• 更新日 : 2025年6月19日

雇用契約書にサインしてもらえない場合の契約はどうなる?対処法についても解説

雇用契約書にサインしてもらえない場合、雇用契約は締結できません。契約の締結に従業員本人が同意していないと解釈されるためです。

ただ「サインをもらえないと、具体的にはどのような扱いになるの?」「サインを拒否されたあとは、どう対応すべき?」などと疑問に思っている人もいるでしょう。

そこで本記事では、雇用契約書にサインしてもらえない場合の扱いや対処法を中心に解説します。

雇用契約書とは?

雇用契約書とは、企業と労働者の間で雇用契約を締結したことを証明するための書類です。

民法の第623条により、雇用契約を締結することで労働者は企業に対して労働に従事すると約束し、企業は労働者に対して報酬を与えると約束したことになります。

雇用契約書は、従業員を採用したときや有期雇用の従業員の契約を更新するときなどに発行します。ただ実際は、雇用契約書の発行は義務付けられていません。企業と労働者の双方の合意があれば、口頭でも雇用契約は成立します。

しかし、口頭で雇用契約を締結してしまうと「言った・言っていない」のトラブルが発生する可能性があるため、きちんと雇用契約書を作成するのが望ましいです。

また、雇用契約書と似た書類である労働条件通知書は発行が義務付けられています。労働条件通知書と兼用して「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を作成すれば、1枚の書類で労働条件の明示と雇用契約の締結ができます。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

雇用契約を締結するタイミング

雇用契約書を締結するタイミングは、主に採用した従業員が入社するときと有期雇用の従業員の契約を更新するときです。

入社時と契約の更新時のタイミングで、雇用契約を締結する対象者を以下の表にまとめました。

入社時契約の更新時
  • 正社員
  • 契約社員
  • パート
  • アルバイトなど
  • 契約社員
  • パート
  • アルバイトなど

派遣社員は派遣元の会社と雇用契約を締結するため、派遣社員とは契約締結をしません。派遣先の会社は派遣元の会社と派遣契約を締結します。

また、業務委託も雇用契約の対象外です。業務委託と会社は雇用関係ではなく事業者間の関係として扱われるため、請負契約や委任契約などを締結します。

なお、契約を更新する場合は新しい雇用契約書を作成して契約締結をする必要があります。契約期間のみを更新する場合でも契約内容を変更する場合でも、新規の雇用契約書を用意して契約締結の手続きを行いましょう。

【ケース別】雇用契約書にサインしてもらえない場合の契約はどうなる?

雇用契約書にサインしてもらえない場合について、入社時と契約の更新時に分けて解説します。

入社時にサインしてもらえない場合

入社時に雇用契約書にサインしてもらえない場合、雇用契約は成立しないという扱いになります。

内定者がサインしないのは、契約の締結に合意していないためだと考えられます。会社と従業員の双方の合意がなければ、雇用契約は成立しません。よって、内定辞退と解釈するのが一般的です。

なお、雇用契約書にサインしたあとでも、内定者は辞退できます。民法の第627条の第1項により、辞退の申し出をしてから14日が経過すると雇用契約が解消されると規定されているためです。

また、入社承諾書にサインした場合も同様に、内定者は辞退できます。入社承諾書や雇用契約書にサインをもらったとしても、内定者が辞退を申し出たら会社側は拒否できません。

一方、会社は内定を通知した時点で、内定を取り消しできなくなります。内定の取り消しは解雇に相当し、合理的な理由がない限り解雇できないと労働契約法の第16条に規定されています。

参考:民法 | e-Gov 法令検索採用内定取消は解雇?|厚生労働省労働契約法 | e-Gov 法令検索

契約更新時にサインしてもらえない場合

パートや契約社員など有期雇用の従業員が契約を更新するときに雇用契約書にサインしない場合、契約を継続しないという扱いになります。

本人に更新する意思がないにもかかわらず、会社が一方的に契約を更新することはできません。従って、契約期間の満了により契約終了となります。

なお民法の第629条の第1項により、契約を更新していないのに従業員がそのまま働き続けた場合、会社側が黙認すると従来と同じ条件で契約を更新したことになります。

黙認するのであれば、同額の給料を支払わなければなりません。給与以外の条件面も従来と同様に扱う必要があるため、注意してください。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

雇用契約書へのサインを拒否された場合の対処法

雇用契約書へのサインを拒否された場合の対処法について、入社時と契約の更新時に分けて解説します。

入社時にサインを拒否された場合

契約が締結されず連絡もない場合は、本人の意思を確認してみることをおすすめします。

入社したい気持ちはあるが労働条件に納得していないようであれば、理由や納得できない箇所なども聞いてみましょう。入社前だとしても本人と面談を実施して、一緒に妥協案を探すのも一つの手段です。

