• 更新日 : 2025年12月5日

静かな退職の対策完全ガイド!従業員の兆候を見抜き職場環境を改善する方法

「最低限の仕事しかしない社員」が増えていると感じ、対応に悩んでいる管理職や人事担当者の方は多いのではないでしょうか。

近年、20代から50代まで幅広い世代で広がっているのが「静かな退職」です。

この働き方は個人のキャリアだけでなく、職場全体の生産性や組織の活力にも深刻な影響を及ぼします。

本記事では、静かな退職の兆候や原因を具体的に解説し、ケース別の具体的な対策をご紹介します。

静かな退職とは?

静かな退職とは、仕事を辞めずに必要最低限の業務のみを行う働き方です。

2022年にアメリカのSNSで話題となり、日本でもシモーヌ・ストルゾフ著『静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す』が注目を集めました。

静かな退職と混同されやすい言葉にサイレント退職というものがあります。

静かな退職が在籍を継続しながら最低限の業務をこなす働き方である一方、サイレント退職は無断で退職する行為です。

また、アクシス株式会社が2004年に行った意識調査では、静かな退職状態にあると自覚している人は6割に上るというデータもあります。

そして、企業への影響に挙げられるのは、生産性低下や職場環境の悪化などです。

企業だけではなく、個人に対してもキャリアの停滞やスキル向上の機会損失などを招く恐れがあります。

静かな退職が増加している3つの原因

静かな退職の原因には、複数の要因が絡み合っています。

各世代で異なる原因と共通する課題を理解することが対策のポイントとなるでしょう。

ここでは、静かな退職が増加している主な原因を3つ紹介します。

原因① 働き方の価値観とワークライフバランスの重視

働く人の価値観が「仕事のために生きる」から「生活のために働く」へと変化しています。

20代・30代を中心に広がる「仕事はほどほどに」という考え方は、40代・50代にも波及しています。

意識調査では、「仕事は最低限の範囲で行いたい」と回答しているという人は8割以上です。

また、コロナ禍でのリモートワーク普及により、プライベートと仕事の境界線が明確になったことも大きな要因です。

過度な残業や休日出勤を強いるハッスルカルチャーから離脱し、昇進や出世よりも自分の時間や家族との時間を優先する従業員が増加しています。

そのため、企業側が価値観の変化を理解せず、従来型の働き方を求め続けると、問題を深刻化させる恐れがあります。

世代を超えた価値観の変化を認識し、柔軟な働き方を受け入れる姿勢が必要になるでしょう。

原因② 評価制度への不満とキャリアの停滞感

頑張っても正当に評価されないという不満が静かな退職を引き起こす原因となります。

40代・50代は昇進の頭打ちやポストの不足によるキャリアの停滞が顕著になる年代です。

そして、20代・30代の若手層は、成果を出しても給与が上がらない、評価基準が不明確な環境に不満を抱えています。

人事評価に関する調査では、評価に納得していない従業員は4割、自己評価とギャップを感じている従業員は6割という結果も出ています。

業務内容と賃金が見合っていないと感じる社員の増加や、上司からのフィードバック不足により自分の成長が実感できない環境も原因の1つでしょう。

将来への不安から、頑張る意味を見失う社員が静かな退職を決断する可能性もあります。

明確な評価基準とキャリアの見通しを示すことが重要です。

原因③ 職場環境と人間関係のストレス

静かな退職の原因には、上司や同僚との人間関係も挙げられます。

パワハラやモラハラだけではなく、コミュニケーション不足による孤立感が仕事への意欲の低下を招きます。

リモートワークの普及により、相談しづらい環境や孤独感が増大したことも孤立感を生む原因の1つです。

対面でのやり取りが減少することで気軽に質問や相談ができず、一人で問題を抱え込む社員が増えています。過度な業務負担とサポート体制の不足によるストレスの蓄積が静かな退職に繋がってしまうのです。

そのため、心理的安全性の高い職場づくりと、適切なサポート体制の構築が求められます。上司や人事担当者は、社員が孤立していないか定期的に確認し、相談しやすい環境を整えましょう。

