- 更新日 : 2025年5月12日
建設業許可を一人親方(個人事業主)が取得するには?申請方法や取得しないリスクを解説
建設業を営むには、工事の規模によって建設業許可が必要となりますが、個人事業主(一人親方)のままでも建設業許可を取得することは可能です。ただし、個人事業主が建設業許可を取得するためには、一定の要件や資格が必要となります。この記事では、個人事業主が建設業許可を取得するための要件や手続き方法、自分で申請する際の注意点について解説していきます。
目次
建設業許可を一人親方(個人事業主)のままで取得できる?
建設業の許可は、法人だけでなく一人親方(個人事業主)でも取得することができます。
建設業を営むには、工事の規模によって建設業許可が必要となります。建設一式工事の場合は1件当たり1,500万円以上(延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事を除く)、専門工事では500万円以上の工事が建設業許可の対象となります。これらの基準を下回る契約でも、1件の工事の完成を複数の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額が上記の基準に達すると、建設業許可の取得が必要です。
一人親方(個人事業主)が建設業許可を取得することで、より大きな工事を請け負うことが可能となり、事業の幅を広げることができます。また、公共工事の入札に参加する機会も増え、事業の拡大や利益増加につながります。さらに、顧客からの信頼も高まります。
建設業許可を一人親方(個人事業主)が取得するメリット・デメリット
多くの場合、建設業許可は法人格のある会社で取得するのが一般的ですが、一人親方(個人事業主)で取得することも可能です。
以下、一人親方(個人事業主)が建設業許可を取得するメリットとデメリットを解説します。
建設業許可を取得するメリット
一人親方(個人事業主)が、あえて手間をかけて建設業許可を取得することで得られるメリットには、次のようなものがあります。
大規模工事の受注が可能になる
建設業許可があれば、一人親方でも大規模な工事を受注できるようになります。建設業許可がない事業者は、請負代金1,500万円未満の工事または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事(建築一式工事)しか請け負えません。また、建築一式工事以外の建築工事については、500万円未満に限定されています。
建設業許可を取得することで、許可なしでは法律上受注できなかった高額工事に参入できるため、売上や利益の増加が期待できます。
公共工事の入札に参加できる
建設業許可を取得することで、国や自治体の公共工事の入札資格を得ることができます。公共工事は景気に左右されることなく、発注件数が安定しており、うまく受注できると経営が安定します。
公共工事の受注には建設業者としての信頼性や実績が求められますが、そもそも建設業許可がなければ入札に参加することすらできません。許可業者となることで入札するチャンスが生まれることは、大きなメリットといえるでしょう。
元請けや顧客からの信用力向上
建設業許可を持っていること自体が、建設業者としての信用の証となり、発注者や顧客からの信頼が高まります。特に、一人親方(個人事業主)で建設業許可を持つケースは多くないため、他の事業者との差別化が図られます。
「許可業者」であることをアピールすることで、仕事の受注につながりやすくなります。
法人化のコストが抑えられる
建設業許可を取るために必ずしも会社設立は必須ではありません。法人化には定款の作成、資本金の準備や設立費用といった、さまざまな手続きやコストがかかります。
一人親方(個人事業主)であれば、法人化に伴う労力やコストを省けるだけでなく、従業員4人以下であれば社会保険加入義務もないため経費負担を抑えられます。個人事業主のままでも、必要最低限のコストで事業規模の拡大に挑戦できるのは大きなメリットでしょう。
建設業許可を取得するデメリット
一方で、一人親方が建設業許可を取得・維持することには以下のようなデメリットもあります。
取得や維持に手間と費用がかかる
建設業許可の申請には、所定の手数料がかかります。新規の場合、国土交通大臣の許可は15万円、都道府県知事の許可は9万円を納付しなければなりません。また、許可は有効期限が5年で、更新の都度、手数料5万円が必要となります。
もちろん、各種書類準備の労力もかかります。新規申請時だけではなく、許可取得後は毎事業年度ごとに決算資料を提出しなければなりません。また、申請の内容に変更があった場合も、届出を行う必要があります。
