- 更新日 : 2025年8月20日
会社の定期健康診断は義務!受けないとどうなる?対象者や項目、罰則などを徹底解説
会社の定期健康診断は、労働安全衛生法によって事業者に課された重要な義務です。しかし、「どこまでの範囲が義務?」「パートも対象になるの?」「もし受けなかったらどうなる?」といった具体的な疑問を持つ事業者や従業員の方は少なくありません。
この記事では、定期健康診断の対象者の範囲、必須の検査項目、費用負担の原則、そして義務を怠った場合の罰則まで、事業者と労働者双方が知っておくべき情報を分かりやすく解説します。
目次
会社の定期健康診断は法律で定められた義務
会社の定期健康診断は、企業の規模や業種にかかわらず、労働安全衛生法第66条に基づきすべての事業者に実施が義務付けられています。
この法律では、事業者は労働者に対し、医師による健康診断を実施しなければなりません。また、健康診断の記録(健康診断個人票)を作成し、原則として5年間保存する義務も定められています。この目的は、職場における労働者の安全と健康を確保し、誰もが安心して働ける快適な職場環境を作ることです。
重要なのは、この義務が事業者だけに課せられたものではないという点です。労働安全衛生法第66条第5項では、労働者にも健康診断を受ける義務が定められています。
つまり、会社が設定した健康診断を正当な理由なく拒否することは、労働者側の義務違反と見なされる可能性があります。事業者と労働者が双方の義務を正しく理解し、協力して健康診断に取り組むことが、健全な職場作りの第一歩となります。
定期健康診断の種類
労働安全衛生法で定められた健康診断には、主に以下の5種類があります。
- 雇入時の健康診断
労働者を雇い入れた際に実施します。 - 定期健康診断
1年以内ごとに1回、定期的に実施します。これが最も一般的な会社の健康診断です。 - 特定業務従事者の健康診断
法令で定められた有害業務に従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際、および6ヶ月以内ごとに1回実施します。 - 特殊健康診断
放射線業務や鉛業務など一定の有害業務に従事する労働者に対し、雇入れまたは当該業務への配置替えの際、および原則として6ヶ月以内ごとに1回特別の項目について健康診断を実施します。 - 海外派遣労働者の健康診断
労働者を6ヶ月以上海外に派遣する際、および帰国後に国内業務に就かせる際に実施します。
事業者は、それぞれのタイミングで適切な健康診断を実施する義務があります。
定期健康診断で実施が義務付けられている項目
労働安全衛生規則第44条で定められている、定期健康診断の必須項目は以下の11項目です。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
これらの項目は、労働者の健康状態を多角的に把握するための基本的な検査です。
ただし、医師の判断によって一部の項目を省略することは可能です。例えば、厚生労働省が示す基準に基づき、40歳未満(35歳を除く)の労働者は腹囲の検査などを省略できる場合があります。事業者が自己判断で項目を減らすことはできないため、必ず健康診断を実施する医療機関と相談の上、適切に対応しましょう。
会社の定期健康診断の対象者はどこまで?
健康診断の義務対象者は、常時使用する労働者と定義されています。これには正社員だけでなく、以下の条件を満たすパートタイマーやアルバイトも含まれます。
- 契約期間の定めのない労働者
- 契約期間の定めがあるが、契約の更新により1年以上使用される予定の者、または引き続き1年以上使用されている者
上記1または2に該当し、かつ、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者(正社員など)の4分の3以上である場合、健康診断の対象となります。
会社の定期健康診断を実施しないとどうなる?
会社の定期健康診断を実施しなかった場合、以下のような罰則があります。
事業者が定期健康診断を実施しなかった場合の罰則
健康診断が1年以上空く状態を放置するなど、事業者が正当な理由なく定期健康診断の実施義務を怠った場合、労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
これは、健康診断を実施しなかった場合だけでなく、結果を記録・保存しなかった場合や、労働者へ結果を通知しなかった場合も対象となります。
労働者が定期健康診断を受診なかった場合の罰則
労働者が健康診断の受診を拒否することは、自身の健康状態を把握し、病気を早期発見する貴重な機会を失うことにつながります。
また、労働者にも受診義務があるため、正当な理由なく拒否し続けた場合、就業規則の懲戒規定に基づいて懲戒処分の対象となる可能性があります。
事業者は一方的に処分を下すのではなく、まずは受診を促し、労働者が受診しやすい環境を整える努力が求められます。
会社の定期健康診断の費用は誰が負担する?
労働安全衛生法に基づく健康診断の費用は、法律で事業者に実施が義務付けられているため、当然に事業者が全額を負担すべきものとされています。法定の検査項目にかかる費用を労働者に負担させることはできません。
ただし、労働者が任意で法定外のオプション検査(人間ドックなど)を追加で受診する場合、その追加費用については労使間の取り決めによります。
会社の定期健康診断受診中の賃金の支払いは?
一般健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いは、法律で明確に規定されていません。しかし、労働者の健康確保は事業の円滑な運営に不可欠であることから、受診時間中の賃金は事業者が支払うことが望ましいとされています(昭和47年9月18日基発第602号通達)。
会社に定期健康診断がない場合はどうする?
まず、会社の人事や労務担当部署に健康診断の実施を要求することができます。それでも改善されない場合は、管轄の労働基準監督署に相談することが一つの手段です。労働基準監督署は、会社に対して指導や勧告を行う権限を持っています。自身の健康を守る権利として、適切な対応を取ることが大切です。匿名での相談も可能ですので、まずは連絡してみることを検討してください。
会社の定期健康診断に関してよくある質問
最後に、会社の定期健康診断に関してよくある質問とその回答をまとめました。
会社の役員は健康診断の対象になりますか?
法律上の労働者に該当しない役員(代表取締役など)は、原則として労働安全衛生法に基づく健康診断の義務対象外です。しかし、工場長や部長を兼務するなど、実態として労働者としての側面が強い場合は、対象者と判断されます。また、法律上の義務とは別に、企業には役員を含めたすべての従業員に対する安全配慮義務があるため、健康診断の受診を推奨することが望ましいでしょう。
派遣社員の場合、健康診断の実施義務は誰にありますか?
派遣社員の一般健康診断(雇入時・定期)の実施義務は、派遣元の事業者(派遣会社)にあります。一方、有害業務に従事する場合の特殊健康診断については、指揮命令権を持つ派遣先の事業者に実施義務があります。
自分で受けた人間ドックの結果を提出してもいいですか?
はい、可能です。労働者が自分で選んだ医療機関で人間ドックなどを受け、その結果を事業者に提出することで、会社の健康診断に代えることができます。ただし、その検査項目が法律で定められた必須項目をすべて満たしている必要があります。提出された結果をもって、事業者は健康診断を実施したと見なすことができます。
会社の定期健康診断の重要性を理解しましょう
会社の定期健康診断は、労働安全衛生法で定められた事業者と労働者双方の重要な義務です。
事業者は、正社員だけでなく、条件を満たすパートやアルバイトを含む全対象者に対し、年1回、費用を全額負担して健康診断を実施しなければなりません。この義務を怠れば、罰金が科される可能性もあります。
一方で、労働者にも受診する義務があり、これは自身の健康状態を把握し、病気の早期発見につなげるための大切な機会です。もし会社が健康診断を実施しない場合は、労働基準監督署へ相談することも可能です。
従業員が心身ともに健康で長く活躍できる職場環境を築くため、事業者と労働者がその重要性を理解し、協力して取り組むことが不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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