- 更新日 : 2025年12月23日
組織設計とは?進め方や原則・再編との違いを解説
企業の成長や環境変化に対応するためには、「組織設計」が欠かせません。組織設計とは、目指す戦略を実現するために最適な組織構造や役割、情報の流れを整えるプロセスです。
しかし実務では「どのタイミングで着手すべきか」「どう設計すれば機能するのか」といった悩みも多いものです。
本記事では、組織設計の基本的な考え方から実施ステップ、再編が必要な場面や新規設計との違いなどを解説します。
目次
ビジネスにおける組織設計とは?
組織設計とは、企業が戦略的な目標を達成するために最適な組織体制を構築するプロセスです。企業の目的や環境に合わせて、構造・役割・権限・情報の流れなどを総合的に設計する活動を指します。以下ではその定義と目的を解説します。
【定義】戦略達成のための構造設計
組織設計とは、企業が掲げる戦略や目標を効率的に実現するために、組織の構造や仕組みを意図的に構築・最適化することを意味します。組織図の作成というだけではなく、組織を構成する人員の役割分担や指揮命令系統、情報共有の仕組み、評価制度など、組織を機能させる要素すべてを設計するプロセスを指します。
たとえば、成長段階にある企業では、部署の新設や権限委譲の設計を行い、効率的な運営が可能な体制を整備します。組織設計は、構造だけでなく、業務プロセスや人材配置にも深く関わる経営活動と言えます。
【目的】持続的な成果創出の基盤づくり
組織設計の主な目的は、企業が持続的に成果を上げるための「土台」を整えることです。明確な役割分担と指揮系統を備えた組織体制は、業務効率を高め、部門間の連携を促進します。また、社員が自分の担当業務と責任を理解しやすくなることで、自律的な行動が生まれやすくなります。
さらに、戦略の実行に必要なリソースを正しく配置し、変化する環境にも柔軟に対応できる組織をつくることができます。このように、組織設計は企業の成長と競争力強化を支える基盤設計です。
組織設計は誰が行う?
組織設計は経営戦略に直結する重要な業務であり、経営層が中心となって進めます。ただし、実務面では人事部門や各部門責任者も重要な役割を担います。
経営層が戦略に基づく方向性と意思決定を担う
組織の全体像や目指す方向性を定め、最終的な設計判断を下すのは経営層です。組織設計は経営戦略と密接に関わるため、企業の将来像を見据えた構造を描く責任があります。
人事部門は制度面の設計と実務実行を担う
人事部門は、経営方針に沿って職務や評価制度などを整備し、具体的な組織案を設計します。組織文化や人材の特性も踏まえ、現実的な制度運用を形にする役割です。
部門責任者は現場視点からの実効性を担保する
部門長やマネージャーは、日々の業務を踏まえた現場の課題や改善案を提供します。組織設計が実際に機能するかどうかは、現場の知見に基づく意見の反映が不可欠です。
組織設計に取り組むべきタイミングは?
企業が成長し、従来の体制では円滑な運営が難しくなったとき、組織設計が必要になります。以下に、取り組むべきタイミングを整理します。
組織の拡大によって管理が複雑化したとき
組織設計は、経営者の目が行き届かなくなるタイミングが一つの目安です。社員数が20名を超える頃から、属人的な運営では限界が見え始め、指揮命令系統や役割の明確化が求められます。組織が拡大していく中で、情報の行き違いや責任の不明確さを防ぐには、計画的な体制構築が欠かせません。
事業の変化や人員の急増があったとき
新規事業の立ち上げや急激な採用があった場合も、組織設計の見直しが必要です。既存の枠組みでは対応できなくなり、業務が滞ることがあります。このような変化には、柔軟な機能再編や人材配置の調整によって対応すべきです。
外部環境の変化が起こったとき
市場の変化、競合の出現、顧客ニーズの変動といった外的要因によっても、組織再構築が求められる場面があります。戦略に即した体制に改めることで、変化に強く持続可能な組織へと成長できます。
組織設計の対象範囲は?何を設計する?
