• 更新日 : 2025年6月24日

タイムカードと労働時間のズレはどこから違法?許容範囲と給与計算への影響を解説

タイムカードの打刻時間と実際の労働時間が合わない…そんな「時間のズレ」は珍しくありません。例えば、本当は定時後まで業務をしていたのにタイムカード上は定時で退勤したことになっていたり、逆に早めに退勤したのに打刻時刻だけが定時になっていたりするケースです。こうした勤怠のズレは違法になるのでしょうか。

この記事では、タイムカードの打刻時間と実労働時間のズレについて、その原因や法的な考え方、許される範囲と労働基準法の根拠を具体例とともに解説します。

目次

タイムカードと実労働時間のズレが生じる原因

タイムカードの打刻時刻と実際の労働時間との間にズレが生じる原因はさまざまです。単なる入力ミスから意図的な不正、あるいは会社の勤怠運用上の問題まで、現場で起こりやすい代表的なケースを見てみましょう。

打刻ミスや記入ズレ

タイムカードの表裏を間違えて打刻してしまうことや、打刻欄を1行ずらして押してしまう、あるいは手書きで記入する際に時刻を誤って書いてしまうケースです。日常的に起こりがちなミスですが、記入ミスに気づかずそのまま給与計算が行われれば、未払いや過払いのリスクにつながるため、軽視できません。

「ついで打刻」や架空に打刻する

同僚のタイムカードを「ついでに押しておく」あるいは「今日は出勤したことにしておこう」といった行為は、代理打刻や架空打刻にあたります。特に、実際には出勤していない日にタイムカードだけ押して休日出勤扱いにするケースは、明確な不正行為とされる可能性が高く、企業側にとっても深刻な問題です。

このような打刻が記録として残ってしまうと、労働時間に基づく残業手当や休日手当の支給に誤りが生じ、本来支払う必要のない賃金を会社が負担することになります。さらに、それが複数回にわたって繰り返されていた場合には、労働時間管理の不備として、労働基準監督署から是正勧告を受けることも考えられます。

残業や早出を打刻しない

仕事が終わらなくても、いったん定時でタイムカードを打刻し、その後に作業を続ける、あるいは始業前に早く出勤して仕事を始めているのに、出勤打刻は定時まで待つ、こうした勤務実態は、現場では珍しくありません。形式上は所定労働時間を守っているように見えても、実際にはその前後で労働が発生しており、タイムカード上の記録と実労働時間にズレが生じている状態です。

このような勤務は、従業員側の判断というよりも、「暗黙の了解」や「職場の慣習」によって生じていることが多く、会社としては見逃すべきではありません。放置すれば、未払い残業や労働時間管理義務違反につながり、労働基準監督署の是正指導を受ける可能性もあります。表面上の勤怠記録だけに頼るのではなく、実態を把握する姿勢が求められます。

直行直帰など打刻できない勤務

例えば、営業職や現場作業員が外出先でそのまま直行直帰し、オフィスに設置されたタイムカード機で打刻できなかった場合、実際の労働時間が記録に残らないことがあります。また、在宅勤務や出張中に始業・終業の打刻を忘れてしまい、後から自己申告で記録を補うことになった際、実際の作業時間との間にズレが生じることもあります。

このような状況は、個人のミスというより、勤怠システムの仕組みや運用のあり方に起因していることが少なくありません。紙のタイムカードや手書きの出勤簿といったアナログな管理方法では、記入漏れや入力ミスが起きやすく、勤怠の正確性を保つのが難しくなります。

タイムカードと実労働時間のズレは違法になる?

