- 更新日 : 2025年6月2日
月45時間以上の残業が3ヶ月連続するとどうなる?36協定の運用ルールについて解説
労働基準法に基づき、企業が時間外労働を行わせるには36協定の締結・届出が必須となります。月45時間の残業が3ヶ月連続した場合、法的リスクが高まり、労働基準監督署の指導対象となる可能性もあるため、注意が必要です。
2024年3月末で猶予期間が終了したことにより、猶予されていた一部業界にも時間外労働の上限規制が適用されることとなり、より一層の労務管理強化が求められています。
本記事では、月45時間の残業が3ヶ月連続することの36協定における意味や、企業のコンプライアンス対応のポイントを解説します。
目次
36協定とは
36協定とは、労働基準法第36条に基づいて企業と労働者代表との間で締結する、時間外労働・休日労働に関する協定のことです。法定労働時間は原則「1日8時間・週40時間」までと定められており、それを超える残業や休日出勤をさせるには36協定の締結・届出が必要になります。36協定を結んでいないまま残業や休日労働を命じると労働基準法違反となり、企業に罰則が科される可能性があります。
36協定が必要な理由
法定労働時間内で収まる勤務であれば36協定は不要ですが、業務の都合で法定時間を超える残業が発生する可能性がある場合には、あらかじめ36協定を締結しておくことが重要です。36協定がない状態で万が一法定時間を超える残業をさせると、たとえ一時的な対応でも法律違反とみなされてしまいます。
36協定を締結・届け出しておけば、突発的な残業が必要になった際も迅速に対応できますし、労使間で残業の条件を明確に決めておくことでトラブル防止にもつながります。
36協定を締結しない場合のリスク
36協定を結ばずに残業や休日労働を命じることは違法です。労働基準監督署から是正勧告を受け、従わない場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則の対象になり得ます。また法令違反として企業名公表や社会的信用の低下にもつながり、従業員との信頼関係悪化や労使トラブルのリスクも高まります。
実際に36協定違反で書類送検されたケースもあり、違反を繰り返す悪質な企業は行政指導だけでなく社名公表などの措置も取られるので注意が必要です。
36協定における月45時間ルールとは
月45時間・年360時間という数値は、労働基準法で定められた時間外労働の原則上限です。これは1ヶ月あたり約45時間(年間では360時間)までしか残業させてはいけないという基準で、週休二日制の会社であれば1日平均2時間程度の残業が上限の目安となります。
臨時的な特別の事情がある場合にのみ、この45時間・360時間を超える残業が可能ですが、その場合でも以下のような厳しい制限が設けられています。
- 年間720時間以内:時間外労働は一年で合計720時間が上限
- 単月100時間未満:休日労働を含め、どの月でも残業は100時間未満
- 複数月平均80時間以内:休日労働を含め、2~6ヶ月の平均残業は月80時間以内
- 月45時間超は年6回まで:45時間を超える残業は年間6ヶ月が限度
こうした上限規制は2019年の法改正で罰則付きで定められたもので、仮に36協定を締結していてもこれらを超える残業をさせれば違法となります。特に「月45時間」を超える残業は臨時的な特別の事情がある場合に限定され、年間でも6回までしか認められません。企業はこの範囲内で労働時間を設計する必要があります。
「45時間」の考え方
月45時間という数字は、かつて行政通達で示されていた「青天井残業」の歯止めとして定着したものですが、2019年の法改正で正式に法律上の上限となりました。月45時間を超える残業は本来例外的措置であり、通常時はこのライン以内に残業時間を収めることが求められます。
例えば週休二日制・1ヶ月の所定労働日数21日とすると、毎日約2時間程度の残業で45時間に達する計算です。このため、恒常的に月45時間ギリギリまで残業させるような働かせ方自体が望ましくなく、業務量の調整や人員配置の見直しなどでできるだけ45時間以内に抑える努力が必要です。
また、45時間を超える残業が健康へ与える影響にも注意が必要です。医学的知見では「週40時間を超える残業が月45時間を超えたあたりから徐々に脳・心臓疾患のリスクとの関連性が強まる」とされ、月100時間超や2~6ヶ月平均80時間超の残業ではその関連性が一層強まると報告されています。
このように45時間は労務管理上ひとつの重要なラインであり、従業員の健康確保の観点からも厳守すべき目安と言えます。
月45時間以上の残業が3ヶ月連続すると違法?
