• 更新日 : 2026年1月14日

マトリクス組織とは?種類やメリット・デメリット、効果的な導入方法

マトリクス組織は、複雑化するビジネス環境に対応するために注目されている組織形態です。部門横断で知見を集められる一方で、指揮命令が複雑化しやすいという課題もあります。本記事では、マトリクス組織の仕組みや種類、メリット・デメリットに加え、失敗を避けるための導入手順や運用ポイントまでをわかりやすく解説します。

目次

複数の上司を持つ組織構造・マトリクス組織とは?

マトリクス組織とは、従来の縦割り型の組織構造に、柔軟なプロジェクトの軸を組み合わせた、1人の社員が複数の上司を持つ組織形態です。この組織形態では、縦・横方向にそれぞれ「機能軸(人事・経理・営業など)」と、「プロジェクト軸(事業・製品・地域など)」を配置します。この縦軸と横軸が格子状(マトリクス)に交差することから、この名前で呼ばれています。

マトリクス型の組織構造は、1960年代のNASAアポロ計画など、大規模で複雑なプロジェクトを通じて発展してきました。複数の専門分野と関係者が関わるプロジェクトで、機能別組織だけではスピーディーな意思決定が難しいという課題に対応するために生まれたものです。

今日では、事業の多角化やグローバル化が進む企業において、「縦割り組織によるサイロ化(部門間の分断)」を防ぎ、部門横断で知見を結集するための手段として、マトリクス組織が活用されています。

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マトリクス組織の仕組みと定義

マトリクス組織は、機能別組織の持つ専門性の維持と、プロジェクト組織の持つ機動性の、両方のメリットを享受できるよう設計された組織形態です。

社員は通常、「所属部門(機能軸)」と「プロジェクト(事業軸)」という二つのラインに同時に所属し、それぞれに管理者(上司)が存在します。日々の業務において、部門長とプロジェクトマネージャーの両方から指示・評価を受ける点が、マトリクス組織の最大の特徴です。

たとえば、経理部門に所属する社員が、新規事業の立ち上げプロジェクトのメンバーを兼任するケースがこれに当たります。このとき、社員は経理部門長とプロジェクトマネージャーの双方から指示を受け、決められた工数の範囲でプロジェクト業務と部門業務を両立させることになります。

部門を横断してリソースを共有できるため、特定のプロジェクトに必要な専門知識や人材を、必要なタイミングで柔軟に配置できるメリットが生まれます。一方で、指示系統が複線化することで、パワーバランスや評価方法の設計が重要になる点も、マトリクス組織ならではの特徴です。

機能別組織・プロジェクト型組織との違いは?

マトリクス組織は機能別組織をベースとして維持しながら、プロジェクト型組織の要素を組み合わせたハイブリッド型です。マトリクス組織の構造をより深く理解するためには、一般的な機能別組織やプロジェクト型組織との違いをふまえることが重要でしょう。

機能別組織

人事、経理、営業など、職能(機能)ごとに部門を構成する形態です。専門性が高まり、効率的な業務遂行が可能ですが、部門間の連携が弱くなりがちです。

プロジェクト型組織

特定のプロジェクトのために、各部門からメンバーを集めて一時的に組織を作る形態です。機動性は高いものの、プロジェクト終了後に組織が解体されるため、社員のキャリア形成やノウハウの蓄積が課題になることがあります。

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マトリクス組織の種類と特徴【ストロング型・ウィーク型・バランス型】

マトリクス組織は、プロジェクトマネージャーの権限の強さによって、ストロング型、ウィーク型、バランス型の3種類に分けられます。どの型を選ぶかにより、組織の柔軟性や機能部門の専門性への影響が大きく変わります。

ストロング型マトリクス組織:プロジェクト優先で成果を追う

ストロング型は、プロジェクトマネージャーの権限が最も強いマトリクス組織です。

プロジェクトの目標達成が最優先され、予算や人員配置の権限もプロジェクトマネージャーに集中します。

この形態は、期限が厳しく、高い成果が求められる大規模なプロジェクトや、新規事業立ち上げなどに向いているでしょう。一方で、機能部門のマネージャーの権限が弱くなるため、社員がプロジェクトに集中しすぎ、所属部門における専門知識の深化や、部門間の連携がおろそかになりやすいという特徴があります。

