- 更新日 : 2025年12月23日
ストレスチェックで社員が引っかかったら?企業が取るべき対応を解説
従業員のメンタルヘルス管理は、企業にとって欠かせないリスク対策のひとつです。年1回の実施が義務付けられているストレスチェックでは、「高ストレス者」と判定されることがありますが、その際、企業はどのような対応を取るべきなのでしょうか。
本記事では、ストレスチェックで引っかかった場合の定義や、企業が取るべき対応手順、放置するリスクや面談の扱いに関する注意点などを解説します。
目次
ストレスチェックとはどんな制度?
ストレスチェック制度は、労働者のストレスを数値化してメンタルヘルス不調を予防するために設けられた仕組みです。従業員50名以上の事業場では年1回の実施が義務づけられており、従業員のストレス状態を把握し職場環境の改善へつなげる役割があります。
従業員のストレスを可視化し不調を予防する仕組み
この制度は、質問票への回答をもとに従業員のストレス反応や職場要因を把握し、数値化された結果を従業員自身にフィードバックするものです。これにより、自分の状態に気づく機会が生まれ、不調の早期発見につながります。また、高ストレス者には医師面接の機会が提供されるため、必要な支援につなげる流れも整備されています。
年1回のストレスチェックは令和10年度から全事業場で実施義務へ
2015年の労働安全衛生法改正では、従業員50名以上の事業場に対して年1回のストレスチェック実施が義務付けられ、対象は正社員だけでなく、一定の条件を満たす契約社員やパート従業員も含まれる場合がありました。一方で、従業員50名未満の事業場については努力義務とされていました。
しかし、令和7年5月に改正労働安全衛生法が可決・成立したことで、公布の日から3年以内に事業場の従業員規模を問わず、すべての事業場に年1回のストレスチェック実施が義務化されます。遅くとも令和10年度までには、事業場の従業員規模を問わずすべての事業場で実施が義務化される見通しです。
これにより、小規模事業場も含めた全ての企業において、制度への準備と対応が必要となります。
参考:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要|厚生労働省
結果は職場環境の改善にも活用できる
ストレスチェックの個人結果は本人のみに通知されますが、一定人数以上の結果をまとめた集団分析は企業が受け取ることができます。集団分析では特定個人を識別できない形で部署ごとのストレス傾向を把握でき、業務量の偏りやコミュニケーション課題など、改善すべき職場要因を見つける手掛かりとなります。これにより健康管理だけでなく、組織全体の職場改善にも活用できる制度となっています。
ストレスチェックで「引っかかる」とは?
ストレスチェックに「引っかかる」とは、ストレスチェックの結果が一定の基準を超え、「高ストレス者」と判定された状態を指します。この判定は、厚生労働省が定める目安を基に、質問票のスコアや職場環境の要因などを踏まえて行われます。高ストレス者に対しては産業医面談の案内が行われ、従業員自身が自ら希望すれば面接指導が実施される仕組みとなっています。
「引っかかる」とは高ストレス者に該当すること
ストレスチェックで「引っかかった」という状態は、検査結果が基準値を超え、「高ストレス者」と評価されたことを意味します。高ストレス者とは、強いストレス反応を示すだけでなく、職場でのストレス要因が多く、かつ周囲からのサポートが不足しているとされる従業員を指します。こうした状態は、メンタルヘルス不調に進行するリスクが高いため、企業としても注意が必要です。
高ストレス者の判定基準は事前に定められた基準によって決まる
ストレスチェックでの判定基準は法律で一律に定められているわけではなく、事前に企業の産業医や衛生委員会が設定した評価基準に基づきます。厚生労働省のマニュアル例では、「心身のストレス反応」が77点以上、あるいは「職場のストレス要因」「周囲のサポート」が極端で、かつ「ストレス反応」が63点以上の場合などが該当基準とされます。この設計では、実施者全体の約10%前後が高ストレス者に分類されるのが一般的です。
高ストレスと判定されても企業に結果が自動で知らされることはない
ストレスチェックの個人結果は、本人と実施者(産業医や実施機関)にのみ通知され、企業には本人の同意がない限り提供されません。そのため、会社側は誰が高ストレスに該当したのかを知ることはできず、対象者本人が申し出ることによって初めて面接指導の対応が可能になります。プライバシーが保たれていることは、従業員に安心感を与える大きな要素となっています。
高ストレス判定の社員は産業医面接を受ける義務がある?
ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員に対しては、産業医との面接指導を受ける機会が用意されますが、その受診は義務ではありません。法律上、医師面接の実施義務は企業側に課されており、従業員本人には申出の自由があります。
産業医面接は義務ではない
ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員には、医師による面接指導の案内が実施者から個別に行われます。この面談は労働者の申し出に基づいて実施される仕組みであり、受けるかどうかは本人の自由です。企業が一方的に面談を強制することはできず、本人の意思が最も尊重されます。
面接指導の実施義務は企業側にある
労働安全衛生法第66条の10第3項では、高ストレス者が医師面接を希望した場合、企業が速やかに実施することを義務付けています。一方で、ストレスチェック自体の受検や、その後の面接指導は従業員に義務付けられていません。つまり、企業には対応義務がある一方で、従業員は受けるかどうかを選べる制度設計になっています。
企業は申出しやすい体制づくりを整備する必要がある
従業員が面接を受けやすくなるようにするためには、プライバシーの保護、不利益取り扱いの禁止、相談体制の明確化が不可欠です。面談が会社に知られないことを明記した案内文を出したり、オンライン面談や外部相談窓口を整備したりするなどの工夫が有効です。こうした取り組みによって、面接指導への心理的なハードルを下げることができます。
過労面談とストレスチェック面談では義務の有無が異なる
なお、月80時間を超える長時間労働者に対して行われる「過労面談」は、労働者にも受診義務が課されていますが、ストレスチェック由来の産業医面談はあくまで任意です。両者は制度上の位置づけが異なるため、混同しないように注意が必要です。
ストレスチェックで高ストレス者が出た場合の対応フローは?
ストレスチェックで高ストレス者が判定された場合、企業は法令に基づき段階的な対応を進めることが求められます。ここでは、企業が行うべき流れをステップごとに整理します。
① 実施者から高ストレス者本人へ面談案内を行う
高ストレス者が抽出されると、ストレスチェック実施者(産業医・保健師など)から本人に直接、医師面接の案内が通知されます。この時点で企業は誰が該当したかを知ることはできず、本人の同意がない限り結果は共有されません。案内文には、不利益がないことや面談内容が企業へ伝達されないことが明記され、安心して申し出ができるような配慮が求められます。
② 本人が希望した場合に企業が面談の調整を行う
従業員が産業医面談を希望したら、企業は遅滞なく日程と場所を調整します。一般的には案内後1か月以内の実施が望まれます。実施にあたり企業は、医師が状況を把握するために必要な情報を事前に提供します。氏名や所属、ストレスチェックの個人結果、健康診断情報、業務状況、直近の時間外労働などがその対象です。
③ 産業医が従業員に面接指導を行う
面談では、従業員の心身状態、ストレス要因、勤務実態などが産業医によってヒアリングされます。産業医は医学的な観点から状況を評価し、働き方の継続可否などについて判断を行います。この内容は守秘義務のもとで扱われ、本人が同意しない限り企業に詳細が伝わることはありません。
④ 産業医が企業へ就業上の措置に関する意見書を提出する
面談後、産業医は企業に対して就業上の措置について意見書を提出します。企業はこの意見を踏まえ、「通常勤務の継続」「短時間勤務」「残業や出張の制限」「配置転換」「休職」など、必要な措置を検討します。
⑤ 企業は就業上の措置を決定し実施する
就業上の措置が決まったら、企業は速やかにその内容を実施し、産業医にも報告します。措置の内容は衛生委員会での情報共有が必要となる場合もあります。措置を講じた後は、継続的に効果を確認し、必要に応じて追加の対応を行います。
⑥ 記録を保存し、継続的なフォローを行います
産業医面談記録や意見書などの資料は、労働安全衛生規則により5年間の保存が義務付けられています。記録を残すことで、将来的な健康問題や労務トラブルへの備えにもなります。また、措置を講じても改善が見られない場合には、再度の面接指導を実施するなど、継続的なサポートを行うことが大切です。
高ストレス者を放置するとどんなリスクがある?
