- 更新日 : 2025年11月5日
パートタイム・有期雇用労働法における勤怠のルールとは?企業の義務と注意点をわかりやすく解説
2020年4月からパートタイム・有期雇用労働法が段階的に施行され、2021年4月から全面施行され、中小企業にも適用されるようになりました。この法律により、正社員とパートタイマーや有期雇用で働く従業員との間の不合理な待遇の違いをなくすことが、すべての企業に義務付けられています。パートタイマーや有期雇用の従業員の勤怠管理は、企業のコンプライアンス遵守と健全な職場環境の維持において、より一層の徹底が求められます。
この記事では、企業の労務担当者とパートタイムや有期雇用で働く方の両方が知っておくべき、パートタイム・有期雇用労働法に関わる勤怠管理の基本ルールを解説します。労働時間の正しい管理方法、休憩や有給休暇のルール、残業代の計算、そして法律に違反した場合の罰則まで具体的な内容を説明しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
パートタイム・有期雇用労働法とは?
パートタイム・有期雇用労働法とは、育児や介護などのさまざまな事情があってパートタイマーや契約社員といった非正規雇用で働く労働者が、同じ会社で働く正社員と比べて不合理な待遇差を受けることなく、安心して能力を発揮できる環境を作るための法律です。多様なニーズや事情を抱えた労働者が、その働きや企業への貢献に応じた待遇が得られるように、「公正な待遇」の実現を目指しています。
参考:パートタイム・有期雇用労働法のあらまし(令和7年8月版)|厚生労働省
正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」ですが、一般的に「パートタイム・有期雇用労働法」と略した名称で呼ばれています。
パートタイム・有期雇用労働法は、主に以下の3つのルールを柱としています。
1. 不合理な待遇差と差別的取り扱いの禁止(同一労働同一賃金)
同じ会社で働く正社員とパートタイマーとの間で、あらゆる待遇について不合理な差を設けることが禁止されます。また、パートタイムや有期雇用で働く労働者であることを理由に、それぞれの待遇について差別的な取り扱いをすることも禁止されています。これらの待遇は、基本給や賞与、各種手当はもちろん、交通費、福利厚生施設の利用、教育訓練なども対象となります。
- 均等待遇
仕事の内容や責任の程度、配置変更の範囲が正社員などのフルタイムで働く通常の労働者と同じ場合、パートタイマーや有期雇用の労働者であることを理由に差別的な取り扱いをしてはなりません。 - 均衡待遇
仕事の内容、配置変更の範囲、職の成果・能力や経験などに違いがある場合は、その違いに応じたバランスの取れた待遇にしなければなりません。
たとえば、パートタイマーだからという理由だけで、同じ仕事をしている正社員には支給される交通費や賞与が一切支払われないといったケースは、この法律に違反する可能性があります。
2. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
パートタイムや有期雇用の従業員は、企業に対して「正社員との待遇の違いの内容」や「その理由」について説明を求められます。企業は、労働者から求められた場合、きちんと説明する義務があります。
- 雇入れ時
会社は労働者を雇い入れる際に、均衡待遇や均等待遇、賃金や教育訓練、福利厚生、正社員転換推進の措置などについて説明しなければなりません。「雇入れ時」には、労働契約の更新時も含まれます。 - 求めがあった時
労働者から求めがあれば、個別の待遇について、正社員との待遇の違いやその理由、待遇を決定する際に考慮した事項について説明しなければなりません。
また、待遇について説明を求めたことを理由に、労働者を解雇したり減給したりするなどの不利益な取り扱いをすることは固く禁じられています。
3. 行政によるサポートと裁判外紛争解決手続(ADR)
待遇差について事業主と労働者の間でトラブルになった場合、都道府県労働局に相談できます。労働局では、問題解決のための助言や指導を行っています。
また、裁判をせずに、無料・非公開で紛争を解決するための調停(行政ADR)を申請することもできます。
企業に求められる勤怠管理の義務とは?