タイムカードの時刻と実際の労働時間に差があった場合でも、法律上すぐに違法となるわけではありません。しかし、そのズレが生じた原因や内容次第では違法となるケースもあります。ここでは、労働基準法上の考え方と、どの程度のズレが許容され得るのか、そして違法と判断される具体的なケースについて解説します。

時間のズレが問題となるケース

タイムカードの打刻時間と実際の労働時間のズレに問題があるのは、そのズレによって本来支払うべき賃金が支払われていないなど、実態と記録が大きく食い違っているケースです。厚生労働省のガイドラインでは、自己申告の時間とPCログなどの客観的記録に差がある場合、企業に実態調査と必要な補正を求めています。

例えば、タイムカードは19時30分退勤になっていても、PCの使用履歴が20時30分まで残っているような場合には、会社が状況を確認し、実際に働いていたのであればその分の残業代を支払う必要があります。

「許容範囲○分」など基準があるわけではありませんが、時間のズレを放置し、正しい労働時間を反映しない対応が違法とされるのです。企業は勤怠記録と実態のズレを見逃さず、適切に対応することが求められます。

時間のズレが違法となるケース

タイムカードの打刻と実際の労働時間に差があり、その結果として賃金が本来より少なく支払われている場合、労働基準法違反とされる可能性があります。例えば、会社側が打刻時間を一律に切り捨てて残業代を計算していたり、従業員に「残業しても定時で打刻するように」と指示したりしていたようなケースは、明確に違法です。

重要なのは、実際に働いた時間を把握せず、記録や支払いを正しく行っていないことにあります。たとえ故意でなくても、ズレが生じているのにそのまま誤った給与計算を続ければ、未払い賃金の問題が発生してしまうでしょう。そのような場合には、賃金全額払いの原則に対する違反として30万円以下の罰金が科される恐れもあります。

労働安全衛生法の改正によって、労働時間の客観的な把握が義務化されており、記録が実態と乖離している状態は適正な勤怠管理とはいえません。ズレを放置せず、実態に基づいて修正・補填する対応こそが企業の信頼とコンプライアンスを守るために必要です。

タイムカードと労働時間のズレは何分まで?

わずかなズレはどこまで容認されるのか、現場でも判断に迷うポイントです。

タイムカードと実際の労働時間にズレがあったとしても、すべてが違法になるわけではないのですが、とはいえ、「どの程度までなら問題ないのでしょうか。ここでは、実務での一般的な対応ラインや法的な考え方をもとに、どこまでの時間差が許容されるのかについて整理します。

法律に明確な「何分まで」という基準はない

まず確認しておきたいのは、労働基準法には「ズレが〇分以内であれば許容される」といった明確な時間の基準は定められていません。したがって、10分ならOK、20分はNGといった画一的な判断はできません。

とはいえ、厚生労働省のガイドラインでは、「労働時間の記録と実態に乖離がある場合には、実態調査を行って必要に応じて修正すること」が求められています。これは逆に言えば、「ズレがあったらそのまま放置せず、実態を確認する」という姿勢が求められるということです。

30分単位の処理は月単位に限られる

かつては「30分未満の端数は切り捨ててもよい」といった慣習が一部の職場で見られましたが、このような処理は原則として許されません。厚生労働省の通知においては、「1ヶ月単位で集計した時間外・休日・深夜労働時間の合計に対して、30分未満を切り捨て、それ以上を切り上げる」という処理方法は、一定の事務簡便のために認められています。

つまり、毎日の労働時間に対して30分未満の端数を切り捨てることは違法となります。あくまで月間における時間外労働集計の際に限って端数処理が認められるという点を、誤解のないように注意する必要があります。

タイムカードと労働時間がズレたまま給与計算したとき

タイムカードと実労働時間にズレがあるにもかかわらず、そのまま給与計算を行ってしまうと、未払い賃金や過払い賃金の発生、さらには労働基準法違反や従業員とのトラブルに発展する可能性があります。ここでは、時間のズレを見逃した場合のリスクと、誤った給与を支払ってしまった場合の対応策について解説します。

給与計算ミスを放置すると法令違反に発展することも

タイムカードのズレに気づかないまま給与計算を進めてしまうと、本来支払うべき残業代が支払われず、未払い賃金として問題になることがあります。これは労働基準法第24条「賃金全額払いの原則」に違反する行為です。