ウィーク型マトリクス組織:機能部門優先で日常業務を重視

ウィーク型では、プロジェクトマネージャーを配置しません。そのため、ウィーク型は、機能部門マネージャーの権限が最も強い形態です。

プロジェクトチームのメンバーは、日々の業務の大半を所属する機能部門の指示に基づいて行います。

この形態は、日常業務への影響を最小限に抑えつつ、部門横断的な連携を試みたい場合に適しています。ただし、プロジェクトマネージャーを置かないため、プロジェクトの進捗が機能部門の都合に左右されやすく、遅延が発生するリスクがあります。

バランス型マトリクス組織:プロジェクトと機能を両立させる

バランス型は、プロジェクトマネージャーと機能部門マネージャーの権限が同等になるように設計された形態です。

双方が対等な立場でコミュニケーションを取り、プロジェクトの目標と機能部門の専門性維持の両方を追求します。

理論上は最も理想的な形態ですが、実際には二人のマネージャー間で意見の対立が起こりやすく、意思決定に時間がかかる、あるいは社員がどちらの指示を優先すべきか迷いやすいといった課題を抱えがちです。

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マトリクス組織のメリットは?

マトリクス組織を導入することで、企業は業務の効率化や市場への柔軟な対応など、従来の組織形態では得られなかった多くのメリットを享受できるでしょう。

業務の効率化

マトリクス組織では、部門を横断したリソースの共有ができるため、組織全体の業務効率化につながります。

たとえば、マーケティング部門の専門知識を持つ社員を、新商品の開発プロジェクトに組み込むことで、市場のニーズをふまえた製品設計を初期段階から行うことができます。

新規事業への柔軟な対応

プロジェクトごとに必要な人材を柔軟に配置できるため、市場の変化や新規事業の機会が生まれた際にも、組織全体を大きく変えることなく迅速に対応できるようになります。

経営層の負担軽減

プロジェクトマネージャーが権限を持つことで、経営層は細かな業務の意思決定から解放され、より長期的な戦略立案に集中できるようになります。

リソース共有による相乗効果

異なる機能部門の専門家が同じプロジェクトで協働することで、それぞれの知識や技術が組み合わさり、相乗効果(シナジー)が生まれます。これにより、部門単独では思いつかなかった革新的なアイデアや、より質の高い問題解決が可能となるでしょう。組織全体でノウハウを共有し、個々の社員の能力向上にもつながる効果も期待できます。

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マトリクス組織のデメリットとよくある失敗事例・課題

マトリクス組織は多くのメリットをもたらしますが、その特有の構造から、いくつかの重要なデメリットや課題が発生しやすいこともふまえておく必要があります。

パワーバランスの維持が難しく指揮命令系統が複雑化する

マトリクス組織の最大のデメリットは、社員が複数の上司を持つことによる指揮命令系統の複雑化です。

失敗事例:

機能部門とプロジェクトの双方から指示を受けた際、優先順位が明確でないと、社員はどちらの業務を優先すべきか迷ってしまい、業務効率が低下したり、精神的な負担が増大したりする可能性があります。また、二人のマネージャー間のパワーバランスが崩れると、社員は権限の強いマネージャーの指示を優先するようになり、組織の機能が偏ってしまうことも考えられます。

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リソース配分が難しく特定の人材に負荷が集中する

部門を横断してリソース(人材)を共有できる柔軟性がある一方で、誰をどのプロジェクトにアサインするかという配分計画が難しくなるという側面もあります。

失敗事例:

専門性が高く優秀な社員には多くのプロジェクトから声がかかりやすくなり、結果として業務量が過度に集中し、燃え尽き症候群(バーンアウト)や離職につながるリスクがあります。リソースを最適に保つためには、全プロジェクトの進捗と、社員の稼働状況を常に正確に把握・管理する必要があるでしょう。

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人事評価が複雑になり公平性への不信感を生む

社員が複数の上司のもとで業務を行うマトリクス組織では、公平な人事評価が複雑化しやすいという課題があります。

失敗事例:

評価を下す二人のマネージャーの間で、評価基準や重点を置くポイントが異なると、社員は一貫性のない評価を受けやすくなります。たとえば、プロジェクトの成果を重視するマネージャーと、機能部門での貢献度を重視するマネージャーの意見が分かれた場合、最終的な評価が不明確になり、社員のモチベーション低下を招くことにもつながります。

