• 更新日 : 2025年9月22日

直行直帰の勤怠管理方法は?厚生労働省による労働時間のルールやサボり防止策を解説

働き方の多様化が進み、オフィスに出社せず顧客先へ直行し、業務後は自宅へ直帰する「直行直帰」を導入する事例が増えています。直行直帰は、従業員の移動にかかる負担を軽くし、業務効率を上げる一方、企業にとっては労働時間を正確に把握するという課題が生じます。

この記事では、厚生労働省の指針や過去の判例を交え、直行直帰における勤怠管理の適切な方法、起こりやすい問題と具体的な対策を分かりやすく解説します。

直行直帰における勤怠管理の基本

直行直帰を円滑に進めるには、社内での明確な取り決めが重要です。従業員が迷わずに行動でき、会社側も適切に管理できる体制を整える必要があります。

就業規則で明確なルールを設定する

直行直帰を制度として採り入れる場合、その運用方法を就業規則へ具体的に記載する必要があります。始業や終業時刻の定義、日々の業務報告の方法、交通費の精算ルールなどを定めましょう。例えば、始業時刻は訪問先に到着した時刻、終業時刻は最後の訪問先を出た時刻とする、といったように誰もが同じように解釈できる表現で記すことが大切です。このような直行直帰のルールが、働く側と管理する側の認識のズレをなくし、将来の問題を未然に防ぎます。

事業場外みなし労働時間制との関係

直行直帰では、事業場外みなし労働時間制が適用されるケースがあります。事業場外みなし労働時間制は、社外での勤務で労働時間の計算が難しいときに、あらかじめ定めた時間働いたとみなす制度です。しかし、スマートフォンで常に連絡可能な状況では、労働時間の算定が難しいとは言えず、事業場外みなし労働時間制が否定される判例が近年増加しています。事業場外みなし労働時間制の適用を考える際は、条件を満たしているか慎重に判断しなくてはなりません。

直行直帰における労働時間の考え方

厚生労働省のガイドラインによると、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。つまり、上司の指示で業務にあたっている時間は、働く場所がどこであれ労働時間とみなされます。直行直帰の移動時間がこれに当てはまるかどうかは、移動中に具体的な業務指示があるか、従業員がその時間を自由に使えるかによって個別に判断されます。

参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

移動時間は労働時間に含まれるのか

過去の直行直帰に関する労働時間の判例を見ると、自宅から顧客先への移動時間は、原則として労働時間にあたらないという判断が主流です。これは、日々の通勤時間と同じ性質だと解釈されるためです。しかし、移動中に資料作成を命じられたり、業務で使う重い機材の運搬を伴ったりするなど、使用者の具体的な指示や業務の要素が強い場合、その時間は労働時間として扱われる可能性があります。

自宅から遠い現場への直行時の注意点

従業員の自宅から訪問先が遠い場合、長時間の移動が伴います。この移動時間を労働時間としない場合でも、従業員の心身への負担は大きくなります。そのため、企業としては特別手当を支給する、移動の負担を考えて翌日の仕事を始める時間を遅くするなどの配慮が望まれます。公平性を欠いた運用は、従業員の不満や仕事への意欲低下につながるため注意が必要です。

直行直帰で起こりがちなトラブルの対策方法

管理者の目が届きにくい直行直帰では、特有の勤怠トラブルが起こりやすくなります。ここでは、代表的な問題とその対策を解説します。

中抜けやサボりをどう把握・防止するか

直行直帰のサボりの問題を完全になくすのは難しいですが、発生しにくくする方法はあります。例えば、訪問先への到着時と退出時に、スマートフォンの位置情報付きツールで報告させる、その日の業務内容を記録した日報の提出を義務付けるといった対策が考えられます。従業員との信頼関係を大切にしつつも、客観的な事実を記録する仕組み作りが求められます。

報告と実態の乖離を防ぐポイント

従業員の自己申告だけに頼ると、実際の業務時間と報告内容が食い違う可能性があります。これを防ぐには、客観的な記録を残すことが重要です。勤怠管理システムやスマートフォンのGPS機能を活用した直行直帰の打刻は、正確な時刻と場所を記録できるため有効な方法です。これにより、従業員の申告と客観的なデータを照らし合わせ、実態に合った勤怠管理ができます。

正確な勤怠管理を実現する打刻方法

オフィスでの勤務を前提としたタイムカードによる勤怠管理は、直行直帰には対応できません。出社しない従業員のために後から手書きで記入したり、自己申告をExcelでまとめたりする方法は、手間がかかる上に正確さにも欠けます。虚偽の申告や改ざんの危険性もあり、今の時代の働き方には合っていないと言えるでしょう。

GPS打刻に対応した勤怠管理システムの活用

正確な勤怠管理を実現する方法の一つが、GPS機能が付いた勤怠管理システムです。スマートフォンやタブレットを使い、訪問先に着いた時刻と場所を正確に記録できます。これにより、管理者はリアルタイムで従業員の勤務状況を確かめられ、労働時間も自動で集計されます。客観的な記録は、従業員を守ると同時に、企業の労務管理上のリスクを減らすことにもつながります。

スマートフォンやチャットツールでの報告ルール

勤怠管理システムを導入していない場合でも、代わりの方法はあります。例えば、社内用のチャットツールを使い、仕事を始めるときと終えるときに上長へ報告するルールを設ける方法です。報告した時刻が記録として残るため、ある程度の客観性は保たれます。ただし、位置情報までは把握できないため、GPS打刻ほどの正確性はありません。この方法で運用する際は、報告の徹底と従業員との信頼関係が前提となります。

勤怠管理システムの導入で直行直帰の不正を防止しよう

直行直帰のメリットを最大限に引き出すには、正確な勤怠管理が不可欠です。労働時間の定義を就業規則で明確にし、厚生労働省の指針や判例に沿った運用を心がけましょう。特に、移動時間の扱いや業務報告のルールは、従業員と会社の間で認識を合わせておく必要があります。

また、GPS打刻が可能な勤怠管理システムのようなツールを取り入れることで、管理業務の効率化と記録の客観性を両立できます。従業員のサボりを疑うのではなく、信頼を基本としながら、誰もが納得できる仕組みを作ること。それが、直行直帰という働き方を成功させ、企業の成長へとつなげる確かな一歩となります。


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