また、従業員から「記録と実際の労働時間が違う」と申告されたにもかかわらず、調査や対応を怠った場合、会社は管理責任を問われるおそれがあります。労働基準監督署の是正勧告や訴訟にまで発展する可能性もあり、経営リスクとして軽視できません。

未払いがあった場合はできるだけ早く精算を

たとえわずかな時間であっても、記録に反映されていない労働時間があれば、速やかに補填する必要があります。例えば、実際は19時15分まで働いていたにもかかわらず、退勤打刻が19時だった場合、15分の残業代を別途支給しなければなりません。

支払い方法は、特別支給や翌月給与への合算などでも構いませんが、対応が遅れると指導・是正の対象になる場合もあるため注意が必要です。

過払いがあっても一方的な控除はNG

逆に、誤記録により実際よりも長く働いたとみなされて賃金を過払いしてしまった場合、会社側としては返金を求めたくなるかもしれません。しかし、過払い部分を後に支払う賃金から控除することは原則禁止されています。

過払い部分を賃金から控除するためには、労使協定を締結したうえで、従業員の同意を得ることが必要です。なお、本人の経済生活の安定を害さない程度の少額である場合には、労使協定がない場合でも控除が可能と解されています。

過払いが判明した場合には、必ず従業員に事情を説明し、合意のうえで返金方法を協議することが原則です。一方的な控除は避けましょう。

給与明細と記録の透明性を確保する

誤った金額で給与を支給してしまった際には、その経緯と修正内容を明確に説明することが重要です。特に未払いの場合は、金額の内訳や再計算の根拠を文書で示し、従業員に納得してもらえる対応を心がけましょう。

また、「勤務時間に不自然な点があれば速やかに申し出るように」といったルールを社内で周知しておくことで、従業員の協力を得ながらミスの早期発見につなげることが可能になります。

タイムカードのズレによる誤った給与計算をしないために

タイムカードのズレによる誤った給与計算は、事前のチェック体制があれば未然に防げるケースがほとんどです。以下のような取り組みが有効です。

  • 勤怠データ取り込み前に、早出・遅刻・残業などの異常値を確認
  • アラート機能のある勤怠管理システムを導入して打刻ミスを検出
  • 給与計算前に、不自然な打刻がないかダブルチェックを実施

こうした仕組みを整えておくことで、正確な給与支払いと法令遵守を両立できます。

タイムレコーダーの不具合で時間のずれが発生したとき

タイムレコーダー本体の故障や設定ミスといった機械的なトラブルによっても発生することがあります。こうした場合、記録そのものが誤っているため、企業には速やかに原因を特定し、正しい労働時間を把握する対応が求められます。

タイムレコーダーの時計や設定ミス

タイムレコーダーは、使い続けるうちに内部時計がわずかに進んだり遅れたりすることがあります。特に電波時計機能がない機種では、数分のズレが勤怠記録に影響を及ぼすこともあるため、月1回程度の確認・調整が推奨されます。

また、停電やバッテリー切れ、初期設定のミスなどで時間がリセットされてしまうケースもあります。年度替わりや人事異動時など、設定変更のタイミングでは特に注意が必要です。

印字位置のずれを確認する

レコーダーが正常に作動していても、タイムカードの挿入方法によって印字位置がずれることがあります。例えば、カードを強く押し込みすぎると印字欄から外れて別の行に記録されてしまい、結果的に実態とは異なる時刻が記録されることがあります。

こうしたミスも、見逃すと誤った労働時間として扱われてしまうため、定期的に確認しましょう

時間のズレが発生した場合は記録を補正・説明する

機械のトラブルで打刻に誤差があった場合は、まず影響期間を特定し、記録を正しい労働時間に修正します。その際には、日報、業務システムのログ、従業員の申告などをもとに、できるだけ客観的な証拠に基づいて対応することが信頼性を高めます。

また、記録を修正する場合は、従業員本人に説明と確認の機会を設けることも忘れてはいけません。「勝手に直された」と感じさせないためにも、対話による合意形成が重要です。

