• 更新日 : 2025年6月24日

変形労働時間制のデメリットとは?残業ルールや導入、廃止の注意点を解説

企業が業務の繁閑に応じて労働時間を柔軟に調整する方法として導入されているのが、変形労働時間制です。この制度は、一定の期間内で平均して法定労働時間を守れば、特定の日や週に法定労働時間を超えても時間外労働としては扱わない制度です。例えば、繁忙期には1日10時間働いても、閑散期にその分労働時間を減らせば、トータルで法定の上限(週40時間など)に収まるように調整できます。

変形労働時間制とは?

変形労働時間制とは、仕事の忙しさに応じて勤務時間を調整できる制度です。通常、日本の労働基準法では「1日8時間・週40時間」を超えて働かせてはいけない決まりがあります。しかし変形労働時間制では、1週・1ヶ月・1年といった一定の期間内で平均して週40時間以内に収まるようにすれば、ある日やある週に8時間以上働いてもそれを時間外労働(残業)と扱わなくてよくなります。

例えば、業務が忙しい日には10時間働き、暇な日には6時間に短縮するといった柔軟なシフトが可能です。これにより繁忙期と閑散期の差が大きい職場でも、平均の労働時間を調整しやすくなります。

変形労働時間制には、期間の長さによって以下の3種類があります。

  • 1ヶ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制

それぞれ見ていきましょう。

1ヶ月単位の変形労働時間制

最長1ヶ月の期間内で調整します。1週間あたりの平均労働時間が40時間を超えないように、日ごとの勤務時間をあらかじめ決めます。月の総労働時間にも上限(その月の日数に応じた法定労働時間の総枠)があり、例えば31日の月なら177.1時間が上限です。1ヶ月単位の変形は就業規則に定めるだけでも導入可能ですが、労使協定(労働者代表との協定)の締結により導入する場合には、労働基準監督署への届け出が必要です。多くの店舗業やサービス業で採用されています。

1年単位の変形労働時間制

最長1年間の期間で調整します。期間内の平均が週40時間以内になるように年間の勤務計画を立て、繁忙期に長めに働き閑散期に短くすることができます。ただし1年と長い分、労働時間に上限が設けられています(例:1日10時間・1週52時間まで、連続勤務は6日まで等)。1年単位の変形を導入するには労使協定の締結と労基署への届け出が必要です。主に季節によって仕事量が大きく変わる製造業や宿泊業などで使われます。

1週間単位の変形労働時間制(非定型的変形労働時間制)

特定の業種に限り認められる制度です。小売業・旅館・料理店・飲食店といったサービス業で従業員数が少ない事業所(常時雇用者 30人未満など)の場合に、1週間ごとに勤務時間を調整できます。1日最長10時間まで働かせることができますが、1週間の総労働時間が40時間以内である必要があります。こちらも導入には労使協定の締結と労基署への届け出が必要です。シフトを毎週決める必要がありますが、小規模飲食店などで曜日による忙しさの差に対応するために使われることがあります。

ただし変形労働時間制の制度を正しく運用するには事前に労働時間の割り振り(勤務カレンダーやシフト表)を決めておく必要があります。

変形労働時間制はデメリットしかないと言われる理由

一部では「変形労働時間制はデメリットしかない」と言われることがあります。従業員の立場から見ると働きづらいと感じる場面もあるためです。どんなデメリットがあるのか、いくつか挙げてみます。

「残業代が出ない」と思われやすい

変形労働時間制では、事前に決められた所定の勤務時間内であれば、たとえ1日10時間働いても残業扱いにならない日があります。この仕組みを従業員にしっかり説明し、「残業代は法的に必要な場合は必ず支払う」と伝えることが重要です。

繁忙期の長時間労働が続きやすい

変形労働時間制では、「忙しい時期には1日10時間働く」といったシフトを組むことができます。例えば、飲食店で週末や連休前の来客が多い日だけ勤務時間を延ばすなどです。

