- 更新日 : 2024年10月30日
アダプティブラーニングとは?アダプティブの意味や使い方を解説!
「アダプティブラーニング(Adaptive Learning)」とは、個人の能力や適性、習熟度に合わせ、学びを進める学習スタイルをいいます。人材の早期即戦力化や研修内容の強化といった点で、教育関係者だけではなく、企業からも注目されています。
ここでは、アダプティブラーニングの実例や効果、サービスについて紹介します。
目次
アダプティブラーニングとは?
「アダプティブラーニング(Adaptive Learning) 」とは、個人の能力や適性、習熟度に応じて、効果的に学びを進める学習スタイルをいいます。これまでの学習カリキュラムのように全体に共通の内容を教えていくだけのスタイルとは異なり、一人ひとりの習熟度や理解度に応じて最適化された学習プログラムを進められるため、より深い学びを得られる点が特徴です。
そもそも「アダプティブ」とは?
アダプティブとは、「Adaptive(適応性のある)」という意味の単語です。アダプティブラーニングは、「Adaptive(適応性のある)」と「Learning(学習)」を合わせた造語であり、日本語では「個別最適化学習」「適応型学習」などと訳されます。
アダプティブラーニングに関連する「EdTech」
「EdTech(エドテック)」とは、科学技術を活用して教育の効果を向上させる取組みをいいます。近年では、IT技術の発達により、学習者だけではなく指導者・教師も活用できるさまざまなサービスやシステムが登場しています。教育現場におけるテクノロジーの活用は、政府が推進する取組のひとつです。
なかでも、2018年に文部科学省がまとめた「Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性」では、EdTechを「教育におけるAI、ビッグデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取組」と位置づけ、すぐにでも着手すべき課題の中の一つとしてアダプティブラーニングを取り上げています。
引用:Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性|文部科学省
EdTechとeラーニングの違い
eラーニング(e-learning)とは、インターネット技術を活用して学習するシステムのことをいいます。近年では、パソコンだけではなくスマートフォンなどさまざまなデバイスからアクセスが可能であり、時間や場所を気にせず学びを進めることができます。
eラーニングは学びの手法の一つであり、指導する側と学習する側とでコミュニケーションを図ることができないのが一般的でした。一方、EdTechは学習する側に対するフィードバックが可能であり、理解できるまで学習することができます。そのため、ITの力で教育に革新を起こす取組みとして、アダプティブラーニングが近年急激に活用の場を広げているのです。
アダプティブラーニングはどういった場面で使う?
アクティブラーニングは、教育の現場だけではなく、人事の領域でも活用されています。
新人教育
新たに入社した社員のスキルや能力は、それぞれに異なります。新人教育といっても、新卒採用、異動、中途入社など、対象者に合わせた内容で研修計画を立てなければなりません。
アダプティブラーニングを導入すれば、対象者に合わせて教育プロセスを最適化することが可能です。対象者の経歴やスキル、知識に合わせたプログラミングが可能であり、従業員にとっては、自身に必要な学びが提供されるため、より主体的に取り組むことができます。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、社員それぞれの経歴・スキル・知識などを一元管理し、会社の人材配置、育成や教育に活用する方法をいいます。アダプティブラーニングを組み合わせることで、育成や教育といった部分で、社員それぞれに最適な学びを提供できます。自律的にキャリアを広げてもらう際にも効果的です。
アダプティブラーニングのメリット
アダプティブラーニングのメリットは、学習効果の向上、人材の早期育成などがあげられます。以下に、代表的なメリットを見てみましょう。
短時間での知識・スキル習得
アダプティブラーニングを導入することで、従業員それぞれに合わせた研修プログラムを提供できます。従業員によっては、得意分野や苦手分野があります。同じ業務を担当するにしても、経歴や習熟度によって理解にバラツキが生じるでしょう。アダプティブラーニングでは、それぞれの習熟度に合わせて、苦手分野を重点的に学ぶことが可能です。
人材の早期育成
