するだけでその適用を受けることができます。

なお、2割特例は、消費税を本則課税で計算している場合でも、簡易課税で計算している場合のいずれの場合であっても消費税申告時に選択できます。つまり、簡易課税を選択している場合は「簡易課税と2割特例」で有利選択、簡易課税を選択していない場合は「本則課税と2割特例」で有利選択ができるということです。

簡易課税を選択できるのは、基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下である事業者に限られます。簡易課税を選択できる事業者である場合は、営んでいる事業が卸売業であるときに限り、簡易課税選択届出書を提出することで有利になる可能性があります。

消費税計算の算式は本則課税と簡易課税で下記のように異なります。みなし仕入率が90%である卸売業の場合は、簡易課税が2割特例の適用を受けるよりも有利になる可能性があるため、簡易課税選択届出書の提出を検討したほうがいいでしょう。

ただし、今後に大きな設備投資等を実行する予定がある場合は、本則課税が有利となる可能性もありますので、今後の投資計画の検討も併せて行っておきましょう。

本則課税:売上消費税額 ー 仕入消費税額 = 納税額 or 還付額

簡易課税:売上消費税額 ー(売上消費税額 × みなし仕入率※)= 納税額

※みなし仕入率は業種により異なり、下記の表のように区分されます。

国税庁「No.6509簡易課税制度の事業区分」より引用

本改正は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において適用されます。
(法:平成28年改正法附則51の2)

(2)インボイス事務負担軽減措置

インボイス制度への移行をスムーズに進めるため、一定の中小企業者は1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの発行を受けていなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除(売上消費税額から仕入消費税額を差引くこと)の適用を受けることができます。

インボイス開始後は、原則的には、帳簿とインボイス(請求書等)を保存していないと仕入税額控除の適用を受けることができません。

しかし本改正で、下記の要件を満たす事業者である場合は、国内において行う課税仕入れについて、支払対価の額が税込1万円未満であるときは、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができます。

    (a)基準期間における課税売上高が1億円以下
    (b)特定期間(前期の期首から6カ月間)における課税売上高が5,000万円以下

本改正は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間、国内において行う課税仕入れについて適用されます。
(法:平成28年改正法附則53の2、改正令附則24の2)

(3)少額な返還インボイスの交付義務免除

インボイス導入後に値引等があった場合、売手と買手の税率と税額を一致させる必要があるため、一定の事項を記載した返還インボイスの義務が生じます。

しかし今回の改正において、事業者の事務負担を軽減するため、税込価額1万円未満の値引取引については、返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。

例えば、買手が売手に代金を支払う場合、振込手数料を差し引いて支払うことがあります。この差し引いた振込手数料分が値引等に該当するため、通常であれば返還インボイスの交付が必要となります。しかし、この値引金額が税込1万円未満であれば、その交付は不要となります。

本改正は、令和5年10月1日以後の課税取引にかかる値引取引等について適用されます。
(法:消法57の4、消令70の9、改正法附則1二イ、20)

(4)インボイス登録事業者申請手続き期限の緩和

インボイス制度が開始する令和5年10月1日からインボイス登録事業者となるためには、原則として、令和5年3月31日までに登録申請書を所轄税務署へ提出する必要があります。しかし、期日までに登録申請ができなかった場合は「困難な事情」がある場合に限り、期日後も柔軟に申請を受け付けることとなっていました。

今回の改正では、この「困難な事情」の記載がない場合でも、令和5年4月以降に提出された登録申請書も問題なく受理されることとなりました。

また、改正前は、免税事業者がインボイス登録をしようとする場合、その登録を受けようとする「課税期間の初日から起算して1カ月前まで」に登録申請書を提出する必要がありました。しかし、改正後は「課税期間の初日から起算して15日前まで」に提出すれば間に合うこととなりました。

本改正は、令和5年4月1日以後に提出する登録申請書について適用されます。
(法:消法57の2、消令70の2、改正令附則15)

3.電子帳簿保存法に関する改正

(1)電子取引データの保存の見直し

請求書、領収書、注文書などの取引情報をインターネットや電子メールなどを通じて受領している場合は、一定の保存要件を満たしたうえで、電子データとして保存することが義務づけられています。

ただし、令和4年改正において、令和5年12月31日までは電子データとして受領した情報であったとしても、出力した書面での保存を認める経過措置が設けられました。

今回の改正においてはさらに要件が緩和され、令和5年12月31日までに相当の理由がありシステム等の対応ができなかった事業者については、出力した書面での保存に加え、税務調査等でデータのダウンロード等の求めに応じることができるように整備している場合は、電子データの検索機能の確保要件が不要となりました。

なお、令和4年改正の経過措置は令和5年12月31日をもって廃止されることが決まりました。

本改正は、令和6年1月1日以後の電子取引について適用されます。
(法:電帳法7、電帳規4③)

(2)検索機能の確保要件の緩和

電子取引データの保存については、次の3つの要件を満たす検索機能を確保しておくことが必要とされています。

    (a)取引年月日、勘定科目、取引金額その他の重要な記録項目を検索条件として設定できること
    (b)日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること
    (c)2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること

ただし、税務調査等で電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、基準期間における売上高が1,000万円以下である事業者に限り、検索要件のすべてが不要となっています。