組織設計では、企業が機能的に動くための仕組み全体を対象とします。構造だけでなく、役割や業務フロー、制度や文化に至るまで、幅広い視点から設計を行う必要があります。
組織構造【戦略に沿った部門配置と指揮系統】
中心となるのが組織構造の設計です。部署やチームの編成、上下関係、横の連携方法などを明確にし、企業戦略に適した形に整えます。たとえば、機能別組織や事業部制、マトリックス型など、事業特性に応じて最適な構造を選択します。構造が不明確だと、業務の重複や指示系統の混乱を招くため、設計段階での検討が重要です。
役割と権限【責任の明確化と意思決定の整理】
各部門やポジションごとの役割と責任、権限を定めます。誰がどの意思決定を行い、どこまでの業務範囲を担うのかを設計することで、業務の抜け漏れや責任の押し付け合いを防ぎます。役割が曖昧な組織では、トラブル時の対応が遅れるリスクがあります。
業務プロセスと情報フロー【連携と効率を設計する】
業務が部門をまたぐ場合、どのように連携し情報を流すかを定義する必要があります。たとえば、製品開発から販売、カスタマーサポートに至るまでの流れにおいて、各部門がスムーズに連携できるよう業務プロセスを整えます。情報共有の仕組みも含めて設計することで、組織全体の生産性が向上します。
人事制度と報酬体系【行動を促す制度設計】
評価制度や報酬体系も組織設計の重要な一部です。構造に応じた人事制度を設けることで、社員の動機づけが可能になります。適正な評価や昇格の基準、人材育成の方針などを設計し、企業の目標と社員のキャリア形成が一致する仕組みを整える必要があります。
組織文化【理念と価値観の共有も設計対象】
目に見えない組織文化も設計の視野に含まれます。経営理念や価値観が構造と一致していなければ、現場での行動がばらつき、組織が機能しなくなります。制度や組織構造と文化の方向性を合わせることが、長期的に強い組織を育てます。
組織設計の五原則とは?
組織設計の五原則とは、企業が効率的に機能し、戦略を実行できるように組織を構築する際の基本指針です。多くの企業が組織づくりでつまずく背景には、構造・役割・情報の設計が原理原則に沿っていない点があります。五原則を理解すると、組織の歯車がかみ合う状態を意図的につくることができ、人や仕組みが無理なく機能する組織体制を形づくることが可能になります。
組織設計の五原則の解説表
| 原則 | 内容 | 解説 |
|---|---|---|
| ① 分業の原則(専門性の明確化) | 業務を役割ごとに分け、専門性に応じて担当を割り当てる | 分業が明確だと、作業の重複・抜け漏れがなくなり、生産性が高まる。専門性に適した役割配分ができ、個々の強みを生かした組織運営が可能になる。 |
| ② 権限責任一致の原則 | 任される役割と権限、責任範囲を一致させる | 権限が不足すると意思決定が遅れ、責任だけ負う状態は混乱を招く。役割・権限・責任が一致することで迅速な判断や行動が促され、組織が止まりにくくなる。 |
| ③ 指揮命令一元化の原則 | 一人のメンバーに対して、上司を一人にする | 複数の上司から異なる指示が出ると混乱が生じる。命令系統を一本にすることで、指示の一貫性が保たれ、トラブル時も責任の所在が明確になる。 |
| ④ 統制範囲の原則(管理可能な人数) | 一人の管理者が適正人数をマネジメントする | 管理できる人数には限界があるため、統制範囲(スパン・オブ・コントロール)を適正化することで、上司の負荷を抑え、部門運営を安定させることができる。 |
| ⑤ 権限委譲(例外の原則) | 日常的な判断・承認は現場に委ね、上位者は例外的・重要な案件に集中する | 「通常ルートで判断できることは現場で完結させ、例外だけを上位に上げる」という考え方で、承認フローや稟議を増やすのではなく、例外の定義を先に決めることで、統制とスピードの両立を図る |
組織設計の進め方は?
組織設計は、現状の課題を見極め、目指すべき姿を定めたうえで段階的に構築していくプロセスです。以下に、基本となる手順を解説します。
① 現状分析と目標設定
まずは、現在の組織体制のどこに問題があるのかを整理し、解決すべき課題と将来像を明確にします。部門間の連携不足や意思決定の遅延など、日常的な障害を具体的に洗い出すことが出発点です。加えて、経営戦略や事業計画を踏まえ、組織設計によって何を実現したいのかを定量的な目標として設定します。
② 組織構造と役割の設計
次に、設定した目標に合わせて、最適な組織構造を設計します。必要な部門やチームを明確にし、それぞれの機能や責任範囲を整理します。製品別・顧客別・機能別など、業務特性に応じた構造を選定し、情報共有や意思決定の流れも合わせて整えることが重要です。
③ 人員配置と実行
新しい組織構造に基づいて、各ポジションに適した人材を配置します。現有メンバーの適性やスキルを考慮しながら異動を検討し、必要に応じて外部人材の採用も行います。また、新体制をスムーズに運用開始するためには、社内説明や導入研修などの事前準備が不可欠です。
④ 定着後の評価・改善
組織を実際に運用しながら、目標達成状況や業務プロセスの改善度合い、社員の満足度などを多面的に評価します。その結果に応じて、必要な調整や再設計を行い、柔軟に改善を重ねることが成功の鍵です。組織設計は一度で完成させるものではなく、環境変化に応じて見直し続ける姿勢が求められます。
組織再編が必要となるケースと新規組織設計との違いは?
