• 更新日 : 2025年7月11日

就業規則の変更に同意しないとどうなる?不利益変更に同意できない場合の対応も解説

会社から就業規則の変更を告げられた際、その内容に納得がいかない、あるいは明らかに自分にとって不利益だと感じることがあるかもしれません。そんなとき、「本当に同意しなければならないか?」「同意しないとどうなるのだろう…」と不安に思うのは当然です。

本記事では、就業規則の変更に同意しないという選択肢を考え始めたあなたが知っておくべき法的権利と、具体的な対処法についてわかりやすく解説します。

就業規則が変更される理由

就業規則は、労働時間、休日、賃金、服務規律、人事、退職など、労働者が働く上での基本的なルールを定めたものです。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。

就業規則が変更される背景としては、以下のような理由が挙げられます。

  • 法改正への対応
    労働基準法や育児・介護休業法、労働安全衛生法など、労働関連法規が改正された場合、それに合わせて就業規則も見直す必要があります。法令と矛盾しないように就業規則の整備を行うことが、企業の義務といえるでしょう。
  • 経営環境の変化
    景気の変動や業界再編、技術革新など、社会や市場の変化に応じて、企業の方針や体制も変わることがあります。その結果、人事制度や労働条件を見直し、就業規則にも変更の必要が生じます。
  • 働き方の多様化への対応
    テレワークの導入、フレックスタイム制の見直し、副業の解禁など、従業員の働き方が多様化する中で、新しい働き方について就業規則の中でルールとして整備することが求められます。
  • 経営効率化・生産性向上
    会社が経営戦略の一環として、より効率的な組織運営や生産性向上を目指し、勤務体系を変更することもあります。そのような場合には、労働条件の変更を伴うことが多く、就業規則の改定が必要です。

これらの変更は、労働者にとって不利益となる場合も少なくありません。

就業規則の変更における同意の重要性

就業規則の変更、特に労働者にとって不利益な変更を行う場合、会社は法律で定められたルールを守らなければなりません。

不利益変更には労働者の個別同意が必要

労働契約法第9条では「使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定められています。この条文が示す通り、賃金カットや休日減など、労働条件を労働者の不利益に変更する場合には、原則として個々の労働者から同意を得る必要があります。

同意がなくても変更が認められる合理的な変更とは

一方で、労働契約法第10条には、労働者の同意がない場合でも就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更できる例外的なケースが定められています。これが認められるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 変更後の就業規則を労働者に周知すること
  2. 就業規則の変更内容が合理的であること

この合理性については、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

  • 労働者が受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性(会社側の事情)
  • 変更後の就業規則の内容の相当性(不利益を緩和する代償措置の有無など)
  • 労働組合や労働者代表との交渉の状況
  • その他、関連する諸事情(同業他社の状況など)

労働者の多数が同意したからといって、ただちに合理性が認められるわけではありません。会社側が個々の状況や手続きを無視し、労働者の同意のない不利益な変更をした場合は、無効となる可能性が高くなります。 また、労働基準法第90条に基づく過半数労働者や労働組合からの意見聴取の手続きを経たかどうかも、合理性を判断する上での一要素となります。

同意書へのサインの重要性

会社から就業規則変更に関する同意書へのサインを求められた場合、それは「変更内容を理解し、それに合意した」という法的な意思表示となります。一度有効に同意してしまうと、後から「やはり納得できない」と覆すことは極めて困難になります。

そのため、同意書へサインする前には、以下の点を必ず確認してください。

  • 変更内容を具体的に把握したか(新旧対照表などで具体的に確認)
  • 不利益な点はないか、あるとすればどのような影響があるか
  • 会社からの説明は十分で誠実だったか
  • 疑問点や不明点はすべて解消されたか

少しでも疑問や納得できない点があれば、会社に十分な説明を求めるか、弁護士や労働組合などに相談することを強くおすすめします。サインを強要されたり、説明が不十分なまま圧力をかけられたりした場合は、その状況を記録しておくことも重要です。

就業規則の変更に同意しない場合の労働者の権利

就業規則の変更が労働者にとって不利益な内容である場合、同意しないのも労働者に認められた正当な権利です。

不利益変更とは

不利益変更とは、就業規則の変更によって労働条件が以前よりも不利になることを指します。具体的には、以下のような例が該当します。

  • 賃金の減額
  • 手当の廃止・減額
  • 労働時間の増加
  • 休日の減少退職金制度の改悪
  • 異動や評価制度の変更
  • 福利厚生の縮小・廃止
  • 懲戒処分の厳格化

何が不利益にあたるかは、個別の労働契約や変更内容、実際に労働者の受ける影響の大きさなどを総合的に考慮して判断されます。

不利益変更に対する個別同意の原則

労働契約法第9条では、労働条件の不利益変更には労働者の個別同意が必要とされています。会社が一方的に不利益な変更をしても、原則として効力は発生しません。

個別同意とは、労働者一人ひとりが変更内容を理解した上で、自由な意思で同意することを指します。会社が全体説明会などを開いただけで、曖昧な形で個別の同意を取ろうとした場合は、有効な同意とは認められない可能性があります。

合理的でない変更は無効になることも

会社が労働者の個別の同意を得ずに、労働契約法第10条の「合理的な変更」の要件も満たさないまま就業規則を不利益に変更した場合、その変更は法的に無効と判断される可能性が高いです。この場合、労働者は変更前の労働条件が引き続き有効であることを主張できます。

