• 更新日 : 2025年12月5日

学習性無力感の兆候チェックリスト|企業への影響や対策を解説

避けられないストレスが続き「何をしても無駄」と感じてしまう症状を「学習性無力感」といいます。学習性無力感の症状がある従業員がいると、企業としてもさまざまな影響がおよび、自社の商品展開や経営にも支障が出る可能性があります。

従業員が学習性無力感に陥っていないか確かめるには、どういった様子をチェックし、対策していけばよいのでしょうか。この記事では、学習性無力感の兆候やチェックを怠った際のリスク、対策を解説します。

学習性無力感とは

学習性無力感とは、回避不能なストレスに長期間さらされることで、何をしても無駄だと学習してしまい、行動や努力をしなくなってしまう現象のことです。心理学者マーティン・セリグマンが提唱した概念です。

従業員が「自分の努力ではどうにもならない」という状況に置かれ続けると、仕事への意欲や主体性をなくし、無気力に仕事をこなす人材となってしまう可能性があります。

学習性無力感についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。

学習性無力感の兆候チェックリスト

従業員の学習性無力感は、放置するとメンタル不調や離職につながる可能性があります。組織的な問題として捉え、人事担当者や上司が早急に兆候をチェックするのが重要です。

学習性無力感の兆候と見られる心理・行動を解説します。

がんばってもうまくいかないと思い込む

「自分がどれだけがんばっても評価されない」といった諦めの気持ちがあったり「どうせやってもうまくいかない」と自信を失ったりしている場合、学習性無力感に陥っている可能性があります。努力が報われる状況になかったり、過度な叱責を受けたりした経験が諦めや失望につながり、「努力が無駄である」と学習してしまっている状態です。

このように思い込んでいる従業員は行動する意欲を失っており、自ら挑戦しようとすることをやめてしまいます。気力を失くしてしまうと、指示されたこともできなくなる可能性があるでしょう。

失敗することを先に考えてしまう

「また失敗してしまう」「成功などできない」と、まず失敗のイメージが浮かぶ従業員も、学習性無力感の可能性があります。成功のイメージよりも、失敗した際の叱責や失望を過度に恐れてしまい、行動すること自体がストレスとなっている状況です。

行動を回避して、自分を防衛しようとしている場合にこの心理が見られます。新しい仕事や難しいタスクに挑戦する際に、なかなか動き出せなかったり後回しにしたりしている従業員は、様子を注意して観察する必要があります。

仕事をする目的がわからなくなっている

努力しても報われない状態が続くと、従業員は「自分が何のために仕事をしているのか」がわからなくなってしまいます。仕事をする目的や意義が見出せないと、仕事のやりがいや会社への貢献意識がなくなり、ただ作業をこなすだけになってしまうでしょう。

こうした状態となっている従業員は、部署や企業自体の生産性低下を招いたり、突然離職したりと、さまざまな影響をおよぼす可能性があります。

指示されたことしかしない

「提案しても否定される」「余計なことをしたら怒られる」といった状況から、自ら主体的に動くことを諦めてしまうのも、学習性無力感の兆候といえます。

こうした従業員はあくまでマニュアルどおりに仕事をするため、兆候が見えにくいです。しかし、改善提案や新たな取り組みをする場面では行動に移すのが遅くなるケースがあるため、そうした様子を見逃さないのが重要です。

また、このタイプの従業員は指示を待つ傾向が増え、新たな挑戦をしなくなることから、イノベーションの停滞も懸念されます。

フィードバックや指摘を受け止めようとしない

管理職・上司からのフィードバックに対し、表面上繕うものの、改善が見られなかったり表情が変わらなかったりする状態も、注意が必要です。反抗しているというよりはすでに現状に失望しているため、外部からの意見や指摘をシャットダウンしている状態といえます。

