- 更新日 : 2025年12月23日
燃え尽き症候群は甘え?知っておくべき症状・原因・対策を解説
現代の職場において、心身の限界を迎える「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は、誰にでも起こり得る深刻な問題です。一見すると怠けや甘えに見えるかもしれませんが、責任感が強く、真面目に働く人ほど陥りやすい傾向があります。
本記事では、燃え尽き症候群のテーマを軸に、定義や症状、なりやすい人の特徴、回復の方法や予防策を解説します。
目次
燃え尽き症候群は甘え?
燃え尽き症候群は、強いストレスを抱えたまま働き続けた結果、心身のエネルギーが枯渇し意欲が急激に低下する状態です。表面上は無気力に見えるため「甘え」と誤解されがちですが、職業性ストレスの症候群であり、怠けとは異なる心身の不調です。
厚生労働省が認める症候群
燃え尽き症候群は、慢性的な職場ストレスが適切に管理されないことで生じる実在の症候群です。これは国際疾病分類ICD-11にも明記されており、一時的な落ち込みではなく、「occupational phenomenon(職業に関連する現象)」という心身の疲弊として扱われます。2019年にWHOが正式に「バーンアウト」と位置づけたことで国際的な認知が高まり、厚生労働省も心身の疲労、対人無関心、達成感の低下を主要症状として示しています。これらは明確なストレス反応であり、単なるサボりではなく心からの危険信号といえます。
甘えではなく頑張りすぎの危険信号
燃え尽き症候群が甘えと見られてしまうのは、やる気の低下が外見上「怠け」に見えやすいためです。しかし、実際には責任感が強く努力を惜しまない人ほど発症しやすい傾向があります。長期間の高負荷業務や過度のプレッシャーによってエネルギーが枯渇し、心身が限界を迎えた結果として現れる状態であり、妥協とは正反対の心理です。適切に対処しなければうつ病などへ進行するリスクもあるため、周囲が早期に気づき支援することが求められます。
燃え尽き症候群の症状とは?
燃え尽き症候群は一時的な疲労ではなく、心身が限界に達した際に表れる深刻な兆候です。WHOの定義によると、症状は「疲弊感(exhaustion)」「仕事からの心理的距離/冷笑(mental distance/cynicism)」「職務効力感の低下(reduced efficacy)」という3つの側面に分類されます。それぞれの状態は連鎖的に悪化し、仕事や生活に大きな影響を与えるようになります。
疲弊感(exhaustion)(精神的・身体的な疲れ)
燃え尽きにおける「疲弊感(exhaustion)」は、睡眠や休日でも回復しにくい強い消耗感を指します。朝から体が重い、集中が続かない、動悸や頭痛など不調が増える、帰宅後は何も手につかないといった形で現れます。業務開始前から強い憂うつや倦怠感があり、以前はこなせたタスクが過度に負担に感じる場合もあります。放置するとミス増加や欠勤につながりやすいため、症状と業務負荷を簡単に記録し、何が疲弊を招いているかを具体化して対策を考えなければなりません。
仕事からの心理的距離/冷笑(mental distance/cynicism)
「仕事からの心理的距離/冷笑(mental distance/cynicism)」は、仕事に感情的に関わらなくなり、距離を取ろうとする状態です。顧客や同僚への関心が薄れる、連絡が億劫になる、皮肉っぽい言い方が増える、成果より「早く終わらせたい」気持ちが強くなるなどが見られます。以前は大切にしていた価値ややりがいが感じにくくなり、目的が空虚に思えることもあります。
職務効力感の低下(reduced efficacy)」「職務効力感の低下(reduced efficacy)」は、仕事で成果を出せる感覚や手応えが薄れ、自分の能力を過小評価しやすくなる状態です。達成しても満足できない、判断が遅れる、ミスを過度に恐れて確認が増える、学習や改善の意欲が湧かないといった形で表れます。実力そのものが落ちたというより、疲弊や冷笑が重なり「できている点」を認識しにくくなっている場合も多く見られます。
これら3つの症状は互いに関連しながら進行するため、兆候が見られた段階での早期対応が重要です。
燃え尽き症候群の原因は?