建設業許可は、取得だけではなく維持をするのも一定の事務負担が発生します。
許可を取ってもすぐに大工事が得られる保証はない
建設業許可はあくまで受注の前提条件に過ぎず、取得したからといって直ちに高額工事の発注を請け負えるとは限りません。
営業力や人脈が伴わなければ大規模案件を受注できない可能性もあり、許可取得によるリターンが不透明ともいえます。許可を活かせるだけの仕事を確保できるか、見極めることが重要です。
信用面での弱さ
建設業許可の取得は、他の一人親方との比較では有利に働くといえますが、他の法人事業者と比べると、信用面で不利な立場にあるといえます。許可を持っていても事業形態が個人事業主のままだと、元請けによっては「発注先は法人限定」とされて受注できない可能性があります。
許可取得後も、必要に応じて法人化を検討する場面が出てくるでしょう。
建設業許可にはメリット・デメリットがありますが、そもそも許可の取得にはいくつかの要件を満たす必要があります。次の章より、要件や必要な資格について解説していきます。
建設業許可を一人親方(個人事業主)が取得する5つの要件
個人事業主が建設業許可を取得するためには、以下の5つの要件を満たす必要があります。
- 「経営業務の管理責任者」を設けること
- 「専任技術者」の確保をすること
- 「誠実性」があること(過去5年間に建築士法違反などで許可や免許を取り消されていないことなど)
- 「財産的基礎」等があること(自己資本が500万円以上あることなど)
- 欠格要件(不正に建設業許可を受けて許可を取り消されてから5年以内の者など)に該当しないこと
経営業務の管理責任者とは、建設業の経営に関する業務を総合的に管理する者のことです。個人事業主の場合、事業主本人がこの役割を担います。
なお、専任技術者は工事現場ごとに専任で設置しなければならない技術者を指します。工事の請負契約を適切に締結し、契約通りに工事が進むように注文者とやり取りをするポジションです。
この2つの要件については、この後の章で詳しくみていきましょう。
一人親方が建設業許可の「経営業務の管理責任者」になる方法
一人親方(個人事業主)の場合、事業主本人を「経営業務の管理責任者」とする必要があります。経営業務の管理責任者となるためには一定の実務経験が求められるので、この要件を満たすことで、建設業の経営に必要な知識と能力を有していることが証明されます。
経営業務の管理責任者になる要件
個人事業主の場合、次の要件のどれかを満たすことで経営業務の管理責任者となるケースがほとんどです。
- 建設業に関する経営業務の管理責任者としての経験が5年以上
- 建設業に関する経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務を管理した経験が5年以上
- 建設業に関する経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補助する業務に従事した経験が6年以上
実務経験の証明方法
経営業務の管理責任者になるためには、上記の要件を満たすだけの実務経験があることを証明しなければなりません。その証明書類として、以下のようなものが求められます。それぞれ、該当する年数分が必要です。
一人親方が建設業許可の「専任技術者」になる方法
建設業許可を取得するためには、「専任技術者」の要件も満たす必要があります。「専任技術者」になるためには一定の実務経験を積む方法もありますが、次のような国家資格を取得することによっても要件を満たすことが可能です。
専任技術者の要件を満たす国家資格(一例)
- 建築士(1級または2級)
- 土木施工管理技士(1級または2級)
- 建築施工管理技士(1級または2級)
- 管工事施工管理技士(1級または2級)
- 電気工事施工管理技士(1級または2級)
これらの国家資格を有する人は、それぞれ対応する工事の専任技術者になることができます。例えば、1級建築士の資格を持っていれば、建築工事の専任技術者になることができます。
国家資格を取得するには、所定の実務経験を積んだ上で、国家試験に合格する必要があります。
実務経験による要件
国家資格を持っていない場合でも、一定の実務経験を積むことで「専任技術者」の要件を満たすことができます。一般建設業と特定建設業(下請代金が一定の金額以上の場合)のどちらの許可を受けるかで要件は異なりますが、一般建設業における実務経験の主な要件は以下のとおりです。
- 指定学科修了者で高卒後5年以上または大卒後3年以上の実務の経験を有する
