• 更新日 : 2025年12月9日

営業の働き方改革 どう進める?残業削減と効率化の具体策

「働き方改革」が叫ばれて久しいですが、営業部門では「残業が多い」「属人化している」といった課題が根強く残っていませんか? 中小企業にとって、営業の働き方改革は、生産性向上だけでなく、従業員の健康維持や人材確保の観点からも非常に重要です。本記事では、経営専門家として、営業の働き方改革を「どう進めるか」、残業削減や業務効率化の具体策、SFAなどのツール活用法まで、成功のステップをわかりやすく解説します。

営業 働き方改革の進め方 5ステップ

営業部門の働き方改革は、やみくもに進めても成果は出ません。成功のためには、現状を正しく把握し、段階的に取り組むことが不可欠です。ここでは、改革を推進するための具体的な5つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状把握と課題の可視化

まずは「敵を知る」ことから始めます。営業担当者が「いつ」「何を」「どれくらい」行っているのかを徹底的に可視化しましょう。日報の分析、ヒアリング、業務時間の記録などを通じて、非効率な業務やボトルネックになっているプロセスを洗い出します。この段階で実態から目をそむけず、客観的なデータを集めることが、後のステップの精度を大きく左右します。

ステップ2:削減すべき業務の特定と目標設定

可視化された業務の中で、「本当に必要な業務か?」「営業担当者がやるべき業務か?」という視点で見直します。例えば、移動時間、社内会議、報告書作成、事務作業など、削減または自動化できる業務を特定します。同時に、「残業時間を月平均〇時間削減する」「訪問件数を維持しつつ移動時間を〇%削減する」といった、具体的で測定可能な目標を設定します。

ステップ3:業務プロセスの見直しと標準化

非効率な業務を特定したら、次は業務プロセスそのものを見直します。ベテラン営業マンの暗黙知(ノウハウ)を形式知(マニュアル)に変え、誰でも一定の成果が出せるように「標準化」することが重要です。これにより、業務の属人化を防ぎ、新人教育のコスト削減にもつながります。成功パターンを共有し、組織全体の営業力を底上げする仕組みを作りましょう。

ステップ4:ITツール(SFA/CRM)の導入と定着

業務の標準化と効率化を強力に後押しするのがITツールです。SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)は、顧客情報や商談履歴を一元管理し、属人化を解消するのに役立ちます。ただし、導入がゴールではありません。なぜこのツールが必要なのかを現場に丁寧に説明し、入力が負担にならないよう運用ルールを簡素化するなど、「定着」させるための支援が重要です。

ステップ5:評価制度の見直しと継続的な改善

働き方改革を推進する上で、評価制度の見直しは不可欠です。「長時間働いた人が評価される」といった古い評価基準を見直し、「生産性」や「効率性」、「プロセス」を正しく評価する仕組みに変える必要があります。また、改革は一度で終わるものではありません。設定した目標の達成度を定期的にチェックし、現場のフィードバックを受けながら、継続的に改善(PDCA)を回していくことが成功の鍵です。

なぜ今、営業の働き方改革が必要か?

多くの企業が営業の働き方改革に取り組もうとしていますが、その背景には何があるのでしょうか。単なる流行ではなく、企業が存続するために対応すべき差し迫った理由が存在します。

営業部門に根付く長時間労働の実態

営業職は、顧客対応や移動、資料作成、日報業務など、多岐にわたる業務を抱えがちです。また、「成果が出るまで働く」という意識が根強く残っているケースも少なくありません。結果として、他の職種に比べて長時間労働や残業が常態化しやすく、従業員の心身の健康を損なうリスクを抱えています。これが離職率の高さや生産性の低下につながる悪循環を生んでいます。

働き方改革関連法への対応(残業時間の上限規制)

2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」により、時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)が、2025年現在、猶予期間のあった業種も含め、すべての企業に適用されています。これに違反した場合、罰則が科される可能性もあります。もはや、長時間労働を前提とした営業スタイルは法的な観点からも許容されなくなっており、早急な業務プロセスの見直しが求められています。

多様な働き方へのニーズと人材確保の課題

少子高齢化による労働力人口の減少に伴い、人材の確保は中小企業にとって深刻な経営課題です。特に若い世代は、ワークライフバランスを重視する傾向が強く、長時間労働が常態化している企業を敬遠します。また、コロナ禍を経て、リモートワークや直行直帰など、柔軟な働き方を求めるニーズも高まっています。優秀な人材を確保し、定着させるためにも、魅力的な労働環境を整備することが急務です。

営業の働き方改革が進まない主な理由

必要性は理解していても、営業部門の働き方改革がなかなか進まない企業は多いです。その背景には、営業特有の構造的な問題が潜んでいます。

業務プロセスが可視化されていない

営業の働き方改革が進まない最大の理由の一つが、業務の「ブラックボックス化」です。「誰が」「何を」「どうやっているか」が見えていないため、どこに無駄があり、何を改善すればよいのかが分かりません。特に、個々の営業担当者が独自の手法で顧客管理やアプローチを行っていると、問題点の特定が困難になります。まずは、前述のステップ1(現状把握)を徹底することが改革の第一歩です。

