- 更新日 : 2026年1月14日
クレームとハラスメントの違いとは?判断基準や企業が取り組むべき対策を解説
顧客対応の現場では、「これは正当なクレームなのか、それともハラスメントに当たるのか」と判断に迷うことがあります。混同したまま対応すると、顧客との信頼関係を損ねたり、従業員に過度な負担をかけたりする恐れがあるため注意が必要です。
本記事では、クレームとハラスメントの違いや、企業がとるべき対応や体制づくりについて解説します。現場で迷わず判断し、適切な対応を行うための考え方を押さえておきましょう。
目次
クレームとは
クレームとは、顧客が商品やサービスに対して感じた不満や改善点を伝える行為です。クレームそのものは、必ずしも否定されるものではありません。内容が妥当であれば、企業にとって重要な改善の手がかりになります。
判断のポイントは、要求内容に合理性があるかどうかです。商品不良や説明不足、対応ミスなど、企業側に原因がある場合は正当なクレームに該当します。
一方、要求が行き過ぎている不当なクレームも存在しますが、それでも目的は問題解決にあります。この点が、嫌がらせを目的とするカスタマーハラスメントとの大きな違いです。
正当なクレームに誠実に対応することは、企業の信頼向上にもつながります。
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、顧客という立場を利用して、従業員に対し不当な要求や威圧的な言動を行う行為を指します。正当なクレームの範囲を明確に超え、従業員の就業環境を害する行為です。
2024年までは法律上の明確な定義がなく、現場判断に委ねられてきました。厚生労働省のガイドラインでは、「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」を掛け合わせて判断する考え方が示されています。
2025年の法改正により、「社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害する言動」として法的に位置づけられました。
以下の記事では、カスタマーハラスメントの特徴や関連する法律について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
カスハラとされる典型的な言動
カスタマーハラスメントには、共通する言動の特徴があります。代表的な行為は、下記のとおりです。
- 暴言・人格否定発言(侮辱・罵倒・大声での威圧)
- 脅迫的な言動(法的措置を示唆して繰り返し威圧する等)
- 過剰な謝罪要求や土下座の強要
- 何時間も拘束し続けるクレーム対応の強要
- 従業員個人への執拗な電話・メール・SNS攻撃
- 実現不可能な要求(金銭要求・無償提供要求等)
- 問題解決とは関係のない嫌がらせや侮辱行為
共通点は、嫌がらせや支配が目的になっている点です。
カスタマーハラスメントが企業に悪影響を及ぼす行為
カスタマーハラスメントは、企業に深刻な影響を及ぼします。まず、従業員のストレスが増大し、メンタル不調や離職につながるリスクが高まります。対応に多くの時間を取られるため、生産性が低下する点も見逃せません。
職場の雰囲気が悪化すれば、安全配慮義務が問題になる可能性もあります。特定の顧客対応に追われることで、ほかの顧客へのサービス品質が下がるケースもあります。
過度に顧客へ迎合すると、不当な要求が常態化する悪循環に陥りがちです。結果として、企業ブランドや顧客満足度全体にも悪影響を及ぼします。
クレームとカスタマーハラスメントの違い
クレームとカスタマーハラスメントは、どちらも「顧客からの申し出」という点では共通していますが、その中身は大きく異なります。
4つの視点による両者の違いは、下表のとおりです。
| 視点 | クレーム | カスタマーハラスメント |
|---|---|---|
| 要求内容 | 実際の不具合・ミスにもとづく合理的な要求 | 事実と乖離した過剰・不当な要求 |
| 伝え方 | 冷静・理性的で建設的 | 威圧的・攻撃的・執拗 |
| 目的 | 問題解決・改善・再発防止 | 嫌がらせ・感情の発散・支配 |
| 企業への影響 | 改善や信頼向上につながる | 従業員・組織に深刻な悪影響 |
1. 要求内容
クレームの場合、要求内容は実際に起きた不具合やミスと整合しており、企業が対応すべき範囲に収まっています。交換や返金、説明の改善など、現実的で実現可能な内容が中心です。
一方、カスタマーハラスメントでは、要求内容が事実と噛み合っていなかったり、企業の責任を大きく超えていたりするのが特徴です。実際の損害額を逸脱した高額補償の要求や、制度上不可能な対応を迫るケースが典型です。
判断のポイントは「自社に過失があるかどうか」を冷静に確認することです。要求内容が妥当かどうかで、両者は明確に分かれます。
