- 更新日 : 2026年1月14日
カウンターオファーとは?成功させる手順と人材流出を防ぐ実務ポイントを解説
優秀な従業員の離職は、企業に大きな損失をもたらします。カウンターオファーは、人材の流出を防ぐ有効な手段のひとつです。ただし、提示の仕方や交渉の進め方を誤ると、再離職や組織の不公平感をまねくリスクもあります。
本記事では、目的や具体的な条件、成功のステップ、さらに離職予防の実務ポイントまで体系的に解説します。
目次
カウンターオファーとは?
人事領域でのカウンターオファーとは、従業員が退職の意思を示した際に、企業側が給与や役職、勤務形態などの条件を再提示し、残留に向けた交渉を行うことを指します。
本来は、貿易取引や不動産などの契約交渉において、相手の提示条件に対し修正案を示して、再提案をする意味で使われる用語です。条件交渉を通して、双方の合意点を探るという考え方が共通しています。
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カウンターオファーを提示する目的とメリット
カウンターオファーを提示する目的は、退職を申し出た従業員の離職を防ぎ、組織への影響を最小限に抑えることです。とくに、優秀な人材の流出防止や、採用や教育コスト増の回避といった点が大きなメリットとなります。
優秀な人材の流出防止
カウンターオファーが成功すれば、企業にとって重要な人材の流出を阻止できます。
組織運営を支える「コア人材」が離職すると、事業の継続性や生産性の低下に直結します。とくに、特定の顧客と強固な関係をもつ営業担当者や開発部門の技術者など、損失ははかり知れません。カウンターオファーは、こうした重要な人材の流出を緊急的に食い止めるための手段です。
一方で、転職市場では、前職からのカウンターオファーが理由の内定辞退もあります。そのため、単なる引き留めではなく、本人の離職理由や将来の可能性を踏まえた、戦略的なカウンターオファーが求められます。
採用・教育コスト増の回避
カウンターオファーが成功すると、従業員の採用や教育にかかるコスト増を防ぐことが可能です。
離職者が出ると、求人広告の掲載費、面接にかかる人的工数、エージェントへの手数料などの採用コストが発生します。さらに、入社後はOJTや研修などの新人教育に時間と人員を割く必要があり、現場の負担も大きくなるでしょう。
既存社員の残留を実現できれば、こうした一連のコストや工数を回避でき、結果として短期的なコスト効率の改善につながります。
人材を引き止めるための実務的な条件とは?
優秀な人材の離職を防ぐには、本人の離職理由にあった、納得できる条件を提示することが重要です。ここでは、とくに効果的な4つの条件を紹介します。
給与アップ
離職理由が金銭面への不満である場合、市場価値に見合った水準への給与引き上げが有効です。とくに、同業他社からヘッドハンティングを受けているケースでは、仕事内容よりも待遇面が重視されやすく、給与面の対応は交渉の要となります。
厚生労働省の調査によると、男性の転職入職者が前職を辞めた理由として、「個人的理由」の中で「給料等収入が少なかった」は10.1%を占めており、上位に位置しています。
ただし、昇給を行う際は、それが妥当かどうか慎重に検討することが不可欠です。会社の評価規定や既存社員との給与バランス、昇給後の昇給サイクルを整理した上で判断することが求められます。
昇進
キャリアや評価への不満があり、成長意欲の高い社員には、役職の付与や上位ポジションの提示が有効です。
本人が昇進を望んでいる場合、企業側の評価と期待を明確に示すことができ、強い動機付けにつながります。ただし、責任やプレッシャーを理由に昇進を望まない場合もあるため、本人の意向を丁寧に確認することが不可欠です。
また、役職に見合う能力やマネジメント適性を備えているか、周囲と信頼関係が築けているかについて上司にもヒアリングし、慎重に見極める必要があります。
配置転換
職場環境や人間関係、仕事内容への不満が退職理由の場合は、配置転換が効果的です。まずは、配置転換を希望する詳細な理由を本人にヒアリングします。理由が分かれば、希望に沿った部署を提案できるため、残留の可能性が高くなるでしょう。
また、個人の特定につながることにより退職理由の真意を言いづらい場合も、比較的提示しやすい条件といえます。