しかし、このような長時間勤務が続くと、従業員の疲労が蓄積して体調に影響する恐れがあります。表面的には「残業ではない」ことになっていても、実際には1日10時間も働けばかなりの負担になるのが現実です。

とくに、中小企業では業務量が多いにもかかわらず、人手が足りない状況も多いため、従業員が無理を重ねてしまいやすい傾向があります。

勤務時間が不規則になり生活リズムが崩れる

日によって始業・終業の時間が変わると、生活リズムが安定しません。例えば、月曜日は午前9時から18時、火曜日は10時から20時、水曜日は8時から17時といったように、毎日異なる時間帯で働くと、体調管理が難しくなります

とくに育児や介護をしている従業員は予定を立てにくくなり、プライベートとの両立が困難になるケースも少なくありません。

シフトの自由が少なく、急な変更に対応できない

変形労働時間制では、勤務時間は原則として事前に固定されているため、急な変更が難しくなります。なぜなら、この制度では事前に労働時間の計画(シフト)を決めておく必要があるため、あとから会社都合でシフトを変更すると違法になることもあるからです。

もちろん緊急時などは別ですが、原則として勤務予定は固定であるべきとされています。そうなると、家庭や私生活の事情に応じた柔軟な働き方がしにくくなるという問題が出てきます。

従業員間で不公平感が生まれやすい

同じ職場であっても、部署や業務内容によって労働時間に差が出ることがあります。例えば「自分のシフトだけいつも長い」「他の人は楽な時間帯ばかり」といった不満が積もると、職場全体の人間関係にも悪影響が及びます。公平な運用と定期的な見直しが欠かせません。

以上のような理由から、「変形労働時間制はデメリットしかない」と感じる労働者もいるのです。ただし、これらのデメリットは制度の運用次第で軽減できる部分もあります。

変形労働時間制のデメリットの原因を防ぐコツ

変形労働時間制は、業務の波に対応できる柔軟な制度ですが、残業代の誤解や不公平なシフト運用など、導入・運用時には課題が出やすい面もあります。こうしたデメリットは、会社側の丁寧な対応や仕組みづくりによって防ぐことができます。この章では、企業が実践できる3つの具体策を紹介します。

制度の仕組みと残業代ルールを正しく伝える

変形労働時間制では「何時間からが残業なのか」が通常と異なるため、従業員が制度を誤解しやすいです。会社はまず、所定労働時間と法定労働時間の違い、残業が発生するケースなどをわかりやすく説明しましょう。

導入時には説明会を実施し、資料やシミュレーション例を交えて丁寧に伝えることが効果的です。給与明細にも工夫を加え、「残業として扱われた時間」が明確にわかるようにすると、納得感が高まります。

シフト作成時は公平かつ柔軟に対応する

「自分だけシフトが厳しい」「休みが取りづらい」といった不満は、不公平感につながります。シフトを作成する際は、特定の人に負担が偏らないよう配慮し、本人の希望やライフスタイルを可能な限り反映させる姿勢が大切です。

さらに、育児や介護などの事情がある従業員には、個別の事情に応じた柔軟な調整も検討しましょう。公平なルールと柔軟な対応のバランスが、信頼関係を築く鍵になります。

導入後も定期的に見直し、声を拾う

制度は導入して終わりではありません。実際に運用してみて、「思ったより勤務時間がきつい」「この時期は無理がある」といった声が出てくることがあります。そうした意見を放置せず、アンケートや面談を通じて定期的に現場の声を拾いましょう。必要であれば、シフトルールの見直しや、制度の一部変更も柔軟に行うことが大切です。制度が現場に根づき、従業員が安心して働ける環境づくりにつながります。

