- 更新日 : 2024年9月2日
押印とは?捺印との違いや法的効力について解説
デジタル化を進めるにあたって、鍵となるのは「押印」です。昨今では、官公庁も含めて「脱印鑑」の動きが活発になっています。そもそも、押印とは何でしょうか? 捺印との違いは?どんな法的効力がある?電子署名に移行しても大丈夫?脱印鑑の動きが加速する中、今一度「押印」という行為について理解を深めておきましょう。
押印とは
押印とは、その名のとおり印章(はんこ)に朱肉をつけて紙に押し、印影(紙に捺された印章の跡)をつける行為のことです。ちなみに一般的に用いられる「押印」という言葉は、「記名押印」を省略したものです。「記名」とは自筆以外の手段で自分の名前を記す行為、つまり自分の名前が記された書類を印刷する行為などを指します。
厳密に言えば、押印は自筆以外の手段で自分の名前が記された書類に印章を押す、あるいは名前が記載されていない書類に印章を押す行為を指します。例えば、宅配便の受け取りや回覧板の確認欄に印を押すのは押印にあたります。
捺印とは
前述のとおり、押印は「記名押印」という言葉を省略したものです。似た言葉に「捺印」があり、正式には「署名捺印」といいます。
「署名」とは自分が手書きで名前を書くことで、「捺印」は署名に印章を押すことです。記名と押印がある書類よりも、署名と捺印がある書類のほうが法的な証拠価値が高いとされています。詳しくは後述します。
まずは「記名押印」よりも、「署名捺印」のほうがフォーマルで証拠価値が高いということを頭に入れておいてください。
押印はいつ必要?
宅配便を受け取る時や回覧板を回す時など、日常生活でもしばしば押印の機会があります。会社であれば書類や伝票に決済印を押したり注文書や見積書に印鑑を押したり、多くの場面で押印が行われます。
押印よりもフォーマルな捺印は、機会がやや減ります。ビジネスの場では契約書(売買契約書や業務委託契約書、委任契約書、雇用契約書など)に署名捺印をする機会があるでしょう。プライベートでは自動車・住宅を購入する時や、不動産の賃貸契約を結ぶ時に署名捺印が行われます。署名捺印は重大な契約や手続きを行う際、あるいは高額な商品やサービスを購入する際に行われることが多いです。
押印と捺印の法的効力
押印の法的効力は、民事訴訟法の第228条に定められています。
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
(略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
契約を成立させるためには、署名もしくは押印のいずれかがあればよいということです。
民事訴訟には「二段の推定」という考え方があります。
文書の作成名義人の印影が名義人の印章である場合、その印影は本人の意思にもとづいて顕出されたものと事実上の推定がされます(一段目の推定)。
次に「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」とする民事訴訟法228条4項により、文書全体が真正に成立したこと(本人の意思によって作成されたこと)が法律上推定されるのです(二段目の推定)。このような考え方があるため、押印の証拠価値が高くなるのです。
「記名のみ」「記名押印」「署名のみ」「署名捺印」は、以下のように証拠価値が異なります。
例えば、「パソコンで名前を書いて印刷する」「ゴム印で名前を押す」という行為は誰でもできますし、筆跡鑑定ができません。そのため、署名でない記名は証拠価値が最も低く、その次に低いのが記名押印です。前述のとおり、押印があるということは本人が書類の内容を認めたと推定されるからです。
一方、署名があれば筆跡鑑定によって本人が書いたものかどうかがわかるので、他人が代筆したり偽装したりすることは難しく、証拠価値は格段に上がります。証拠価値が最も高いのが、「署名+捺印」です。印鑑登録されている印章であれば冒用が困難なので、さらに証拠価値が高くなります。
重大な契約や手続き、高額取引で実印による署名捺印が求められるのは、証拠価値が最も高いからです。
押印をする場所
押印の場所は厳密に決まっているわけではありませんが、一般的には署名や記名の右隣に押印します。押印する際は、署名や記名に重ならないようにしましょう。書類にあらかじめ「印」と記されていて位置が指定されている、あるいは押印の欄がある場合はそこに押印します。
ただし、会社名が記されている角印の場合は署名や記名に重なるように、具体的には最後の文字と印影の中心が重なる位置に押すのが一般的です。
きれいに押印をするための注意点
「押印をしたが朱肉がかすれてしまった」「押印が斜めになってしまった」という経験がある方は多いでしょう。多少かすれていたり、斜めになっていたりしたとしても問題ありませんが、せっかくならきれいに押したいものです。
紙の下にスタンプ台を敷いて、平らな状態にします。スタンプ台がない場合は別の紙を数枚重ねて敷くなどして、できるだけ凹凸がない場所で押印しましょう。
押印する前に、印鑑の上下を確認してください。印鑑を利き手で持ち、印面の下に親指を添えます。
朱肉を2~3回つけます。ただし、力を入れるとムラができるので、朱肉が印章全体に均一につくよう軽くつけるのがポイントです。
押印は片手で行うイメージがあるかもしれませんが、両手を使うときれいに押せます。利き手で印鑑を持ち、反対の手で支えて脇を少し広げます。
そのまま真上から紙に印章を押し当て、「の」の字を描くように力を入れるときれいに押印できます。押印の機会があれば、ぜひ試してください。
デジタル化推進あたって、押印の見直しについて
冒頭で触れたとおり、昨今では押印を見直す動きが加速しています。
しかし、民事訴訟法においては契約書などの私文書は、押印があることで真正であると推定されるなど、高い証拠価値があります。押印が廃止されたら、書類の証拠能力がなくなってしまうのでしょうか?
契約書などに押印をしなくても、法律違反にはなりません。確かに証拠価値は低くなりますが、原則的に契約は当事者の意思の合致によって成立し、書面への押印は契約成立に必要な要件ではありません。
従来の書面の契約書に代わり、インターネットを介して契約を締結する「電子契約」も普及しています。電子契約の場合は押印ができませんが、代わりにタイムスタンプが付与された電子署名を使うことで証拠価値を担保できます。電子署名及び認証業務に関する法律(通称、電子署名法)により、要件を満たせば電子署名でも二段の推定と同等の効果が認められます。押印廃止の動きに伴って電子契約がさらに普及すると考えられるため、今のうちに導入を検討することをおすすめします。
印鑑に関する理解を深め、正しく書類作成を行いましょう!
今回は、押印という行為についておさらいしました。確かに押印や捺印には、契約書などの証拠価値を高める効果があります。後々のトラブルを防ぐためにも「押印記名」「捺印署名」の法的効力について、正しく把握しておきましょう。
今後は、電子契約という新しい契約形態への順応が求められるでしょう。電子契約でも、法律が定める要件を満たせば高い法的効果を持ちます。電子署名の方法や法的効力、またタイムスタンプなどについても、今のうちに理解を深めておきましょう。
当サイトでは、今後も電子契約に関して皆さんのお役に立てる情報や知識を発信していきますので、ぜひ参考にしてください。
よくある質問
押印の定義について教えてください。
印章(はんこ)に朱肉をつけて書類に押し、印影(印章の跡)をつける行為のことです。ちなみに、自筆の署名と一緒に印を押すことを「捺印」といいます。 詳しくはこちらをご覧ください。
デジタル化を進めるにあたっての押印の見直しについて教えてください。
電子契約システムを導入し、タイムスタンプが付与された電子署名を使うことで契約の証拠能力を担保することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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