- 更新日 : 2025年7月7日
育休の延長を断られたら?対処法や基本ルールを解説
育児休業(以下、育休)の延長を会社に申し出たものの、思いがけず断られてしまい、途方に暮れている方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、保育園の入園が決まらず、やむを得ず延長を考えていた方にとっては、死活問題とも言える状況です。
しかし、育休の延長は法律で認められた労働者の権利です。会社側の理解不足や誤解によって、本来認められるはずの延長が承認されないケースも少なくありません。
この記事では、育休の延長を断られた場合に、どのように対処すれば良いのか、具体的なステップや相談窓口、さらには知っておくべき法律の知識まで、分かりやすく解説します。
目次
育休延長が認められる条件
育休の延長を求める前に、まずは育児・介護休業法で定められている基本的なルールと、延長が認められる条件について正しく理解しておくことが重要です。
育児・介護休業法の基本ルール
育児・介護休業法では、原則として子どもが1歳に達するまで(誕生日の前日まで)育休を取得できると定められています。しかし、特定の事情がある場合には、子どもが1歳6ヶ月に達するまで、さらに再延長して2歳に達するまで育休を延長することが可能です。
延長が認められる正当な理由
法律で育休の延長(1歳6ヶ月まで、または2歳まで)が認められるのは、主に以下のような場合です。
- 保育所等に入所を希望しているが、入所できない場合
- 認可保育所、認定こども園、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業、居宅訪問型保育事業などが対象です。
- 市区町村から発行される「保育所入所不承諾通知書(保留通知書など名称は自治体により異なる)」が必要となります。
- 子の養育を行う予定だった配偶者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合
診断書など、状況を証明する書類が必要となる場合があります。 - 離婚その他の事情により配偶者が子と同居しなくなった場合
住民票など、状況を証明する書類が必要となる場合があります。 - 6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定であるか、または産後8週間を経過しない場合(いわゆる産後休業期間中のため、他の子に係る育児休業の申出ができない場合)
- その他、これらに準ずる理由がある場合
個別の状況に応じて判断されます。
これらの理由に該当する場合、会社は原則として育休の延長を拒否できません。
延長申請の期限と手続き
育休の延長を申請する際には、期限と手続き方法を確認しておく必要があります。
- 1歳6ヶ月までの延長申請
原則として、子どもが1歳となる誕生日の2週間前までに申し出る必要があります。 - 2歳までの延長申請
原則として、子どもが1歳6ヶ月に達する日の翌日の2週間前までに申し出る必要があります。
申請手続きは、会社所定の書式がある場合が一般的です。必要な証明書類(保育所入所不承諾通知書など)を添付して提出します。
育休の延長を断られたら?
育休延長を断られた場合でも、すぐに諦める必要はありません。以下のステップで冷静に対処していきましょう。
1:まずは冷静に会社と話し合う
感情的にならず、まずは会社側(人事担当者や上司)に、延長を断られた具体的な理由を書面で提示してもらうよう求めましょう。口頭での説明だけでは、後々「言った、言わない」のトラブルに発展する可能性があります。
理由を確認した上で、育児・介護休業法に定められた延長の要件を満たしていること、延長は労働者の権利であることを丁寧に説明します。その際、該当する法律の条文や厚生労働省の資料など、客観的な根拠を示すと効果的です。
話し合いのポイント
- 目的: 誤解を解き、円満に延長を認めてもらうこと。
- 姿勢: 冷静かつ論理的に。感情的な対立は避ける。
- 準備: 育児・介護休業法の関連条文、保育所入所不承諾通知書などの証拠書類。
- 記録: 話し合いの日時、相手、内容を記録しておく。可能であれば、メールなど記録に残る形でのやり取りを心がける。
2:必要書類を再確認・再提出する
会社から書類の不備を指摘された場合は、具体的にどの書類が不足しているのか、あるいは記載内容に問題があるのかを確認し、速やかに修正・再提出しましょう。
特に「保育所入所不承諾通知書」については、以下の点を確認してください。
- 申請者の氏名、子どもの氏名・生年月日が正確か
- 入所希望日が育休延長開始時期と整合性が取れているか
- 「不承諾」の理由が記載されているか(単なる「待機」ではなく、入所できない旨が明確であるか)
- 市区町村の公印があるか
不明な点があれば、発行元の市区町村役場に問い合わせることも重要です。
3:社内の相談窓口や労働組合に相談する
直属の上司や人事担当者との話し合いで解決しない場合は、社内に設置されているコンプライアンス窓口やハラスメント相談窓口などに相談してみましょう。また、労働組合に加入している場合は、組合に協力を依頼することも有効な手段です。労働組合は、会社との団体交渉などを通じて、労働者の権利擁護をサポートしてくれます。