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マトリクス組織を成功に導く運用ポイントと注意点

マトリクス組織のメリットを最大限に活かし、デメリットによる混乱を避けるためには、導入前の準備と具体的な運用ルールの整備が欠かせません。この章では、組織を成功に導くための実務的なノウハウを解説します。

導入前にルールと優先順位を明確化する

多くの失敗事例からわかるのは、組織図を変える前に、「ルールの明確化」を徹底する必要があるということです。

  • 優先順位の明確化
    プロジェクトと部門業務の指示が衝突した場合、どちらを優先するのかという具体的なルールをあらかじめ決めておきましょう。たとえば、「期日が近いプロジェクトを優先する」「部門長とPMが協議してその都度判断する」など、社内で統一されたガイドラインが必要です。
  • マネージャー間の役割定義
    各マネージャーの責任範囲と権限を明確にします。たとえば、「部門長は社員の育成と専門能力維持に責任を持つ」「プロジェクトマネージャーはプロジェクトのスケジュールと成果に責任を持つ」といった形で、二つの役割のすみ分けをはっきりさせます。
  • コミュニケーションの仕組み
    プロジェクトマネージャーと部門長が定期的に進捗や社員の稼働状況を共有する定例会議の場を設けるなど、情報が滞らない仕組みを作りましょう。

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「ワンボイス」で現場への指示を一本化する

指揮命令系統の混乱を防ぐためには、「ワンボイス(一つの声)」原則を運用に落とし込むことが大切です。

これは、社員に対しては必ず、協議のうえで合意された一つの指示系統から情報が発信されるように徹底することです。具体的には、プロジェクトマネージャーと部門長がまず進捗と指示内容をすり合わせ、その上で、どちらか一方が代表して社員に伝える、あるいは共同で指示を出すといったプロセスを導入します。とくにウィーク型を導入する場合は、この調整を機能部門長側で請け負うことになります。

人事評価プロセスを透明化し評価軸を共有する

人事評価の複雑さを乗り越えるためには、二つの評価軸を統合する仕組みを構築することが解決策となります。

解決策として「360度評価」のような多面的な評価を導入する方法もありますが、最も効果的なのは、評価項目の明確な重みづけです。

  • 機能部門の評価
    専門知識の深化、部門内での貢献度など、機能軸での役割を評価
  • プロジェクトの評価
    目標達成度、チームへの貢献度など、事業軸での役割を評価

両方の評価をふまえたうえで、社員の職位や役割に応じて、最終評価におけるそれぞれの評価の比率をあらかじめ設定し、評価プロセスを透明化させることが重要です。

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マトリクス組織の導入手順と進め方は?

マトリクス組織は柔軟性が高い反面、導入時の設計が不十分だと現場の混乱につながります。最低限押さえるべきステップを簡潔にまとめます。

① 導入目的と期待効果の整理

まず「なぜマトリクス組織にするのか」を明確にします。

部門横断の連携強化、人材の有効活用、新規事業の推進など、目的によって組織設計は変わります。

② 指揮命令系統と役割分担の明確化

部門長とプロジェクトマネージャーの権限範囲や、指示が衝突した際の優先順位を事前に決めておきます。

ここを曖昧にしたまま導入すると、現場の迷い・混乱が起こりやすくなります。

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③ 評価制度と会議体の設計

複数上司が関与するため、評価基準の不一致が課題になりやすい組織です。

機能評価とプロジェクト評価の重みづけ、評価項目の統一、情報共有の定例会議などを導入前に整備します。

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④ 小規模プロジェクトでの試験導入

いきなり全社に広げず、1〜2のプロジェクトで試験的に運用し、課題を洗い出してから本格導入することで混乱を最小化できます。

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マトリクス組織を導入する際のポイントを理解しよう

マトリクス組織は、部門の専門性を維持しながら、新規事業への柔軟な対応を可能にする非常に有用な組織形態です。しかし、その構造から生じる指揮命令系統の複雑化や人事評価の難しさといったデメリットもふまえたうえで、導入を進めることが欠かせません。

成功させるためには、導入前に明確な優先順位とルールの設定を行い、マネージャー間のコミュニケーションを円滑にする仕組みを構築することが、組織成長の土台となります。自社の事業特性と組織文化に合ったマトリクス組織の種類を選び、メリットとデメリットの両方を正しく理解したうえで、運用上の課題を一つひとつ解決していくことが、組織の継続的な成長につながるでしょう。

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