静かな退職状態に陥っている7つのサイン

静かな退職は表面的には問題行動として現れにくく、見逃されやすい傾向があります。

早期発見が対策の鍵となるため、具体的なサインをチェックしましょう。

ここでは静かな退職状態に陥っている7つのサインを紹介します。

サイン① 必要最低限の業務のみ行う

積極的だった社員から、自主的な提案や改善活動がなくなるのは1つ目のサインです。

指示された業務のみをこなし、それ以上の取り組みを行わなくなります。締め切りギリギリに提出する、質より量を優先するなど仕事の質が低下したら要注意です。

新しいプロジェクトや挑戦的な業務を避けたり、断ったりするようになることもあります。これらの変化が見られたら、面談などで本人の状況を確認しましょう。

サイン② 残業や休日出勤を極端に拒否

残業や休日出勤をしていた社員が定時で必ず退社するようになる時に注意しましょう。

業務時間外の連絡に反応しない、対応が極端に遅れるといった変化が見られることもあります。急激に態度が変化していると感じる従業員がいれば気にかけておきましょう。

周囲との温度差が生まれ、チームワークに影響が出始めることもあるため、急激に態度が変化していると感じる従業員がいれば気にかけておきましょう

サイン③ 研修やスキルアップへの無関心

研修やスキルアップの機会に興味を示さなくなるのも重要なサインです。

以前は積極的に参加していた社員が研修への参加を辞退したり、資格取得への意欲を失ったりします。

「今のままで十分です」といった発言が増え、自己成長への関心が薄れていきます。これらのサインは手抜きではなく、エンゲージメント低下のシグナルの場合があるため注視しましょう。

サイン④ 会議での発言減少や受け身な態度

サインの1つとして、会議での発言が減ったり、意見を求めても「特にありません」と答えるケースが挙げられます。

活発に意見を述べていた社員が黙って聞くだけになっていないか確認しましょう。

さらに、1on1や面談で形式的な受け答えのみ行い、本音を話さなくなったと感じるのもサインの1つです。メールやチャットの返信が短文化し、必要最低限の情報交換のみとなっていないかチェックしてください。

