- 作成日 : 2025年1月14日
IPO直前期の離職率は上場審査に影響する?目安や審査基準を解説
IPOを目指す企業において、離職率が高いとマイナスなイメージになります。
離職率が高いと上場審査に悪影響を及ぼすとも言われており、IPOを目指すのであれば、離職率を引き下げたいところです。
本記事では、IPO審査における離職率の影響や改善策などを詳しく解説します。
目次
IPO審査における離職率の影響

離職率とIPO審査の関係性において、明確な基準値が存在するわけではありません。
IPO審査では、企業が安定した成長基盤を持ち、持続可能な経営を実現できるかどうかが厳しく問われます。
その中で、離職率は社員の定着状況や職場環境の健全性を示す指標の1つとみなされ、審査官が注目するポイントです。
上場審査と離職率の関連性
上場ガイドブックを見ると、「離職率」という項目が設けられているわけではありませんが、離職率は企業の内部環境を表す指標として審査官の関心を引きやすい項目です。
具体的には、離職率の高さが示す可能性がある労働環境の問題やマネジメントの不備は、企業の長期的な安定性に疑問を投げかける要因となります。
高い離職率は、社員の定着率が低く、ノウハウやスキルの蓄積が難しい組織運営をしている可能性があると見なされる場合があります。
参考:日本取引所グループ|2024 新規上場ガイドブック(グロース市場編)
離職率が高い企業の上場可能性
IPO審査において離職率が高い企業は懸念を抱かれやすいものの、上場を断念せざるを得ないわけではありません。
離職率が高い場合でも上場を実現するためには、その背景を的確に把握し、適切な対応策を講じていることが重要です。
投資家や審査官が注視するのは、離職率そのものではなく、それが企業の経営や成長にどのような影響を与え、企業がその問題に対してどのような姿勢を取っているかが重要になるでしょう。
たとえ離職率が高い場合でも、社員満足度向上や労働環境の改善、人材育成プログラムの導入など、問題解決に向けた積極的な努力が審査官に示されれば、ポジティブな評価につながります。
業界平均程度の離職率を目指す必要
離職率の評価基準では、業界特有の条件が考慮される点がポイントです。
たとえば、サービス業や飲食業のように、従業員の入れ替わりが激しい業界では、離職率が他の業界よりも高い水準であっても、それが業界の標準であれば過度に問題視されることはありません。
一方で、製造業や専門職が多い業界では、一般的に低い離職率が期待されるため、その水準を大きく上回る場合は、組織の健全性に疑問が生じる可能性があります。
厚生労働省が公表する業界別の平均離職率は、以下の通りです。

厚生労働省|-令和5年雇用動向調査結果の概況-をもとに作成
業界平均に近い水準であれば、企業が同業他社と比較して大きな問題を抱えていないと判断され、組織力や労働環境に関するリスクが低いとみなされる可能性が高まるでしょう。
IPOを目指す企業のための離職率改善策

