- 更新日 : 2025年12月5日
情意考課(情意評価)とは?導入のメリットや書き方のポイントを解説
情意考課とは、仕事の成果だけでなく態度や意欲、協調性などの側面を評価する方法です。では、業績評価や能力評価とはどのような点が異なるのでしょうか?
本記事では、情意考課(情意評価)の概要をわかりやすく解説します。企業が情意考課を導入する利点や、注意点もまとめました。
記載項目や具体的な書き方、例文も取り上げており、実務で活用できる内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。
目次
情意考課(情意評価)とは?
情意考課(情意評価)とは、人事考課における重要な評価軸のひとつで、従業員の仕事への意欲や会社のビジョンへの共感度を評価するものです。
業績や能力といった客観的な評価とは異なり、評価者の主観が影響しやすいのが特徴です。そのため、人事評価において、比重は大きく置かれません。
しかし適切に活用すれば、従業員が目指すべき行動指針や理想像を明確化できます。
情意考課は経営理念の浸透や、会社のビジョン実現に貢献する重要な役割を果たします。
業績評価との違い
業績評価は、一定期間の社員の成果を具体的な数字で測り、目標達成度を客観的に判断する方法です。評価が明確で、実施しやすい特徴があります。
一方、情意評価は数値で表せない態度や意欲を評価するため、主観が入りやすく判定が難しい傾向があります。
業績評価が営業成績などの成果に重点を置くのに対し、情意評価は働き方に重点を置くというイメージです。
能力評価との違い
能力評価は、個人の職務遂行力を細かく見て判断する方法です。
たとえば、企画力や行動力、課題解決力などのスキルが重視されます。主に、専門的な能力をもつ社員の評価に向いています。
一方、情意評価は姿勢や考え方を中心に評価するのが特徴です。たとえば、まだ成果には反映されていない場合でも、熱意やモチベーションの高い社員の評価に向いています。
能力評価が表に出やすい成果を測るのに対し、情意評価は内面的な要素を見極める点で性質が異なります。
情意考課(情意評価)の役割
人事評価における情意考課の役割は、成果重視の評価の補完にあります。
情意考課は、主に仕事への熱意や社内でのモチベーション、将来の成長といった、人間力を評価する指標として用いられます。
従来の成果主義では「結果が出れば、過程は問わない」という風潮が組織に生まれやすい傾向があります。しかし、企業の将来のためには、情意考課を活用して従業員の意欲や協働意識を高めることが重要といえるでしょう。
短期的な成果は目に見えにくいものの、長期的には大きな価値をもたらす評価手法です。
情意考課(情意評価)を導入するメリット
情意考課を導入することで、従業員の意欲や協調性といった目に見えにくい側面を評価できます。ここでは、組織全体の成長やモチベーションの向上につながる、情意考課のメリットを見ていきましょう。
従業員をさまざまな観点から評価できる
業績評価や能力評価は、業務の成果に直結するため、経験不足や外部要因で業績が振るわないと、評価が低くなる傾向があります。
一方、情意考課では数字や業績にとらわれず、態度や取り組み姿勢なども評価できます。そのため、組織への貢献度を多角的に判断可能です。
努力やプロセスを重視するため、「成果は出せなかったが努力を重ねた」従業員も評価されます。
ほかの評価基準と組み合わせることで、より納得感の高い評価体制が整うでしょう。
従業員のモチベーションアップにつながる
情意考課を通じて、従業員が自分の感情面や対人スキルの成長を実感できると、自己啓発への意欲が高まります。
また、適切な評価により組織から認められていると感じることでモチベーションも向上するでしょう。
結果的に、業務効率が改善され、個人の力が組織全体の成果に反映されやすくなる点が大きなメリットです。
自社のチームワークを強化できる
情意考課では、勤怠だけでなく勤務態度全般が評価対象となります。そのため、チームメンバーへの配慮や協調性も重要です。
これにより組織内の一体感が生まれ、従業員同士が助け合う雰囲気が生まれます。
従業員が働きやすい環境が整うことで、組織への貢献意欲が高まり、結果として従業員エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
理想の従業員を育成できる
情意考課は、成績や能力だけでなく人間性も評価対象とします。これにより、自社のビジョンに沿った人材育成に役立てられるでしょう。
