- 更新日 : 2025年9月2日
入社前健康診断の義務とは?実施しないリスクや費用について解説
新しい従業員を迎えるにあたって、健康診断の義務や費用、どこで受けてもらうべきかなど、不安を感じていませんか?
本記事では、雇入時の健康診断について知っておくべき情報をご紹介します。法令で定められた項目から費用負担、未実施のリスク、そして診断後の心遣いまで解説します。
目次
入社前(雇入時)の健康診断は会社に義務付けられている
新しく従業員を雇用する際、会社には労働安全衛生法に基づいて、その従業員に健康診断を受けさせる義務があります。これは「雇入時の健康診断」と呼ばれ、労働者の心身の健康状態を把握し、適切な就業上の配慮を行うために非常に重要です。
この義務は、企業が従業員の安全と健康を守るための基本的な責任として課せられています。なぜなら、入社直前や直後に健康状態を把握しておくことで、将来的に業務が原因で健康を損なうリスクを軽減したり、既存の健康問題に配慮した配置を行ったりできるからです。これにより、従業員は安心して働くことができ、会社側も健康に起因するトラブルを未然に防げます。
参考:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう|厚生労働省
雇入時の健康診断を実施しない会社のリスク
罰則と法的責任
労働安全衛生法に違反した場合、会社は罰金や行政からの指導勧告を受ける可能性があります。特に、労働安全衛生法第120条では「50万円以下の罰金」が科されると定められているため、注意しなければなりません。法令遵守は企業の社会的責任であり、これを怠ると事業活動に支障をきたします。
従業員の健康と安全への影響
雇入時の健康診断を実施しないと、従業員の健康状態を事前に把握できないため、その後の適切な業務配置が難しくなります。持病や健康上の問題を抱える従業員に無理な業務を割り当ててしまえば、健康に起因する労災事故や体調不良のリスクが高まる可能性も考えられます。
万が一、健康診断の不実施が原因で従業員の健康被害が生じた場合、会社は安全配慮義務違反に問われ、損害賠償請求の対象となる可能性もあります。
企業イメージと採用活動への悪影響
法令遵守を怠る企業として、従業員や社会からの信頼を失い、企業イメージが低下する可能性があります。採用市場での評価が下がり、優秀な人材の確保が難しくなる可能性もあります。
また、取引先との関係においても、コンプライアンスを重視する企業からは取引の見直しを求められるケースも考えられます。
雇入時の健康診断の検査項目は法律で定められている
雇入時の健康診断で義務付けられている検査項目は、労働安全衛生規則によって定められています。これらの項目は、労働者が業務を安全に遂行できる健康状態にあるかを確認するために必須とされています。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
- 胸部X線検査
- 血圧の測定
- 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
- 貧血検査(赤血球数、ヘモグロビン量)
- 肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 心電図検査
これらの項目は、労働者の健康状態を多角的に評価し、業務を行う上での潜在的なリスクを早期に発見することを目的としています。
たとえば、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクを把握したり、胸部X線検査で肺の異常を早期に発見したりすることで、入社後の健康管理や適切な業務配置に役立てられます。
雇入時の健康診断の費用は会社負担が原則
「雇入時の健康診断は自腹なの?」という疑問をよく耳にしますが、雇入時の健康診断の費用は原則として事業者が負担するように厚生労働省通達で示されています。
会社が費用を負担しないケースは違法?
