- 更新日 : 2025年7月7日
育休の取得率はどれくらい?男性の取得率が低い理由や制度を解説
育児休業(育休)は、子どもを育てる全ての労働者が取得できる大切な権利です。しかし、女性の取得率が8割を超える一方で、男性の取得率はまだまだ低いのが現状です。「本当は育休を取りたいけど、職場に言い出しにくい」「収入面が不安」といった理由で、取得をためらっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、なぜ男性の育休取得が進まないのかの理由や「産後パパ育休(出生時育児休業)」など、男性が育休を取得しやすくなるための制度についてわかりやすく説明します。
目次
育休の取得率はどれくらい?
育児休業(以下、育休)は、子育てをする上で大切な制度ですが、実際のところ、どのくらいの人が利用しているのでしょうか。特に男性の育休取得については、近年関心が高まっています。ここでは、最新のデータをもとに、男女別の取得率や企業規模による違い、そして取得期間の実態について詳しく見ていきましょう。
男女別の育休取得率
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、令和4年度に子どもが生まれた女性のうち、育休を取得した人の割合は84.1%でした。これに対し、配偶者が出産した男性で育休を取得した人の割合は30.1%という結果でした。
男性の育休取得率は、前年度の17.13%から大幅に上昇し、過去最高を更新しました。これは、育休制度の改正や社会的な気運の高まりが影響していると考えられます。しかしながら、女性の取得率と比較すると依然として大きな差があり、男性の育休取得がまだ一般的とは言えない状況がうかがえます。
政府は、男性の育休取得率の目標として、2025年までに50%、2030年までに85%を掲げています。現在の30.1%という数字は、この目標達成に向けてまだ道半ばであることを示しており、更なる取り組みが求められます。
企業規模による育休取得率の格差
育休の取得しやすさは、働く企業の規模によっても異なるのでしょうか。令和5年度の調査結果を事業所規模別に見ると、男性の育休取得率は、従業員数が多い企業ほど高い傾向にありました。具体的には、「500人以上」規模の事業所では34.2%、「100~499人」規模では31.1%、「30~99人」規模では31.4%、「5~29人」規模では26.2%となっています。
一般的に、大企業の方が人事制度や代替要員の確保体制が整っている場合が多いと考えられます。しかし、「30~99人」規模の事業所の取得率が「100~499人」規模とほぼ同水準である点は興味深く、企業規模だけでなく、各企業の経営方針や職場風土なども影響していることがうかがえます。
また、2025年4月からは、男性の育休取得率の公表義務の対象が、従業員1000人超の企業から300人超の企業へと拡大されています。これにより、より多くの企業が取得率向上を意識し、具体的な取り組みを進めることが期待されます。
男性育休は希望ほど取得できていない
育休を取得するとして、その期間はどの程度なのでしょうか。厚生労働省の調査によると、女性は9割以上が6ヶ月以上の育休を取得しているのに対し、男性の取得期間は短い傾向にあります。令和5年度の調査では、男性の育休取得者のうち約4割が「2週間未満」の取得でした。
民間の調査でも同様の傾向が見られ、男性が実際に取得した育休期間として最も多かったのは「1週間以上2週間未満」でした。一方で、同じ調査で男性が理想とする育休期間を尋ねたところ、「1ヶ月以上3ヶ月未満」が最多という結果が出ています。この「現実」と「理想」のギャップは、多くの男性がより長期間の育休を望んでいるものの、何らかの障壁によって短い期間しか取得できていない現状を浮き彫りにしています。
非常に短い期間の育休では、父親が本格的に育児に関わるには限界があるかもしれません。取得「率」の向上だけでなく、一人ひとりが希望する期間、安心して休める環境づくりが重要です。
男性の育休取得率が低い理由
男性の育休取得率は上昇傾向にあるものの、依然として女性に比べて低い水準にあります。その背景には、経済的な不安、職場の雰囲気、制度の利用しにくさなど、様々な要因が複雑に絡み合っています。
経済的な不安と誤解
育休を取得する際に、多くの人が懸念するのが収入面です。「収入を減らしたくなかった」という理由は、育休を取得しなかった男性の上位に常に挙げられています。
ただし育児休業期間中であっても、一定の要件を満たすことで、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。この給付金は、休業開始前の賃金の一定割合が支給されるもので、社会保険料も免除されるため、手取り収入でみると休業前の約8割程度がカバーされるケースも少なくありません。
それにも関わらず経済的な不安が根強いのは、この給付金制度の認知度が低いことや、具体的な受給額や手続きについて十分に理解されていないことが一因と考えられます。収入が「ゼロになるわけではない」こと、そしてどの程度カバーされるのかを正しく知ることが、不安軽減の第一歩となります。
