• 更新日 : 2025年9月2日

配置転換と転勤の違いを解説!目的や無効となるケースも紹介

配置転換と転勤は、社員の人事異動において意味合いが大きく異なります。本記事では、根本的な違いからそれぞれの目的や無効となるケース、人事異動を成功させるためのポイントまで詳しくご紹介します。

配置転換と転勤の決定的な違いとは?

配置転換と転勤は、どちらも会社の人事異動を意味する言葉です。そのため、これらの言葉はしばしば混同されたり、同じ意味合いで使われたりすることがあります。

しかし、この2つは単なる言葉の違いではなく、実務上、そして従業員に与える影響において大きな違いがあります。この違いを正確に理解することが、適切な人事運用の第一歩です。

働く場所の変更と転居の有無が決定的な違い

配置転換と転勤の最も決定的な違いは、働く場所の変更が転居を伴うかどうかという点です。

配置転換は、一般的には同じ勤務地や事業所内で部署や職務を変更する人事異動を指します。勤務地(エリア)が変わらず、自宅からの通勤が可能な範囲での事業所間異動などもこれに含まれます。

一方、転勤は一般的に、新勤務地が遠隔地であるため、住居の変更、つまり転居を余儀なくされる人事異動を指します。従業員の生活基盤そのものに大きな影響を与えるのが特徴です。なお、企業慣行として転勤=転居前提と定義する場合や、通勤圏内の人事異動を転勤と呼ぶ企業もあります。

転居の有無で変わる会社のサポート体制

この「転居の有無」は、労働条件の明示や就業規則の規定において、企業側に異なる対応を求めます。転勤の場合は多くの中・大企業で、引越費用や住宅手当、単身赴任手当といった経済的負担を軽減する措置を講じることが就業規則・労働契約で定められています。

配置転換や転勤の必要がある場合、就業規則には、従業員に対して配置転換や転勤を命じる権利(配転命令権)があることを明記する必要があります。また、労働契約締結時や有期雇用契約の更新時には勤務地や業務内容の変更範囲を明示しなければなりません。その上で、特に転勤については、手当や社宅制度などの具体的なサポート内容をあわせて規定しておくことで、従業員の不安を払拭し、トラブルを未然に防げます。

企業が配置転換を行う目的

配置転換は、単なる人員の穴埋めではなく、企業の持続的な成長を目指すための戦略的な一手として、多様な目的を持って実施されます。

社員の能力開発とキャリア形成

従業員に多様な業務を経験させることで、多角的な視点やスキルを習得させ、将来の幹部候補やゼネラリストを育成します。同じ部署に長くいることによる業務のマンネリ化を防ぎ、個人の成長意欲を刺激する効果も期待できます。

人材配置で組織を活性化

人材の流動性を高めることで、部門間の連携を強化し、組織に新しい風を吹き込みます。また、従業員の能力や適性を再評価し、最もパフォーマンスを発揮できる部署へ再配置することで、組織全体の生産性を向上させます。

業務効率の向上と経営環境への対応

新規事業の立ち上げや、特定の部署の業務量増加などに柔軟に対応するため、必要な部署へ人員を機動的に投入します。これにより、経営戦略の変化に迅速に対応し、事業目標の達成を円滑に進められます。

企業が転勤を命じる背景と目的

一方、転勤は配置転換よりも従業員に与える影響が格段に大きい人事異動です。そのため、企業はその必要性を慎重に判断し、主に以下のような背景や目的を持って実施します。

全国的な事業展開と拠点運営

各支社や営業所の機能を維持・強化するため、人員の補充や入れ替えは不可欠です。特に、本社で培われた専門的な知識やスキルを持つ人材を、必要とされる拠点へ派遣する目的で行われます。

新規拠点の開設・事業拡大

新たなエリアへ進出する際、企業文化や業務ノウハウを深く理解した従業員を派遣し、現地の責任者や中核メンバーとして事業の立ち上げを担わせます。

将来の幹部候補の育成

将来の経営を担う人材に、本社だけでなく地方の拠点の状況も把握させ、広い視野とマネジメント能力を養わせる目的で、計画的に複数の拠点を経験させることがあります。

配置転換・転勤命令が無効となるケース

企業は就業規則に基づき、従業員に配置転換や転勤を命じる広範な権利(配転命令権)を持っています。しかし、この権利は無制限ではなく、濫用された場合には無効と判断されることがあります。

その根拠となるのが労働契約法第3条第5項の「権利濫用の法理」です。労働契約法第3条第5項は「会社も社員も、契約上の権利を濫用してはいけない」という大原則を示しています。このルールは配置転換や転勤の命令にも当てはまります。

権利濫用と判断される3つのポイント

配転命令や転勤命令が権利濫用にあたるかどうかは、主に以下の3つの観点から総合的に判断されます。

1.  業務上の必要性がない場合

その人材を異動させる経営上・業務上の合理的な理由が全く存在しない、あるいは極めて乏しい場合です。たとえば、人員が充足している部署へあえて異動させるなどが該当します。

2.  不当な動機・目的がある場合:

