• 更新日 : 2025年6月2日

「有給が勝手に使われた!」は違法?ルールや対処法、相談先をわかりやすく解説

有給休暇が会社に勝手に使われてしまうことは、原則として違法です。それは労働者の権利を侵害する行為であり、多くの労働者にとって大きな不安の原因になります。もし、自分の有給が知らないうちに使われていたら、どうすればいいのでしょうか?この記事では、その不安を解消するために、法律の知識や正しい対処法をわかりやすく解説します。労働者が安心して有給休暇を確保できるようサポートする内容です。

有給が勝手に使われるのは違法?

有給休暇は労働者の権利として法律で守られており、会社が一方的に消化することは基本的に認められていません。有給休暇(年次有給休暇)は、一定期間勤務した労働者に与えられるもので、労働基準法第39条によって取得のルールが定められています。

労働者は自分の取りたいタイミングで有給を取得できる権利があり、会社側がその時季を勝手に指定する権利はないのです。

例外として、後述する「計画的付与制度(会社と労働者の協定により特定の日を有給にする仕組み)」がありますが、労働者が自由に使える日数(少なくとも5日間)は確保されます。

また、2019年の法改正により年5日の有給取得が企業に義務付けられましたが、この場合も労働者の意見を聞いた上で取得日を指定する必要があり、一方的に好きな日に消化してよいわけではありません。

労働基準法で定められた有給のルール

労働基準法第39条では、有給休暇は労働者からの請求によって与えなければならないと規定されています。通常、入社から6ヶ月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対し、少なくとも10日間の有給休暇が与えられます。その取得にあたって労働者は取得日を自ら指定でき、会社はその指定された日を尊重する義務があります。

会社は業務上どうしても支障がある場合に限り、その日を別の日に変えてもらう(時季変更権)ことができますが、労働者の申請なしに有給を使わせる権利はありません。つまり「社員が休んだ日を会社が勝手に有給扱いにする」といった行為は、法の趣旨に反する違法な扱いとなります。

会社が勝手に有給を消化するケース

会社が有給休暇を勝手に消化してしまうケースには、いくつかのパターンが考えられます。

欠勤を勝手に有給扱いにする

労働者が病気や私用で欠勤した際、本人が有給申請をしていないにもかかわらず、会社が「この日は有給にしておいた」と勝手に処理してしまうケースがあります。特に、給与明細を見て初めて気づくことが多く、事前の確認なしに有給が消化されることは本来認められません。

事業の休止日に有給をあてがう

会社の都合で事業を休止する場合、本来なら休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う義務があります。しかし、それを回避するために勝手に有給休暇を充てるケースがあり、これは明らかに労働基準法違反です。

事前申請なしに有給取得扱いにされる

シフト制の職場では、本人の意思を確認せず勤務表に有給を組み込むことがあります。また、会社が長期休暇(お盆や年末年始)の前後に有給を加え、無理やり連休にすることも問題です。有給休暇は労働者の申請があって初めて成立するものなので、事前合意のない有給消化は不当な扱いです。

退職時に有給を勝手に消化される

退職時に残った有給休暇をどう扱うかは労働者の自由ですが、会社が一方的に「有給が残っているから、最終出勤日から退職日まで有給扱いにする」と決めてしまうことがあります。本来、労働者の意向を尊重するべきですが、引き継ぎなどを行いたい場合にもかかわらず、有給消化を強制されるのは違法な可能性が高いです。

いずれの場合も、労働者本人の意思に反して有給を消化させる行為であり、労働基準法違反となる行為です。

会社が勝手に有給を消化したら罰則はある?

では、会社がこうした違法行為を行った場合に罰則はあるのでしょうか。

労働基準法に違反して有給休暇を正当に扱わなかった場合、会社や経営者は法的な制裁を受ける可能性があります。具体的には、労基法第119条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。

また、前述の年5日の有給取得義務に違反した場合は、労基法第120条に基づき1人につき30万円以下の罰金が科されます。さらに、労働基準監督署からの是正勧告や指導が入ることもあり、企業にとって大きなリスクとなります。

つまり、有給を勝手に使うような会社の行為は、法律上も厳しく禁止されているのです。

会社に有給を勝手に使われてしまった場合の対処法

もし会社が自分の有給休暇を勝手に使ってしまっていた場合、労働者としてどのように対処すればいいのでしょうか。焦って感情的に責めるのではなく、冷静に権利を取り戻すための行動をとりましょう。以下に効果的な対処法を順を追って説明します。

まずは会社に確認しよう

最初に行うべきは、会社側に事実関係を確認することです。給与明細や有給管理表で不審な有給消化が見つかった場合、上司や人事担当者に「この日は有給取得した覚えがないのですが」と穏やかに問い合わせてみましょう。

会社側が単純なミスに気づいていなかった場合、指摘することで有給残日数を訂正してもらえるかもしれません。経理上の手違いで欠勤日を誤って有給として処理してしまうケースもあり、その場合は給与や有給日数の訂正が行われます。