このタイプの従業員は指導や注意など、何を言われても響かないため、根気強く話し合うなど時間をかけて問題を解決する必要があります。

遅刻や欠勤が増える

勤怠の乱れは、心身に異常をきたしている可能性があります。仕事への意欲が湧かず、朝起きられなかったり、会社に行こうとすると体調が悪くなったりするのです。

とくに、それまで勤怠が良好だった従業員に突然こうした乱れが増えた場合はメンタル不調の可能性があるため、早急に対応する必要があります。

従業員が学習性無力感に陥る原因

従業員が学習性無力感に陥る要因には、個人の資質ではなく職場環境やマネジメント不足が挙げられます。パワハラが常態化している環境や評価制度、仕事の進め方などの見直しを今一度しておきましょう。

何をしても否定されたり怒られたりする環境

上司から常に怒られたり叱られたりするような環境にあると、学習性無力感に陥りやすくなります。必要な指摘は、従業員の成長にとっては重要なものです。しかし、その範疇を超えた人格否定や暴言・暴力などはパワハラに該当します。

従業員はそうした経験を繰り返すと「何をしても無駄」と感じるようになり、指示されたこと以外のことを一切しなくなる可能性が高いです。

努力しても報われない不公平な評価制度

努力しても報われないと感じる原因のひとつに「不公平な評価制度」が考えられます。

たとえば、真面目に成果を出している従業員は昇進・昇給ができず、上司と仲のよい従業員だけ待遇がよくなっていく、といった評価制度があるとします。この場合、真面目に成果を出している従業員は、自分の努力が認めてもらえず「がんばるだけ無駄だ」と感じてしまうのです。

従業員の評価は、自分自身ではできず第三者に委ねられるものです。「自分の努力では評価を覆せない」「自分では結果をコントロールできない」といった感情・感覚は、従業員のやる気を削ぎ、士気低下を招く原因になります。

成功体験の欠如

成功体験が少ないと、従業員がやる気を失いやすくなります。とくに、企業が入社後に適切なサポートや指導・教育をしていないと、こうしたケースが起こりやすいため注意が必要です。OJTや研修などを怠らず、従業員が「できる」と感じられる経験を積ませていくのが重要です。

また、過度に高い目標を設定するといったハードルの高さも「自分には無理だ」と諦めを感じさせる可能性があります。従業員が成功体験を積み上げていけるよう、はじめのうちはタスクをこなす都度報告を求めたり、徐々に主担当の業務を増やしたりなど、指導や支援の仕方などを再検討していきましょう。

学習性無力感のチェックを怠った際のリスク

学習性無力感のチェックを怠ると、イノベーションや組織の士気低下、休職・離職などさまざまなトラブルが発生します。学習性無力感のチェックを怠った際のリスクを解説します。

イノベーションの停滞や生産性低下

学習性無力感に陥った従業員は、指示されたことしかせず、主体的に新たな提案をすることが多くありません。結果的にイノベーションが停滞し、企業の生産性が落ちる可能性があります。

新しい商品の開発やサービスの改良には、イノベーションが欠かせません。従業員のアイデアや実体験が少ないと、企業が業界の流れに追いついていけず、次々と成長の機会を損失してしまうことも考えられるでしょう。

組織全体の士気低下

「何をしても無駄」という態度は、ほかの従業員にも伝染しやすく、周囲の従業員の士気も低下する可能性があります。

たとえば、業務に集中していない従業員がいると、別の従業員は「あの人だけがんばっていないのが許されるのか」といった不公平感、不満を抱える可能性があるでしょう。また、業務に対するモチベーションが低いと「この会社でがんばっても意味がない」といった諦めの感情にもつながるため、職場の雰囲気が暗く機械的な印象になってしまいます。

最悪の場合、サービスや商品の質の低下、業績の下降といった悪循環を招く要因にもなりかねません。

休職・離職による採用コストの増加

生産性の低下や士気低下などが起きると、休職や離職が増える可能性が高まります。とくに、うつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調になれば、長期の休職も想定されます。こうなると、休職中や離職後の期間の仕事を担う職員を新たに採用しなければなりません。

