- 更新日 : 2025年12月5日
長時間労働を減らすには?企業の成功事例と効果的な対策を解説
長時間労働は、従業員の健康悪化や離職リスクだけでなく、企業の生産性や信頼にも影響を与える深刻な課題です。2019年の働き方改革関連法によって、時間外労働の上限が法的に明確化されました。企業にはいっそうの対策が求められています。
しかし、人手不足や業務の属人化などにより、現場では依然として改善が進まないケースも多いのが実情です。
本記事では、長時間労働の定義や企業に与える影響、長時間労働対策の成功事例を解説します。
目次
長時間労働の定義と法的な位置づけ
長時間労働に明確な法的定義はありません。しかし、一般的には法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える働き方を指し、過度な残業は健康障害や労災リスクを高めるとされています。
ここでは、「時間外労働の上限規制」と「過労死ライン」といった2つの観点から、長時間労働に関わる法的リスクを解説します。
以下の記事では、働き方改革について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
労働基準法で定められた時間外労働の上限
労働基準法では、原則として1日8時間・週40時間を超える労働は認められていません。例外的に時間外労働を行う場合は、労使間で「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
2019年の法改正によって、時間外労働には月45時間・年360時間以内(ただし、月45時間を超えられるのは年6ヶ月まで)という上限が明確に設定されました。さらに特別条項付きの場合でも、下記のように、厳しい条件が設けられています。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内(時間外労働+休日労働)
- 月100時間未満(時間外労働+休日労働)
こうした規制によって「長時間労働の黙認」は法的に許容されなくなっています。
「過労死ライン」が示すリスク水準
「過労死ライン」とは、厚生労働省が労災認定などで健康障害との因果関係を判断するために示す基準です。
発症前1ヶ月におおむね100時間超、または2〜6ヶ月平均で80時間超の時間外労働がある場合、過労死や脳・心臓疾患との因果関係が強いとされています。
ただし、月45時間を超えたあたりから疲労が蓄積し、健康リスクはすでに上昇しはじめます。つまり、「上限内だから安全」とはいえず、企業には実態にあわせた健康管理が求められるでしょう。
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長時間労働が減らない現状と社会的課題
働き方改革関連法の施行後も、多くの企業で長時間労働が続いています。しかし、「ノー残業デー」や「テレワーク」などの取り組みをしても、長時間残業が減らない企業もあるでしょう。
背景には、下記の構造的問題があります。
- 慢性的な人手不足
- 属人化した業務
- 旧来型の評価制度
とくに建設業・運送業・医療福祉・IT企業などでは、納期やシフト制、24時間稼働といった業務の特性がボトルネックとなっています。単なる制度導入ではなく、組織構造や業務設計そのものを見直す改革が求められているのが現状です。
働き方改革が失敗する原因について、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
長時間労働が企業に与える影響
長時間労働は従業員の負担が大きくなるだけでなく、企業にも深刻なダメージをもたらします。ここでは、企業が直面しやすい3つの影響を解説します。
従業員の健康被害
長時間労働が続くと、まず問題となるのが従業員の健康悪化です。睡眠不足や慢性的な疲労が蓄積することで、下記のように重大な疾病リスクが高まります。
- 脳・心臓疾患
- 消化器疾患
- メンタルヘルス不調
疲労が解消されない状態が続けば、うつ病や不安障害に発展することもあり、最悪の場合は、過労死・自死につながる可能性があります。
また、従業員が労災認定を受ければ、補償・訴訟対応・信用低下といった負担が生じ、企業のブランド価値にも影響するでしょう。
予防のためには、労働時間の抑制とあわせて、定期健康診断・ストレスチェックなどによる早期発見の体制が欠かせません。
生産性の低下