変形労働時間制のメリット

変形労働時間制はデメリットもありますが、会社側にとって有益なメリットもあります。とくに中小企業がこの制度を導入する主なメリットとして、以下の点が挙げられます。

業務量の変動に柔軟に対応できる

繁忙期と閑散期がはっきりしている業種では、人員配置を柔軟にできます。忙しい時期に労働時間を増やし、暇な時期に減らすことで、人手不足と人余りを調整できます。

例えば小売店であれば、週末やセール期間は勤務シフトを長めにし、平日の閑散日は短くする、といった運用が可能です。これにより業務効率や生産性の向上が期待できます。

残業代や人件費の削減につながる

繁閑に合わせて労働時間を調整することで、法定外の残業代支出を減らせる効果があります。通常なら繁忙期に発生していた割増賃金を、変形労働時間制なら平準化できます。

また、忙しい時期だけアルバイトを追加で雇ったり、閑散期に余剰人員を抱えたりする必要が減るため、コスト削減にもつながります。中小企業にとって人件費の圧縮は大きなメリットです。

従業員にまとまった休暇を与えやすい

閑散期に労働時間を少なくする分、連休や長めの休暇を取得させることも可能になります。例えば年間の労働時間配分を調整して、オフシーズンに一斉休業を設けたり、有給休暇を取りやすくしたりできます。

従業員にリフレッシュの機会を提供できれば、結果的に繁忙期のモチベーションアップや健康確保にもつながります。メリハリのある働き方ができる点は、従業員にとってもワークライフバランス向上のメリットとなり得ます。

変形労働時間制における残業代の仕組み

変形労働時間制では「どの時間を超えたら残業代(時間外割増賃金)が発生するのか」が通常の勤務と少し異なります。ポイントは、会社があらかじめ決めた所定労働時間が基準になるという点です。

通常は「1日8時間、週40時間」を超えると残業となりますが、変形労働時間制では、例えば「月曜日は10時間勤務」などと決めていれば、その10時間までは残業扱いにはなりません。反対に「6時間勤務」としていた日に8時間働いても、6〜8時間の間は残業とはなりません。

とくに1ヶ月単位の変形労働時間制では、次の3つの基準で残業を判断します。

  • 日単位:8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
  • 週単位:40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間※日単位で把握した部分を除く
  • 月全体:対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(例:31日の月なら177.1時間超)※日単位、週単位で把握した部分を除く

上記の仕組みを誤解すると、「長く働いたのに残業代が出ない」と感じる従業員が出てくることがあります。所定労働時間と法定労働時間の違いを丁寧に説明することが大切です。

また、変形労働時間制であっても、法定労働時間を超える働き方をする可能性がある場合は、36協定(時間外労働に関する労使協定)の締結が必要です。制度はあくまで「法定内の範囲で調整を柔軟にするための仕組み」であり、無制限の残業を認めるものではありません。

変形労働時間制とフレックスタイム制との違い

柔軟な働き方を実現する制度として、変形労働時間制とフレックスタイム制はよく比較されますが、仕組みや働き方の自由度には明確な違いがあります。

変形労働時間制は、あらかじめ決めた勤務スケジュールに基づいて、繁忙期と閑散期で労働時間を調整する制度です。勤務時間は会社側が定めるため、業務の都合に合わせて働く形になります。

一方で、フレックスタイム制は、社員が日々の始業・終業時刻を自分で決められる制度です。清算期間内に決められた総労働時間を満たせば、働く時間帯は基本的に自由に設定できます。ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方がしやすく、育児や介護と仕事を両立したい人にとっても有効です。

自社でどちらを採用すべきかは、業務内容や社員のニーズによって判断すると良いでしょう。

項目変形労働時間制フレックスタイム制
時間の決定権会社が勤務時間をあらかじめ指定労働者が始業・終業時刻を自分で決定
対応しやすい業務繁忙期・閑散期の差が大きい業務時間に縛られない個人の裁量が大きい業務
働き方の自由度少ない(会社の都合優先)高い(生活に合わせやすい)
導入に必要な手続き就業規則や労使協定の整備、制度により届け出あり労使協定・就業規則の整備、清算期間1ヶ月超は届け出が必要
残業の扱い日ごとや週ごと総枠ごとに把握し、それぞれの超過分が対象清算期間の総労働時間を超えた分が対象
主な活用例小売業、宿泊業、製造業などのシフト制職場技術職、企画職、オフィスワーク全般

変形労働時間制を導入するには?

