• 更新日 : 2025年11月26日

均衡待遇とは?均等待遇との違いや判断方法、違法した場合のリスクなど解説

働き方の多様化が加速する現代において、あらゆる従業員が納得して能力を発揮できる職場環境の整備は、企業の持続的な成長に不可欠です。その根幹をなす同一労働同一賃金の原則を正しく運用する上で、鍵となるのが「均衡待遇(きんこうたいぐう)」という考え方です。

この記事では、人事労務の初心者の方にも分かりやすく、均衡待遇の基本的な意味や「均等待遇」との違いから、企業が取るべき具体的な実践ステップ、待遇別のケーススタディ、派遣労働者への適用、そして違反した場合の企業リスクまで、実務に必要な知識を網羅的に解説します。

均衡待遇とは?その定義と判断基準

均衡待遇(きんこうたいぐう)とは、正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者との間で、職務内容や責任の程度などに違いがある場合に、その「違いに応じたバランスの取れた待遇」を確保する考え方です。これにより、雇用形態を理由とする不合理な待遇差を設けることが法律で禁止されています。

この原則はパートタイム・有期雇用労働法の第8条に定められており、「同一労働同一賃金」を支える重要な柱です。待遇差自体を禁止するのではなく、その差が客観的に見て合理的かどうかを問う点がポイントです。待遇差の合理性は、主に以下の3つの要素を総合的に考慮して判断されます。

出典:パートタイム・有期雇用労働法 の概要|厚生労働省

1. 職務の内容

担当する業務内容そのものと、それに伴う責任の重さを比較検討します。

単に「同じ部署で同じような仕事をしている」というだけでは判断できません。例えば、正社員と非正規雇用労働者が同じようにデータ入力業務を行っていても、責任の範囲が異なる場合があります。

  • 業務の難易度と範囲:定型的な業務のみを担当するのか、トラブル対応やイレギュラーな業務、改善提案まで担うのか。
  • 権限の範囲:最終的な意思決定権や決裁権を持っているか。部下や後輩への指示・監督責任があるか。
  • ノルマや成果への責任:個人の売上目標や予算達成責任を負っているか。

例えば、正社員はクレームの最終対応者として責任を負い、月間のチーム目標達成にも責任を持つ一方、パートタイム労働者は一次対応のみを行い、個人の目標は課されていない、といったケースでは、職務の内容に明確な違いがあると言えます。

2. 当該職務の内容及び配置の変更の範囲

将来にわたる、人事異動や役割変更の可能性(人材活用の仕組み)の違いを指します。

これは、長期的な貢献への期待値や、会社が従業員にどのようなキャリアを歩んでほしいと考えているかの違いとも言えます。正社員、特に総合職の場合は、会社の都合によって様々な職務や勤務地を経験することがキャリア形成の一環として組み込まれていることが多く、これが待遇差の根拠となり得ます。

  • 転勤の有無・範囲:全国転勤の可能性があるのか、あるいは勤務地が限定されているのか。
  • 職務内容の変更範囲:ジョブローテーションなどにより、全く異なる部署や職種へ異動する可能性があるのか。
  • 昇進・昇格の可能性:管理職への登用など、将来の役割変更が予定されているキャリアコースに乗っているか。

契約上、勤務地や職務内容が限定されている従業員と、そうでない従業員とでは、会社運営への貢献のあり方や期待される役割が異なるため、その違いが待遇に反映されることは合理的と判断されやすいです。