なお、2025年4月からは、子の出生直後の一定期間に両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合に支給される「出生後休業支援給付金」が新設されました。
職場の雰囲気とハラスメントへの懸念
経済的な問題と並んで大きな障壁となるのが、職場の雰囲気です。「職場が育休を取得しづらい雰囲気だった、または上司の理解が得られなかった」といった声は後を絶ちません。
ある調査によると、育休取得前に不安だったこととして「職場の反応」を挙げた男性は7割にのぼり、特に男性は育休取得に関連したハラスメントや嫌がらせに対して不安を抱く傾向が見られました。たとえ制度が整っていても、それを快く受け入れない雰囲気があれば、育休取得をためらってしまうのは当然です。
「育休を取得する人が少ない」という職場環境自体が、次の人が声を上げにくくする悪循環を生んでいる可能性も指摘されています。管理職の意識改革や、育休取得を応援する文化の醸成が不可欠です。
利用しづらい実態と前例のなさ
「社内の男性の育休制度が十分に整備されていない/前例がない」という理由が、男性が育休を取得しない最大の理由として挙げられた調査結果もあります。これは、企業に育休制度自体は存在していても、それが実質的に機能していなかったり、利用するための具体的な手続きやサポート体制が不明確であったりするケースが少なくないことを示唆しています。
例えば、2022年に新設された「産後パパ育休(出生時育児休業)」についても、その内容を十分に理解している人は半数に満たないという調査結果があります。
一方で、調査では、男性育休に関する自社の制度の認知度は3割未満と低いものの、制度内容を詳細まで把握している人の育休取得意向は7割超と非常に高いことが明らかになっています。企業が自社の育休制度を従業員に分かりやすく周知し、利用しやすい環境を整えることが、取得率向上に直結することを示しています。
男性育休を後押しする制度
男性の育休取得を取り巻く環境は、決して厳しいだけではありません。法改正による制度の拡充や、企業の先進的な取り組みなど、育休取得を後押しする動きも活発化しています。
産後パパ育休(出生時育児休業)
2022年10月からスタートした「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、男性の育休取得を促進するための新しい制度です。この制度の大きな特徴は、子の出生後8週間以内に、最大4週間(28日間)の休業を2回に分けて取得できる点です。
従来の育休とは別に取得できるため、柔軟な活用が可能です。申し出の期限も、原則として休業開始予定日の2週間前までと、出産予定日が前後しやすい状況にも対応しやすくなっています。さらに、労使協定を締結していれば、休業中であっても事前に調整した範囲内で一部就業することも認められています。
この制度は、母親の体調が不安定でサポートの必要性が特に高い出産直後の時期に、父親が育児に参加しやすくすることを主な目的としています。しかし、制度の認知度向上が依然として課題です。
育児・介護休業法の改正
育児・介護休業法は、仕事と育児の両立を支援するため、近年立て続けに改正が行われています。これらの改正は、男性がより育休を取得しやすく、また育児に参加しやすい環境を整備することを目的としています。
2022年4月からは、企業に対して、育休を取得しやすい雇用環境の整備や、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知および育休取得意向の確認が義務化されました。
さらに、2025年4月からは、男性の育休取得率の公表義務が、従業員1000人超の企業から、従業員300人超の企業へと対象が拡大されています。
注目されるのは、2025年4月1日から施行されている改正内容です。例えば、「子の看護休暇」の対象となる子の範囲拡大や取得理由の追加、「残業免除」の制度の対象者拡大などが予定されています。これらの改正は、育児期にある労働者がより柔軟に働けるようにするためのものであり、男性の育児参加を間接的に後押しする効果も期待されます。
先進的な育休取得促進の取り組み事例
法改正だけでなく、企業側でも男性の育休取得を積極的に推進する動きが広がっています。先進的な企業では、独自の制度設計やトップのコミットメントを通じて、男性が育休を取得しやすい風土づくりに取り組んでいます。
例えば、経営トップ自らが「イクボス宣言」や「男性育休100%宣言」を発信し、全社的な意識改革を促す企業が見られます。また、法定の育休とは別に、独自の有給の育児目的休暇制度を設ける例もあります。
さらに、育休の計画や申請をスムーズに行えるよう勤怠管理システムを改修したり、育休を取得した社員の体験談を社内で共有したりするなど、制度利用をサポートする具体的な仕組みを導入する企業も増えています。業務の属人化を防ぐためにマニュアルを整備したり、育休取得者の業務をチームでカバーする体制を整えたりすることも、結果的に育休を取得しやすい環境づくりに繋がります。
パパが育休を取るメリットとは?