従業員が長期で休職すれば、それまで企業が従業員に費やした育成コストを回収できない可能性があります。また、欠員を補充する際は、採用のための人件費や面接調整といったコストも発生します。

こうした支出は経営コストにも影響をおよぼすため、学習性無力感のチェックは怠ることなくしなければなりません。

学習性無力感をなくす対策

学習性無力感をなくすには、業務の仕方や従業員の考え方を見直したり、従業員のストレス度合いなどがわかる仕組みづくりをしたりするのが重要です。それぞれの対策を解説します。

成功体験を継続して積ませる

成功体験を継続して従業員に積んでもらえば、ネガティブな思考がなくなり「できる」感覚を取り戻せます。従業員に与えるタスクを細分化し、できたら都度報告してもらうことで小さな成功体験を積ませていくとよいでしょう。

また、タスクの難易度も、はじめは簡単なものから任せるように、徐々に難易度を上げていくと、従業員が途中で挫折しにくくなります。

タスクを達成できた事実を即座にフィードバックすることで、精神的にも良好な状態で仕事を続けられるでしょう。

業務に裁量を与える

がんばった結果をコントロールできずに無力だと感じている従業員には、業務である程度の裁量を与えていくとよいです。業務のなかでも比較的簡単なポイントだけでも従業員に決定権を持たせれば、自分の意思で仕事を進めていくことになるため主体的に業務に臨めるようになります。

急に担当業務すべての裁量権を与えると、失敗した際に「やはり無理だ」と感じてしまいます。従業員の能力を考慮して、できる範囲から少しずつ与えていくのが望ましいです。

失敗に対する考え方を変える

従業員に、失敗に対する向き合い方を変えてもらうよう働きかけるのも重要です。

失敗は、従業員にとってはネガティブに捉えがちなものです。しかし、見方を変えれば、学習機会のひとつとなり、挑戦した結果ともいえます。失敗が成長の機会であることを意識させるために、結果や人格を否定する言葉ではなく、過程や次回に向けた反省などを指摘しつつ、共に考えていくようにするとよいでしょう。

従業員が再度挑戦しようと思えるような言葉がけをすることで、従業員の意欲を削いだり、士気を低下させたりせずに済みます。

1on1ミーティングで部下の意見や話を聞く

1on1ミーティングで従業員の意見を聞き出すのも有効です。1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で、日々の業務や職場での過ごし方について対話をする機会のことです。部下との対話では「仕事で何に困っているのか」「どうすれば仕事がやりやすくなるか」などを聞き出し、解決策を講じるようにします。

話し合う際は仕事への評価はせず聞くことに集中し、従業員に「話を聞いてもらえた」という経験をしてもらいます。そうした安心感を与えることで、職場への信頼や帰属意識を取り戻していくとよいでしょう。

ストレスチェックを実施する

労働安全衛生法にもとづき、ストレスチェックを定期的に実施しましょう。現在、50人以上の労働者を抱える事業所では、ストレスチェックが義務化されています。また、令和7年の法改正により、改正法が施行された場合は全事業所でストレスチェックの導入が必須となる予定です。

ストレスチェックをすれば、従業員個人がストレス度合いを理解できるため、休暇の取得や睡眠、仕事への考え方の工夫といったセルフケアも促せます。企業としても「どの部署が高ストレスか」「どういった原因がストレスの要因になるのか」を把握しやすくなるでしょう。

加えて、ストレスチェックの結果を根拠とすれば、職場環境の改善やハラスメント対策などの実行にも移しやすく、課題をピンポイントで把握し解決できる可能性があります。ストレスチェックが義務となっている事業所はもちろん、そうでない事業所でも導入して、従業員のストレス度合いを客観的に把握しておきましょう。


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