機械トラブルの再発防止策を整える

一度トラブルが発生した場合、原因を放置しないようにしましょう。以下のような体制整備が有効です。

  • 月次でのレコーダー時刻の確認・記録
  • 打刻欄のズレチェックを含むタイムカード回収時の点検
  • 勤怠管理システムに異常通知機能を設定し、自動で打刻エラーを検出

タイムカードの不具合は、単なる機械的な問題にとどまらず、勤怠管理全体の信頼性を損なう要因となります。ズレを見逃さず、早期対応・予防策を徹底することで、労務トラブルのリスクを減らすことができます。

タイムカードと労働時間のズレを防止する方法

タイムカードの記録と実際の労働時間がずれていると、未払い賃金や勤怠トラブルにつながるおそれがあります。こうしたリスクを防ぐには、日頃のルールづくりと現場での運用が欠かせません。ここでは、中小企業でも導入しやすい実践的な対策を3つのポイントに分けて紹介します。

ルールの明確化と周知でトラブルを防ぐ

ズレの発生を抑えるためには、まず残業や早出は事前申請制とするルールの整備が有効です。上司の許可を得ずに働いた時間を記録から除外することで、会社が知らないうちに発生する「隠れ残業」の温床を減らすことができます。

また、「打刻は本人が行う」「開始・終了のタイミングは実際の業務に即して打刻する」など、基本ルールを明文化し、従業員全体に周知しておくことが重要です。代理打刻や打刻漏れが発覚した場合の対応についても、懲戒規定を含めた運用ルールとして明確にしておきましょう。

指導と信頼関係で不正打刻を防ぐ

ルールを守るだけでなく、従業員一人ひとりが正しい打刻を行う意識を持つことが重要です。不正が疑われた場合でも、いきなり注意するのではなく、ヒアリングを通じて背景を確認し、必要であれば改善策を一緒に考える姿勢も求められます。

また、職場で「ついでに押しておく」などの軽い気持ちから不正打刻が広がらないよう、日頃から打刻の重要性を伝えるコミュニケーションが必要です。信頼に基づいた風土を築くことで、従業員同士の自浄作用も期待できます。

勤怠システムの導入で記録精度を高める

手書きやタイムカードによる管理はヒューマンエラーの温床になりやすいため、ICカードやPC・スマホを使った勤怠管理システムの導入も検討に値します。最近のシステムでは、退勤打刻漏れや未申請残業など、記録の異常を自動で検出・通知する機能も備わっており、打刻の正確性が向上します。

また、直行直帰やテレワークなど柔軟な働き方に対応しているものも多く、多様な勤務形態でもズレを減らせる点が大きなメリットです。自社の業務に合ったシステムを選び、明確な運用ルールとともに導入することで、管理者の負担も軽減できます。

このように、勤怠のズレを防ぐためには、制度・運用・ツールの三本柱で整備していくことがポイントです。完璧にズレをなくすことは難しいものの、リスクを最小限にとどめる工夫を重ねることで、健全な勤怠管理につながります。

タイムカードと労働時間のズレは直ちに違法とはならないが、健全な勤怠管理を実現しよう

タイムカードと実際の労働時間に多少の差があっても、それだけで直ちに法令違反と判断されるわけではありません。しかし、ズレを放置したままにしておくと、未払い賃金や勤怠トラブルの原因となり、企業の信頼や法令遵守体制に影響を与えるおそれがあります。

ズレの発生を防ぐためには、ルールの整備と従業員への周知に加えて、勤怠記録の精度を高める仕組みづくりが不可欠です。特に、アナログ管理では限界がある場合は、勤怠管理システムの導入を検討しましょう

打刻ミスの自動検知やアラート機能、リモートワーク・フレックス対応など、柔軟な運用を支えるツールを活用することで、正確かつ効率的な勤怠管理が実現しやすくなります。

ズレを未然に防ぎ、従業員の労働実態を正しく把握する体制を整え、健全な職場づくりを実現していきましょう。


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