実施にあたっては、本人と受け入れ部署双方の意向を踏まえて、慎重に調整します。配置転換後も、オンボーディングを通じて新しい環境への定着をフォローすることが大切です。
配置転換について、詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
柔軟な働き方・雇用形態の変更
ワークライフバランスや雇用形態に不満がある場合は、勤務形態や契約内容の変更を提案すると離職防止が期待できます。働き方の選択肢を広げることで、従業員の生活状況に寄り添い、定着を促すことができます。
たとえば育児や介護との両立を希望する場合は、時短勤務やリモートワークへの変更が有効です。将来や収入を重視している場合は、パートから社員へ雇用形態の切り替えもひとつの方法でしょう。
いずれの場合も、人事部と所属部署での業務調整や就業規則、労働法の確認は欠かせません。制度面と現場運用の側面で検討し、判断することが大切です。
カウンターオファーを成功させる4つのステップ
カウンターオファーを成功させるには、理由の深掘りから条件調整、書面化、情報管理まで段階的に進めるプロセスが重要です。適切な手順を踏むことで社員の納得を得られ、再離職防止につながります。
1. 退職理由を正しく深掘りする
カウンターオファーを成功させるためには、従業員が退職を決意した理由を正確に把握することが不可欠です。真意や本質的な課題を理解しないままで条件を提示すると、本人の不満と噛み合わず、交渉が的外れになる恐れがあります。
人間関係への不満、将来のキャリアへの不安、評価や待遇への不満など、複数の要因が重なっているケースも少なくありません。
そのため、上司との1on1や人事部による面談を通じて、本人が抱えている課題を丁寧に掘り下げることが大切です。率直に話しやすい場を設け、本音を引き出す姿勢が適切な条件設計につながります。
2. 人事と現場で行う条件案の検討・社内調整
退職理由を把握した後は、提示する条件が人事制度や現場の実情と整合しているか、慎重に確認することが大切です。制度や運用とかけ離れた条件で合意すると、不公平感や運用上の混乱をまねく可能性が高いです。
昇給を行う場合は、金額や割合だけでなく、適用のタイミングや将来の昇給サイクルへの影響まで考慮する必要があります。
異動や働き方の変更を伴う場合は、受け入れ部署の人員計画や業務体制を踏まえ、人事部が契約内容や制度面の調整を行います。
人事と現場が密に連携し、実行可能な条件へと具体化していくことが、カウンターオファーを円滑に進める上で欠かせません。
3. 口約束を避けるための書面化
提示したオファー内容は必ず書面で正式に交わし、証拠を残す必要があります。
口頭のみの約束では、後から条件が履行されないリスクがあり「カウンターオファーは嘘だった」と、従業員に不信感を与えることになりかねません。再離職や、場合によっては訴訟といったトラブルの原因となる可能性もあります。
カウンターオファー専用の様式はないため、労働条件通知書や合意書を活用し、給与改定の時期や評価基準、配置変更の内容、実行期日などを具体的に明記します。
双方の認識をそろえ、合意後の混乱を防ぐことが重要です。
4. 交渉情報を適切に管理し、漏えいを防ぐ
カウンターオファーに関する交渉情報は、社内外に漏れないよう慎重に管理する必要があります。退職理由や待遇条件などの機密情報が漏れると、本人が不信感を抱いたり、社内に不要な混乱が生じたりするためです。
とくに、待遇条件が周囲に知られると、不公平感やモチベーション低下を引き起こし、組織全体の雰囲気の悪化につながりかねません。その結果、残留を決断した後に、カウンターオファーを受諾したことを後悔する可能性もあります。
そのため、情報の共有先は必要最小限に絞り、資料管理やメール送信時のルールも明確にしておくことが大切です。事前に情報管理の方針を定め、慎重に運用することが求められます。
カウンターオファー後の再離職を防ぐために取るべき対策
カウンターオファー後の再離職を防ぐためには、提示した条件が確実に実行されるように、フォローすることが不可欠です。
提示条件を確実に実行し、定期的なフォローをする
カウンターオファーによって残留が決まった後は、提示した条件を確実に実行し、継続的にフォローする必要があります。約束した条件が実行されなかったり、対応が遅れたりすると、不信感が高まり再び離職を検討されかねません。