4:外部の専門機関に相談する
社内での解決が難しい場合は、外部の専門機関に相談することを検討しましょう。これらの機関は、無料で相談に応じてくれる場合が多く、法的なアドバイスや会社への働きかけを行ってくれることもあります。
- 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
育児・介護休業法に関する専門の相談窓口です。法律に基づいた助言や指導、会社への是正勧告などを行ってくれます。まずはここに相談するのが最も一般的で効果的な手段の一つです。匿名での相談も可能です。 - 総合労働相談コーナー
各都道府県労働局や労働基準監督署内などに設置されており、解雇、労働条件、パワハラなど、あらゆる労働問題に関する相談を受け付けています。育休に関するトラブルも相談対象です。 - 労働基準監督署
育児休業の取得や延長そのものに関するトラブルは、直接的な管轄ではありません(主に労働基準法違反を取り締まる機関)。しかし、育休取得を理由とした不利益な取扱い(解雇、雇止め、降格など)があった場合には、相談する価値があります。 - 弁護士
法的な観点から具体的なアドバイスを受けたい場合や、会社との交渉代理、さらには労働審判や訴訟といった法的措置を検討する場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。法テラスを利用すれば、無料法律相談を受けられる場合もあります。
5:育児・介護休業法に基づく紛争解決援助制度を利用する
都道府県労働局では、育児・介護休業に関する個別の紛争について、当事者双方の話し合いを促進するための援助制度を設けています。
- 都道府県労働局長による助言・指導
労働局長が、紛争の当事者双方に対して、問題点を指摘し、解決の方向性を示すものです。会社側がこれに従わない場合でも、一定の圧力となることが期待できます。 - 紛争調整委員会による調停
学識経験者などの中立・公正な第三者(調停員)が、当事者双方の主張を聞き、双方の歩み寄りを促しながら、具体的な調停案を提示して紛争の解決を図る制度です。調停が成立した場合には、当事者間で和解契約が成立したものと取り扱われます。ただし、労働者も事業主も、紛争調整委員会が作成した調停案を受け入れる義務はありません。
これらの制度を利用する際も、まずは都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談することになります。
なぜ育休延長を断られたのか?
法律で認められているにもかかわらず、なぜ育休の延長が断られてしまうのでしょうか。考えられる主な理由をみていきましょう。
会社の誤解や知識不足
最も多いのが、会社側(特に人事担当者や直属の上司)が育児・介護休業法の内容を正確に理解していないケースです。「前例がない」「うちの会社は特別」といった理由で、法律上の要件を満たしているにもかかわらず、延長を認めないことがあります。
申請書類の不備
延長理由を証明するための書類に不備があったり、提出が遅れたりした場合に、手続き上の問題として受理されないことがあります。特に「保育所に入所できない」ことを理由とする場合、市区町村が発行する「保育所入所不承諾通知書」の有効期限や内容が、会社の求める条件と合致しているか確認が必要です。
延長理由が「正当な理由」に該当しないと会社が判断した
申請者側は正当な理由があると考えていても、会社側が「それは自己都合ではないか」「代替手段があるのではないか」と解釈し、延長を認めないケースです。例えば、特定の保育園にこだわっているだけで、他の選択肢を検討していないと見なされる場合などです。しかし、法律上の「保育所に入所できない場合」に該当すれば、原則として延長は認められるべきです。
会社の経営状況や人員配置の問題
「人手が足りない」「代わりの人員を確保できない」といった、会社の経営上の理由で延長を拒否しようとするケースもあります。しかし、育児・介護休業法は労働者の権利を保障するものであり、会社の経営状況や人員配置の問題は、原則として育休延長を拒否する正当な理由にはなりません。ただし、会社側が代替要員の確保に最大限努めたにもかかわらず困難であるといった、極めて例外的な状況が認められる可能性はゼロではありませんが、ハードルは非常に高いです。
会社が応じてくれない場合の最終手段
話し合いや外部機関の協力を得ても、会社が育休延長を認めない、あるいは不利益な取扱いをしてくるような場合には、以下のような法的措置を検討することになります。
労働審判
労働審判は、労働者と事業主との間の労働関係に関するトラブルを、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的とした手続きです。原則として3回以内の期日で審理され、調停による解決を目指し、調停がまとまらなければ労働審判委員会が事案の実情に応じた解決案(労働審判)を示します。当事者は、審判に異議を申し立てることができ、その場合は訴訟に移行します。弁護士に依頼することが一般的です。
訴訟