たとえば「積極的な従業員を増やしたい」といった組織の方針を評価項目に組み込むことで、従業員が自主的に積極的な行動を取りやすくなります。
模範となる従業員が増えることで、その姿勢が全体に広がるかもしれません。
これによって、組織全体の積極性向上にもつながる可能性があります。
情意考課(情意評価)を導入するデメリット
情意考課は多くのメリットがありますが、導入する際の注意点やデメリットもあります。評価者の主観が入りやすく、運用次第では公平性や納得感に影響する可能性があるため注意が必要です。
評価者の主観に影響されやすい
情意考課の大きなデメリットは、評価が主観に左右されやすい点です。
仕事に対する熱意や努力は、客観的な数字やデータで測れません。そのため、上司の個人的な判断が反映されやすく、評価バイアスが生じることがあります。
これにより従業員の信頼低下やモチベーションの低下といったリスクも考えられます。
対策としては、部下や同僚も評価に参加する360度評価を取り入れることが有効です。
多面的な視点から評価が可能になり、納得感の向上につながります。
人事評価エラーについて詳しく知りたい方は、下記の記事もご確認ください。
具体的な目標設定が難しい
情意考課は、業績評価のように結果を数字で示せないため、目標設定が難しい点が課題です。
評価の内容を被評価者に伝える際も抽象的になりやすく、理解されにくい傾向があります。
たとえば、協調性を評価する場合、「社内のチームワークを強化する」と伝えても具体性に欠けるでしょう。
情意考課では、具体的な行動例や指標に落とし込んで目標を設定することが大切です。
評価制度の設計について詳しく知りたい方は、下記の記事もご参照ください。
時間・リソースを消費する
情意考課では、従業員の態度や対人関係をしっかり観察し、フィードバックを行う必要があります。そのため、評価者は、多くの時間とリソースを要します。
評価者は、日常業務の中で行動を記録し続ける必要があり負担が大きくなることもあるでしょう。
評価した結果にもとづき、改善計画を作成するのも時間がかかります。
とくに、従業員数が多い大規模な組織ではプロセスが複雑化し、業務効率への影響も懸念されます。
情意考課を実施する際には、評価プロセスの効率化や評価者の適切な配置が重要です。
評価結果を報酬などに反映しにくい
情意考課は、従業員の態度や感情など抽象的な要素を評価するため、数値化が難しいのが特徴です。
そのため、具体的な報酬や昇進への反映基準を明確にすることが課題となります。
たとえば、チームワークや協力姿勢が高く評価されても、基準が曖昧だと公平な評価や納得感を得にくくなります。
また、評価結果を具体的な行動改善やキャリア開発に結びつける方法を整備しないと、従業員の成長やモチベーションの向上へつなげるのも難しくなるかもしれません。
業績給について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
情意考課表に記載する項目
情意考課表に記載される代表的な評価項目として、下記の4つがあります。
- 協調性
- 規律性
- 責任性
- 積極性
ここでは、それぞれの評価ポイントを解説します。
協調性
協調性は、従業員が他者とどれだけ円滑に意思疎通できるかを評価する項目です。
業績向上のために、必要な行動や改善策について積極的に議論し、他者の意見を取り入れて自分の考えを磨けるかが重要となります。
具体的には、自分の意見だけを押し通さず、チームメンバーの話に耳を傾けたり、困っている同僚を自主的にサポートしたりできるかをチェックしてください。
規律性
規律性は、組織のルールや慣習を正しく理解し、それに沿って業務を遂行できるかを評価する項目です。
とくに、リーダーや管理職の場合は、周囲への影響力や模範となる行動も重視されます。
具体例としては、勤怠規則を守ったりコンプライアンスを遵守したりすることが挙げられます。
組織全体の秩序を維持し、信頼性の向上につながるかが評価ポイントです。
責任性
責任性は、任された業務を最後までやり遂げる姿勢を評価する項目です。
従業員が自身の役割を全うすることで、個人の成長や、組織全体の成果向上につながります。
とくに、リーダー層には責任感が求められるため、リーダーを選ぶ際には、責任性があるかどうかを慎重に評価する必要があります。
具体的には、チームメンバーの意見をまとめて上司に報告したり、積極的に指示やフォローを行ったり、業務を確実に遂行できていたりするかがチェックポイントです。