組織の体制を見直す必要が出てくる場面にはさまざまなケースがあります。経営環境の変化や社内の成長にともなって、現行組織が機能しなくなった場合は「組織再編(リストラクチャリング)」を検討すべき重要なタイミングです。
以下では、組織再編の典型的なケースと、新規組織設計との違いを解説します。なお、ここでいう「再編」は組織構造・役割の見直しであり、人員削減を指すものではありません。
組織再編が求められる5つのケース
まず、組織再編が必要になる主な状況を確認しましょう。
- 経営戦略の転換
企業の戦略が大きく変化する際、従来の組織体制では新戦略に対応できないことがあります。製品重視からサービス重視への移行、国内中心から海外展開へのシフトなどが該当します。この場合、不要な部門の統廃合や、新しい機能組織の設置が求められます。 - 市場・技術などの外部環境変化
市場ニーズの変化、業界構造の再編、新技術の登場などにより、現在の組織ではスピードや競争力が不足する場合、柔軟に対応できる新しい体制への見直しが不可欠です。 - 急速な事業の拡大または縮小
急成長によって人員や部門が膨張したときや、逆に収益悪化により組織のスリム化が求められるときも再編のタイミングです。管理職の負荷を適正に分散し、運営効率を取り戻すために構造を整理します。 - M&Aや企業統合
他社との統合時には、重複する部門の整理・再編が避けられません。また、両社の文化や意思決定プロセスの統合も必要となり、単なる構造の統合だけでなく「融合のマネジメント」も重要です。 - 組織機能不全の顕在化
部門間の対立、責任の不明瞭さ、人材の離職などが頻発する場合、組織構造そのものが現状に合っていない可能性があります。組織階層の簡素化や、責任範囲の再設計が必要になります。
これらの状況では、部分的な改善では対応できないため、根本からの再編を検討する必要があります。
組織再編と新規組織設計の違い
組織再編と新規組織設計では、取り組む背景と設計プロセスに大きな違いがあります。
- 再編は「既存組織の再構築」
再編では既存の社員、制度、文化がすでに存在しており、それらを前提としたうえで再構成を行う必要があります。そのため、部署の統合や人材の配置転換など、従業員への影響が大きく、変化に対する抵抗や混乱が生じやすくなります。このため、丁寧な社内説明や段階的な導入など、チェンジマネジメントの視点が不可欠です。 - 新規設計は「白紙からの創造」
新たに事業を立ち上げる場面などでは、既存の枠組みにとらわれず、理想的な組織像を自由に描ける利点があります。ただし、すべてをゼロから構築するため、人材の確保や文化形成、制度設計など、多くの要素を並行して整えていく必要があります。構想があっても、それが実務として機能するかどうかは不確実であり、試行錯誤が求められます。
組織再編を成功させる5つのポイント
- 再編の目的と方針を全社で共有する
なぜ組織再編を行うのか、その背景と狙いを明確にし、社内に分かりやすく伝えます。目的が曖昧なまま再編を進めると、現場の納得を得られず混乱を招きます。 - 従業員との丁寧な対話と説明を重ねる
社員一人ひとりに影響を及ぼす可能性があるため、丁寧な情報提供と質疑応答を行い、不安や誤解を解消します。信頼関係の維持がスムーズな移行の鍵です。 - 段階的かつ現実的な移行計画を立てる
一度に全体を変えようとせず、フェーズごとに進めることで業務への影響を最小限に抑えます。暫定措置や試験運用期間の設定も有効です。 - キーパーソンの早期巻き込みと現場主導の推進
現場で信頼されるマネージャーやリーダーを巻き込むことで、再編に対する抵抗感を下げ、社内の実行力を高めることができます。 - 再編後の効果測定と継続的な改善
新体制が想定どおり機能しているかを、定量的・定性的に定期確認します。問題があれば柔軟に修正し、制度や組織文化もあわせて整備していく姿勢が重要です。
強い組織を作る組織設計で企業の成長を支えよう
組織設計は企業戦略と現場力を結び付ける重要な施策であり、適切に行うことで組織全体の効率化と社員のモチベーション向上、ひいては競争力強化につながります。
企業は成長フェーズや業界特性に応じて最適な組織体制を模索し、必要に応じて組織再編も実施しながら柔軟に進化していくことが求められます。自社に合った組織設計に取り組めば、将来的な安定成長と強い組織づくりへの第一歩となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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