長時間働けば成果が増えるという考えは、現代の業務環境では逆効果です。休息が不足した状態では集中力・判断力が低下し、作業効率は明らかに落ち込むでしょう。
疲労によるミスの増加やヒューマンエラーの発生は、生産性の低下だけでなく、事故やクレームといった二次的コストも発生させます。
さらに、慢性的な長時間労働は、モチベーション低下や欠勤の増加に加えて、体調不良のまま無理に働き続ける状態を招きます。結果として、組織全体のパフォーマンスを下げる要因になりかねません。
企業は、業務の効率化や仕組みづくりを進め、「短い時間で最大の成果を出せる働き方」への転換が求められます。
採用・定着率の悪化
長時間労働が常態化している企業は、若手からベテランまで離職が増えやすく、新規採用にも苦戦する傾向があります。
人材が定着しない環境では、下記のようなコストが何度も発生し、経営コストを押し上げます。
- 採用コスト
- 研修コスト
- 引き継ぎコスト
労働時間を適正化し、働きやすい環境を整えることは、人材確保とコスト削減の双方に直結する重要な経営課題です。
企業イメージの低下
長時間労働の噂が広がると、企業は「ブラック企業」というレッテルを貼られ、信頼を大きく損ないます。とくにSNSの時代では、口コミや投稿が瞬時に拡散し、採用活動に深刻な影響を及ぼすでしょう。
下記のような形で、組織全体に不利益が広がります。
- 応募が集まらない
- 優秀人材が避ける
- 既存社員の士気が下がる
さらに、取引先・地域社会からの信用を失うことで、事業機会の減少にもつながりかねません。一度傷ついた信用を回復するには、多大な時間とコストが必要です。
働きやすい労働環境を整えることは、福利厚生ではなく、企業のブランド価値を守るための経営戦略の一部といえます。
法的リスク
長時間労働を放置すると、企業は重大な法的リスクに直面します。時間外労働の上限を超えて働かせた場合、労働基準法違反となり、企業や経営者が罰則の対象となる可能性があります。
たとえば36協定を締結していても、法定の上限を超えれば、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることもあるため、注意が必要です。
また、労働基準監督署による是正勧告や企業名公表は、採用・取引・入札など事業活動への影響が大きく、信用の失墜につながります。法令遵守はリスク回避だけでなく、企業の社会的信頼を維持するためにも欠かせません。
長時間労働対策|企業の成功事例3選
長時間労働の是正は、「労働時間を減らす」だけでは成果につながりません。ここでは、実際に残業削減・生産性向上・定着率改善など、具体的な成果を上げた企業の事例を紹介します。
株式会社久米商店
急成長によって残業の常態化や人材の定着率低下が課題となっていた久米商店では、「従業員に愛される会社づくり」を軸に働き方改革を推進しました。
主な課題と取り組み内容は、下記のとおりです。
| 課題 | 取り組み内容 |
|---|---|
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これらの取り組みによって、残業削減・有休取得率向上・定着率改善が同時に進み、働きやすい店舗運営を実現しています。
出典:厚生労働省|働き方改革特設サイト「株式会社久米商店|きめ細かな労務管理で時間外労働削減、新入社員の定着、パートタイマー育成」
株式会社荒木組
荒木組は、建設業に根強い「3K職場」のイメージや長時間労働を解消するため、世界一働きやすい会社を目指して労働環境の改善を進めてきました。現場の声を丁寧に拾い上げながら、IT活用・休暇促進・コミュニケーション改革を柱とした取り組みを継続しています。
主な課題と取り組み内容は、下記のとおりです。
| 課題 | 取り組み内容 |
|---|---|
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こうした改善により、平均時間外労働は年間263時間から220時間へ削減しました。有休取得日数も平均6.3日から15.6日に増加しています。
ホワイト企業大賞や働きやすく生産性の高い企業表彰(厚労大臣賞)などを受賞し、建設業界でも先進的な取り組みとして評価された事例です。
出典:厚生労働省|働き方改革特設サイト「株式会社荒木組|早期から建設現場の労働環境の改善に取り組む」
新雪運輸株式会社
新雪運輸では、長時間労働や過労による事故リスクが高かった物流業界の課題に向き合い、「法令遵守の徹底」と「業務のデジタル化」を軸に改革を進めてきました。
