- 作成日 : 2022年10月21日
【2022年5月施行】宅地建物取引業法の改正点は?わかりやすく解説
近年は電子化が進んでおり、さまざまな法律がデジタルに対応できるよう改正されています。宅地建物取引業法についても同様に改正法が施行され、不動産取引の在り方が変わりつつあります。そもそも宅地建物取引業法とは何なのか、どのような法改正があったのか、この記事で整理していきましょう。
目次
改正が進む宅地建物取引業法
2021年5月に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により、押印を求める手続の見直しや、書面交付を求める手続の見直しが行われました。同法により宅地建物取引業法の内容も見直され、電子化が推し進められています。
その結果、改正法が施行される2022年5月18日からは一定の手続につき押印が必須ではなくなったり、書面の交付を電磁的方法により代替することも可能になりました。
そもそも宅地建物取引業法とは?
そもそも宅地建物取引業法とは何かを簡単に説明しておきましょう。
同法は「宅建業法」と略して呼ばれることが多く、「人の住居に関わる土地や建物の取引に関するルールを規律した法律」といえます。
宅地と建物の取引につき公正性を確保するための免許制度や、その事業に関する規制を設けています。また、宅地建物取引業の健全な発展や購入者の利益の保護、流通の円滑化なども同法の目的として掲げられています。
2022年7月に施行された「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」改正について
宅地建物取引業法では、宅地建物取引業を営もうとする者は免許の申請時、事業者や使用者などの情報を提出することを義務付けています。また、従業員には免許を受けた事業者の従業者であることを示す証明書の携帯や、事務所に従業者名簿を備えることも義務付けています。
国土交通大臣自身が宅地建物取引業法の解釈・運用を行う際の基準として作成・公表されている「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」も、上記法改正に合わせ、2022年7月に内容が改正されました。
従業者証明書、従業者名簿での旧姓併記が可能に
2022年5月改正の、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」のポイントは、従業者証明書・従業者名簿における旧姓併記が認められるようになったことです。法人の代表者や役員、免許を受ける個人などについても同様です。
なお旧姓の併記は義務ではなく、「併記してもよい」とされています。ただし業務が混乱したり、取引の相手方が誤認したりするような事態は避けなくてはなりません。
2022年5月に施行された宅地建物取引業法の改正点
実際の取引への影響が大きいのは、2022年5月18日施行の改正法です。
建物を賃貸借する際のやり取りなどがスムーズになり、オンライン上で完結できるようルールが変更されています。
押印が不要に
宅地建物の購入や賃借を行うにあたって買主や借主が取引条件などを正しく理解できるよう、宅地建物取引士には「重要事項の説明」を行うことが義務付けられています。取引金額が大きいことが想定される不動産取引においては、十分な情報を得た上で契約を締結できるよう、このような説明義務が課されています。買主・借主が求めなかったとしても、宅地建物取引士は重要事項の説明をしなければならず、省くことができません。
これまでは、重要事項説明書や37条書面等を交付するにあたって宅地建物取引士は「当該書面に記名押印をしなければならない」と定められていましたが、改正後はその文言が「記名押印」ではなく「記名」のみへと変更されました。つまり、押印は義務ではなくなったのです。
また、契約成立時に交付することが義務付けられている「契約内容を記載した書面」についても同様の変更がなされています。
書類の電子化が可能に
法律上で「書面の交付」とあるときは、紙として作成された書類を指します。そのため、書面で交付しなければならない旨が規定されている場合は、PDFなどのデータで交付することは認められません。
しかし、社会全体でデジタル化が急速に進む中、いつまでも書面が必須とされていたのでは円滑な業務遂行が実現できません。このような流れを受け、宅建業法でも電磁的方法による交付も認められるよう改正されました。