労働審判で解決しない場合や、最初から訴訟を選択することも可能です。育休延長の権利確認や、慰謝料請求などを行うことになります。時間と費用がかかり、精神的な負担も大きいですが、法的に白黒をはっきりさせたい場合の最終手段と言えるでしょう。
(注意点) これらの法的措置は、時間と費用がかかるだけでなく、会社との関係が決定的に悪化する可能性も考慮しなければなりません。メリット・デメリットを十分に比較検討し、弁護士などの専門家とよく相談した上で進めることが重要です。
育休延長が叶わなかった場合に検討できること
あらゆる手を尽くしても、残念ながら育休の延長が認められなかったり、時間的に間に合わなかったりする場合も考えられます。その場合は、次善の策として以下のような選択肢を検討してみましょう。
認可外保育施設の利用
認可保育園に比べて保育料が高くなる傾向がありますが、空きがあれば比較的入園しやすい場合があります。自治体によっては、認可外保育施設の利用料に対する補助金制度がある場合もあるので確認してみましょう。
ベビーシッターやファミリーサポートの活用
必要な時間だけ依頼できる柔軟性があります。費用はかさみますが、緊急時の対応や、短期間のつなぎとして有効です。
一時預かり保育の利用
市区町村や保育園が実施している一時預かりサービスです。数時間から1日単位で利用できるため、短期間の就労やリフレッシュにも活用できます。短時間勤務制度やフレックスタイム制度の利用(復職する場合)
会社にこれらの制度があれば、育児と仕事の両立の負担を軽減できる可能性があります。育休延長が認められなくても、こうした働き方の変更を会社に相談してみる価値はあります。
退職して失業保険を受給しながら再就職活動(最終手段として)
やむを得ず退職を選択する場合でも、自己都合退職ではなく「正当な理由のある自己都合退職」として扱われれば、失業保険の給付制限期間なしで受給できる可能性があります(ハローワークの判断によります)。保育園の入所が決まらないことなどが理由となる場合があります。
パパ・ママ育休プラス制度も検討しよう
夫婦で育休を取得する場合、「パパ・ママ育休プラス」という制度を利用できる可能性があります。これは、両親がともに育児休業を取得する場合に、原則子どもが1歳までの育休期間を、子どもが1歳2ヶ月に達するまで延長できる制度です(一定の要件あり)。
例えば、母親が産後休業後から子どもが1歳になるまで育休を取得し、その後、父親が育休を取得する場合などに活用できます。夫婦で協力して育児をするという観点からも、検討してみる価値のある制度です。
育休延長に関するよくある誤解とQ&A
最後に、育休延長に関してよくある誤解や疑問についてお答えします。
Q. 会社に「前例がない」と言われたら?
A. 「前例がない」ことは、育児・介護休業法に基づく権利行使を拒否する正当な理由にはなりません。法律で定められた要件を満たしていれば、会社は原則として延長を認めなければなりません。
Q. 育休延長したら昇進・昇給に響く?
A. 育児・介護休業法では、育休の申出・取得を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。これには、降格、減給、昇進・昇格の機会を与えないことなども含まれます。もし不利益な取扱いを受けたと感じたら、労働局などに相談しましょう。ただし、休業期間中の労務提供がないことによる賞与査定への影響などは、就業規則等の定めによります。
Q. 非正規雇用でも育休延長は可能?
A. 期間雇用者(契約社員、パートタイマーなど)であっても、要件を満たせば育休を取得でき、同様に延長も可能です。パートタイマーが育休を取得するための要件は、子が1歳6ヶ月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないことです。
法改正により、2022年4月1日からは、有期雇用労働者の育児休業の取得要件が緩和され、「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が撤廃されました(ただし、労使協定の締結により、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者を対象から除外することは可能です)。
育休の延長を断ることは違法です
育休の延長を断られるという事態は、精神的にも大きな負担となります。しかし、法律は育児をする労働者を守るために整備されています。
まずは、ご自身の状況が育休延長の条件を満たしているかを確認し、会社と冷静に話し合うことから始めましょう。それでも解決が難しい場合は、決して一人で抱え込まず、この記事で紹介したような都道府県労働局や弁護士といった外部の専門機関に相談してください。
育休は、子どもを安心して育て、仕事との両立を図るための大切な権利です。正しい知識を身につけ、適切な対処をすることで、道が開けることもあります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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