3. その他の事情

上記の2つに含まれない、待遇差を合理的に説明しうる個別の事情を総合的に考慮します。

これは補足的な位置づけですが、重要な判断要素となるケースもあります。

  • 成果、能力、経験:同じ職務であっても、特別な資格の有無、豊富な実務経験、または個人の業績評価の結果が賃金に反映されている場合、それは合理的な差と認められる可能性があります。
  • キャリアコースの違い:例えば「総合職」と「専門職」のように、将来の幹部候補として育成されるコースと、特定の専門分野で貢献を期待されるコースとでは、求められる役割や能力開発の機会が異なるため、待遇に差を設けている場合があります。
  • 合理的な労使慣行:長年の労使交渉の積み重ねで成立してきた制度で、その内容が客観的に見て合理的であると認められる場合も考慮されます。ただし、単に「昔からこうだから」というだけでは理由になりません。
  • 定年後の再雇用であること:定年退職者を、経験を活かして限定的な業務で再雇用する、といった事情も考慮されることがあります。

これらの3つの要素を個別に、そして総合的に見て、正社員と非正規雇用労働者の間の待遇差が「違いに応じた、バランスの取れたものか」が判断されます。

なぜ今、均衡待遇が重要視されるのか?

均衡待遇が重要視されるのは、単なる法改正への対応というだけでなく、企業の競争力を高めるための重要な経営戦略だからです。多様な人材が活躍できる職場環境(ダイバーシティ&インクルージョン)の実現には、公正な待遇設計が不可欠です。

育児や介護などを理由にフルタイム勤務が難しい優秀な人材も増えています。そうした人材が非正規雇用を選択した場合でも、その貢献や責任に応じた公正な待遇(均衡待遇)が保証されていれば、企業は多様な人材を確保し、その能力を最大限に活かすことができます。従業員のエンゲージメント向上や離職率低下にも繋がり、結果として企業の持続的な成長を支える基盤となります。

均衡待遇と均等待遇の違いは?

均衡待遇が「違いに応じたバランス」を求めるのに対し、均等待遇は「同じ労働条件なら、同じ待遇」を求める点で明確に異なります。

均衡待遇がパートタイム・有期雇用労働法第8条で定められているのに対し、均等待遇は同法第9条において、職務内容や配置変更の範囲が正社員と全く同じ非正規雇用労働者に対して、差別的な取扱いを禁止する原則として定められています。

両者の関係は、同一労働同一賃金の原則をあらゆる状況に適用するための補完関係にあります。

均等待遇が適用される「職務内容等が同じ」の意味

均等待遇の適用条件である「職務内容等が同じ」とは、業務内容と責任の範囲、人事異動の範囲が実質的に全く同一である状態を指します。これは、単に職場の同僚というだけでなく、担っている役割や将来の異動可能性まで含めて同じでなければならない、という非常に厳格な条件です。

例えば、店舗の受付業務において、正社員とパートタイム労働者が全く同じ業務内容、同じ権限で働き、かつ両者ともに転勤や部署異動の可能性がない、といったケースが該当します。実務上、このような完全に一致するケースは限定的であるため、多くの場合は次に説明する均衡待遇が適用されることになります。

均衡待遇で問われる「不合理な待遇差」の意味

均衡待遇で禁止される「不合理な待遇差」とは、職務内容などの違いを客観的に説明できない、または違いの程度を明らかに超える大きな待遇差を指します。待遇に差があること自体が問題なのではなく、その差額の根拠(なぜその金額なのか)を企業側が説明できるかがポイントです。

例えば、正社員にだけ新人教育の役割があるため、その分の責任を評価して月額1万円の役職手当を支給する、といった説明は合理的と判断されやすいでしょう。しかし、その役割の違いだけで基本給が2倍違う、といったケースは「違いの程度を超えている」として不合理と判断される可能性が高くなります。

比較項目均衡待遇 (バランス)均等待遇 (平等)
適用される状況職務内容、責任、配置変更範囲などに違いがある場合職務内容、責任、配置変更範囲などが同じである場合
求められる待遇その違いに応じた、バランスの取れた待遇同一の待遇
禁止されること不合理な待遇差を設けること差別的な取扱いをすること

均衡待遇と同一労働同一賃金の違いは?