依頼者の承諾を得れば、電磁的方法による交付をもって書面を交付したとみなされるようになったのです。
具体的には、家の売買を媒介した際に交わされる「宅地建物売買等媒介契約書」などが改正法の影響を受けます。前述の重要事項説明書や、契約内容を記載した書面についても同様です。事業用定期借地権では、公正証書が必要となります。
なお、事業用定期借地権に関してはまだ公正証書の運用が必要である点には注意が必要です。
電子化を進める上で気をつけたいこと
宅建業法改正により、宅地建物の取引が円滑になることが期待されます。オンライン上で重要事項の説明を受けることも、契約書等のやり取りもできるようになるからです。しかし、電子化を進めるにあたっては注意すべきこともたくさんあります。
例えばオンラインで行う重要事項の説明においては、その内容が十分に理解できるよう音声や映像の質が保たれていなければなりません。映像が乱れてよく見えない、音声が聞き取りづらいといった環境で説明を行うことのないよう注意しましょう。
法律でどのような機器を使用するのか、どのサービスを利用しなければないのか、といったルールは設けられていません。
音声に関しても、相手方が音声を明瞭に聞き取れるような性能を有するマイクを使用しましょう。
重要事項を説明する前に、相手方が契約当事者本人であることを確認することも大切です。オンラインであっても、本人であることを確認できるフローを設けましょう。
今後の不動産取引の動向に注目
電子化は義務ではないため、すぐにすべての宅地建物の取引が電子化されるわけではありません。しかし、今後はオンライン上でのやり取りが増えることが見込まれ、取引の在り方が変わることが予想されます。
よくある質問
2022年5月に発表された宅地建物取引業法で可能になったことは何ですか?
従業者証明書や従業者名簿などに、旧姓を併記することが可能になったことです。詳しくはこちらをご覧ください。
2022年5月に発表された宅地建物取引業法の主な改正点は何ですか?
重要事項説明書や契約内容記載書面などへの押印が不要になったことと、書類の電子化が可能になったことです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
中小受託取引適正化法とは?2026年施行の改正のポイントをわかりやすく解説
2026年1月から施行される「中小受託取引適正化法(旧・下請法)」は、発注者と受注者の取引関係に関するルールを抜本的に見直す改正です。従来の資本金基準に加え従業員数基準が導入され、価格交渉の協議義務や手形払いの原則禁止など、取引の透明性を高…
詳しくみる公正証書とは?契約にまつわる基本用語を解説!
終活の一環として遺言書作成を考える際、「公正証書」という言葉を目にすることがあります。しかし、詳しい内容を知らない方は多いでしょう。 この記事では、公正証書に関する制度(公証制度)にまつわる公証役場や公証人などの基本用語や利用方法、費用など…
詳しくみる行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説
行政契約とは、行政主体が契約の当事者となり、他の行政主体や私人との間で結ぶ契約をいいます。過去には、行政契約を公法上の法律関係として私人間の契約と区別する考え方がとられることもありましたが、現在では両者の区別はせず、あくまで契約としてその意…
詳しくみる民法94条2項とは?第三者の範囲や類推適用についてわかりやすく解説
民法94条2項は、1項で無効になる虚偽の意思表示を善意の第三者に対抗できないとする規定です。虚偽の外観を信じて取引をした第三者を保護することが目的です。裁判所では民法94条1項の「通謀」がなかったとしても、民法94条2項を類推適用し、広く認…
詳しくみる民法176条とは?物権の設定及び移転の意思表示についてわかりやすく解説
民法176条は、物権の設定と移転について定めた条文です。物権とは財産を支配する権利のことで、譲渡する側と譲受する側が意思表示をすれば、書面による契約を交わさなくても物権を設定・移転できると規定されています。物権移動において注意すべきポイント…
詳しくみるフリーランス新法でデメリットは生じる?メリットと合わせて解説
フリーランス新法とは、フリーランスに業務を委託する事業者が守らなければならない規制が定められた法律です。フリーランスが安心して働ける環境整備を目指して制定されましたが、発注する事業者にとっては法律への対応に手間や労力が増えるデメリットもあり…
詳しくみる