企業は、パートタイマーや有期雇用の労働者を含め、すべての従業員の勤怠を正しく管理する義務があります。
労働時間の客観的な把握
企業は、使用者自ら現認して労働時間を確認する方法や、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録などの客観的な労働時間の記録をもとに確認する方法で、従業員の労働時間を正確に把握する必要があります。従業員本人に時間を申告させる自己申告制は、客観性の担保が難しく労働者が過少申告をしてしまう恐れがあるため、やむを得ない場合にのみ認められる例外的な方法です。自己申告制を導入する場合でも、会社は申告が正しいか実態調査を行うなど、厳格な運用が求められます。
労働時間とみなされる時間
労働時間とは、会社の指示によって従業員が業務を行う時間を指し、実際に作業をしていなくても、会社の指揮命令下にあれば労働時間とみなされます。以下の時間は労働時間と判断される可能性が高いでしょう。
- 着替えの時間:会社が着用を義務付けている制服や作業着への着替え時間
- 朝礼・終礼:参加が義務、または事実上強制されている朝礼や終礼
- 研修・教育訓練:会社の指示で参加する研修や勉強会
- 待機時間(手待ち時間):来客待ちや指示待ちなど、すぐに業務に取りかかれる状態で待機している時間
- 清掃時間:始業前や終業後に義務付けられている清掃
これらの時間を労働時間に含めずに給与を計算すると、賃金未払いとなる恐れがあります。
休憩・休日の適切な付与
休憩や休日は、労働者の心身の健康を保つために重要です。労働基準法で定められたルールを遵守しなければなりません。
- 休憩のルール
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の途中に与える必要があります。 - 休日のルール
原則として、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
年次有給休暇の付与
年次有給休暇は、一定の要件を満たせば、すべての労働者に付与する必要があります。パートタイマーであっても、その労働日数に応じて年次有給休暇が付与されます。
- 雇い入れの日から6ヶ月間継続して勤務している
- その期間の全労働日(所定労働日数)の8割以上出勤している
上記の要件を満たしたパートタイマーには、週の所定労働日数に応じて以下の日数の年次有給休暇が付与されます(比例付与)。ただし、週の所定労働日数が4日以下であっても、週の所定労働時間が30時間以上になる場合は、正社員などフルタイムで勤務する労働者と同じ日数を付与しなければならないことに注意しましょう。
| 週の所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4日 | 169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
時間外労働と割増賃金の支払い
企業が従業員に法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合、割増賃金を支払う義務があります。
- 時間外労働(法定労働時間を超えた労働):25%以上
- 深夜労働(午後10時から午前5時までの労働):25%以上
- 休日労働(法定休日の労働):35%以上
たとえば、時給1,200円のパートタイマーが1日8時間を超える残業を1時間した場合、8時間を超えるその1時間分の賃金は1,200円 × 1.25 = 1,500円となります(8時間までは残業をしても1,200円)。
パートタイムの労働条件通知書で明示すべき項目は?
パートタイマーや有期雇用の労働者を雇用する際、企業は労働条件通知書を交付する義務があります。特に勤怠に関する以下の項目は、トラブルを避けるために明確に記載する必要があります。
- 始業・終業の時刻
「9時00分から15時00分まで」などと具体的に記載します。 - 休憩時間
「12時00分から13時00分まで」「60分間」のように時間を明記します。 - 休日
「土曜日、日曜日、国民の祝日」のように定めます。 - 休暇
年次有給休暇やその他の休暇、慶弔休暇などについて記載します。 - 時間外労働の有無
「原則としてなし」または「業務の都合により命じることがある」といったように残業の可能性について記載します。
パートタイム・有期雇用労働法に違反した場合はどうなる?
パートタイム・有期雇用労働法に直接の罰則はありませんが、第6条(労働条件に関する文書の交付等)に違反し、行政指導により改善をしなければ、10万円以下(労働者1人あたり)の過料の対象になります。また、第18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)の報告をしなかったり、虚偽報告をしたりした場合は、20万円以下の過料の対象になります。
また、労働時間、休憩、休日、割増賃金などのルールは労働基準法で定められています。労働基準法の規定に違反した場合、企業には罰則が科される可能性があります。
- 労働時間、休憩、休日の規定違反:6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
- 割増賃金の不払い:6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
- 労働条件通知書の不交付:30万円以下の罰金
これらの罰則は刑事罰であり、適用されれば企業の社会的信用を損なうことにもつながります。
適切な勤怠管理で信頼される職場環境を
パートタイム・有期雇用労働法のもと、すべての従業員が公平な待遇で安心して働ける環境を整えることが企業には求められています。労働時間の客観的な把握、適切な休憩と有給休暇の付与、そして正確な残業代の支払いは、法律で定められた企業の最低限の義務です。
働く側も、自らの権利に関する知識を持つことで、疑問点があれば会社に確認し、納得して働けます。正しい勤怠管理は、企業と従業員の信頼関係を築き、生産性の向上にもつながる重要な取り組みです。法律を正しく理解し、日々の業務に活かしていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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