- 更新日 : 2025年12月5日
アファーマティブアクションとは?問題点や取り組むメリットを解説
アファーマティブアクションとは、性別や人種などで不利益を被る人たちに対し、格差を是正するために実施する取り組みのことです。
本記事では、アファーマティブアクションの基本的な仕組みや意義をわかりやすく解説します。日本と海外での具体的な取り組みを紹介しつつ、企業が実施する際のメリットや課題などもまとめました。
さらに、企業がアファーマティブアクションを進める際の具体的な流れも整理しています。
実践的な視点から理解を深められる内容のため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
アファーマティブアクションとは?
アファーマティブアクション(Affirmative Action)とは、性別や人種などによる差別の影響を受けている人々に対して行う、格差を是正するための取り組みです。
対象には、下記のような人が含まれます。
- 女性
- 有色人種
- 少数民族
- 障害のある人
社会的および構造的な差別によって、不利益を被る人々に対し、機会を提供することで、実質的な機会の均等を目指すことが目的です。
アファーマティブアクションの考え方は、1965年にアメリカのジョンソン大統領が、大統領執行命令で職場における積極的な差別是正措置を求めたことがもととなっています。
日本におけるアファーマティブアクションの取り組み
ここでは、日本で進められているアファーマティブアクションの具体的な取り組みについて、わかりやすく解説します。
男女共同参画基本計画
日本のアファーマティブアクションの一例として、男女共同参画社会の実現を目指す「男女共同参画基本計画」があります。
これは、1999年6月23日に施行された「男女共同参画社会基本法」にもとづき、施策の方向性や具体的な取り組みを示すものです。内容は、5年ごとに更新されています。
現在は2020年12月に閣議決定された、第5次計画に沿って施策が実施されています。
男女共同参画社会の形成 男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう。
障害者雇用枠の推進
障害のある人は、雇用の場面で不利になることがあります。そのため、アファーマティブアクションの一環として、障害者雇用枠が推進されています。
具体的には、就労機会を提供し自立を支援する「障害者雇用促進法」です。
この法律では、障害のある社員のために一定の雇用枠を確保したり、職場環境を配慮したり、支援体制を充実させたりすることが企業に求められています。
この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。
海外のアファーマティブアクションの取り組み
ここでは、海外で行われているアファーマティブアクションの具体的な取り組みについて、紹介します。
議会のクオータ制(ノルウェー)
ノルウェーでは、1978年の男女平等法により、公的機関で男女比の一定割合を確保するクオータ制が導入されました。これにより、女性の社会進出が進んだ背景があります。
具体的には、1981年に初の女性首相が誕生し、1986年には女性の閣僚が44%を占めました。
男性の既得権を制限する制度であるにもかかわらず、北欧の比例代表制とクオータ制の親和性が高かったことから、大きな反発はほとんど生じませんでした。
クオータ制について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
採用や入学試験のクオータ制(アメリカ)
アメリカでは、差別是正のためにアファーマティブアクションが積極的に行われています。
代表的な例として、採用や入学試験でのクオータ制が挙げられます。
合格者の一部を女性や人種マイノリティなど、社会的に不利な立場の人々に割り当てることで、差別を是正する仕組みです。
事前にマイノリティの枠を設定することで、企業や教育機関における多様性の確保にもつながると考えられています。
企業がアファーマティブアクションを実施するメリット
ここでは、企業がアファーマティブアクションを導入することで得られるメリットや、組織に与える影響について解説します。
1. 多様な人材が活躍できる
アファーマティブアクションを導入することで、社員の性別や個人の事情による格差・不利益を解消し、多様性の受容が進みます。
