- 更新日 : 2025年12月5日
コンプライアンス意識とは?重視すべき理由や意識向上のポイントを解説
コンプライアンス意識とは、法令を守るだけでなく、社会的責任や倫理観をもって行動する姿勢を指します。
企業ではコンプライアンス意識が欠けると、不祥事や信用失墜などのリスクを招きかねません。
本記事では、コンプライアンス意識を重視すべき理由や意識を高めるための具体的なポイントをわかりやすく解説します。
社員教育や職場づくりに取り組む担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
コンプライアンス意識とは
コンプライアンス意識とは、法令遵守にとどまらず、社会的規範や企業倫理を正しく理解し、誠実に行動しようとする姿勢を指します。
近年はインターネットの普及により、社員個人の行動が「コンプライアンス意識の欠如」として瞬時に拡散されます。結果、企業の信用やブランド価値を下げかねないリスクがあるのです。
社員一人ひとりが高いコンプライアンス意識をもつのは、企業の信頼を支える土台になるため、組織全体に浸透させましょう。
コンプライアンス意識を重視すべき理由
企業はなぜ、社員のコンプライアンス意識の向上に注力する必要があるのでしょうか。
以下では、コンプライアンス意識を重視すべき理由を3つ解説します。
企業の信頼とブランド価値を守るため
コンプライアンス意識は信頼を積み重ね、ブランド価値を守るために重要です。
どれほど優れた商品やサービスを提供しても、不正や不祥事が一度発覚すれば、顧客離れや取引停止などの経済的損失を招きかねません。最悪の場合、企業の存続自体が危うくなります。
一方、社員全員が高いコンプライアンス意識をもち、誠実な行動を積み重ねると「信頼できる企業」「社会的責任を果たす企業」と評価されます。信頼の積み重ねこそがブランド価値を高め、持続的な成長につながるでしょう。
法令違反や不祥事のリスクを未然に防ぐため
コンプライアンス意識の向上は、法令違反や不正など、企業のリスクを未然に防ぎます。
マニュアルや規定を整備しても、社員1人ひとりが当事者意識をもたなければ、判断ミスが生じ、違反になりかねません。
たとえば、経理部門での不適切な会計処理やSNSでの情報漏えいは、小さな判断ミスや油断から発生します。
リスクを未然に防ぐには「問題ではないか」と自分に問いかける意識が必要です。コンプライアンス意識をもち、企業のリスクマネジメントを強化しましょう。
社員が安心して働ける職場環境をつくるため
コンプライアンス意識が根づいた職場では、ハラスメントや不正行為が起きにくく、社員の心身の健康と安全が守れるため、企業全体の活性化につながります。
明確なルールにもとづく正しい判断が行われる環境では「不当なことは見逃さない」という雰囲気がつくられます。結果、社員は安心して意見を言い合えるようになり、仕事に集中できるでしょう。
法令遵守をはじめ、心理的安全性の高い雰囲気づくりは、働きやすい職場環境に直結します。コンプライアンス意識の向上は、離職率の低下にもつながるでしょう。
コンプライアンス違反が起きる原因
コンプライアンス違反が発生する原因には、組織全体の問題が複雑に絡み合っています。
以下では、コンプライアンス違反が起きる原因を3つ解説します。
コンプライアンス意識や知識の欠如
コンプライアンス違反は「何が違反にあたるのか」という知識の欠如が原因です。
法令や社内規定を確認する機会が少なかったり、かたちだけの研修をしたりしていると、社員に適切な意識や知識が身につきません。結果的に、誤った判断で不正行為をしてしまう可能性があります。
たとえば、SNSでの軽率な投稿による情報漏えいやプライベートをしつこく聞くハラスメントは、コンプライアンス違反です。
リスクを防ぐには、定期的な研修やミーティングを通じて、自分の行動は適切か、判断力を育てるのが大切です。
組織風土や上司の姿勢による影響
上司の姿勢は、現場のコンプライアンス意識に影響を与え、不健全な組織風土にする可能性があります。
以下のような雰囲気が広がると、社員は正しい判断ができなくなるでしょう。
- 多少の違反は成果を出すために仕方がない
- 上が言うことだから従うしかない
- 面倒なことは見て見ぬふりをする
組織全体のコンプライアンス意識を向上させるには、上司が模範となる行動を示し、率先して法令を守る必要があります。
部下の意見を尊重し、不正を許さないという態度を示し、コンプライアンス意識の重要性を伝えていきましょう。
社内体制や通報制度の不備
社員が問題を発見しても「報告してもムダ」「誰に相談したらいいのかわからない」という社内体制や通報制度の不備も、コンプライアンス違反が起きる原因です。
コンプライアンス違反を防ぐ仕組みが整っていない場合、問題を発見しても対処できる機会を失いかねません。