積極性
積極性は、指示を待つだけでなく、自ら行動し課題に取り組む姿勢を評価する項目です。
与えられた業務をこなすだけでなく、新しいアイデアを出したり、自主的に改善や挑戦したりする態度が重視されます。
具体的には、会議で率先して発言や提案をしたり、自分の考えた付加価値を業務に反映させたりするなど、自発的な行動が評価の対象です。
情意考課(情意評価)の書き方・例文
情意考課表に記載する項目がわかったところで、情意考課の記入方法や具体的な例文を紹介します。評価項目ごとに、どのように書くと効果的かをまとめました。
客観性の例文
情意考課の客観性においては、「やる気がある」「協調性が高い」といった抽象的表現を避け、観察可能な行動をもとに評価することが重要です。
たとえば、下記のように評価するとよいでしょう。
- 過去3か月間においてプロジェクトの期限を守った割合は94%だった(実績や評価)
- グループ活動では、他者の意見を聞いたうえで、サポートとして補足できる部分を述べていた(協調性)
- 会議では、議題に対して自分の意見を述べたり、他のメンバーの発言に対して質問や提案を行う姿が見られた(積極性)
- トラブル発生時には状況を上司に報告し、必要な対応を相談してから行動していた(冷静・責任感)
具体性の例文
情意考課で具体性を評価する場合、「いつ・どこで・どのような行動をしたか」といった具体的な行動を明示することが大切です。これにより、評価の客観性を高められます。
具体的な例文は、以下のとおりです。
- 顧客からの問い合わせに対して、当日中に返信を行い、必要な資料を添付して回答していた
- 定例ミーティング後に、議事録を即日まとめてチーム全員に共有し、次回までの課題を整理していた
- 納期が短い案件において、担当外の作業を自ら引き受け、全体の進捗を共有しながら対応していた
- 会議中に他部署からの提案に対して、現場の課題を根拠に意見を述べ、改善案を提示していた
よい点や改善点の例文
情意考課では、評価対象者のよい点や改善すべき点についても、丁寧にフィードバックします。
例文は、下記のとおりです。
- 新しい業務システムの操作方法を自主的に学び、周囲にも使い方を共有していた。ただ、専門知識の更新に対してやや受け身な面があり、定期的な学習や情報収集が今後の課題といえる
- より効果的なタイムマネジメントを実践するために、まずはタスクの優先順位を設定し、重要なタスクに集中することが重要。また、適切なスケジュール管理や時間の見積もりを行うことで、タスクの遅延を防げる
- 与えられた業務に加えて改善点を自ら提案し、上司と相談のうえで実行に移していた。業務の進め方に迷った際、自分だけで判断する傾向があるため、早めの相談を心がけるとより効率的に進められる
情意考課(情意評価)についてよくある質問
ここでは、情意考課に関して多く寄せられる疑問や質問を取り上げ、回答をわかりやすく解説します。
情意目標とはどのようなものですか?
情意目標とは、経営計画の行動理念と連動した評価項目のことです。主に、仕事に取り組む姿勢や、考え方を測ります。
たとえば、積極性や責任感、チームワーク、成長意欲など社員全員が実践すべき行動を示します。このとき、会社の理念を実現するための行動を示すことが、重要です。
また、情意目標は社員としての資質や資格を確認する意味ももちます。
組織全体の価値観や、行動指針を共有する役割があるといえます。
情意考課で協調性が重視されるのはなぜですか?
情意考課を導入することで、従業員は職場での一体感やチームワークの重要性を意識しやすくなります。
とくに、協調性や規律性といった項目が重視されることで、従業員同士の協力関係が深まり、職場の雰囲気も改善されるでしょう。
組織内のコミュニケーションが円滑になり、チーム全体としてのパフォーマンス向上につながります。
人事考課で自己評価は必要ですか?
企業における自己評価は、人事考課の重要な一環として位置づけられています。
自己評価を適切にできる従業員は、自身の課題や目標、能力を正しく把握できていると見なされるでしょう。
結果的に、自己理解が深く、自己成長や業務改善に積極的に取り組む姿勢をもつ人材として評価されます。
自己評価ができる人材は、組織にとっても価値の高い存在です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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