2. 要求の伝え方
クレームでは、冷静な口調で事実を説明し、対話を通じて解決しようとする姿勢が見られます。企業側の説明に耳を傾ける点も特徴です。
一方、カスタマーハラスメントでは、下記のような不適切な手段をとる傾向があります。
- 暴言
- 威圧的な態度
- 人格攻撃
- 脅迫的な言動
長時間の拘束や土下座の強要、同じ要求を繰り返す行為は、「手段の不相当性」に該当します。たとえ要求内容が一部正しくても、伝え方が社会通念を逸脱していれば、クレームとして扱うべきではありません。
伝え方を見ることで、建設的な指摘か攻撃かを見極められます。
3. 目的
クレームの目的は一貫しており、問題解決や改善、再発防止にあります。やりとりを通じて納得すれば、クレームは収束していきます。
一方、カスタマーハラスメントでは、相手を困らせることや感情をぶつけること自体が目的になりがちです。問題が解決しても要求が止まらない、謝罪や補償を繰り返し求め続けるといった行動が見られます。
協力的な姿勢があるか、説明を聞く意思があるかも判断のポイントです。対話による解決を目指しているかどうかで、本質が見えてくるでしょう。
4. 企業に対する影響
クレームは、適切に対応すれば企業にとってプラスになります。
商品やサービスの改善点が明確になり、対応次第では顧客満足度や信頼の向上につながります。業務フローや体制を見直すきっかけにもなり、企業価値を高める材料にもなるでしょう。
一方、カスタマーハラスメントは企業に深刻なダメージを与えます。具体的な影響は、下記のとおりです。
- 従業員の精神的・身体的負担が増大する
- 離職や休職のリスクが高まる
- 業務が滞り、生産性が低下する
企業としての安全配慮義務違反につながるおそれがあります。さらに、これらの問題を放置してしまうと、職場環境の悪化や組織全体のモラル低下を招くことにもなりかねません。
具体例でクレームとカスタマーハラスメントの違いを比較
クレームとカスタマーハラスメントは、言葉だけで判断すると混同しやすいものです。ただし、実際の行動を具体例で見ていくと、違いははっきりします。ここでは代表的なケースを通して、どこで線引きすべきかを整理します。
正当なクレームの具体例
正当なクレームは、実際に起きた問題に対して、合理的な解決を求める行動です。たとえば、以下のようなケースが挙げられます。
- 商品やサービスに明らかな不具合があり、交換や返金を求める
- 料理や注文内容の間違いに対して、正しいものへの変更を依頼する
- 配送の遅延が発生した際に理由の説明や再発防止策を求める
- 案内不足による誤解について説明の訂正や改善を求める
いずれも要求は現実的で、企業側のミスや改善余地が前提にあるのが特徴です。伝え方も冷静で、対話を通じて解決しようとする姿勢が見られる点が共通しています。
カスタマーハラスメントの具体例
カスタマーハラスメントは、要求内容や行為そのものが不当な点が特徴です。軽微な傷を理由に、商品代とは別に高額な慰謝料を求めるケースは典型例です。
従業員に土下座を強制したり、上層部による過度な謝罪を執拗に求めたりする行為も該当します。また、下記のような行動も問題です。
- 長時間怒鳴り続けて対応を拘束する
- 従業員の個人情報や私生活に踏み込む
- 退去要請を無視して店舗に居座る
- SNSで晒す
- 役所やマスコミに通報すると脅して要求を通そうとする
感情の発散や相手を支配することが目的化しています。
判断が難しいケース
現場では、クレームとカスタマーハラスメントの境界が曖昧になる場面も少なくありません。とくに、次のような行為は判断に迷いやすいケースです。
- 補償要求そのものは妥当だが、威圧的な言い方によって担当者が萎縮してしまう
- 要求内容は合理的でも、同じ内容を何度も繰り返し、業務を妨げている
- 口調は冷静だが、求めている内容が企業の責任範囲を超えている
- 怒りの背景に理解できる事情はあるものの、感情的な表現が次第に強まっている
このような場合は、要求内容・伝え方・目的の3つの視点を切り分けて総合的に判断する必要があります。社内ガイドラインや過去の事例を踏まえて、個人任せにせず、組織として一貫した対応を行いましょう。
企業が取り組むべきクレーム・カスタマーハラスメントへの対策
クレームとカスタマーハラスメントへの対応は、現場任せにすると判断がぶれやすくなります。企業として、明確な方針と仕組みを整えることが、従業員を守り、適切な顧客対応を続ける前提です。
会社としての対応方針を決める
まず肝心なのは、会社としての姿勢を明確にすることです。従業員をカスタマーハラスメントから守るという方針を、文書で示しましょう。
クレームは真摯に受け止める一方で、暴言や脅迫、過度な謝罪要求などのハラスメント行為は容認しないといった線引きをはっきり示します。どのような行為をカスハラと判断するのか、考え方を社内で共有することも不可欠です。