アダプティブラーニングを導入することで、理解度の高い人は、次のステップにより早く進むことができます。短時間で必要な知識を取得できるため、人材の早期戦力化が期待できるでしょう。
学習状況の可視化・データの蓄積
データが蓄積され、学習状況が可視化されることもアダプティブラーニングの特徴です。従業員の学びの状況に合わせたフォローが可能です。学習履歴をもとに、適切なフィードバックを行えます。また、可視化された学習内容をもとに、研修プログラムの改善に活かすことができます。
教育の差分を減らす・均質化
アダプティブラーニングでは、分析データに基づき学習プログラムを提供します。なかには、AIによる分析で、より個別の学習者に合わせたプログラムを提供するサービスもあります。研修の場合、指導者の力量が学習効果に大きな影響を与えるものですが、アダプティブラーニングでは、指導者による差分をなくし、必要なスキルを効果的に習得させることが可能です。
研修コストの削減
従来、個別の従業員に合わせた指導は、大きなコストがかかるものでした。新入社員のOJTやOFF-JT、中途社員向けのオンボーディングなど、対象者やシーンに合わせて適切な研修プログラムを提供するため、頭を悩ませる人事の担当者は少なくありません。アダプティブラーニングでは、人的・時間的なコストを軽減し、個別の対象者に合わせたプログラムを提供できます。
アダプティブラーニングのデメリット
一方、アダプティブラーニングにもデメリットがあります。
モチベーションの維持が個人に委ねられる
アダプティブラーニングは、個別に進めることが前提の学習方法です。プログラムが最適化されているとはいえ、本人のモチベーションが原動力となります。受講者がモチベーションを維持できるような仕組みが求められます。
初期投資コストがかかる
アダプティブラーニングを導入するには、必要となるタブレットやPC端末などを用意しなければなりません。学習対象者が多いほど、初期費用がかかる可能性が高くなります。また、自社の目的に合わせた学習コンテンツをカスタマイズするなど、プログラムの作成時点で費用が発生する場合もあります。
分野によっては合わない
企業の研修では、事例に対して深掘りし、集団による討論や議論によりコミュニケーションを図ることを目的に行うことがあります。ときには実際に必要となる技術を実践し、技術を習得することを目的とした研修を行うこともあるでしょう。
アダプティブラーニングは、蓄積されたデータをもとに最適化を図るものです。そのため、属人的であったり、手足を動かして技術を学ぶような非言語領域の学習には適していません。導入にあたっては、自社が取り組む分野がアダプティブラーニングに適しているかを検討し、研修の目的に応じて使い分ける必要があります。
アダプティブラーニングの導入企業事例
アダプティブラーニングを社員教育に導入した企業の事例をご紹介します。
株式会社大分銀行
大分銀行では、Core Learn(コアラーン)を導入し、行員の研修に活用しています。金融業界向けの融資のベースとなる財務分析の知識を身につけさせるために導入し、4年目から6年目の行員を対象に25名が参加しました。財務資格や税務資格を持つ従業員からは、知識の定着に役立ったという声も聞かれています。
融資という、企業や個人に対して大きな影響力を及ぼすサービスを提供する行員にとって、知識は重要なものです。量が多い学習を達成したことで、参加した従業員の自信につながり、融資に関する能力上昇に寄与しています。
参考:
企業向け完全習得型eラーニング「コア・ラーン」|TOPPAN EDUCATION
【eラーニング活用事例】大分銀行様「コア・ラーン」|TOPPAN EDUCATION
アダプティブラーニングで使われるツール
アダプティブラーニングの分野では、さまざまなツール・サービスが登場しています。以下に、代表的なアダプティブラーニングを取り入れたツール・サービスを紹介します。
セレゴ
Cerego(セレゴ)は科学的に証明された学習理論に基づき、学習者に最適な学習内容を提供するプラットフォームです。教員や学術機関向けでは、日本でも多くの企業が導入しています。
学習者の記憶の定着、知識の蓄積をサポートし、天文学から看護学など、幅広いコンテンツが学べる点が特徴です。機能性やカスタマイズ性の高さなどが評価され、さまざまな企業で導入されています。
Knewton
「Knewton」は、学習者が主体的に見定めた目標を達成するために、習熟度にあわせて一人ひとりに相応しい学習ステップへと導くプラットフォームです。教育全般に適用可能で、さまざまな教科・科目、年齢層、言語に対応しています。教育関係での活用が中心ですが、プログラムの柔軟性から社員教育での活用も期待されています。