「月45時間以上の残業が3ヶ月連続」した場合、法的な上限規制との関係では前述の「年6回まで」の枠内ではあるものの、連続3ヶ月も45時間超過が続くこと自体が長時間労働の常態化を示すサインです。
特に、厚生労働省は過去6ヶ月間でこのような状態が発生した場合、労働者が退職すると「会社都合退職」として扱われる可能性があるとしています。離職票の離職理由の判定基準において「直前6ヶ月間のうち3ヶ月連続で月45時間超の時間外労働が行われたため離職した者」は特定受給資格者(会社都合による離職)に該当し得るのです。これは自己都合退職と異なり、失業給付の給付制限がなくなる有利な扱いであり、裏を返せば企業側の管理責任が問われる状況といえます。
実際に「残業が連続3ヶ月45時間超」のケースで社員が退職を申し出、ハローワークが会社都合と認定した事例も報告されています。このような状況になると、企業には労働時間管理に重大な問題があると見做され、労基署など行政当局から調査・指導が入る可能性もあります。
人事労務担当者は45時間超の残業が連月で続いていないかを常にモニタリングし、そうした兆候があれば早急に是正措置を講じる必要があります。
労働時間の上限規制の特例措置とは
2024年4月1日から、時間外労働の上限規制に関する重要な改正・適用拡大が実施されています。改正労働基準法の施行当初、一定の業種については上限規制の適用が猶予されていましたが、その猶予期間(5年間)が2024年3月で終了し、同年4月から以下の業種・事業にも上限規制が適用されることになりました。
- 建設業(工作物の建設の事業)
- 自動車運転の業務(トラック・バス・タクシー運送業)
- 医師(医業に従事する医師)
- 砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県の製糖業)
ただし、これらの業種については上限規制の特例措置も設けられています。厚生労働省の通達等によれば、以下のような扱いとなります。
建設業
2024年4月以降、災害の復旧・復興事業や機械故障の緊急対応など特定の場合を除き全て上限規制が適用されます。災害対応等の際は「月100時間未満」「2~6ヶ月平均80時間以内」の規制が適用除外となる特例があります。一方で通常の繁忙期でも原則として一般の上限を超えることは認められず、建設業でも月45時間・年360時間の原則に従った労務管理が必要です。
自動車運転業務
2024年4月から上限規制が適用されますが、長距離運送等の事情に配慮し、特別条項付き36協定を締結する場合の年間残業上限は960時間に緩和されています。またこの業種では月100時間未満や複数月平均80時間以内、月45時間超は年6回までといった一般的な規制は適用除外となります。その代わりにトラック・バス・タクシー業態ごとに定められた「改善基準告示」(拘束時間や休息期間の基準)を守る必要があります。
運送業界ではこれを俗に「2024年問題」と呼び、人手不足への影響も懸念されていますが、各社で運行計画の見直しや効率化が進められています。
医師
医師についても2024年4月から上限規制が適用されますが、地域医療を維持する観点から非常に大きな特例上限が設定されています。特別条項付き協定を結ぶ医師の場合、年間の時間外・休日労働の上限は最大で1,860時間(月平均155時間相当)まで認められます。この水準に達するのは高度専門医や地域救急を担う医師等に限られ、段階的にA水準・B水準といった区分で上限時間が定められています。
医師については上記の上限規制に加えて、健康確保措置(面接指導の実施や勤務間インターバル付与など)を義務づける医療法上の規定が新設されています。長時間労働になりがちな医師の働き方改革も焦点であり、各医療機関で勤務シフトの見直しや応援医師の派遣など対応が進められています。
砂糖製造業(鹿児島・沖縄)
砂糖製造業は製糖期に集中的に稼働し、それ以外の期間は閑散期となる特殊な業態のため、これまで年間を通じて所定労働時間が法定を超えないケースが多く36協定自体が適用除外とされてきました。しかし実際の労働時間の把握・健康管理の観点から、2024年4月以降はこの業種にも一般の上限規制が適用されることになりました。
繁忙期・閑散期の差が大きい業種ですが、今後は忙しい時期でも法律の範囲内で労働時間を調整する必要があります。
新技術・新商品等の研究開発業務
この業務は引き続き上限規制の適用除外対象です。高度な専門職による研究開発は労働時間の裁量が大きいことから規制緩和されていますが、その代わりに労働安全衛生法の改正で「月100時間超の残業をした場合の健康措置義務」が課されています。1ヶ月の時間外・休日労働が100時間を超えた研究開発従事者には、申し出の有無を問わず医師による面接指導や就業環境の見直しなどの健康・福祉確保措置を講じなければなりません(違反時は罰則あり)。
企業の研究職でも、長時間労働者への医師面談や休養取得措置が実施されています。
36協定の運用に関する人事労務担当者の注意点
人事労務担当者は、36協定を適正に締結・運用することで法令違反のリスクを回避できます。まず、協定内容は法律の上限規制内に収め、現実的な数字設定をすることが重要です。実際の残業時間が協定で定めた範囲内に収まるよう管理することが不可欠です。
特別条項付き36協定を締結している場合でも、それを常態化させず臨時的な発動に留めるよう運用しなければなりません。