IPOを目指す企業にとって、離職率の改善は単なる数値の調整ではなく、組織の健全性や成長性を裏付ける重要な取り組みです。
そのため、離職率改善に向けたアプローチは、従業員の働きやすさや満足度を向上させるための全体的な戦略として設計する必要があります。
改善策実施の優先順位は、以下の通りです。
- 従業員の定着率向上のための施策
- 離職率改善のための社内体制整備
- 社内コミュニケーションの活性化
従業員の定着率向上のための施策
IPOを目指す企業にとって、離職率の改善は、従業員の定着率を高めることに直結しています。そのためには、従業員が長期的に働きたいと思える職場環境を構築することが大切です。
具体的には、以下のような施策が挙げられます。
| 施策カテゴリー | 主な内容 |
| 待遇改善 | 給与・福利厚生の充実 |
| キャリア支援 | スキルアップ機会の提供 |
| 労働環境 | 働き方改革・職場環境整備 |
待遇改善は、業界標準や地域の水準と比較して不利にならないよう調整することが必要で、給与以外の福利厚生も充実させることが大切です。
また、従業員が自身の成長を感じられる機会を提供したり環境を整えたりすることで、居心地をよく感じられ、定着率向上に繋がるでしょう。
離職率改善のための社内体制整備
IPOを目指す企業において、離職率を改善するためには、社内体制の整備が必要不可欠です。特に、人事制度や評価制度を見直し、従業員が公正かつ透明な環境で働ける仕組みの構築が求められます。
たとえば、入社後の研修から中長期的なキャリア形成に至るまでのプロセスを明確にし、各従業員のスキルや役割に応じた育成計画を策定するといった感じです。
また、適切な職務配置を実現するため、定期的なスキル評価やキャリア希望のヒアリングを行うのも良いでしょう。
このような人事制度が機能すれば、従業員は企業への信頼を高め、継続的な貢献をしたいと感じてもらえるような期待ができます。
社内コミュニケーションの活性化
良好なコミュニケーションは、従業員同士や上司と部下の間に信頼感を醸成し、企業全体の一体感を高める効果があります。
まず、従業員間の円滑な情報共有を促進するために、定期的な社内ミーティングの実施が効果的です。部署ごとの会議を通じて、経営層から企業のビジョンや目標、現状の課題が直接共有される場を設けることで、従業員は企業の方向性を理解しやすくなります。
また、双方向のコミュニケーションを促進する仕組みも必要です。例えば、匿名の意見箱やオンラインプラットフォームを活用して、従業員が気軽に意見を述べられる環境を整備することが有効です。
さらに、経営層やマネージャーが従業員の意見に対して真摯に対応し、その内容を具体的な施策に反映させる姿勢を示すことで、従業員の声が企業に届いているという実感を与えることができるでしょう。
まとめ
IPOを目指す企業にとって、離職率の高さは上場審査に影響を与える可能性がある要素です。
上場ガイドブックでは定義されていませんが、離職率が高いと、企業の経営基盤や職場環境に対する信頼性が疑問視されることがあります。
離職率が高い場合、その背景を明確にし、改善策を講じることが大切です。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
最後に、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
IPOまでに必要な管理部門の「業務・人材・体制」とは?
IPO準備を遅延なく進めるために、どのような管理部門体制を構築する必要があるのでしょうか。
本資料では、IPO準備企業に向けて、N-3期からN期までに必要な業務と、それを実施するために求められる人材・体制について詳しく解説します。
やることリスト付き!内部統制構築ガイド
内部統制を基礎から知りたい方・内部統制の導入を検討している担当の方・形式だけになっている内部統制を見直したい方におすすめの人気ガイドです。
内部統制の基本と内部統制構築のポイントをギュッとまとめています。
N-3期を目指すための3つのポイント
「N-3期を目指しているが、数年たっても次の段階へ進めない」とお悩みのIPO準備企業も多いのではないでしょうか。
本資料では、IPO準備スケジュールの全体像から、N-3期に目指す上でよくある課題とおさえておきたい3つのポイントを解説します。
マネーフォワード クラウド会計Plus サービス資料
マネーフォワード クラウド会計Plusは、IPO準備・中堅〜上場企業向けの業務効率化と内部統制強化を実現するクラウド会計ソフトです。
銀行やクレジットカード連携で取引データを自動取得、AIによる自動仕訳で会計業務を効率化。周辺システムと連携することで、二重入力や確認工数を削減します。また、仕訳承認機能やユーザーごとの権限・ログ管理機能を搭載しており、内部統制にも対応。SOC報告書も提供しています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
ナレッジマネジメントとは?SECIモデルや導入方法についても解説!
ナレッジマネジメントとは、従業員が保有する知識や経験などを企業内で共有して活用する経営手法のことです。ナレッジマネジメントを有効活用することで、企業の競争力や企業価値を向上させることができます。 本記事では、ナレッジマネジメントの概要、ナレ…
詳しくみるIPO(新規上場)時の役員報酬の決め方は?5つのポイントに分けて解説
企業の成長戦略を描く経営陣や、上場後の透明性を確保するための内部統制体制を整える役員の存在は、投資家からの信頼を得る鍵となります。 本記事では、IPOを目指す企業においての役員報酬に関することを詳しく解説します。 IPO準備における役員報酬…
詳しくみるジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違いやメリットを解説
近年グローバル化に伴いジョブ型雇用を導入する企業が増えています。メンバーシップ型雇用と異なり職務内容が決まっているジョブ型雇用は、人材の専門性を高められることなどがメリットです。しかし、転職されやすかったり維持にコストがかかったりするという…
詳しくみるOKRとは?目標設定や管理に使える方法をわかりやすく解説
企業の目標管理にはいろいろな方法があります。OKRとは、それらの目標管理手法のひとつです。全社員が同じ方向を向いて、明確な優先順位を持ちながら、一定ペースで計画を進行することを目的としています。 ここではOKRの意味、他の手法との違い、設定…
詳しくみるストックオプションの行使価格の決め方は?計算方法や注意事項を解説
ストックオプションの行使価格の決め方は、ストックオプションが税制適格か非適格か、上場企業か非上場企業かなど、さまざまな条件により異なります。 この記事ではストックオプションの行使価格の決め方や注意事項、行使のタイミングについて詳しく解説して…
詳しくみるIPOにおける労務管理とは?重要性やポイント、システム導入の効果を解説
労務管理は、労働時間や雇用契約などの観点から労働を管理する業務です。労務管理は通常の事業運営だけでなく、上場審査を有利に進めるという視点からIPO準備においても重要な役割を担っています。 本記事では、IPOにおける労務管理の重要性やポイント…
詳しくみる