重要なのは、口頭でも記録に残る形でも構わないので、まず会社に異議を伝えることです。自分が有給を望んでいないのに使われてしまったという意思表示を明確にしておきましょう。

労働基準監督署へ相談する

会社に確認しても納得のいく説明や是正がされない場合、次に労働基準監督署へ相談することを検討しましょう。労働基準監督署(労基署)は、労働基準法違反が疑われる事案について調査・指導を行う行政機関です。最寄りの労基署に相談し、事情を説明すれば、必要に応じて会社への調査や是正指導をしてもらえる可能性があります。労基署が会社の有給休暇の扱いに違法性を認めれば、是正勧告を出すなど適切な措置が取られます。相談は無料で行えるため、一人で悩まずに公的機関を頼ることは有効です。また、相談する際には、問題の起こった日時や内容、会社とのやり取りの記録(メールやメモ)など具体的な証拠や記録を持参するとスムーズです。

弁護士に相談する

労基署への相談と並行して、あるいは更なる対応が必要な場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することも選択肢に入れましょう。有給休暇の不正な扱いは法律違反ですから、場合によっては損害賠償請求や未払い賃金の支払いを求める法的手続きが検討できます。有給を勝手に使われた結果、労働者が本来取得できたはずの有給休暇を失ったり、退職時であれば有給消化分の賃金を受け取れなかったりといった損害が発生する可能性があります。弁護士に相談すれば、そうした場合にどのような権利主張ができるか、証拠を踏まえてどのように交渉・対応すべきかといったアドバイスをもらえます。また、会社との直接の交渉が難しい場合に弁護士が代理人として交渉に当たってくれることもあり、精神的な負担の軽減にもつながります。法律の専門家の力を借りることで、自分の有給休暇を取り戻すための心強い支援を得られるでしょう。

有給が勝手に使われないためにできること

このようなトラブルを未然に防ぐために、労働者自身が日頃からできる対策もあります。自分の有給休暇を守るために、以下のポイントに気を付けましょう。

労働契約書や就業規則を確認する

まず、入社時に交わした労働契約書や会社の就業規則を確認しましょう。有給休暇の取得ルールや手続き、計画的付与制度の有無、退職時の有給消化に関する規定などが明記されているはずです。なお、就業規則等に「欠勤時は自動的に有給消化とする」といった定めがあっても、法律に反する部分は無効となります。しかし、自分の会社がどのような方針を持っているか知っておくことで、事前に注意したり対策を考えたりできます。仮に不明瞭な規定や納得できないルールがあれば、人事担当者に質問して確認するのも良いでしょう。自分の権利を把握するために、まずは会社のルールブックをしっかり読み込むことが大切です。

有給の管理を徹底する

次に、日頃から自分の有給残日数を管理し、取得状況を把握しておきましょう。会社任せにせず、いつ何日の有給休暇を取得したか、残り何日あるかを自分でも記録しておくと、不自然な減り方にすぐ気付くことができます。最近では社内システムや勤怠管理アプリで有給の残日数が確認できる場合もありますが、自身でもメモを取るなどして二重に管理しておくと安心です。また、有給を申請する際はできるだけ書面やメールで記録が残る形で行うようにしましょう。口頭での申請だと後で「聞いていない」などトラブルになる可能性があります。自分の申請履歴を手元に残しておくことで、万一会社側の管理に誤りがあった場合にも冷静に指摘できます。

記録を残しておく

有給休暇に関するやり取りや、取得の状況については記録を残す習慣をつけましょう。具体的には、提出した有給休暇届の控えや、上司とのメールのやり取り、勤怠システムのスクリーンショットなどが挙げられます。万一トラブルになった際に、「いつどのように申請し、会社からどのような扱いを受けたか」を示す客観的な証拠になります。また、勝手に有給を使われそうになった場合や疑わしい指示を受けた場合には、その日時と内容をメモしておきましょう。例えば上司から「明日休んで有給にしていいよ」と一方的に言われた場合、その日時と内容をメモに残しておきます。記録があれば、労基署や弁護士に相談する際も状況を正確に説明でき、適切な対応につながります。

有給休暇の権利を正しく理解しよう

有給休暇は、本来自分のために使う大切な権利です。それを会社が勝手に使ってしまうのは、大きな問題です。有給休暇の無断使用は法律違反にあたるため、諦める必要はありません。法律の知識を身につけ、正しい対処法を知っておくことで、冷静に自分の権利を守ることができます。

また、日頃から会社のルールを確認し、自分の有給をしっかり管理することも大切です。記録を残しておけば、万が一のトラブルを防ぐことにもつながります。働く人一人ひとりが、有給休暇の権利を正しく理解し、上手に活用することで、誰もが安心して休める職場環境をつくっていけるでしょう。

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