サイン⑤ 社内交流や懇親会からの離脱

社内の懇親会や交流イベントへの参加を避けるようになるのもサインです。

以前は積極的に参加していた社員が「予定があります」と断るようになったり、ランチや休憩時間に一人で過ごすことが増えたりする場合は様子を伺いましょう。

チームの一体感や帰属意識が薄れていると感じたら注意して見てください。上司や同僚との関係が表面的になり、深い信頼関係が築けていない可能性があります。

サイン⑥ 仕事への熱意や情熱の喪失

以前は楽しそうに仕事をしていたのに、無表情で淡々と業務をこなす姿が目に付くようになったら注意しましょう。

仕事への意欲を失っている可能性があります。

将来のキャリアについて話さなくなったり、仕事への熱意や情熱が感じられなくなったりする場合には、一度面談の機会を設けても良いでしょう。

感情の変化は見逃しやすいため、日頃から社員の様子を観察することが大切です。

サイン⑦ 遅刻・欠勤の増加や体調不良

遅刻や欠勤が増えたり、体調不良を理由に休むことが多くなるのも、静かな退職のサインの可能性があります。

表情が暗く、疲れている様子が続く場合には積極的にフォローしましょう。

「体調が優れない」といった訴えが頻繁になる時は、心身の不調のサインかもしれません。遅刻や欠勤が続く社員には、業務負担の見直しや産業医との面談を提案してください。

静かな退職を選ぶ従業員が抱える主な4つのケース

静かな退職に至る背景には、大きく分けて4つの不満や問題が存在します。

ここでは各ケースの特徴と、管理職・企業がとるべき具体的なアプローチを提示します。

状況に応じた適切な対応が静かな退職の予防と改善に繋がります。

ケース① 期待と現実のギャップに悩んでしまう

入社時に描いていた仕事内容と現実の業務が異なったり、自分の強みが活かせない環境へ失望したりすることが静かな退職に繋がります。

「こんなはずじゃなかった」という思いを抱え、徐々に意欲が低下してしまうのです。

このような場合は、月1回の面談でキャリアの希望を丁寧にヒアリングし、可能な範囲で業務内容の調整や部署異動を検討しましょう。

また、本人の強みを活かせるプロジェクトへの参加機会を提供することで意欲を取り戻すケースもあります。

短期的な配置転換が難しい場合は、キャリアの道筋を明示し、現在の業務が将来にどう繋がるかを説明してください。

そして、組織的対応としては、中高年向けキャリア研修や社内公募制度、異動希望制度でキャリアの選択肢を広げることが有効です。

ケース② 正当に評価されていないと感じてしまう

自分の努力や成果が適切に評価されていないと感じている、頑張っても給与が上がらないなどの不満が蓄積し、静かな退職を選ぶケースもあります。

評価基準が不明確で、何をすれば評価されるのかが分からないと仕事へのモチベーションが低下してしまいます。

対応としては、評価面談で評価の基準を数値や事例を交えて丁寧に伝えるのが有効です。

評価への意欲がある場合には、3ヶ月ごとの短期目標を設定し、達成度を確認する機会を設けるのも良いでしょう。

また、組織としては、評価基準を明文化し、全従業員が見える場所に掲示・共有する必要があります。

成果だけでなく、業務への取り組み姿勢やプロセスも評価に含めることが就労意欲に繋がります。

ケース③ コスパが合わないと割り切ってしまう

仕事に対してコスパが合わないと割り切るとは、損得勘定で判断し、割に合わないと判断してしまうことです。

「この会社で頑張っても見返りがない」という冷静な計算から、必要以上の努力は損と考え、効率重視で最低限の業務をこなします。

このケースでは、スキル習得、キャリアアップなど、頑張ることで得られるメリットを具体的に示しましょう。

成果に応じたインセンティブ制度や報酬の仕組みを提示すると納得感が得られます。

さらに、組織的対応としては、スキルアップ支援を充実させ、業務効率化ツールを導入し無駄な作業を削減することが必要です。

ケース④ 仕事への関心を失ってしまう

仕事への興味や関心を完全に失い、会社への帰属意識が極めて低い状態です。

長期的なストレスや人間関係の問題により燃え尽き症候群に陥っている可能性があります。まずは信頼関係の再構築から始めましょう。

信頼関係を構築するためには、過度なプレッシャーをかけず、小さな成功体験を積めるような仕事を任せてみてください。

メンター制度や先輩従業員によるサポート体制を構築するのも効果的です。

心理的安全性の高い職場づくりが帰属意識を高めるため、定期的なチームミーティングで雑談時間も確保しましょう。

静かな退職を放置するリスクと企業への影響

静かな退職を放置すると、生産性低下や組織全体の士気低下など多岐にわたり影響を及ぼします。

早期発見、早期対応が被害を最小限に抑えるため、具体的なリスクを確認しましょう。

組織全体の意欲が低下し生産性が落ちる

静かな退職者が増えると、チーム全体の雰囲気が悪化します。

「自分だけ頑張っても意味がない」という空気が伝染し、積極的な従業員のモチベーションまで下げるリスクがあります。

一人の静かな退職者が周囲の社員に影響を及ぼし、組織全体のエンゲージメント低下を招きます。

結果として生産性が低下し、企業の成長が停滞してしまう恐れもあります。

人材が流出し採用コストが増える

静かな退職は、離職の前段階である可能性があります。

エンゲージメントが低い状態が続くと、転職活動を始める従業員が増加します。

離職による業務の引継ぎコストや新規採用コストなどが発生し、企業のノウハウや技術の流出にもつながります。

また、離職率の高さは企業の評判を下げ、今後の採用活動にも悪影響が出ます。放置すれば放置するほど、回復に時間とコストがかかります。

静かな退職者はクビになるのか?

最低限の業務を遂行している限り、解雇の法的根拠はありません。

労働契約上の義務を果たしていれば、「積極性がない」だけでは解雇できず、無理に解雇しようとすると不当解雇として訴訟リスクを抱えます。

静かな退職者を排除するのではなく、なぜそうなったかを組織全体で考えるべきです。

エンゲージメント向上策に注力し、個人を活かす組織を作りましょう。


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