参考:Knewton
Core Learn(コアラーン)
Core Learn(コアラーン)は、TPPANが2017年に開発した、金融機関向けのアダプティブラーニングシステムです。「法務」「税務」「財務」「外為」の4科目を提供しています。
1日後、1週間後など、一定期間経過したタイミングで復習を促し、記憶の定着を図り、完全習得型で実践に強い点が特徴です。学習した内容が、実務で使えるレベルまで理解を促す「完全定着」の仕組みが高く評価されています。
参考:企業向け完全習得型eラーニング「コア・ラーン」|TOPPAN EDUCATION
アダプティブラーニングに関連する用語
最後に、アダプティブラーニングに関連するさまざまな用語について解説します。
ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションとは、教育コンテンツや研修コンテンツのなかに、ゲーム要素を取り込むことをいいます。アイテムの獲得やレベルアップなど、ゲーム的な要素が追加されることで、学習者は楽しみながら学びを勧められます。
LMS
LMSとは、Learning Management Systemの略称であり、学習管理システムを指します。学習教材を配信したり、成績などを統合したりする管理するシステムのことで、eラーニングの際に活用されます。管理者は、個別の学習者の習熟度や進捗度を、LMSを通じて確認できます。
アクティブラーニング
アクティブラーニングとは、受講者が主体的に学べるように設計された学習方法を指します。プレゼンを行うためのグループワークや、特定のテーマについて学び議論するグループディスカッションなどが含まれます。
個人に最適化された学びを提供するアダプティブラーニング
アダプティブラーニングを導入すれば、個人に合わせた学習プログラムを提供することができます。数時間、数日の研修の学びとは異なり、それぞれの習熟度に合わせ、知識が定着するまで学びを続けられるのが特徴です。
研修で得た知識は、定着するからこそ実務で活かすことが可能になります。従業員の成長のためにも、従業員個人に応じた学習プログラムを提供することができるアダプティブラーニングを取り入れたツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
ワークショップとは?意味やメリット、セミナーとの違い
「ワークショップ」という言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。当記事では、ワークショップと混同されがちなセミナーや研修との違い、メリット・デメリット、具体例などについて解説します。有効に活用すれば多くのメリットを享受できる手法…
詳しくみる従業員管理のペーパーレス化は義務?進め方やシステムの選び方を解説
紙媒体で人事労務管理を行っている企業も未だに多く存在します。しかし、不正確なだけでなく、効率もよくありません。従業員管理の効率化を図るには、ペーパーレス化が不可欠です。当記事では、従業員管理のペーパーレス化について、メリット・デメリットをは…
詳しくみるKSF(Key Success Factor)とは?意味や使い方を具体例をもちいて解説
KSF(Key Success Factor、キーサクセスファクター)とは、日本語では重要成功要因と訳されます。事業を成功させる要因のことで、市場で生き残るためにも必要な要素です。KSFの見つけ方や設定の際に役立つフレームワーク、KPIやK…
詳しくみる役職定年(やくてい)とは?実態や事例をもとに解説
役職定年(やくてい)とは、あらかじめ定めた年齢に達した社員が部長・課長などの役職から退く制度のことです。大企業で多く採用されており、組織を活性化させるというメリットがあります。 本記事では、役職定年のメリット・デメリットや上手に活用する方法…
詳しくみる出張中の移動時間は労働時間に該当する?ケースをもとに解説!
出張中の移動時間の使い方に悩む方は多いでしょう。移動時間が労働時間に該当するかどうかで、過ごし方が大きく変わります。 本記事では、具体的なケースや判例をもとに、出張の移動時間が労働時間に該当する条件を解説します。基本的に、移動時間は労働時間…
詳しくみるパワハラが発生したら会社の責任?判例や防止策を講じる義務について解説
上司による部下へのハラスメント(嫌がる行為)は、指導ではなくパワハラに当たる可能性があります。度が過ぎることで精神疾患を発症すれば会社が損害賠償請求を受けることにもなるでしょう。 本記事では、パワハラの発生と会社の責任について、判例や防止策…
詳しくみる