男性が育休を取得することは、父親自身、家族、そして企業や社会全体にとっても多くのメリットをもたらします。育児に主体的に関わることで得られる経験は、個人の成長を促し、家族の絆を深め、ひいては企業の生産性向上にも繋がる可能性を秘めています。
父親自身が得られる成長と新たな視点
育休は、父親にとって、子育てに集中的に取り組む貴重な機会であると同時に、自己成長の機会でもあります。ある調査によると、育休を取得した男性の多くが、育児経験を通じて多様な価値観を持つ人々への理解が深まったことにくわえ、時間管理能力やマルチタスク能力といったビジネススキルが向上したと実感しています。これらのスキルは、職場復帰後の業務遂行においても大いに役立つものです。
また、育休を通じて日々の育児や家事に向き合う中で、これまでの働き方やキャリアに対する考え方を見つめ直したり、新たな目標や関心事を発見したりするきっかけになることもあります。
家族の絆を深め、夫婦円満にも
父親が育休を取得し、出産直後から育児に積極的に関わることは、家族にとって計り知れない恩恵をもたらします。まず、生まれて間もない子どもと集中的に時間を過ごすことで、父親と子の間に強い愛着関係が育まれます。
また、夫が育児や家事を主体的に担うことで、出産という大仕事を終えた妻の心身の負担を大きく軽減することができます。夫がそばにいてサポートすることで、妻は安心して回復に専念でき、夫婦で協力して子育てに取り組むという意識も高まります。ある調査では、育休を取得した男性の多くが「パートナーと協力し、子ども・家族との時間を大切に過ごせた」と回答しています。
さらに、男性の育休取得は、女性の就業継続やキャリア形成を後押しする効果も期待されています。
企業イメージと生産性向上
男性の育休取得を推進することは、実は企業にとっても多くのメリットがあります。まず、育休制度が充実しており、男性社員も実際に取得しやすい企業は、「社員を大切にする会社」「働きやすい会社」というポジティブなイメージを持たれやすくなります。これは、優秀な人材の獲得や定着に繋がります。
また、育休取得を支援する企業文化は、従業員の満足度やワークエンゲージメントを高める効果が期待されます。従業員が会社から大切にされていると感じ、仕事と家庭生活を両立しやすい環境にあれば、仕事へのモチベーションが向上し、結果として生産性の向上や創造性の発揮に繋がる可能性があります。
育休取得による一時的な人員減を懸念する声もありますが、計画的な業務分担や情報共有を進めることで、業務の属人化を防ぎ、組織全体の対応力を高める良い機会と捉えることもできます。
男性育休の取得率が上がる社会を目指そう
男性の育休取得率は着実に上昇しており、令和5年度の調査では30.1%と過去最高を記録しました。これは、法改正や新制度の導入、社会全体の意識の変化が背景にあると考えられます。企業においても、先進的な取り組みが進んでいます。
しかし、女性の取得率と比較すると依然として大きな隔たりがあり、政府目標の達成に向けてもまだ道半ばです。収入減への不安、職場の雰囲気、業務の引き継ぎの問題など、男性が育休を取得する上での課題は依然として多く存在します。
育休は、父親自身の成長、家族の絆の深化、そして妻のサポートといった個人や家庭へのメリットに加え、企業にとっても人材確保や従業員のエンゲージメント向上といった恩恵をもたらします。
男性が当たり前に育休を取得し、育児に参加できる社会を実現するためには、国による更なる法整備や支援策の強化、企業による制度の周知徹底と実質的な運用、そして何よりも職場全体の理解と協力的な雰囲気づくりが不可欠です。そして、これから育休を取得しようと考えている方自身も、制度を正しく理解し、早めに準備を進め、周囲に対する配慮を欠かさずに行動することが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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