従業員を退職に追い込む目的や、労働組合活動を妨害する目的、内部告発への報復といった、嫌がらせや報復など社会通念上、不当と認められる動機・目的による命令は無効です。

3.  従業員が被る不利益が著しく大きい場合

命令によって従業員が受ける不利益(生活上・家庭上の不利益)が、業務上の必要性と比較して、社会通念上甘受すべき程度を著しく超える場合です。特に、育児や家族の介護など、家庭の事情への配慮は重要視されます。

参考:配置転換|裁判例

特に配慮が必要な育児・介護への不利益

育児・介護休業法により、企業には仕事と家庭の両立支援が求められています。そのため、従業員が育児や介護の真っただ中にある場合、その状況を無視した配置転換・転勤命令は、権利濫用と判断される可能性があります。

たとえば、「要介護状態の親を他に看る人がいない」「転園が困難な障害を持つ子を養育している」といった状況での遠隔地への転勤命令は、従業員が被る不利益が著しく大きいと評価されやすい典型例です。

従業員が配置転換・転勤を拒否できる正当な理由

原則として、就業規則に定めがあれば従業員は正当な理由なく配転命令を拒否できません。しかし、前述の「権利濫用」にあたる場合のほかにも、従業員が命令を拒否できる正当な理由が存在します。

就業規則に配転命令の根拠規定がない

そもそも、企業の包括的な配転命令権の根拠となるのは、労働契約や就業規則の定めです。「会社は業務の都合により、従業員に配置転換、職務変更、転勤を命じることがある」といった趣旨の規定がなければ、企業は一方的に命令を下すことができません。まずは自社の就業規則を確認することが基本です。

職種や勤務地が採用時に限定されている(限定合意)

採用時に「職種は経理業務に限る」「勤務地は東京本社に限る」といったように、職務内容や勤務地を限定する特別な合意(限定合意)が従業員との間で結ばれている場合、企業はその合意の範囲を超えて配置転換や転勤を命じることはできません。この合意は、口頭ではなく労働契約書(雇用契約書)などで明確に文書化することが重要です。

ただし、限定合意がある場合でも、当事者が合意内容を変更するか、就業規則を変更し、本人の同意を得れば異動は可能です。

トラブルを防ぎ人事異動(配置転換・転勤)を成功させるためのポイント

人事異動は企業の成長を促す有効な手段ですが、適切に行わなければ従業員のモチベーション低下やトラブルにつながる可能性もあります。ここでは、配置転換と転勤に共通する、そしてそれぞれに特有の成功のポイントを見ていきましょう。

明確な目的と公平な選定基準の提示

人事異動に対する従業員の不信感は「なぜ自分が?」「どういう基準で選ばれたのか?」といった疑問から生まれます。これを防ぐためには、人事異動の目的とプロセスの透明性を確保することが不可欠です。まず「新規事業の強化のため」「次世代リーダー育成のため」といった人事異動の目的を明確にしましょう。

その上で、年齢や社歴、スキル、実績など、客観的で誰もが納得できる公平な選定基準を設けることが重要です。さらに、会社都合だけでなく、従業員個々のキャリアプランや適性、希望なども可能な範囲で考慮する姿勢を見せることで、エンゲージメントを高められます。

従業員の納得感を高める丁寧なコミュニケーション

人事異動、特に転勤は従業員の人生に大きな影響を与えるため、一方的な命令ではなく、丁寧な対話を尽くすことが成功の鍵となります。正式な辞令を出す前の内示の段階で十分な面談の時間を設け、異動の背景や目的、会社として期待する役割を具体的に伝えましょう。

その際、企業側の都合を話すだけでなく、従業員が抱くであろう疑問や将来への不安に真摯に耳を傾け、一つひとつ解消していく姿勢が信頼関係を築きます。

特に転居を伴う転勤の場合は、本人の仕事だけでなく、配偶者のキャリアや子供の教育といった家族への影響にも目を向け、会社としてどのような配慮やサポートができるかを誠実に伝えることが、無用なトラブルを避ける上で極めて重要です。

法的配慮と異動後の手厚いフォローアップ体制

人事異動は、辞令を出して終わりではありません。異動後の手厚いフォローアップこそが、従業員の定着と活躍を左右します。まず大前提として、育児や介護の責任を負う従業員に対しては、法律で定められた配慮義務を遵守しなくてはなりません。

その上で、異動先での業務にスムーズに慣れるための研修やOJT、上司や人事部による定期的な面談といった、業務面・精神面でのサポート体制を整えましょう。

また、転勤者に対しては、引越費用や住宅手当、単身赴任手当といった経済的サポートのルールを明確化し、速やかに実行することが安心感につながります。こうした継続的なケアが、従業員のエンゲージメントを高め、異動を成功に導きます。

配置転換と転勤の違いを理解し、会社の力を高める人事戦略へ

配置転換と転勤は、どちらも会社にとって大切な人事異動ですが、その意味や社員への影響、法律上の扱いは大きく異なります。人事異動を成功させるには、その目的をはっきりさせ、社員としっかり話し合い、理解してもらうことが欠かせません。社員への配慮も忘れず適切なサポート体制を整えることで、社員の納得感が高まり、会社全体の力がさらに向上するでしょう。


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