今回の改正では、検索が不要となる要件が緩和され、下記の2つの要件を満たしている事業者であれば、検索機能の確保自体が不要となりました。

    (a)基準期間おける売上高が 5,000万円以下の事業者
    (b)電子取引データ出力した書面の提示、又は提出の求めに応じることができる事業者

本改正は、令和6年1月1日以後の電子取引について適用されます。
(法:電帳規4①)

(3)スキャナ保存制度要件の緩和

スキャナ保存とは、決算関係書類を除く国税関係書類についてスキャナでデータ化して保存をする方法で、紙での書類保存が不要となります。なお、等制度の適用を受けるために事前承認等を受ける必要はありません。(令和4年1月の改正により、事前承認要件は廃止)

今回の改正では、次の3つの見直しが行われました。

    (a)データを入力した者の情報が不要に
    (b)データの読み取り情報(解像度、階調、大きさ)の保存が不要に
    (c)データと国税関係帳簿との相互関連性が、契約書・領収書・請求書等の重要書類に限定

本改正は、令和6年1月1日以後の電子取引について適用されます。
(法:電帳規4③、電帳規2)

(4)優良電子帳簿の軽減措置対象範囲の明確化

一定の要件を満たす優良電子帳簿を保存している場合において、申告漏れなどが生じたときは、所得税及び法人税にかかる過少申告加算税が5%軽減されることとなっています。

今回の改正では、その優良電子帳簿に含まれる書類の対象範囲が、下記のとおり明確化されました。

    (a)売上帳
    (b)仕入帳、経費帳(法人税のみ賃金台帳を除く)
    (c)売掛帳、買掛帳
    (d)受取手形帳、支払手形
    (e)貸付帳、借入帳、未決済項目に係る帳簿
    (f)有価証券受払簿(法人税のみ)
    (g)固定資産台帳、繰延資産台帳

本改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する事業年度から適用されます。
(法:電帳規8④、電帳規5①)

4.法人税務に関する改正

(1)オープンイノベーション促進税制の見直し

投資額の上限が引き上げられ、令和5年4月1日以降に開始する事業年度から適用が開始されます。
(法:措法66の13)

(2)研究開発税制の見直し

研究開発投資のインセンティブ強化に向けた控除率・控除上限額の見直し、オープンイノベーション型の対象範囲の追加等が行われ、令和5年4月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されます。
(法:措法42の4)

(3)中小企業投資促進税制等の見直し

適用要件が一部見直されたうえで、適用期限が2年間延長され、令和7年3月31日までに取得等・事業共用した場合に適用されます。
(法:措法42の6)

(4)デジタルトランスフォーメーション投資促進税制の縮減

適用要件が一部見直されたうえで、適用期限が2念延長され、令和7年3月31日までに情報技術事業適応設備を取得し、国内事業の用に供した場合に適用されます。ただし、令和5年4月1日以前に申請をした計画に基づいて行われるものについては適用されません。
(法:措法42の12の7)

(5)特定資産を買換えた場合の圧縮記帳の見直し

適用範囲の見直しをしたうえで、適用期限が3年延長され、令和8年3月31日までに買換えを行った場合に適用されます。
(法:措法65の7~65の9、改正法附則46)

5.その他の改正

(1)高額無申告等へのペナルティ強化

原則として、期限後申告に関する決定や申告があった場合、納税額の15%(50万円を超える部分については20%)の無申告加算税が課されることとなっています。

今回の改正では、社会通念に照らして申告義務を認識していなかったとは言い難い規模の高額無申告について、納税額が300万円を超える部分のペナルティとして、無申告加算税が30%となりました。

本改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用されます。
(法:通則法66、68、改正法附則1三ロ、23)

(2)年末調整書類の記載事項の簡素化

年末調整の際に会社へ提出される「保険料控除申告書」について、保険金等の受取人と申告者との続柄が記載不要となりました。また「扶養控除申告書」について、前年と変更がない場合は、その旨を記載するのみでよくなりました。

本改正は、保険料控除証明書は令和6年10月1日以後に提出するもの(令和6年分の年末調整)、扶養控除申告書は令和7年1月1日以後に提出するもの(令和7年分の年末調整)から適用されます。
(法:所法194、195、地法45の3の2、317の3の2)

(3)給与所得の源泉徴収票の提出方法簡素化

税務署へ提出が必要となる「給与所得源泉徴収票」について、地方自治体に「給与支払報告書」を提出した場合、税務署に「給与所得の源泉徴収票」を提出したものとみなされる措置が講じられることとなりました。

本改正は、令和9年1月1日以後に提出すべき給与所得の源泉徴収票について適用されます。
(法:所法226、地法317の6、改正法附則1八イ、8)

6.まとめ

本記事では、令和5年の税制改正の確定事項について、法人業務に関する事項を中心にご紹介いたしました。

毎年改正がある複雑な税法のすべてに対応することは困難であるため、まずは日々の業務に直接的に関係する事項から対応していくことが重要です。

特にインボイス制度と電子帳簿保存法の改正については、すぐにでも対応しないといけない事項が多数あるため、詳細を重点的にお伝えしました。

開始ギリギリになってからでは間に合わないこともありますので、システムの整備等も含め、できることから早めに取り掛かるようにしましょう。

本記事を参考に、制度内容の理解を深めていただければと思います。

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