- 更新日 : 2025年12月23日
ストレスチェックをパワハラ対策に活かすには?パワハラサインの見抜き方や初動対応の流れを解説
働きやすい職場づくりのためには、「パワハラ防止対策」と「ストレスチェック制度の活用」が欠かせません。ストレスチェックは本来、労働者の心理的負担を把握し職場改善につなげるための制度ですが、適切に運用すれば、パワハラの兆候を早期に捉える手がかりにもなります。
本記事では、制度の概要や、パワハラ防止・予防に役立つポイントを解説します。
目次
パワハラとは?
パワーハラスメントは、職場での優位性を背景にした不適切な言動により、相手に苦痛を与えて就業環境を悪化させる行為です。厚生労働省が提示する定義と類型を基に解説します。
パワハラとは「優位性を乱用し就業環境を害する行為」
パワハラとは、職場において優位な立場にある者が、業務上適正な範囲を超えた言動を通じて他者に苦痛を与え、結果として就業環境を悪化させる行為を指します。この定義には以下の3要件すべてが含まれることが必要です。
- 優位性を背景とした言動
- 業務上必要かつ適正な範囲を超えている
- 相手の就業環境が害されている
このため、上司から部下への行為だけでなく、同僚間や部下から上司へのケースも該当する可能性があります。また、業務上適切な範囲での指導や助言は、パワハラには該当しません。
パワハラの特徴は6つの類型に整理される
厚生労働省は、職場におけるパワハラの代表的な形態を以下の6類型に分類しています。これらは判断の一つの目安となり、対応判断に役立ちます。
- 身体的な攻撃:殴る、蹴る、物を投げるなど暴力的行為
- 精神的な攻撃:人格否定、執拗な叱責、侮辱的な言葉、脅迫など
- 人間関係からの切り離し:無視、仲間外し、隔離などの排除的行動
- 過大な要求:遂行不可能な業務や明らかに不要な作業の強要
- 過小な要求:能力を無視した単純作業のみを与える、不当に業務を外す
- 個の侵害:私生活への干渉、プライバシー情報の暴露や監視行為
これらの行為は、表面的には「指導」や「冗談」として行われることもありますが、受け手の感じる苦痛や職場への悪影響が基準となってパワハラと認定される場合があります。
企業にはパワハラの防止措置が法的に義務づけられている
2019年に労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が改正され、2020年6月からは大企業、2022年4月からは中小企業も含めたすべての企業で、パワハラ防止措置の実施が義務化されました。就業規則による方針明示、相談窓口の設置、再発防止策の運用まで含めた、実効的な体制の整備が求められています。
ストレスチェックとは?企業に義務付けられた背景は?
ストレスチェック制度は、働く人のメンタルヘルスを守る目的で導入された検査制度です。ここでは制度の内容と導入背景を整理します。
ストレスチェックは心の不調に早期気づきを促す制度
ストレスチェック制度は、労働者のストレス状態を把握するためのアンケート調査で、2015年の労働安全衛生法改正により創設されました。従来、ストレスチェック制度は2015年12月の法改正により、常時使用する労働者が50人以上の事業場に対して、年1回の実施が義務付けられていました。
令和7年5月に改正労働安全衛生法が可決・成立したことにより、公布後3年以内に施行されることが定められています。これにより、遅くとも令和10年度までには 従業員数にかかわらず、すべての事業場でストレスチェックの実施が義務化される予定です。
ストレスチェックでは質問票を通じて仕事量や人間関係、ストレス反応などを測定し、本人に結果を通知します。
制度の目的は、①労働者自身による早期のセルフケアと、②集団分析を通じた職場環境の改善の2点です。高ストレス者には、希望に応じて産業医による面接指導も提供され、メンタル不調の予防につながります。
参考:ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等|厚生労働省
義務化の背景は深刻化するメンタルヘルス問題
制度が導入された背景には、うつ病や過労自殺など、職場における心理的負担の増加があります。長時間労働やハラスメントに起因する精神疾患が社会問題化したことで、国を挙げた予防策が求められました。さらに50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化され、企業規模を問わない対応が今後求められます。
労働者のプライバシーは保護される
この制度では、労働者に受検義務はなく、結果も本人の同意なしに企業へ提供されることはありません。人事評価への利用は禁止されており、企業が活用できるのは集団分析結果のみです。個人の結果は、本人の同意を得たうえで健康配慮や就業上の措置に限定して活用します。こうした設計により、労働者が安心して受検しやすい環境が整っています。人事担当者は職場全体のデータをもとに、過重労働や人間関係の課題を抽出し、環境改善に結びつける役割を担います。
ストレスチェックをパワハラ防止に役立てられる?
ストレスチェックはパワハラを直接的に検出する仕組みではありませんが、ハラスメントの兆候を見逃さず、早期に職場環境を改善するための有効な手段となります。
集団分析でパワハラの可能性がある職場を特定できる
ストレスチェックの集団分析では、部署ごとのストレス要因(仕事量、上司の支援、対人関係など)を把握できます。特定の部署だけ「上司の支援」が低く「対人関係のストレス」が高い場合、ハラスメント的な状況が発生している可能性があります。これにより、表面化していない問題の兆候を早期に察知することができます。
質問設計や面談結果でパワハラの兆候が見える場合がある
一部の企業では、チェック項目に「職場でいじめや嫌がらせを感じることがあるか」といった質問を盛り込み、パワハラの早期発見につなげています。また、高ストレス者が希望して受ける面接指導の場で、「上司からの過度な叱責」など、職場での人間関係トラブルが明らかになるケースもあります。ストレスチェックは、社員の声を引き出す契機となります。
個人情報の制限があるため補完的な運用が必要
注意点として、ストレスチェックの個人結果は本人の同意がなければ企業側が見ることはできません。結果をもとに「誰が被害者か」を直接特定することはできず、またストレスの原因が業務量なのか人間関係かも特定しきれない場合があります。そのため、人事担当者は集団データや面談結果を手がかりに、ヒアリングや職場観察を通じて原因を探り、必要に応じた改善策を講じる必要があります。
パワハラの兆候を見つけやすいストレスチェックの作成・実施ポイントは?
