- 更新日 : 2025年4月17日
有給休暇を強制的に取得させられるのは違法?法律や対策を解説
有給休暇を会社側が強制的に取得させることが違法かどうか、またその際の対処法について知っておくことは重要です。
本記事では、有給休暇の強制的な取得が違法である理由や、特別な事情で例外的に認められる場合について解説します。会社から有給休暇を強制的に取得させられそうになった場合の対処法や、例外的に認められているケースを把握できるため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
有給休暇を強制的に取得させられるのは違法?
有給休暇は、労働者の権利として取得できるものです。そのため、企業が労働者に対して、会社の都合で強制的に有給休暇を取らせることは違法です。
これは労働基準法第39条に違反する行為であり、労働者の自主性を侵害します。法律により、有給休暇をいつ取得するか、取得しないかの判断を下す権利は、すべて労働者に委ねられています。したがって、企業側が従業員に対して取得時期を強制することは許されません。
逆に有給休暇を取らせてもらえない場合はどうなのか、疑問を解消したい方は下記の記事もご参照ください。
そもそも年次有給休暇とは?
年次有給休暇とは、一定期間勤務を続けた労働者に対して付与される休暇のことで、休暇中も給料が支払われるのが特徴です。一般的に「有給休暇」と呼ばれるもので、冠婚葬祭や通院など、私用のために休みを取る際も、給料が減る心配をせずに済みます。
この制度の目的は、労働者が心身の疲労を回復したり、家族と過ごしたりする時間をもつことを支援し、業務に集中できる環境を整えることにあります。有給休暇は、労働者の健康を守り、よりよい働き方を実現するための重要な制度です。
労働者にとっては「権利」、会社にとっては「義務」
有給休暇制度は労働者の権利であり、企業にとっては法的な義務です。
年間10日以上の年次有給休暇が付与される従業員には、年間5日以上の有給休暇を消化させることが法律で定められています。これに違反すると、会社には罰則が科せられます。
労働基準法にもとづき、企業は有給休暇を適切に管理し、従業員が取得できるようにしなければなりません。さらに、労働基準監督署が有給休暇の取得状況を確認するため、有給休暇管理簿の作成が必須です。
有給休暇の取得を会社が指定できるケース
例外として、時季変更権や計画年休などのケースでは、会社側が有給休暇の取得を指定できます。これらの仕組みを理解することで、適切に有給休暇の取得を促し、業務を円滑に進めることが可能です。
年5日の有給休暇を取得させる義務
2019年4月以降、会社は年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、最低でも年5日の有給休暇を取得させる義務が課せられました。
法律にもとづき、会社は有給休暇を取得していない従業員に対して、取得を促す必要があります。もし、労働者が年5日分の有給休暇を消化していない場合、企業は労働者と調整し、適切な時期を指定して取得させなければなりません。
しかし、すでに年5日分の有給休暇を取得した従業員に対して、追加で取得を強制することは違法です。
時季変更権
労働者には、原則として有給休暇を取得する時期を決める「時季指定権」があります。しかし、繁忙期やほかの従業員と希望する日程が重なる場合、企業側は「時季変更権」を行使して、日程を調整できます。
時季変更権を行使するためには、該当する労働者が事業運営に必要不可欠であり、代替要員の確保が困難であることが条件です。企業はこの要件を満たす場合に限り、労働者の有給休暇取得日を変更することが可能となります。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
計画年休
計画年休は、労使協定にもとづいてあらかじめ有給休暇を取得する日を企業が決定し、計画的に労働者に付与する制度です。この場合、企業が有給休暇の日程を設定できるため、労働者の自由な取得とは異なります。
計画年休を導入するためには、必ず労使協定が必要です。また、計画年休を導入する際にも、労働者が自由に使える有給休暇は最低でも年5日残しておかなければならないと定められています。
そのため、年間で5日を超える有給休暇を、計画年休としても運用することも可能です。
有給休暇を強制的に使われる例
有給休暇は労働者の権利ですが、会社側が強制的に使わせるケースもあります。
台風で有給を強制取得されるケースについて知りたい方は、あわせて下記の記事をご覧ください。
会社都合の休日