カウンターオファー後は、本当に待遇が改善されるのかを、従業員が見極めている段階です。とくに人間関係や勤務形態が理由だった場合は、定期的な1on1やヒアリングで状況を把握し、必要に応じて改善策を講じることが大切です。
1on1について、詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
人間関係への影響を最小限に抑える
組織への影響として、カウンターオファーを知った周囲の社員が不公平感を抱き、モチベーションが低下する可能性があります。
また、残留した本人も「退職を考えた人」というレッテルにより疎外感を抱いたり、会社への忠誠心を疑われる可能性も否定できません。
周囲との摩擦を避けるためにも、条件提示は特別扱いではなく、個別の評価にもとづくものであることを、組織全体へ丁寧に説明して理解してもらう必要があります。
オファーを受けた時の従業員の思考プロセスを理解する
人事担当者は、従業員がどのような思考プロセスで、オファーを判断するかを理解しておく必要があります。
従業員はまず、退職を考えることになった根本的な不満が、提示された条件によって本当に解消されるのかを考えます。あわせて、今回の待遇改善が一時的な対応なのか、それとも企業として継続的に改善していく姿勢があるのかも見極めようとするでしょう。
さらに、カウンターオファーと内定先を、給与だけでなく仕事内容やキャリアパス、働き方などを含めて総合的に比較検討します。そこで人事は、従業員に冷静な判断を促し、考えるための十分な時間を与えることが大切です。
離職のサインと人材流出を未然に防ぐ予防策
カウンターオファー以外で離職を防ぐには、従業員の変化を早期に察知し、本質的な退職理由に向き合うことが大切です。兆候の把握から制度改善まで、組織として取り組むべき予防策を紹介します。
離職の兆候を早期にキャッチする方法
人材流出を防ぐためには、従業員の離職の兆候を早期に把握することが大切です。早期に察知できれば、面談や環境調整を通じて、離職を未然に防げる可能性があります。
具体的には、業績やパフォーマンスの急激な低下、会議での発言減少や周囲とのコミュニケーションの希薄化、遅刻や欠勤が増えるといった行動の変化が代表的です。
こうした変化に気づいた場合は上司任せにせず、人事や産業医と連携することが大切です。早期に面談を行い、本人の状況や背景を丁寧に把握することが求められます。早い段階での介入が、深刻な離職リスクの回避につながるのです。
従業員が退職を決意する本質的な理由への対策
退職の理由は、待遇や報酬面だけとは限らず、精神的な不満や将来への不安が根本にあることも少なくありません。こうした根本的な問題を解消できなければ、離職を防ぐのは困難です。
たとえば、会社のビジョンへの共感性の低下や将来のキャリアパスが描けないこと、職場での人間関係の悩みなどが挙げられます。「この先どのように成長できるのか分からない」「上司と価値観が合わない」といった不安は、離職を後押しする要因となりがちです。
そのため、エンゲージメントの向上やキャリア開発支援、人間関係の改善といった非金銭的な施策も、継続的に強化していくことが重要です。
離職を未然に防ぐための人事施策
カウンターオファー以外で離職を防ぐには、従業員が日頃から抱えている不安や不満を把握し、離職のサインを初期段階で見つけることが重要です。
そのためには、定期的な従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイを実施し、職場の課題を数値や傾向として可視化する取り組みが不可欠です。
あわせて、上司との1on1ミーティングの質の向上をはかり、業務の進捗確認だけでなく、メンバーの不満やキャリア意向を安心して話せる関係性を築くことが求められます。
さらに、評価制度や報酬制度を定期的に見直し公平性と透明性を高めることで、従業員の不信感を抑え、離職リスクの低減につなげられます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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