ストレスチェックをパワハラ対策に効果的に活用するためには、実施内容や質問設計に工夫が必要です。設問設計や分析方法を工夫することで、職場のハラスメント兆候を早期に把握しやすくなります。
ハラスメントに関連する設問を含める
パワハラの兆候を捉えるには、標準的な質問項目に加えて、職場の人間関係やハラスメントに関する設問を追加することが効果的です。「職場で誰かがいじめを受けているように感じたことがあるか」「上司からの指導が威圧的と感じたことがあるか」といった、主観的な違和感を拾う設問を含めることで、当事者が訴えにくい内容を可視化できます。
加えて、「上司や同僚からの支援の有無」「職場での孤立感」なども、パワハラが潜在している職場ではスコアが低下する傾向にあるため、重要な観察ポイントです。これらを含めた質問設計が、兆候を捉える精度を高めます。
部署ごとの集団分析でパターンを読み取る
実施後は、集団分析結果を部署単位で比較し、「上司の支援」「対人関係の良好さ」「心理的安全性」などのスコアに極端な差異がある部署を特定します。全社平均に比べて著しく低いスコアがある部署では、職場内のコミュニケーションや指導方法に問題がある可能性があります。
また、「高ストレス者が集中している部署」がある場合には、その背後にパワハラ的なマネジメントが存在していることもあるため、傾向の見える化と追跡調査を組み合わせることが有効です。産業医面談での報告内容も参考になります。
実施の目的と安心感を従業員に明確に伝える
ストレスチェックを有効に機能させるには、従業員が安心して正直に回答できる環境が不可欠です。そのためには、「回答は匿名で集計され、個人特定されることはない」「結果は人事評価に利用されない」など、制度の目的と運用ルールを丁寧に説明することが前提となります。
加えて、ストレスチェックの結果が職場改善につながっている実績を共有することで、「声が届く」と感じられるようになり、回答精度も向上します。信頼性のある実施体制を築くことが、人事担当者にとって最も重要なポイントです。
公的機関によるストレスチェックの見本は?
以下に厚生労働省が提供する公式サンプル見本と特徴を紹介します。
厚生労働省のストレスチェック調査票を活用できる
厚生労働省は、ストレスチェック制度の標準的な調査票として以下の見本を公表しています。
- 57項目版
職業性ストレス簡易調査票の標準版。仕事の負担、対人関係、心身の反応を網羅的に把握できます。 - 23項目版(簡略版)
法的要件を満たす簡易型。短時間での実施が可能です。 - 80項目版
57項目に加え、より詳細な職場環境評価を含んだ拡張版です。
いずれも、厚労省サイトや「こころの耳」ポータルで無料公開されており、企業の実施担当者がそのまま活用・カスタマイズすることが可能です。
ストレスチェック後にパワハラリスクが疑われた場合の対応フローは?
ストレスチェックの結果や面接指導から、パワハラの疑いが生じた場合、迅速かつ適切な初動対応を行う必要があります。以下に、対応のステップを解説します。
① 面談や分析結果からリスクの兆候を読み取る
まず、高ストレス者の面談内容や集団分析のスコアに注目します。「対人関係ストレスが高い」「上司の支援が著しく低い」などの傾向が見られる部署では、パワハラの可能性を疑う必要があります。複数人に共通して同じストレッサーが存在する場合、職場内でのハラスメントが潜在している可能性があります。
② 関係者ヒアリングと事実確認を客観的に進める
リスクが見えた段階で、本人の同意を得たうえでヒアリングを開始します。被害を訴える本人、加害が疑われる相手、その周囲の職員から状況を聴取し、メールやメモなどの客観的な証拠を収集します。ここでは、行為の頻度・継続性・職場への影響を冷静に評価し、「パワハラに該当するか否か」を判断します。
③ 対応措置と再発防止策を講じる
事実関係を把握したら、必要に応じて行為者への指導や懲戒処分、被害者への配慮(部署異動、業務調整、メンタルケアの案内など)を実施します。同時に、再発を防ぐために管理職への研修実施、相談体制の強化、組織内周知などの施策を講じ、制度的な改善に結びつけます。
ストレスチェックを活用して職場のパワハラを防ごう
パワハラの防止と対応には、法律に基づく企業の制度整備と日頃の職場環境づくりの両面からアプローチすることが重要です。ストレスチェック制度は社員のストレス状態を見える化し、職場の課題を浮き彫りにする有効なツールです。適切に活用すればパワハラの兆候を早期に察知し、未然防止や被害者のケアに役立てることができます。
社員が安心して働ける健全な職場環境を維持するために、ストレスチェックによるデータと現場での対話を組み合わせ、客観的かつ誠実な対応を積み重ねていきましょう。結果的にメンタルヘルス不調を予防し、従業員の働きがいと企業の生産性向上につながるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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