燃え尽き症候群は、疲れているだけではなく、長期間にわたるストレスの蓄積や心理的負担の大きさから引き起こされる状態です。
職場環境による過剰なストレス
燃え尽き症候群の最大の要因は、持続的な職業上のストレスです。過重労働、長時間勤務、納期プレッシャーなどによって、心身の疲労が積み重なることで発症リスクが高まります。とりわけ人員不足や業務の属人化が進んでいる職場では、責任が集中しやすく、休む暇もなく働き続けることになりがちです。また、上司や同僚との関係不和、不公平な評価制度、成果主義による過度な競争も、心理的なプレッシャーを強める原因となります。
とくに対人援助職(医療、教育、介護など)では、感情を抑えて常に他者に寄り添う必要があり、感情労働の蓄積による疲弊が生じやすいとされています。
燃え尽き症候群になりやすい人の特徴は?
燃え尽き症候群は、特定の性格傾向や行動パターンを持つ人ほど発症しやすいとされています。ここでは、燃え尽きにつながりやすい特徴を整理します。
責任感が強く完璧主義の傾向がある
責任感が強い人は、任された仕事を最後までやり抜こうとする意識が強く、業務量が増えても「自分がやらなければ」と抱え込みがちです。完璧主義の傾向がある場合、成果の質にこだわりすぎるあまり、必要以上に時間やエネルギーを費やしてしまいます。また、ミスを許せず自分を過度に追い込むため、休むことに罪悪感を覚えることも多く、知らぬ間に心身が限界に達してしまうことがあります。
断ることが苦手で他者の期待に応えすぎる
周囲からの依頼や期待に応えようとしすぎる人も、燃え尽き症候群のリスクが高い傾向があります。頼まれた仕事を断れず、業務を過剰に抱え込むことで負担が増し、ストレスが蓄積してしまいます。「迷惑をかけたくない」という思いが強すぎると、自分の体調が悪くても無理を続けてしまいがちです。このような調整力の弱さが、長期的には心身の消耗につながります。
感情移入しやすく、対人関係の負荷を受けやすい
他者の感情に敏感で共感力が高い人は、職場の人間関係や他者の悩みを必要以上に自分ごとのように抱え込みやすくなります。周囲のトラブルや雰囲気にも影響されやすいため、ストレスに晒される時間が長くなることも特徴です。
自己評価が低く、成果を実感しにくい
自分の成果を過小評価しがちな人も、燃え尽きやすい傾向があります。どれだけ努力しても「自分はまだ十分ではない」と感じ、達成感を得られないため、努力を続けても満足感が得られません。その結果、エネルギーだけが消耗していき、心が枯渇していく悪循環に陥りやすくなります。
燃え尽き症候群からの回復方法は?
燃え尽き症候群に陥った場合、「気の持ちよう」として無理に働き続けることは危険です。本人が限界を自覚していなくても、心身はすでに疲弊しきっている可能性があります。ここでは、回復のための3つの基本ステップを紹介します。
ストレスの原因から距離を置く
最優先すべきは、燃え尽きを招いたストレス要因から物理的・心理的に距離を取ることです。業務負荷や人間関係などが原因であれば、思い切って有給休暇を取得したり、必要に応じて休職を検討することが回復の第一歩となります。「朝起きられない」「出勤できない」などの深刻な状態にある場合は、即座に業務から離れることが推奨されます。
また、上司や人事に相談して業務量の見直しや部署異動を交渉することも有効です。責任感が強い人ほど「迷惑をかけたくない」と無理をしがちですが、自分を守るために立ち止まることは決して甘えではありません。
自分なりのストレス発散方法でリフレッシュする
次に重要なのが、意識的にリフレッシュする時間を持つことです。燃え尽き症候群の人はストレスが蓄積したままになっているため、緊張状態を和らげる行動が必要です。趣味に没頭する、映画を見る、自然の中を散歩する、入浴や軽い運動をするなど、自分に合った方法で構いません。ポイントは「これをすると気が楽になる」という実感を得られる行動を選ぶことです。
ストレス発散の習慣がないままだと、心の疲れがどんどん蓄積し、さらに重い状態に移行してしまいます。仕事や悩みを忘れられる時間を意識的に作ることで、回復への土台が整います。
信頼できる人や専門家に相談する
最後に、一人で抱え込まず、周囲に相談することが重要です。自分ではまだ大丈夫と思っていても、周囲の目から見れば明らかに限界ということもあります。家族や友人、職場の同僚など信頼できる人に現在の状態を話すことで、自分の状態を客観的に把握できるきっかけになります。もし身近に話せる相手がいない場合は、カウンセラーや医療機関などの専門家を頼るのが良いでしょう。
公認心理師などの専門家との対話によって自分の状況に初めて気づき、休養や治療を決意するケースも多く見られます。燃え尽き症候群の背景には、完璧主義や責任感過多といった性格的傾向がある場合が多く、回復後も再発リスクが残ります。そのため、カウンセリングを通じて自分の考え方や行動のパターンを見直すことは、再発予防にもつながります。
職場でできる燃え尽き症候群の予防策は?