また、36協定を締結する際の労働者代表の選出にも注意が必要です。労働者代表は労働組合(過半数組合)がある場合はその組合、ない場合は従業員の投票等で過半数代表を選出しますが、使用者(会社側)が指名したり管理監督者が代表になったりすることは認められていません。
さらに36協定は通常1年ごとの有効期間を設定しますので、期限が切れる前に毎年更新手続きを行うことも忘れてはいけません。更新時には労使で残業実績や業務見通しを共有し、必要に応じて協定内容(例えば上限時間や特別条項の運用方法)を見直すことが望ましいでしょう。届け出た36協定の内容は社内に周知し、その範囲内で業務配分するよう教育しておくことが大切です。
長時間労働の防止策
長時間労働を未然に防ぐため、人事労務担当者は勤務時間の適正管理と業務量コントロールに積極的に取り組む必要があります。まずは勤怠管理システム等を導入して労働時間を正確に把握し、社員の残業時間をリアルタイムにモニタリングしましょう。エクセルや自己申告に頼った管理では限界があるため、タイムカードやICカード、PCログオン記録など客観的なデータを活用してサービス残業を見逃さない仕組みを構築します。
法定を超える長時間労働が発生した際には人事部門にアラートが届くようにし、各部署と連携して早期に対処することが重要です。
次に、業務量の配分と人員配置の見直しも長時間労働削減に効果的です。特定の社員に業務が集中して残業続きになっていないかを定期的に点検し、必要なら応援要員の投入や業務の平準化(繁忙期と閑散期のシフト調整)を行います。業務プロセスの改善やムダの排除も有効です。例えば会議の効率化やペーパーワークの電子化により業務時間を短縮し、残業しなくても業績を上げられる仕組みを作ります。
また「ノー残業デー」の実施や深夜残業の禁止ルール等で強制的に区切りをつけ、社員がダラダラと働き続けない職場風土づくりも必要でしょう。
なお、月80時間や100時間に迫る残業が発生した社員については、医師による面接指導の実施など健康面のフォローも忘れてはいけません。長時間労働は心身の不調をもたらし労災(過労死や過労自殺)認定につながる恐れがあります。社員の健康管理は会社の安全配慮義務の一部でもありますので、産業医とも連携して過重労働者へのケアや配置転換を行うようにしましょう。
労働基準監督署のチェックポイント
労働基準監督署(労基署)は36協定の届出内容や労働時間の実績について厳正にチェックしています。労基署が特に注目するポイントの一つは、36協定の内容が法律の上限規制やガイドライン(36指針)に沿っているかという点です。協定に定めた残業時間の上限が法定範囲内(45時間・360時間+特別条項時の延長条件)に収まっているか、臨時的な特別の事情の記載が適切か(恒常的な繁忙を理由にしていないか)、特別条項を適用する場合の手続き(事前の労使協議や事後の報告等)が明記されているか、といった事項が確認されます。
協定書の新様式ではこれらを網羅的にチェックできる欄が設けられているため、漏れなく正確に記入することが重要です。
また、労基署は36協定届の労働者代表欄についても注視しています。前述のとおり、使用者の意向で選任された代表や管理監督者が代表になっている協定は無効となるため、労基署は届出の際に代表選出が適正に行われたかを確認します。
2021年以降の協定届には「当該労働者代表は適正に選任されたものである」旨のチェックボックスがあり、ここにチェックがない届出は受理されません。したがって、人事担当者は労働者代表選出の手続き記録(選挙の実施結果や立候補募集の案内など)を備えておき、問合せに説明できるようにしておきましょう。
労基署の調査では、実際の残業実績と36協定の整合性もチェックされます。例えば36協定上は「月45時間まで」となっているのに、タイムカード上は月60時間超の残業者がいる、といった場合は労基法違反として是正勧告の対象となります。悪質な場合には送検・罰則も検討されるため、日頃から協定範囲を超える残業を出さないよう管理することが肝要です。
労基署は長時間労働の是正に近年特に力を入れており、毎年「過重労働重点監督」の結果を公表するなど監督指導を強化しています。人事労務担当者は行政の動向にもアンテナを張り、法令遵守と適正な労務管理に努めましょう。
まとめ
36協定の時間外労働の上限規制と労務管理のポイントについて解説してきました。36協定を適切に締結・運用し、法律で定められた残業時間の範囲内で業務を回すことは、社員の健康と企業の持続的発展に直結します。
コンプライアンスは一度整備して終わりではなく、継続的な改善プロセスであることを認識して取り組みましょう。施策を組み合わせ、長時間労働をしなくても業務が回る職場づくりを進めることが肝心です。一朝一夕には成果が出ないかもしれませんが、社員の健康保持と生産性向上という観点からも継続的に取り組む価値があります。
人事労務担当者は最新の法改正情報や判例にもアンテナを張りつつ、社内の意識改革と実効性ある対策によって長時間労働のない働きやすい職場を実現していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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