自社で変形労働時間制を導入するには、就業規則や労使協定の整備が必要です。以下の手順に沿って、スムーズな導入を目指しましょう。

  1. 制度の必要性と対象範囲を検討する
    自社の業務に本当に必要な制度かを見極めます。部署や職種を限定することも可能です。働き方が大きく変わるため、従業員の反応や業務の実態もふまえて検討します。
  2. 制度の種類と期間を決める
    1ヶ月・1年・1週間単位のいずれかを選び、適用期間と起算日を設定します。制度によって必要な手続きが異なるため、法的な要件も確認しましょう。
  3. 勤務スケジュールを作成する
    変形期間内の勤務日・勤務時間をあらかじめ定め、シフト表などにまとめます。従業員の生活や公平性を考慮し、業務量の波を見越した無理のない配分が求められます。
  4. 就業規則または労使協定を整備する
    1ヶ月単位は就業規則への記載か労使協定の締結、1年・1週間単位は労使協定が必要です。内容には、対象者や期間、労働時間の割り振りなどを明確に記載します。協定は労基署へ届け出ます。
  5. 従業員への周知と説明を行う
    残業代の扱いや働き方の変化について、誤解が生じないよう丁寧に説明します。不安がある社員には個別の対応も行い、納得感を得ることが信頼関係につながります。
  6. 制度を運用し、状況に応じて見直す
    実際の運用では、勤務時間の偏りやミスのない勤怠管理が必要です。問題があれば、協定更新時などに見直す仕組みを整えておくと、継続的な改善がしやすくなります。

なお、社員が制度導入に反対する場合は注意が必要です。正当な理由があってどうしても対応できない社員がいる場合、無理に含めず他の働き方を検討する配慮も望ましいでしょう。例えば持病で長時間勤務が困難な方などには個別対応が必要です。制度導入後も社員との信頼関係を重視し、健全な職場環境を維持することが大切です。

変形労働時間制を廃止する方法

一度導入した変形労働時間制を廃止する場合の手順は導入時と逆の流れになります。基本的には就業規則と労使協定の変更を行います。

  1. 社内で方針を決定する
    業務量の変化や運用上の課題など、廃止の理由を明確にし、通常の勤務制に戻すのか、他制度(フレックスなど)に切り替えるのかを検討します。
  2. 労使協議と合意形成
    労働者代表と協議し、制度廃止について合意を得ます。制度変更は働き方に直結するため、納得を得る丁寧な説明が大切です。
  3. 就業規則と協定の見直し
    規則や協定に変形労働時間制の記載がある場合は、内容を削除または修正し、労基署に必要な届け出を行います。合意書の作成も忘れずに。
  4. 新しい勤務体制の周知と準備
    廃止後の勤務時間や残業ルールについて社内に周知し、従業員が混乱しないよう準備を整えます。必要に応じて一時的な経過措置も設けます。
  5. 移行後の運用とフォロー
    新制度の開始後は、勤怠管理や給与計算を新ルールに切り替えます。慣れるまでの期間は、現場へのフォローを手厚く行うことが望ましいでしょう。

変形労働時間制の廃止には就業規則の変更手続きや労使の合意が必要ですが、社員にとって不利益を解消する方向の変更であればスムーズに進むことが多いです。

とはいえ、「変形を廃止したら残業代が急に増えて人件費が圧迫された」など経営側のデメリットも考えられます。廃止の判断は慎重に行い、必要なら段階的な移行も検討してください。

変形労働時間制のデメリットを知り、自社に合う働き方を考えよう

変形労働時間制には柔軟な労働時間調整が可能というメリットがある一方で、従業員にとって負担や不満の要因にもなり得ます。制度導入時には、残業代の取り扱いや勤怠管理の複雑さ、休日取得の難しさなど、多面的にデメリットを把握し、丁寧な制度設計と説明を行うことが重要です。

制度がうまく機能しない場合や不満が多い場合には、廃止も選択肢の一つとなります。変形労働時間制に限らず、自社や従業員に合った制度を見直し、より良い働き方の実現を目指しましょう。


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