早期発見・改善のためには、以下のような体制整備が必要です。
- 内部通報制度や匿名の相談窓口を設置する
- 報告者を守るルールを明確にする
- 通報後の対応を迅速かつ公正に整備する
体制整備を整えると、社員は安心して声を上げ、コンプライアンス違反の早期発見・改善ができるでしょう。
コンプライアンス違反の事例
コンプライアンス違反は、企業の倒産にまで直結する重大なリスクです。
株式会社帝国データバンクの調査によると、2024年の「コンプライアンス違反倒産」は388件にのぼり、3年連続で前年比増、過去最多を記録しています。
以下では、コンプライアンス違反の事例を5つ紹介します。
ハラスメント
職場でのハラスメントはコンプライアンス違反であり、企業の信頼を失います。
上司の立場を利用した以下の言動は、ハラスメントに該当します。
- パワハラ:暴言や過度な指導
- セクハラ:性的な言動
- マタハラ:妊娠や出産、育児に関する不当な言動
被害者が声を上げられず放置されると、メンタル不調や離職の原因となり、企業全体の士気が下がるでしょう。
事例:企業の福利厚生を代行する「ベネフィット・ワン」の社長が社内の懇親会でのハラスメント行為により、辞任することになりました。
参考:代表取締役社長の辞任に関するお知らせ|株式会社ベネフィット・ワン
関連記事:コンプライアンスとパワハラの関係は?パワハラのコンプラ違反事例や防止策を解説
違法な長時間労働
過剰な残業や休日出勤の状態化は、労働基準法に違反するコンプライアンス違反であり、社員の健康被害や過労死などを引き起こします。
人手不足や納期プレッシャーを理由にムリな労働を続けるのは、許されません。
企業側は勤務時間の管理を徹底し、残業の上限を明確に設定しましょう。
事例:大阪・関西万博のカナダ館で、時間外労働があることを定めた労使協定が職場で周知されないまま、約3か月残業が発生していました。
参考:【独自】万博カナダ館で労基法違反 スタッフ「残業あるとは知らず」|47NEWS
個人情報の漏えい
顧客情報や社員データといった個人情報の取扱いに関するミスは、損害賠償や行政処分の対象となるコンプライアンス違反です。
個人情報の漏えいの原因は、システムの不正アクセスだけでなく、誤送信やデータの紛失など、人的な不注意によるものが少なくありません。
ミスを防ぐには、情報管理ルールを確認し、アクセス権限の適正化やセキュリティ対策の確認を徹底しましょう。
事例:総務省は楽天モバイルの顧客向けWebページで発生した不正アクセスについて、電気通信事業法にもとづく行政指導を行ったと発表しました。また、漏えい報告が約4ヶ月遅れたことも法令違反とし、コンプライアンス体制の見直しを求めました。
参考:楽天モバイル株式会社に対する通信の秘密の保護、漏えい報告書の提出及びコンプライアンス・リスク管理体制構築の徹底に係る措置(指導)|総務省
SNSでの炎上
社員やアルバイトのSNS投稿がきっかけで、企業が批判を受ける「炎上」は、企業の信用失墜に直結するコンプライアンス違反です。
業務内容や顧客情報、職場の内部事情を軽い気持ちで投稿したことが、情報漏えいや信用失墜につながります。
企業は投稿ガイドラインを整備し、社員やアルバイト1人ひとりに「個人の発信が企業イメージに直結する」と認識させましょう。
事例:ラーメン魁力屋で、閉店後にアルバイト従業員2人が廃棄間際の食材である卵でキャッチボールする動画が、SNSに投稿・拡散されました。
参考:弊社従業員による不適切な動画投稿に関するお詫びとご報告 | 京都北白川 ラーメン 魁力屋
補助金や助成金の不正受給
行政機関からの補助金や助成金を不正受給する行為は、詐欺罪に問われるコンプライアンス違反です。
不正の例は以下のとおりです。
- 申請内容の虚偽報告をする
- 経費を水増しする
- 支給条件が満たないのに受給する
制度の理解不足や管理体制の甘さが原因の場合もあるため、申請前のチェックを徹底し、正しく申請を行いましょう。
事例:飲食店を運営する「加納コーポレーション」が新型コロナウイルス対策の国の雇用調整助成金、計約49億6,800万円を不正受給していたと発表しました。
参考:月島でもんじゃ焼き店など展開の会社、コロナ雇用調整助成金を49億円不正受給 : 読売新聞
コンプライアンス意識を向上させるポイント
コンプライアンス意識を単なる知識で終わらせず、定着・向上させるには、ポイントをおさえておくのが重要です。
以下では、コンプライアンス意識を向上させるポイントを解説します。
経営層や管理職が率先して模範を示す
コンプライアンス意識を向上させるには、経営層や管理職が率先して模範を示しましょう。
経営層が社内報でコンプライアンス違反の事例を共有したり、ミーティングや研修で「小さな不正も見逃さない」という姿勢を明確に伝えたりすると、社員はコンプライアンス意識をもつようになります。