- 許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して10年以上実務の経験を有する
※指定学科とは、建設業法施行規則第1条で規定されている学科のことであり、建設業の種類ごとに密接に関連する学科として指定されています。
この場合、実務経験の内容を証明する書類(卒業証明書、実務経歴書等)を提出する必要があります。
建設業許可を一人親方(個人事業主)が自分で申請する方法
建設業許可を申請する流れ建設業許可を申請するには、以下の流れで行います。
審査基準の確認と必要書類の準備
まず、申請者である一人親方自身が、審査基準の要件を満たしているかを確認します。審査基準は、「建設業許可を一人親方(個人事業主)が取得する5つの要件」で解説した通りです。
審査基準を満たす証拠として、書類一式を準備する必要があります。主な必要書類は次の項で解説します。
所轄窓口への申請書提出
準備した書類一式を、主たる営業所の所在地を管轄する許可行政庁に申請します。都道府県知事あての許可申請の場合は、各都道府県の土木整備関連の担当課、国土交通大臣あての許可申請の場合は、各地方整備局の建設業許可事務担当課の管轄となります。
一人親方の場合、自宅とは別に事業用の営業所を構えているケースもありますが、申請先の判断基準は「営業所所在地」である点に注意が必要です。提出前に受付窓口や提出方法を確認しましょう。
手数料の納付
許可申請時には所定の審査手数料を納める必要があります。新規申請手数料は、都道府県知事許可の場合9万円、国土交通大臣許可の場合は15万円と定められています。
審査開始
申請書類の提出後、管轄する行政機関で審査が行われます。標準的な処理期間は、書類に問題がなければ、国土交通大臣許可については、おおむね120日程度です。都道府県知事許可については、自治体や申請時期によって異なる場合があるため、各都道府県の建設業許可担当課に問い合わせてください。
書類に不備があると日数が延びる可能性があるため、余裕をもって申請し、進捗に応じて柔軟に対応しましょう。
申請書類
建設業許可の申請には、様々な書類が必要です。個人事業主が申請する際の主な必要書類は以下の通りです。
必要書類が不足すると許可が得られないので、漏れがないよう確実に書類を収集することが重要です。
申請先の確認
建設業許可の申請先は、建設業を営む場所(主たる営業所の所在地)を管轄する地方整備局または都道府県の建設業許可担当部署です。個人事業主の場合、事業主の住所地ではなく、営業所の所在地が基準となります。
申請先を間違えると、許可の取得が遅れる可能性があるため、事前に確認しておくことが大切です。
審査手数料の納付
建設業許可の申請には、審査手数料が必要です。手数料の金額は、申請する建設業の種類や営業所の数によって異なります。
個人事業主の場合、審査手数料は1業種につき9万円(都道府県に申請する場合)または15万円(地方整備局に申請する場合)です。手数料は、申請時に納付する必要があります。
審査の期間
建設業許可の申請から許可取得までには、一定の審査期間が必要です。標準的な審査期間は、申請書類が整っている場合で30日程度です。
ただし、申請書類に不備がある場合や、追加の説明を求められた場合は、審査期間が延びる可能性があります。許可取得までの期間を考慮して、申請のタイミングを計画することが重要です。
建設業の許可取得後の手続き
建設業許可を取得した後は、以下のような手続きが必要です。
- 建設業許可票の掲示
- 決算変更届の提出(4月末日まで)
- 建設業の各種帳簿の備え付け
- 建設業の業務に関する苦情処理体制の整備
- 5年ごとに建設業許可の更新申請
これらの手続きを適切に行わないと、建設業法違反に問われる可能性があります。許可取得後の義務についても、十分に理解しておく必要があります。
建設業許可なしで一人親方(個人事業主)が工事を請け負うリスク
建設業許可を取得せずに建設工事を請け負うと、建設業法違反に問われるリスクがあります。罰金は数百万円にも上る場合があり、最悪の場合、事業の停止命令が下されることも考えられます。
また、契約トラブルに巻き込まれるリスクが高くなります。例えば、工事の品質に問題があった場合や、工期が遅延した場合に、発注者との間で紛争が生じる可能性があります。建設業許可がない場合、建設工事紛争審査会による紛争解決の対象にならないため、トラブル解決が難しくなります。
上記のようなトラブルにあわないためにも、適切な手続きを踏んで建設業許可を取得することが重要です。
一人親方が法人化したら建設業許可はどうなる?