雇入時の健康診断の費用を会社が負担しない状況は、法的に問題となる可能性があります。労働安全衛生法は、事業主が労働者の健康を守るための義務を定めており、健康診断はその一環です。
もし会社が費用を負担しない場合、法令違反となる恐れがあります。ただし、内定者が自己都合で退職した場合など、特別な事情がある場合は個別の判断が必要になることもあります。基本的には、会社が費用を負担し、従業員がスムーズに健康診断を受けられるように配慮することが求められています。
参考:健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?|厚生労働省
雇入時の健康診断の受診場所と選び方
会社が指定する医療機関での受診
会社が提携している医療機関や産業医がいる医療機関を指定することが一般的です。これにより、診断結果の連携がスムーズに行われ、会社としての健康管理体制を確立しやすくなります。
従業員自身が選んだ医療機関での受診
従業員が自分で選んだ医療機関で健康診断を受け、その結果を会社に提出することも可能です。ただし、その場合でも、先述の雇入時の健康診断の項目がすべて網羅されている必要があります。
雇入時の健康診断は、検査項目の省略が原則としてできません。不足がある場合は、会社が追加の検査を求める場合があるため、事前に会社に確認することをおすすめします。健康診断書には、法律で定められた項目がすべて含まれていることを確認しましょう。
雇入時の健康診断を個別に受診してもらう際の注意点
会社が指定する医療機関がない場合や、従業員が遠方に住んでいる場合など、個別に健康診断を受けてもらうケースは少なくありません。その際に会社が注意すべき点や、スムーズに進めるためのポイントを解説します。
受診医療機関の選定と情報提供を徹底する
労働安全衛生法に基づく健診実施機関の確認として、どの医療機関でも良いわけではないため、労働者の健康診断を行える医療機関であることを従業員に伝える必要があります。
検査項目の明確な伝達として、必須の検査項目をリストアップし、従業員が受診する医療機関に確実に伝わるようにします。テンプレートやチェックリストを提供すると良いでしょう。
近隣の医療機関情報の提供として、会社が指定しない場合でも、従業員が探しやすくなるよう、一般的な健診機関の探し方や、地域によっては提携している健診機関の情報を提供できると親切です。
費用精算と診断結果提出の方法を明確にする
費用精算の明確化として、会社負担であることを改めて伝え、立替払いか、直接医療機関への支払いかなど、精算方法を明確に伝えます。領収書の提出方法や期日も忘れずに伝達しましょう。
診断結果の提出方法と期日として、診断書原本の提出、コピーの可否、提出期日などを具体的に指示します。診断書が会社に届くまでの期間も考慮し、余裕を持った期日を設定することが重要です。
また個人情報保護への配慮として、診断結果は個人情報であるため、提出された診断書の取り扱い(保管場所、閲覧権限など)について、会社が適切に管理することを説明し、従業員の不安を解消します。
雇入時の健康診断を受診した後の会社側のフォロー
健康診断は受診して終わりではありません。結果を適切に確認し、必要に応じて従業員へのフォローを行うことが、会社の安全配慮義務を果たす上で非常に重要です。
診断結果の確認と適切な対応
提出された診断結果は、会社で適切に記録・保管する必要があります。これにより、従業員の健康状態を継続的に把握し、変化があった際に迅速に対応できます。診断結果に異常所見があった場合は、産業医や保健師、または外部の専門家と連携し、その内容を確認しましょう。
そして、診断結果に基づき、必要に応じて従業員の業務内容や配置、労働時間などについて、就業上の配慮を検討する必要があります。たとえば、特定の作業負荷を軽減したり、短時間勤務を導入したりするなど、従業員の健康状態に合わせた調整が求められることがあります。
従業員への健康指導とプライバシー保護
診断結果に異常が見られた従業員に対しては、医師や保健師による健康指導の機会を設けることが望ましいです。これにより、従業員自身が健康改善に向けた行動を起こすきっかけとなります。
一方で、健康診断の結果は極めて個人的な情報であり、その取り扱いには細心の注意が必要です。従業員の同意なく、不必要に個人情報を共有したり、業務に関係のない目的で利用したりすることは厳禁です(個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当)。健康診断の情報を扱う担当者を限定し、厳重な管理体制を構築することが求められます。
参考:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会
労働者の健康と会社の未来を守る雇入時の健康診断
雇入時の健康診断は、労働安全衛生法により企業に義務付けられた重要なものです。従業員の健康状態を把握し、安全な職場環境を整備することは、会社の責任であり、従業員の健康を守る上で不可欠です。
この健康診断の項目は法律で定められており、費用は原則として会社が負担します。「雇入時の健康診断がない」といった状況は、法的リスクや従業員の健康、さらには企業イメージにも悪影響を及ぼします。
従業員の健康は会社の財産であり、健康診断はその基盤です。この義務を理解し、従業員が安心して働ける環境づくりを進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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