会社都合の休みを、勝手に有給休暇にされてしまうケースはNGです。会社都合で休みとなった場合、たとえば業務に使用するツールのメンテナンスや設備の修理などで業務ができなくなることがあります。
会社の休業日を有給休暇とすることは可能ですが、有給休暇を取るかどうかはあくまで労働者の判断に委ねられています。そのため、会社側が強制的に有給休暇を取得させることはできません。
もし労働者が会社都合の休みを有給として消化したいと考えた場合、法律では問題ありません。しかし、会社が労働者に対し、強制的に有給休暇を取らせることは違法となります。
なお、会社都合による休業については、労働基準法第26条にもとづき「休業手当」を支払う義務が発生します。休業手当の代わりに年次有給休暇を労働者の意思で取得するのは問題ありません。
体調不良による欠勤日
体調不良で欠勤する場合、会社側が勝手に有給休暇扱いにはできません。病気や感染症による休養はやむを得ない状況であり、強制的に有給を使わせることは違法です。
しかし、コロナやインフルエンザのような感染症で、長期の病欠が発生することもあるでしょう。その場合は、労働者が希望すれば、欠勤期間を有給休暇として処理することが可能です。
体調不良の場合も、あくまで労働者の判断が優先されるため、会社が強制的に有給休暇を使わせることはできません。体調不良の場合の休み方について、詳しく知りたい方は下記の記事もあわせてご覧ください。
通常の出勤日
通常、労働者が出勤した場合には給料が支払われるのが基本です。しかし、実際に出勤しているにもかかわらず、有給休暇として処理されることがあります。
たとえば、会社が業務の閑散期にシフトを減らし、その分の有給休暇を減らすことを意図している場合などです。
このような状況も、労働者の意図に反して有給休暇が勝手に減らされることになるため、違法となります。労働者は自分の有給休暇の残日数が不当に減らされていないか、定期的に確認することが大切です。
会社都合で強制的に有給休暇を取得されたときの対処方法
会社都合で強制的に有給休暇を取得させられた場合、労働者には正当な対処方法があります。
万が一このような状況が発生した際にどのように対応すべきか、具体的な方法を解説します。
証拠を集める
もし会社側の違法行為が発覚した場合、外部に相談することが大切です。相談の前に、証拠を集めておくとよいでしょう。証拠として有効なのは、給料明細や休暇届、休暇申請書、休日申請のメールなどです。
たとえば、欠勤した日を勝手に有給扱いにされた場合、事前に「有給休暇を使用しない」と明確に伝えます。日時がわかるように、書面やメールで意志を残すことが望ましいといえます。
欠勤を有給扱いにすること自体は問題ありませんが、会社が勝手に、有給を強制的に取得させていた場合は違法です。
労働基準監督署や弁護士に相談
会社が違法に有給休暇を強制した場合、証拠を集めてから、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
労働基準監督署に相談すれば、事業所に立ち入り調査を依頼でき、帳簿の確認を通じて違法な労働状況を調査してもらえます。
また弁護士に依頼すると、内容証明を送付して違法行為を正式に指摘し、会社に対して法的な圧力をかけることが可能です。これにより、企業側が違法行為を改めれば、労働者の正当な権利を守れます。
未払いの給料を請求する
有給休暇を不正に取得された場合、本来なら支払われるはずの給料を請求することも有効です。会社側が強制的に有給休暇を消化させている場合、その分の休暇日数が消失し、将来的に有給を取得できなくなるおそれがあります。
また、違法な有給休暇の取り扱いが行われている会社では、残業代などの支払いも適切に行われていない可能性が高いため、注意が必要です。
このような状況では、内容証明を使って請求書を送り、交渉することが第一歩です。それでも解決しない場合は、労働審判や裁判を通じて、法的手段を取りましょう。
有給休暇の強制取得はパワハラにあたる?
会社が有給休暇の取得を拒むことは、労働者にとって大きなストレスや苦痛を与える行為です。そのため、場合によってはパワーハラスメントとみなされます。
労働基準法第39条では、使用者に対して有給休暇を付与する義務が課せられています。このため、労働者が有給休暇を取れない場合は、法的に問題です。
もし有給休暇の取得を妨げられ、社内で解決が難しい場合は、労働基準監督署や労働局に設置された「総合労働相談コーナー」に相談してください。このような機関は、労働者の権利を守るために適切なサポートを提供しています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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