個人事業主として建設業許可を取得した後に法人化するケースについて、その取り扱いや留意点を説明します。
一人親方で建設業許可を取る場合と、法人で取る場合の違いを理解し、どちらで進めるべきかの判断材料としてください。
2020年10月から建設業許可の法人引き継ぎが可能に
2020年9月以前は、個人名義の建設業許可は法人に承継できませんでした。しかし、2020年10月の建設業法改正に伴い、建設業許可に関する事業承継及び相続に関する制度が新設され、一定の条件を満たせば、個人事業で取得した建設業許可を法人へ引き継ぐことが可能となりました。
法改正が行われる以前は、法人化するタイミングで「許可の空白期間」ができていましたが、法改正により空白期間を生じることなく、建設業許可を取得した事業者として発注を受けることができるようになりました。
一人親方から法人成りして事業譲渡を行う場合、承継予定日の90日前までに事前認可申請の手続きを行う必要があります。申請の際には、所定の認可申請書と添付書類・確認資料一式をそろえて提出します。
提出書類の詳しい内容については、国土交通省地方整備局など、所管の行政機関が公式サイトで公開している情報を参考にするか、直接相談窓口に問い合わせると良いでしょう。
個人と法人、どちらが許可取得はスムーズか
建設業許可の要件そのものは、個人でも法人でも基本的には同じです。したがって、一人親方本人が要件を満たせば、個人でも許可は取得可能です。
ただし、法人で許可を取る場合は、会社設立の手続きの負担が追加されます。会社設立には定款作成や登記など煩雑な準備と費用がかかり、社会保険への加入もしなければならず、法人格の維持費用も増加します。
一方、個人事業主で許可を取る場合はこうした会社設立コストが不要で、従業員4人以下なら社会保険加入義務もありません。したがって「なるべく早く許可が欲しいが、法人化の予定が未定」という場合は、一人親方で許可を取得するほうがスピーディーかつ低コストといえるでしょう。
逆に「近い将来、法人化する計画がある」という場合は、最初から法人で許可申請したほうがスムーズかもしれません。一人親方で許可取得後、法人成りしてから許可の承継も可能ですが、承継の申請手続きも書類の準備などで相当な手間がかかります。申請の手間も省くためにも、法人化の予定がある場合は、法人として建設業許可を取得することをおすすめします。
また、法人化することで社会的信用力が増し、元請けからの受注機会が広がる可能性があります。金融機関からの融資も法人の方が受けやすく、設備投資による事業拡大もしやすくなるでしょう。
将来のビジョンを明確にした上で、どちらを選ぶか判断してください。
一人親方でも取れる!建設業許可で仕事の幅を広げよう
建設業許可は、一人親方でも取得可能です。許可を取得することで、大規模工事の受注や公共工事への入札参加が可能になり、事業拡大のチャンスが生まれます。顧客からの信頼向上にもつながり、事業の安定化が見込めるでしょう。
しかし、許可の取得と維持には手間と費用がかかります。また、許可を取得したからといってすぐに大きな仕事が得られるとは限りません。さらに、法人と比較すると信用面で不利になる可能性も考慮すべき点です。
2020年10月以降は、一人親方が法人化する場合でも建設業許可の承継が可能になりました。ただし、許可の承継にも手続きが必要です。将来的に法人化を検討している場合は、法人として許可を取得する方が、二度手間にならずに済みます。
一人親方として建設業許可を取得するかどうかは、今後どういった事業規模を展開したいかを考えて判断しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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