「属人化」と旧来の営業スタイルへの固執

「営業は個人のスキルと勘、根性だ」といった古い価値観や、「すごい営業マン(エース)が一人いればいい」という属人化への依存が、改革を阻害します。エースの退職が業績に直結するリスクを抱えるだけでなく、その人のやり方が標準化されていないため、組織全体のスキルアップにつながりません。また、上司自身が長時間労働で成果を出してきた経験を持つ場合、効率化への意識改革が遅れがちです。

上司(管理職)の意識とマネジメント不足

部下の働き方改革を推進すべき上司(管理職)が、旧来のマネジメントスタイルから抜け出せないケースも問題です。部下の行動やプロセスを把握せず、結果(売上)だけで判断したり、精神論での指導に終始したりしていては、現場は疲弊します。管理職には、部下のタスクを適切に管理し、効率化のための具体的な支援(ツールの活用促進や業務の再配分など)を行う、新たなマネジメントスキルが求められています。

残業削減と業務効率化を実現する具体策

働き方改革を進めるステップと課題がわかったところで、ここでは残業削減と効率化に直結する具体的な打ち手をご紹介します。

SFA/CRM活用による情報共有とタスク管理

SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)は、営業の働き方改革における強力な武器です。顧客情報、過去の商談履歴、進捗状況をすべてシステム上で一元管理・共有できます。これにより、上司への報告のためだけの会議や日報作成の時間を大幅に削減できます。また、次に何をすべきかという「タスク管理」も明確になり、効率的な営業活動が可能になります。

Web会議・チャットツールによる移動時間と会議の削減

営業活動において大きな割合を占めるのが「移動時間」と「会議時間」です。Web会議システム(ZoomやGoogle Meetなど)を活用すれば、遠方の顧客との商談や、社内の定例会議をオンラインで完結できます。これにより、移動時間が削減され、その時間を他のコア業務に充てられます。また、チャットツール(SlackやMicrosoft Teamsなど)を使えば、迅速な情報共有が可能になり、不要な会議を減らせます。

ノンコア業務の自動化(日報作成、請求書送付など)

営業担当者が行う業務の中には、見積書作成、日報作成、そして契約後の請求書送付といった、売上に直接つながらない「ノンコア業務」が数多く存在します。これらの定型的な事務作業は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や各種クラウドサービスを活用して自動化・効率化すべき領域です。例えば、SFAと連携した請求書発行システムを導入すれば、営業担当者の手を離れ、経理部門も含めた会社全体の効率化が図れます。

営業資料やノウハウの共有化

営業資料が個々の営業担当者のPCにしか保存されていない、といった状態は非効率の極みです。クラウドストレージ(Google DriveやDropboxなど)を活用し、最新の提案資料、事例集、Q&A集などを一元管理し、誰もがアクセスできるようにしましょう。これにより、資料探しの時間や、毎回ゼロから資料を作成する手間が削減されます。また、成功事例やノウハウを共有する文化を作ることも、組織全体の営業力強化につながります。

「属人化」から脱却する組織的な営業体制づくり

営業の働き方改革の最終的なゴールは、個人の能力に依存する体制から脱却し、組織(チーム)として継続的に成果を出せる仕組みを作ることです。

“すごい営業マン”に依存するリスク

一人の”すごい営業マン”(エース)の売上に依存する組織は、非常に脆いと言えます。その人が退職したり、スランプに陥ったりした途端、会社の業績に深刻な影響が出ます。また、エースのやり方が特殊すぎて他の人が真似できず、組織全体の営業力が向上しません。働き方改革は、こうした属人化のリスクを排除し、持続可能な組織を作るための取り組みでもあります。

チームで成果を出す仕組みと情報共有の徹底

属人化を防ぐには、個人プレーではなく、チームプレーで成果を出す仕組みが必要です。SFAなどを活用して顧客情報や進捗を徹底的に共有し、「Aさんが休んでもBさんが対応できる」状態を作ることが重要です。例えば、一人の顧客を複数人で担当する体制や、インサイドセールス(内勤営業)とフィールドセールス(外勤営業)が連携する分業体制も有効です。

管理職に求められるサポートと支援(コーチング)

属人化を脱却したチーム営業において、上司(管理職)の役割は大きく変わります。「管理」や「命令」するだけのマネージャーではなく、部下の自主性を引き出し、目標達成をサポートする「コーチ」としての役割が求められます。SFAのデータに基づき、部下がどこでつまずいているかを客観的に把握し、具体的なアドバイスや支援を行うことが、チーム全体の生産性向上につながります。

営業の働き方改革が実現する組織の未来

営業の働き方改革は、単なる残業削減やツール導入に留まりません。本記事で解説した5つのステップ(課題の可視化、業務削減、標準化、ツール導入、評価の見直し)を着実に実行することが重要です。SFAの活用や請求書送付といったノンコア業務の自動化は、効率化の具体的な手段です。しかし、重要なのは、旧来の属人的なスタイルから脱却し、組織全体で効率的に成果を出す仕組みを構築する「意識改革」です。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現し、従業員の健康と会社の持続的な成長を目指すために、今こそ営業部門の働き方改革を一歩ずつ推進していきましょう。

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