トップメッセージや社内通達を通じて方針を発信すれば、現場は「会社が守ってくれる」という安心感をもてます。顧客対応部門だけでなく、人事・法務・管理職も同じ方針で動けるよう、全社的な周知が必要です。
困ったときに相談できる体制を整える
次に重要なのが、相談できる体制づくりです。ひとりで抱え込ませない仕組みを用意する必要があります。
カスハラを受けた従業員が相談できる窓口や担当者を明確にし、「明らかなハラスメントでなくても、判断に迷ったら相談してよい」ことを伝えましょう。これによって、心理的なハードルが下がります。
また、相談対応者の役割も整理しておきます。下記の連携をスムーズに行える体制が理想です。
- 状況の聞き取り
- 事実確認
- 関係部署との連携
必要に応じて、産業医やカウンセラー、弁護士など外部専門家と連携できる仕組みも準備しましょう。相談したことで、不利益を受けないことを明示する点も欠かせません。
クレーム・カスタマーハラスメントの対応ルールや手順を作る
現場の迷いを減らすには、対応ルールの明文化が不可欠です。クレームやカスハラ発生時の基本フローを文書化します。
どの段階で責任者や本部へ引き継ぐのか、エスカレーションの基準をあらかじめ定めておくことがポイントです。カスハラが疑われる場合の「してはいけない対応」や「対応を打ち切るライン」も明確にします。
あわせて、電話録音やメール保存、メモの取り方など、記録・証拠の残し方を統一します。想定される場面ごとにトーク例や説明文言を用意しておけば、誰が対応しても判断や対応にばらつきが出にくくなるでしょう。
従業員が正しく対応できるよう教育・研修を行う
次に、教育と研修です。知識と対応力の両方を身につける機会を継続的に設けましょう。
クレームとカスハラの違い、判断基準(要求内容・伝え方・目的)を全従業員に理解してもらいます。下記のように、初期対応のポイントも実践的にトレーニングしましょう。
- 傾聴
- 事実確認
- 感情的にならない姿勢
- ひとりで対応しない判断
ロールプレイングを取り入れることで、難しい場面での受け答えや引き継ぎのタイミングを体感できます。研修は一度で終わらせず、定期的に行い、現場の変化や事例にあわせて内容をアップデートしていきましょう。
カスタマーハラスメントが発生した場合の対応
最後に、カスタマーハラスメントが発生した場合の対応について解説します。
事実を確認し適切な対応を行う
まず行うべきは、事実関係の整理です。カスハラに該当するかどうかは、主観ではなく客観的な情報をもとに判断します。
下記のような方法で証拠を確認します。
- 録音データ
- 対応記録
- メール履歴
商品不良やサービス提供側の過失が事実であれば、謝罪や返品・返金などの対応を行います。一方、過失が認められない、または要求内容が不当な場合は、クレームに応じられないことを明確に示しましょう。
現場で判断が難しい場合は、責任者や本部、法務と連携し、会社としての公式見解を定めたうえで顧客へ通知を行います。
被害を受けた従業員をケアする
次に優先すべきなのは、従業員のケアです。企業として、カスハラ対応を個人に背負わせないようにしましょう。
状況に応じて複数名での対応に切り替え、精神的な負担を軽減します。強いストレスを受けた可能性がある場合は、早めに状況を聞き取り、休養や配置転換など必要な配慮を行います。
産業医やカウンセラーと連携し、メンタル不調の早期発見とフォローにつなげるのも必要な対応です。暴力や脅迫、ストーカー行為などが見られる場合は、警察への相談や身の安全を守る措置も検討しましょう。相談した従業員が不利益を受けないように、プライバシー保護も徹底することも重要です。
以下の記事では、カスハラの労災認定基準について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
同じトラブルが起きないように見直し・改善する
対応が終わった後は、振り返りが必要です。一件ごとの事案を組織の学びに変えることで、再発防止につながります。今回の対応で何がうまくいき、どこに課題があったのかを検証しましょう。
実例をもとに、対応マニュアルや判断基準、エスカレーションルールを見直します。似た事案を防ぐため、部署間の情報共有や連携方法を改善することも有効です。
現場から声を反映し、実務に即した内容へ継続的にブラッシュアップしましょう。法改正や社会状況の変化にあわせて、運用体制を定期的に見直す姿勢も欠かせません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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