均衡待遇は、均等待遇と並んで「同一労働同一賃金」という大きな原則を構成する2つの具体的なルールのうちの1つです。同一労働同一賃金は、これら2つのルールによって成り立っています。

同一労働同一賃金と聞くと、「同じ仕事なら同じ賃金」という部分だけが強調されがちですが、それは原則の半分に過ぎません。もう半分の重要な要素が、「仕事内容が違うのであれば、その違いに応じた合理的な待遇差でなければならない」という考え方、つまり均衡待遇です。

同一労働同一賃金の対象となるもの

同一労働同一賃金という名称から誤解されやすいですが、この原則が対象とするのは金銭に限らず、あらゆる待遇です。これには基本給や賞与だけでなく、以下のような項目も全て含まれます。

  • 各種手当通勤手当、役職手当、住宅手当、家族手当など
  • 福利厚生:食堂や休憩室の利用、転勤者用社宅の貸与、慶弔休暇、健康診断など
  • 教育訓練:業務に必要なスキルを習得するための研修機会の提供

これらの全ての項目について、正社員と非正規雇用労働者との間に不合理な待遇差がないかを確認する必要があります。

2つのルール(均等・均衡)が必要な理由

同一労働同一賃金の実現にあたり、もし均等待遇のルールしかなければ「少しでも仕事内容が違えば、どんなに待遇が違っても良い」という抜け道が生まれてしまいます。

逆に均衡待遇だけでは、本来完全に同じ待遇にすべきケースで曖昧な判断がなされるかもしれません。

そこで「同じ場合は厳格に差別を禁じる(均等待遇)」という明確なルールを設けつつ「違う場合でも不合理な格差は許さない(均衡待遇)」という柔軟なルールを組み合わせることで、あらゆる労働状況をカバーし、実質的な公平性を確保しているのです。

この2つのルールが両輪となることで、同一労働同一賃金の原則が初めて実効性を持つ仕組みになっています。

均衡待遇を実現するための具体的な4ステップ

均衡待遇を確保し、法的なリスクを回避するためには、場当たり的な対応ではなく、体系的なプロセスを踏むことが重要です。企業は以下の4ステップで自社の制度を点検・整備することをお勧めします。

ステップ1. 雇用形態ごとの待遇の現状把握

最初に行うべきは、正社員と非正規雇用労働者の待遇を項目ごとに全て洗い出し、比較できる一覧表を作成することです。

まずは自社の現状を客観的に可視化しなければ、どこに不合理な待遇差が潜んでいるか分かりません。基本給、賞与、各種手当(通勤手当、役職手当、家族手当など)、福利厚生(慶弔休暇、食堂の利用など)といった全ての待遇について、雇用形態別に支給基準や内容を整理しましょう。

ステップ2. 職務評価による客観的な業務整理

次に「職務評価」という手法を用いて、各従業員の仕事の価値を客観的な基準で整理・評価します。

「あの人の方が責任が重いから」といった感覚的な判断では、待遇差の合理性を説明できません。職務評価とは、仕事の内容を「知識・スキル」「責任の範囲」「問題解決の難易度」などの評価軸で点数化し、仕事の相対的な価値を測る手法です。これにより「なぜ待遇に差があるのか」という問いに対して、客観的な根拠を示すことが可能になります。

ステップ3. 待遇差の合理性検証

職務評価の結果に基づき、ステップ1で洗い出した各待遇差が「不合理でないか」を一つひとつ検証します。

例えば「職務評価の点数が近いにもかかわらず、賞与の支給率に大きな差がある」といった場合、その差を合理的に説明できるかを確認します。説明できない場合は、不合理な待遇差と判断されるリスクが高いと考え、見直しを検討する必要があります。

ステップ4. 規程改定と丁寧な説明(労使コミュニケーション)

最後に、不合理な待遇差が見つかった場合は、就業規則や賃金規程を改定し、その内容と理由を従業員へ丁寧に説明します。

法律は、労働者から待遇差について説明を求められた際に、企業が回答することを義務付けています(説明義務)。この説明義務を、単なる義務と捉えるのではなく、従業員の納得感を高め、信頼関係を築くための重要なコミュニケーションの機会と捉えることが、円滑な制度運用の鍵となります。