主な課題と取り組み内容は、下記のとおりです。
| 課題 | 取り組み内容 |
|---|---|
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これらの取り組みにより、時間外労働を前年比で約39%削減、事故件数も大幅に減少しました。デジタル化による効率化と、従業員・家族を大切にする文化の両立で、コンプライアンスを守りながらも働きやすい物流会社を実現した事例です。
出典:厚生労働省|働き方改革特設サイト「新雪運輸株式会社|業務のデジタル化により、時間外労働を削減」
効果的な労働時間削減の取り組み
長時間労働を本質的に減らすには、労働時間の見える化・人員確保・業務設計の見直しなど複数の施策を組み合わせることがポイントです。ここでは、労働時間削減につながる取り組みを解説します。
労働時間を正確に把握する
長時間労働の是正は、「現状を正確に知ること」からはじまります。勤怠が曖昧なままでは、誰に負荷が偏っているのか、どの業務が残業の原因になっているのかを分析できず、改善策も立てられません。
そのため日々の労働時間や、有休取得状況を見える化できる仕組みづくりが重要です。しかし、紙やエクセルでの管理は、集計ミスや自己申告頼りになりやすく、実態とズレが生じるケースもあります。
そこで役立つのが、勤怠管理のデジタル化です。クラウド型のシステムを活用すれば、出退勤・残業・休暇の状況をリアルタイムで把握でき、負荷の偏りや異常値も早期発見が可能です。
こうした正確なデータを蓄積することで、改善ポイントが明確になり、労働時間対策の土台をつくれます。
以下の記事では、業務管理システムについて詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
人材を確保し、業務負担を平準化する
長時間労働の背景には、人手不足による「業務の偏り」が存在します。そのため、中途・新卒に限らず、パート・シニア・外国人材などの人材を確保し、業務を分散させるのが効果的です。
また、採用後の定着支援も欠かせません。研修制度やキャリアパス、メンター制度を整えて、「採って育てる」が循環する環境をつくることで離職防止につながります。
人員の確保と育成をセットで進めることで、負担平準化と生産性向上を同時に実現できます。
業務プロセスを見直して効率化を図る
労働時間を根本的に減らすには、日々の業務自体を見直すことが必要です。業務が複雑化・属人化している職場は、特定の社員に負荷が集中しやすく、残業の温床になりがちです。
まずは業務の棚卸しを実施し、下記3つの観点で見直しましょう。
- 重複作業
- 非効率な手作業
- 不要な業務
そのうえで、RPAによる自動化やクラウド共有ツールの導入をすれば、誰が担当してもスムーズに仕事が進む体制を整えられます。
業務プロセスの見える化と改善は、継続的な残業削減に直結する重要な取り組みです。
休暇取得を促進する
休暇制度があっても「休みにくい雰囲気」が残っていると、休暇取得率はなかなか上がりません。まずは管理職が積極的に休暇を取得し、「休んでよい」という姿勢を示しましょう。
また、フレックスタイムやリモート勤務など柔軟な働き方を導入するのも効果的です。時間ではなく、成果で評価する仕組みを整えることで、社員が自分の働き方を選びやすくなります。
制度を形だけで終わらせず、運用ルールの徹底と意識改革をセットで進めることが、長時間労働改善に大きくつながります。
健康リスクを見える化し、早期の対応を徹底する
長時間労働の影響は、数値に現れる前から心身に蓄積しています。過労死ラインに達していなくても、睡眠不足や慢性疲労、ストレスは進行していることがあります。
こうしたリスクを見逃さないためには、定期健診やストレスチェックの結果を継続的に分析し、早期に兆候を把握する仕組みづくりが重要です。
必要に応じて産業医と連携し、以下のような医学的アプローチを行うことで、深刻化を防止できます。
- 産業医面談による健康相談・助言
- 配置転換や勤務内容の見直し
- 業務量やシフトの調整
さらに、健康データを一元管理できるシステムの導入も検討しましょう。従業員の状態を継続的に追跡でき、より精度の高い健康管理が可能になります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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