燃え尽き症候群は個人の努力だけで防げるものではなく、職場全体での取り組みが欠かせません。ここでは、人事や管理職が中心となって実践できる予防策を紹介します。
社員の業務負担を適切に調整する
まず取り組むべきは、社員の業務量を適切に管理することです。定期的に残業時間や業務内容を見直し、特定の社員に業務が集中していないかを確認しましょう。偏りが見られる場合は、チーム内での再分担や業務フローの見直し、必要に応じて一時的な休職制度の活用を検討することも大切です。
また、役割や責任の範囲が不明確だと、社員は常に「どこまでやればよいのか」わからず、限界を超えて働いてしまう傾向があります。業務目標や期限を現実的に設定し、上司と共有しておくことで、過度な自己犠牲を防ぐことができます。さらに、長時間労働を是正するためには、有給休暇取得率の向上や時間外労働の削減といった職場全体の改革も不可欠です。
相談しやすい職場環境を作る
メンタルヘルスの低下を未然に防ぐためには、社員が気軽に悩みを話せる環境づくりが不可欠です。管理職は定期的に1on1面談を設け、業務上の悩みや生活面でのストレスを丁寧にヒアリングする姿勢が求められます。面談では「頑張って乗り越えよう」といった励ましよりも、相手の気持ちに寄り添い、傾聴する態度が信頼構築に有効です。
また、ミスを許容し弱音を吐ける「心理的安全性」のあるチーム文化も重要です。社員が孤立せず、互いに支え合える職場風土を醸成することが、燃え尽きの兆候を早期に発見し、対処する土台となります。
メンタルヘルス支援制度を整備する
組織としてメンタルヘルスを重視する姿勢を示すために、社内外の支援制度を整えることが効果的です。外部のEAP(従業員支援プログラム)や提携カウンセラーと連携し、社員が匿名で相談できる環境を用意しましょう。社内に相談窓口を設ける場合も、プライバシーが確保される体制を整えることが前提となります。
また、年1回のストレスチェック制度を積極的に活用し、心理的負担の兆候を早期に把握することも重要です。高ストレスと判定された社員には産業医や臨床心理士との面談を促し、必要に応じて業務内容の調整を行います。
会社としての対策姿勢を明示することで、社員は安心して支援を求めることができます。
休暇取得を促し十分な休息を確保する
心身の回復に必要な「休息」を制度面・文化面から支援することも、燃え尽き予防には不可欠です。上司が率先して有給休暇を取得するなど、休みやすい雰囲気づくりが求められます。真面目な社員ほど休暇を後回しにしがちなので、人事部門による取得率のチェックや促進策の導入が効果的です。
さらに、リフレッシュ休暇制度(勤続年数に応じて長期休暇を付与する仕組み)の導入も有効です。例えば「勤続10年で2週間の連続休暇」を設け、普段忙しい社員でもしっかりと心身をリセットできる機会を保障します。休暇中の業務連絡を控えるなど、完全に業務から離れられる環境を整えることもポイントです。
ストレス対処の教育・研修を行う
社員自身がストレスに強くなるための教育機会を提供することも、長期的な燃え尽き対策に有効です。ストレスマネジメント研修では、ストレスのメカニズムやセルフケア方法、リラクゼーション技法を学ぶことで、日々の不調に自ら気付き対処できる力が養われます。
また、キャリア開発支援やメンター制度の導入を通じて、社員が自分の価値観と仕事の方向性を見つめ直す機会を持つことも大切です。モチベーションの維持や役割への納得感は、燃え尽きの予防につながります。あわせて、管理職向けの研修も実施し、部下の負担を見極め、早期に対応できるマネジメントスキルを高めましょう。
燃え尽き症候群は甘えではなく早期対策が肝心
燃え尽き症候群は、決して本人の甘えや怠けではなく、真面目に頑張ってきた人ほど陥りやすい深刻な心身の疲弊状態です。放置すればうつ病などにつながる危険がありますが、十分な休養と周囲の適切なサポートによって回復し克服できるものでもあります。企業の担当者にとっては、社員の異変に気づきやすい環境を整え、仕事の負荷調整やメンタルヘルス対策を講じて未然に防ぐことが求められます。
燃え尽き症候群への正しい理解と対策を周知し、誰もがいきいきと働き続けられる職場づくりを進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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