均衡待遇はどう判断する?待遇別のケーススタディ

待遇差が合理的か否かは、個別の待遇の性質や目的に照らして判断されます。「非正規だから一律で支給しない」という判断は、多くの場合で不合理と見なされるリスクがあります。

待遇の種類不合理と判断される可能性が高い例(NG例)合理的と判断される例(OK例)
賞与・退職金
  • 単に「非正規だから」という理由だけで支給しない。
  • 正社員と業績への貢献度が同程度なのに、支給額に著しい差がある。
  • 会社の業績への貢献度(職務内容、責任、成果など)の違いに応じて、支給額や算定根拠に差を設けている。
各種手当
  • 通勤手当:正社員には全額支給だが、パートには上限がある。
  • 皆勤手当:業務内容に関わらず、正社員にのみ支給している。
  • 役職手当:役職に応じた責任の重さの違いに基づき、支給額に差を設けている。
  • 特殊作業手当:危険な作業に従事する労働者に雇用形態を問わず支給している。
福利厚生
  • 食堂や休憩室、更衣室の利用を正社員に限定している。
  • 慶弔休暇を正社員にのみ付与している。
  • 転勤の可能性がある正社員にのみ、社宅や転勤手当を支給している。

派遣労働者における均衡待遇の考え方とは?

派遣労働者の均衡待遇は「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかの方法で確保されます。 人事担当者は、自社で受け入れている派遣労働者がどちらの方式で待遇決定されているかを把握し、適切に対応する必要があります。

派遣先均等・均衡方式

派遣先の企業で同じ仕事をしている従業員(比較対象労働者)との間で、均衡・均等待遇を確保する方式です。この場合、派遣先企業は派遣会社に対し、比較対象労働者の待遇情報を提供する義務があります。

労使協定方式

派遣会社と労働者の過半数代表との間で労使協定を締結し、一定の要件(同種の業務に従事する一般労働者の賃金と同等以上であること等)を満たす待遇を決定する方式です。実務上はこちらの方式が多く採用されています。

均衡待遇に違反した場合の企業リスク

均衡待遇の原則に違反し、不合理な待遇差を放置した場合、企業は以下のような複数のリスクに直面します。

損害賠償請求 訴訟リスク

労働者から、正社員との待遇差額分について損害賠償を請求される可能性があります。裁判に発展した場合、金銭的な負担だけでなく、対応に多くの時間と労力を要します。

行政による助言・指導・勧告

都道府県労働局長から、待遇差に関する報告を求められたり、助言や指導、是正勧告を受けたりすることがあります。これらに適切に対応しない場合、次の「企業名の公表」へと進む可能性があります。

企業名の公表

厚生労働大臣からの勧告にも従わないなど、悪質なケースと判断された場合、企業名が公表されるリスクがあります。公表されれば、企業の社会的信用は大きく損なわれます。

従業員の士気低下と離職

待遇への不公平感は、従業員のエンゲージメントやモチベーションを著しく低下させます。結果として、生産性の悪化や、優秀な人材の流出を招くことにつながります。

企業の評判低下(レピュテーションリスク)

労働問題が外部に知られると、企業の社会的信用が失墜し、「従業員を大切にしない会社」というネガティブなイメージが定着します。これは、採用活動や金融機関との取引、顧客との関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。

均衡待遇の実現で、多様な働き方を支える公正な職場へ

この記事では、均衡待遇の基本から、均等待遇との違い、企業が取るべき具体的なステップ、そして関連リスクまでを網羅的に解説しました。

均衡待遇への対応は、単に法律を守るだけでなく、多様な人材が活躍できる魅力的な職場を作るための重要な経営戦略です。自社の制度を客観的な視点で見直し、全ての従業員が納得できる公正な待遇差の説明責任を果たしていくことが、従業員の信頼と企業の持続的な成長につながります。


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