ただ、内定辞退の意思が強いようなら、無理に引き留めたり説得したりせず辞退に応じた方が良いでしょう。前述の通り、入社承諾書や雇用契約書へのサインの有無は関係なしに、内定者は辞退できます。

説得を続けて無理やり入社させても、短期間で退職されてしまう可能性があります。労働者が自由な意思のもとで入社を決断できることが望ましいです。

契約更新時にサインを拒否された場合

契約を更新する際にサインを拒否された場合も、本人の意思や拒否の理由を確認することをおすすめします。

会社が提示した労働条件に納得できていないようであれば、面談して妥協案を探してみてください。本人の実績や勤続年数などを考慮して、昇給や雇用形態の変更などを提案するのも良いでしょう。

しかし、本人が契約の更新を望んでいないなら、無理に引き留めずに応じるべきです。会社が勝手に更新したり、引き続き出社を命令したりはできません。

また、サインをしていないのに期間の満了後もそのまま本人が働き続けている場合は、更新する意思があるのか確認してください。会社側も黙認すると、前述の通り従来と同一条件で契約を更新した扱いになります。

なお、有期雇用の労働者は契約期間が5年を超えたら、無期雇用への転換を申し込めます。本人の意識を確認したときや面談したときなどに、無期転換を申し込まれたら会社は拒否できないため覚えておきましょう。

参考:無期転換ルールについて|厚生労働省

雇用契約の締結に関するよくある質問5選

雇用契約の締結に関するよくある質問を5つ紹介します。

1. そもそも雇用契約書にサインは必要?

企業と労働者の双方の合意があれば口頭でも雇用契約の締結はできるため、合意しているならサインはなくても問題ありません。

ただ、口頭で契約を締結したりサインがない状態で契約締結をしたと見なしたりすると、契約を締結した証拠が残りません。トラブルに発展する可能性もあるため、きちんと雇用契約書を作成してサインをもらうことを推奨します。

なお、サインがあれば押印はなくても契約の締結に影響はありません。法律でも義務付けられていないため、押印をもらうのが難しい場合は省略も可能です。

参考:押印についてのQ&A|内閣府 法務省 経済産業省

2. 雇用契約書にサインしたあとでも入社辞退や退職はできる?

雇用契約書にサインしたあとでも、入社辞退や退職は可能です。民法の第627条の第1項により、辞退や退職を申し出た日から2週間後に契約終了となると規定されています。辞退や退職の申し出があった場合、会社側は拒否できません。

ただし、退職の申し出がいつでもできるのは、無期雇用の従業員のみです。有期雇用の従業員は契約期間の途中での解約はできません。民法の第628条と労働基準法第137条により、やむを得ない事情がある場合や、契約開始から1年が経過している場合には期間の途中であっても解約できます。

参考:民法 | e-Gov 法令検索
参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索

3. 雇用契約は口頭でも締結できる?

会社と従業員の双方の同意があれば、口頭でも雇用契約を締結できます。雇用契約書の作成は法律では義務付けられていません。

ただ、口頭だと雇用契約を締結した証拠が残らないため、書面か電子のどちらかで契約を締結しておくことをおすすめします。

なお、労働条件通知書は法律で交付が義務付けられているため、口頭でのみ労働条件を通知するのは違法です。必ず労働条件通知書を作成して従業員に交付してください。

4. 契約期間の満了を迎えたのに更新しないとどうなる?

契約期間の満了を迎えた際に更新手続きを行わないと、契約終了となるか従来と同一の条件で契約更新となります。

本人が契約を更新せず退職すると言っている場合は、契約期間の満了により契約を終了するべきです。

更新手続きはしていないが本人が通常通り働いている場合は、会社側から何も言わないと従来と同一の条件で更新した扱いになります。給料日に以前と同額の給料を支払う必要があり、勝手に給与額を下げることは認められません。他の条件も変更できないため注意しましょう。

5. 雇用契約書の変更を拒否されたらどうするべき?

雇用契約書の変更を拒否されたら、一方的に変更するべきではありません。

労働契約法の第8条により、企業と労働者の合意のもとで労働条件を変更できると規定されています。よって、従業員の同意なしで労働条件を変更するのは違法です。

変更を拒否されたら本人と話し合って妥協点を見つけるか、従来の労働条件に戻す必要があります。

また、変更を拒否されたからといって、解雇することも認められません。解雇には合理的な理由が必要です。変更の拒否を理由に解雇するのは不当解雇に該当するため、裁判に発展する可能性もあります。

なお、従業員にとって有益な変更は合意がなくても変更可能です。不利益な変更をする場合には従業員から合意を得てください。


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