高ストレス者に対して何の対応も取らずに放置することは、本人の健康だけでなく企業経営にも深刻なリスクを及ぼします。企業には「安全配慮義務」が課されており、ストレスの兆候を把握した時点で、早期対応をとることが求められます。
健康悪化や労災発生のリスク
高ストレス状態が続くと、うつ病や不安障害などの精神疾患に発展する可能性があり、集中力の低下により業務ミスや事故も起こりやすくなります。これにより従業員の休職や離職につながるだけでなく、職場全体の安全にも悪影響が及びます。
安全配慮義務違反として責任を問われる
従業員の健康状態に関する兆候を把握しながら、適切な措置を講じなかった場合、企業は労働契約法に基づく安全配慮義務違反と判断される可能性があります。最悪の場合、損害賠償や労災認定の対象になるリスクがあります。
組織のパフォーマンス低下につながる
高ストレス状態の従業員が適切な支援を受けられないと、業務効率の低下や周囲への悪影響が連鎖的に広がります。職場の士気が下がり、人間関係にも悪影響を及ぼすことで、離職率の上昇や採用コストの増大などの組織的損失が生じます。
産業医との面接内容を企業が知ることはできる?
ストレスチェックの面談結果は、従業員のプライバシーに関わる情報を含むため、企業にとっても取り扱いには細心の注意が必要です。ここでは、面談内容が企業にどこまで共有されるのか解説します。
面談の内容は本人の同意がなければ企業には伝えられない
産業医との面接指導におけるやり取りの内容や、従業員が語った私的な情報は、医師の守秘義務により保護されます。企業が従業員の健康状態や面談の詳細な中身を本人の同意なしに知ることはできません。これは、一般の医療と同様に医師と患者の間で交わされる情報として扱われており、本人が明示的に了承しない限り、会社の上司や人事担当者にも内容は共有されません。
企業に提供されるのは「就業上の措置」に関する意見のみ
面談後、産業医から企業に渡されるのは「就業上の措置に関する意見書」です。これは、従業員が通常通り勤務可能か、一時的な労働制限が必要か、休職が適当かなど、医学的見地から就業に関するアドバイスがまとめられたものであり、プライベートな会話や症状の詳細は含まれません。企業はこの意見書を基に、必要な就業上の対応を検討することになります。
プライバシー保護の理解が従業員の安心につながる
企業側がプライバシー保護の原則を正しく理解し、従業員に対してもその点を明確に説明することが、制度の信頼性を高め、面談申出率の向上にもつながります。人事担当者は、面談を申し出ても評価や処遇に影響がないこと、話した内容が知られることはないことを丁寧に伝えることが求められます。これは従業員が安心して支援を受けるための前提条件でもあります。
ストレスチェック後のフォローは企業の責務
ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員への適切なフォローは、企業の安全配慮義務の一環として欠かせません。ストレスチェックに社員が引っかかったら、速やかに産業医面談の案内や就業上の措置検討などの対応を行いましょう。本人の意思を尊重しつつも、メンタルヘルス不調の芽を見逃さず早期に対処する姿勢が重要です。
ストレスチェック制度を、実効性のあるメンタルヘルス対策として活用することが、健全な職場づくりにつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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