合理性の判断は、不利益の程度や変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などを総合的に考慮して行われます。一般的に、労働者にとって不利益の程度が大きく、会社側の変更の必要性が低い場合には、合理性は否定されやすくなります。

就業規則の不利益変更に同意しないとどうなるのか

就業規則の不利益変更に同意しない場合、どうなるのでしょうか。

  • 変更前の労働条件が維持される可能性
    同意しなかった労働者に対しては、原則として変更前の労働条件が維持される可能性があります。
  • 会社との関係
    「会社との関係が悪化するのではないか」と不安に感じる方もいるでしょう。しかし、会社との関係を気にして無理に同意するのではなく、自分の働き方に関わる大切な問題として、冷静に判断することが大切です。
  • 他の従業員との温度差
    他の多くの従業員が同意した場合、同意しなかった自分だけが異なる条件で働くことに居心地の悪さを感じるかもしれません。しかし、同意しなかったことを理由として解雇や降格、減給、嫌がらせなどの不利益な扱いは、解雇権の濫用やパワーハラスメントとして許されません。 もしそのような不当な扱いを受けた場合は、証拠を確保し、速やかに専門家や労働基準監督署に相談することが重要です。

就業規則の変更に同意しない場合の具体的な対処ステップ

実際に会社から就業規則の変更案が提示され、それに同意できない場合は、以下のステップに沿って冷静に対応しましょう

ステップ1. 変更内容を正確に理解する

まず、就業規則のどの部分がどのように変わり、変更点が自分の労働条件にどのような影響を与えるのかを把握しましょう。

新旧対照表などで変更点を確認し、会社側の口頭説明だけでなく、書面での説明や関連資料の提供を求めることが重要です。  会社の説明を鵜呑みにせず、労働者自身の視点からも冷静に内容を吟味しましょう。

ステップ2. 同意する同意する・しないを明確にする

変更内容を理解したら、「同意するのか、しないのか」という自分の意思を明確にします。同意しない場合は、その理由を具体的に整理しておくことが、会社との交渉や意思表示において非常に重要です。

同意しない場合は、以下の点を整理しておくと具体的な根拠をもって意思を伝えやすくなります。

  • どの点が不利益だと感じるのか
  • 不利益はどの程度受け入れがたいのか
  • 会社の説明に納得できるか
  • 他に納得できる代替案はないか

ステップ3. 会社に同意しない意思を伝える

同意しないと決めたら、その旨を明確に伝えます。伝えるタイミングは、同意書の提出期限が設定されていればその期限前がよいでしょう。

望ましい方法としては、以下の内容を記載した書面を、コピーを取った上で提出することです。

  • 日付
  • 宛先
  • 氏名
  • 同意しない旨
  • 具体的理由

内容証明郵便で送付すれば、会社に意思表示をした証拠が残ります。メールの場合は送信記録を保存し、口頭の場合は複数人で伝え記録を残しましょう。ステップ4.他の労働者と連携する

就業規則の変更は自分一人の問題ではなく、同じ職場の他の労働者にも影響が及ぶものです。他の労働者と情報を共有し、連携して対応することで、より強い発信が可能になります。

労働組合がある場合は、労働組合にも相談し団体交渉などを通じた対応を検討しましょう。

ステップ4. 専門家へ相談する

他の労働者との連携だけでは解決が難しい場合は、ためらわずに専門家に相談しましょう。主な相談先は以下のとおりです。

それぞれの専門性や役割を理解し、自分の状況や目的に合わせて最適な相談先を選びましょう。相談の際は、これまでの経緯や資料を準備しておくとスムーズです。

就業規則の変更に関してよくある質問

就業規則の変更に関して、労働者の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

就業規則の不利益変更には、社員全員の同意が必要?

必ずしも社員全員の同意が必要というわけではありません。

原則として、労働契約法第9条に基づき、労働条件の不利益変更には個々の労働者の同意が必要です。  しかし、同法第10条に基づき、変更後の就業規則が労働者に周知され、かつ変更内容が合理的であると認められる場合には、個別同意がなくても変更の効力が及ぶとされています。

ただし、この「合理性」のハードルは高く、たとえ多くの従業員が同意したとしても、それだけで合理的であると判断されるわけではありません。

従業員10人未満の会社は、就業規則の変更ルールが異なる?

就業規則の作成および届出の義務はありませんが、変更のルールは同じです。従業員10人未満の会社が任意で就業規則を作成し、それが従業員に周知され労働契約の内容として機能している場合、その変更については、労働契約法第9条に基づく個々の労働者の同意、または同法第10条に基づく労働者への周知と変更の合理性が必要です。

就業規則の変更内容に疑問があれば必ず相談しましょう

本記事では、就業規則の不利益変更に同意しない場合の法的根拠と具体的な対処法について解説しました。

就業規則変更の同意書へのサインは慎重に判断することが大切です。疑問がある場合、まずは変更内容を理解し会社に説明を求めましょう。さらに、必要であれば他の労働者や労働組合、弁護士・社会保険労務士などに相談することが大切です。

本記事の内容が、あなた自身の権利を理解し、不当な条件変更に対して冷静かつ適切に行動するための一助となれば幸いです。


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