また、管理職が日常業務で公平な判断をし、部下の意見を尊重する姿勢も大切です。
経営層や管理職が率先して行動すると、コンプライアンス意識が企業全体に浸透しやすくなるでしょう。
定期的な教育・研修を実施する
教育・研修を一度で終わらせず、継続的に実施すると、社員が正しいコンプライアンス意識と知識をもてるようになります。
以下は、コンプライアンス意識を学ぶ場の主な例です。
社内研修
社内研修では、社内外で過去に発生したコンプライアンス違反の事例や対策法を伝え、社員に危機感をもたせつつ、意識向上につなげます。
事例を共有すると「今後社内外で起きるかもしれない」「自分が起こしてしまうかもしれない」と自分事として危機感をもちます。
また、講義形式にくわえて社員同士のディスカッションも取り入れると、各自の考えを共有しながらコンプライアンス意識が育てられるでしょう。
eラーニング
時間や場所にとらわれず効率的な教育をしたい場合は、eラーニングも有効な手段です。
オンライン研修は社員全員を集める必要がないため、スケジュール調整の必要がなく、効率的です。
集合研修に比べて理解度を確認するのが難しいという課題はあるものの、クイズ形式や理解度チェック、感想記載などの仕組みを取り入れると、理解度の把握ができるでしょう。
関連記事:自社に合うeラーニングの種類は?目的別の講座の選び方と人材育成のコツ
安心して相談や報告ができる環境を整える
コンプライアンス違反を早期に発見・対処するには、社員が安心して声を上げられる環境づくりが必要です。
内部通報制度を設けるだけでなく、匿名で相談できる外部窓口を用意すると、社員は声を上げやすいでしょう。
また、通報者が不利益を受けないよう、匿名性や報復防止の仕組みを明文化し、社内で徹底的に周知するのも大切です。
相談や通報の結果、どのように処理されるのかがわかると「正しく報告すれば改善される」という安心感が生まれ、社員の行動を後押しできるでしょう。
日常業務のなかでコンプライアンス意識を定着させる
コンプライアンス意識は、研修で学んだ内容を日常業務に落とし込まなければ、長続きしません。常に意識を保てるように、以下の工夫をしましょう。
- 社内報で「コンプライアンス違反の事例」を共有する
- 部署単位で月1回コンプライアンスについて振り返る
- 朝礼や週次ミーティングでコンプライアンス意識について話す
日常的にコンプライアンスを意識させると、社内全体に「守ることが当たり前」という意識を根づかせられるでしょう。
コンプライアンスを評価・人事制度に反映させる
コンプライアンス意識を向上させるには、研修だけでなく、評価・人事制度に反映させるのが効果的です。
社員は「守ること=評価されること」と認識できれば、コンプライアンス意識をもった行動ができます。
- 人事評価に「誠実な対応」「ルール遵守」などの項目を設ける
- 模範的な行動をとった社員を定期的に表彰する制度を設ける
- 管理職の評価項目に「部下のコンプライアンス指導」の項目をくわえる
コンプライアンスを人事制度に反映させると、守ることが当たり前と感じる風土をつくりやすいでしょう。
コンプライアンス意識に関するよくある質問
以下では、コンプライアンス意識に関するよくある質問にお答えします。
コンプライアンス意識が低い人とはどんな人ですか?
コンプライアンス意識が低い人とは、法律やルールを「自分には関係ない」と考え、社会的責任や企業倫理を軽視する人です。
コンプライアンス意識が低い人は、軽い気持ちでSNSに投稿したり、業務上の情報を第三者に話したりなど、問題になる行動をとる可能性があります。
意識を変えるには、違反事例を学び「自分の行動が企業や社会にどう影響するのか」を具体的に考える教育が必要です。
他人事ではなく、自分事として捉えられるように促しましょう。
コンプライアンス意識の高まりはどのような効果をもたらしますか?
コンプライアンス意識の高まりは、企業全体によい効果をもたらします。主な効果は以下のとおりです。
| 効果 | 具体的な内容 |
|---|---|
| リスク管理の強化 |
|
| 組織風土の改善 |
|
| 企業価値の向上 |
|
インテグリティとコンプライアンスの違いは何ですか?
インテグリティとコンプライアンスには、以下の違いがあります。
| インテグリティ | コンプライアンス | |
|---|---|---|
| 定義 | 個人の内面的な誠実さや倫理観にもとづき、自発的に正しい行動をとること(自律的) | 法律や規則、社会規範などの外部のルールを守ること(他律的) |
| 例 |
|
|
関連記事:インテグリティとは?意味や理論をわかりやすく解説!
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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