さまざまな背景をもつ人材が能力を発揮できる環境は、企業に多角的な視点や価値観をもたらします。結果として、課題解決やイノベーション創出につながることもあるでしょう。
顧客の多様なニーズに対応する力も高まります。
2. 企業の社会的評価がアップする
社会的に意義のあるアファーマティブアクションに取り組む企業は、格差是正や多様性の受容に貢献する姿勢が評価され、社会的な信頼を得やすくなります。
また、社員の多様な特性や事情に応じた働き方を提供できる企業として、新卒や中途の求職者にとっても魅力が増すでしょう。
このような背景から、優秀な人材を確保しやすくなるなど、採用面でのメリットも期待できます。
さまざまな人材を確保するには、面接官の存在が重要です。採用における面接官の役割について知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
3. 人材不足を解消できる
アファーマティブアクションにより、多様な人材に対して就業の機会を広げられれば、人材不足の解消が可能です。
たとえば、育児や介護、定年後のシニアなど、これまでは活躍の幅が限られていた人材を活用できます。女性社員の登用も進めやすいでしょう。
さらに、短時間勤務など多様な働き方を選べる環境は、社員の働きやすさにもつながります。
結果として、社員の満足度向上や人材定着にも効果的です。
人材不足を解消するための人材育成について知りたい方は、下記の記事もご確認ください。
企業がアファーマティブアクションを実施する際の問題点
ここでは、企業がアファーマティブアクションを実施する際に直面しやすい課題や、対応のポイントについてご紹介します。
1. 逆差別になるリスクがある
アファーマティブアクションは、内容によって逆差別の懸念が生じます。
たとえば、障害のある人や女性に限定した採用枠を設けると、ほかの人々が不利になると受け取られるかもしれません。
アファーマティブアクションの本来の目的は、あくまでも人々の格差を是正することです。
すべての人に平等な機会を提供するためにも、過剰な優遇ではなく、公平なチャンスの確保を意識することが重要です。
2. マジョリティから不満が出るおそれがある
アファーマティブアクションの導入は、マイノリティ支援として評価される一方、マジョリティから不満が出やすいという課題があります。
これは、不利益を受けてきた人々を優遇することで、同等の能力をもつマジョリティが正当に評価されていないと感じるためです。
マイノリティの特別扱いにより、摩擦が生じることもあります。
たとえば、大学入試や採用で外国人や障害のある人の枠を設けるクオータ制は、マジョリティが機会を奪われると感じるケースに注意が必要です。
3. 多様性の押し付けと感じる人もいる
アファーマティブアクションで多様性の受容を強制すると、組織内で反発が起きるリスクがあります。
企業側は、多様性がもたらすメリットや意義を丁寧に伝え、社員の理解を促す取り組みが重要です。
多様性を無理に押し付けるのではなく、社員が自然に受け入れ、組織に定着する形を目指しましょう。
段階的かつ配慮ある働きかけが求められます。
4. 個人の能力を軽視してしまう
クオータ制などでアファーマティブアクションを導入すると、マイノリティの枠を埋めるために、合格ラインに達していない場合でも採用されることがあります。
この場合、能力ではなくマイノリティであるかどうかで合否が決まることになり、努力してきた個人の実力が軽視される点が問題です。
アファーマティブアクションの運用方法によっては、公平性や評価の透明性が問われます。
企業でアファーマティブアクションに取り組む流れ
ここでは、企業がアファーマティブアクションを実施する際の具体的な手順をわかりやすく解説します。
実際の流れを掴むことで、業務効率を高められるでしょう。労働生産性についても知りたい方は、下記の記事をご参照ください。
1. 実施する目的を明確化する
企業がアファーマティブアクションに取り組む際は、目的を明確にすることが重要です。
実施の目的が曖昧だと、社内での理解が進まず、施策内容も一貫性を欠くおそれがあります。自社が解決したい課題に沿って目的を設定することで、施策の方向性が定まりやすくなるでしょう。
具体例としては、「社内の多様性を促進するために女性社員比率を改善する」などが考えられます。
自社の課題に合わせて、適切な目標を設定しましょう。
2. 社員からの理解を得る
社内でアファーマティブアクションを実施する際は、丁寧な説明を行い、社員の理解を得ることが重要です。
アファーマティブアクションの取り組みの意義や目的、具体的な目標を伝え、情報を共有することで社員の協力を得ます。
理解が不十分なまま施策を進めると、社員から不満の声が上がり、スムーズに進められません。
とくに、経営層や管理職に対しては、格差是正や多様性の意識改革から始めることが有効です。
3. 具体的な施策を決める
社員からの理解が得られた段階で、具体的な施策内容を検討します。
目的に応じて複数の手法を組み合わせることで、より効果的に取り組みを進められます。
具体的な施策の例は、下記のとおりです。
- 女性管理職の数を増やす
- 子育て中の女性や障害のある人に働く機会を提供する
- 性別に関係なく公平に評価する基準を整える
- 男性・女性に関係なく平等に採用を判断する
施策を決める際には、組織の課題や目標に合っているかを確認しましょう。
4. 実施と改善のサイクルを回す
実際に施策を開始した後は、定期的に進捗を確認し、目標の達成状況や成果、未達成の部分を把握することが重要です。
現状の課題や改善点を分析し、明らかになった問題点を精査したうえで必要に応じて見直します。
場合によっては、既存の施策や制度自体を改定することも検討しましょう。
より効果的なアファーマティブアクションの実施を目指します。
アファーマティブアクションに関するよくある質問
ここでは、アファーマティブアクションに関して多く寄せられる疑問に答えていきます。
仕組みや実施のポイントなど、気になる疑問点を解消しましょう。
アファーマティブアクションの手法にはどのようなものがある?
アファーマティブアクションには、下記の3つの手法があります。
| 名称 | 内容 |
|---|---|
| クオータ制 | 定員枠の一部を、マイノリティ向けに確保する方法 |
| ゴール・アンド・タイムテーブル方式 | 達成すべき目標と期限を定め、計画的に進める方式 |
| マイノリティの活躍基盤を作る方式 | マイノリティが働きやすい環境を整える取り組み |
それぞれの性質を理解したうえで、自社に適したものを選択しましょう。
アファーマティブアクションが社会に与える影響は?
アファーマティブアクションは社会に大きな影響をもたらしています。
主に教育分野では、マイノリティの学生が大学進学の機会を得て学問に励むことで、全体の教育水準の向上が期待されます。
企業での多様性推進も重要です。異なる価値観をもとにしたアイデアが生まれやすくなり、イノベーションの促進にもつながると考えられています。
アファーマティブアクションの取り組みは、社会全体の発展にもつながるでしょう。
ポジティブアクションとは?
アファーマティブアクションは、ポジティブアクションと同じ意味で使われています。
ポジティブアクションのなかでも、女性を対象とした取り組みについては、男女の役割意識に起因する格差を是正するために、企業が自主的に行う施策を指します。
たとえば、雇用や労働環境における男女格差を解消し、女性が活躍できる場を広げることを目的として、各企業が計画的に実施する取り組みです。
ポジティブアクションの詳細を知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
日本国内の差別問題にはどのようなものがある?
日本国内の差別問題には、下記のようなものが挙げられます。
- 女性の人権問題(就職機会や収入による格差)
- 子どもの人権問題(いじめ、体罰、虐待など)
- 高齢者の人権問題(介護疲れによる虐待、親族による無断の財産処分など)
- 障害のある人の人権問題(就労における差別や、住宅の入居拒否など)
たとえば子どもの人権問題として、以下のような問題が挙げられます。
- いじめ
- 虐待
- 体罰
- 自殺
- 不登校
ほかにも、学校内の暴力や国内外の児童買春・児童ポルノの蔓延などの問題が指摘されています。
障害のある人が安心して働ける環境を整えることも、企業側の重要な取り組みです。
ジェンダーバイアスの問題点は?
ジェンダーバイアスとは、男女の役割や「こうあるべき」といった固定観念・偏見を、人や社会が無意識にもつことを指します。
ジェンダーバイアスは、個人の能力や可能性を制限し、社会全体の発展を阻害する要因となります。
経済的格差や役割の固定化を助長し、個人の選択肢を狭める結果にもつながるため、意識的な改善が必要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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