- 更新日 : 2025年11月26日
人員計画を策定するには?手順や注意すべきポイントを解説
企業の持続的な成長において、人員計画の策定は経営の根幹をなす重要なプロセスです。行き当たりばったりの採用や配置は、人件費の肥大化や生産性の低下を招きかねません。
この記事では、経営目標の達成を支える実効性のある人員計画とは何か、そしてその具体的な策定方法や立て方の手順、策定時に押さえるべき注意点について、人事労務の初心者の方にも分かりやすく解説します。戦略的な人員計画の立て方を学び、組織の未来をデザインしましょう。
人員計画はどのように策定する?具体的な手順
経営目標の達成に向けて、現状分析から将来予測、具体的なアクションプランの策定までを体系的に進めることが、効果的な人員計画を立てる上で重要です。客観的なデータと現場の声を基に、段階的に計画を具体化していくプロセスが不可欠となります。ここでは、実務に沿った7つのステップでその策定方法を詳説します。
ステップ1. 経営目標・事業計画の明確化と共有
人員計画は経営計画を実現するための「手段」であるため、策定の第一歩は、会社がどこへ向かおうとしているのかを正確に理解することから始まります。
- 中期経営計画書・年度事業計画書:売上高、利益率、市場シェアといったKGI(重要目標達成指標)を確認します。
- 事業戦略:新規事業の立ち上げ、既存事業の拡大・縮小、海外展開、M&A、DX推進などの具体的な戦略を把握します。
- 経営層へのヒアリング:計画書だけでは読み取れない背景や、特に注力したい領域について経営層に直接確認し、目線合わせを行います。
- 事業目標の分解:全社の売上目標を達成するために、各事業部でどのようなKPI(重要業績評価指標)が設定されているかを理解します。「新規顧客獲得数」「顧客単価向上率」などのKPIが、最終的に必要な人員の質(スキル)と量(人数)に結びつきます。
この段階で会社の進むべき方向性を深く理解することが、後の計画全体の精度を決定づける極めて重要なプロセスです。
ステップ2. 内部環境分析による現状人員の可視化
次に、自社の「今」を客観的かつ多角的に把握します。現状の人員構成やスキルレベルをデータで可視化し、組織としての強みと課題を洗い出すことが目的です。
- 人員構成:部署、役職、職種、年齢、性別、勤続年数別の構成比を分析します。特に「年齢構成ピラミッド」を作成し、人員構成のバランスや将来のベテラン層の退職リスクなどを可視化します。
- 人件費:総額人件費、一人当たり人件費、労働分配率などを分析し、経営指標とのバランスを確認します。
- 労働データ:離職率(特に部署別・年代別)、休職者数、時間外労働時間などを分析し、組織の健全性を測ります。
- スキル・コンピテンシー:タレントマネジメントシステムやスキルマップを活用し、「誰が・どのようなスキルを・どのレベルで保有しているか」を把握します。
- 従業員エンゲージメント:エンゲージメントサーベイやパルスサーベイの結果から、従業員の満足度やモチベーションの傾向を分析します。
具体的なアクション
上記のデータを収集・分析し、「次世代リーダー候補の層が薄い」「DX推進に必要なデジタル人材が特定の部署に偏っている」「若手の離職率が高い部門がある」といった、データに裏付けられた具体的な課題をリストアップします。
ステップ3. 外部環境分析による市場動向の把握
自社だけでなく、自社を取り巻く外部の環境変化を捉えることで、より現実的で先を見越した計画策定が可能になります。
分析のフレームワーク
PEST分析などのフレームワークを用いると、網羅的に外部環境を分析できます。
- Politics(政治):労働関連法規の改正、政府の雇用政策など
- Economy(経済):景気動向、金利、為替レート、有効求人倍率など
- Society(社会):労働人口の増減、少子高齢化、働き方の多様化(リモートワークなど)、価値観の変化など
- Technology(技術):AIや自動化技術の進展、DXの加速など
- 情報収集:政府統計(e-Statなど)、業界団体が発表するレポート、民間の調査会社のデータなどを活用して情報を収集します。
- 機会と脅威の特定:収集した情報から、自社の人材戦略にとって「追い風となる機会(例:働き方の多様化による地方人材の獲得可能性)」と「向かい風となる脅威(例:専門職の採用競争激化)」を整理します。
ステップ4. 将来必要な人員(質・量)の算出
ステップ1〜3で得た情報を統合し、事業計画を達成するために将来必要となる人材の「質(スキル・役職)」と「量(人数)」を具体的に算出します。
- トップダウン方式(マクロ予測):経営目標から必要な総人員を算出します。
- 例:目標売上高 ÷ 従業員一人当たり売上高 = 必要な総人員数
- ボトムアップ方式(ミクロ予測):各部門の業務量や今後の計画を基に必要な人員を積み上げます。
- 例:現場へのヒアリングや業務量分析(ワークロード分析)を行い、部署ごとに必要な増員数を算出する。
- コンピテンシー定義:将来の事業展開を見据え、必要となるスキルや能力(コンピテンシー)を定義します。例えば「データ分析能力」「海外事業推進能力」などです。
- 人材要件の明確化:ステップ2で分析した現状のスキル保有状況と比較し、将来的に強化・獲得すべき人材像を具体化します。
これら複数のアプローチを組み合わせ、経営視点と現場視点の両方から妥当性のある人員需要を導き出すことが理想です。
ステップ5. 要員ギャップ分析による過不足の特定
将来必要となる人員(需要)と、現状から予測される人員(供給)を比較し、そのギャップを明確にします。「要員ギャップ分析」とも呼ばれるプロセスです。
- 将来の供給人員の予測:現在の要員数 – 予測される退職者数(過去の離職率や定年退職者数から算出) = 将来の供給人員数
- ギャップの算出:将来必要な人員数(需要) – 将来の供給人員数 = 要員ギャップ
この分析により「営業職が10名不足する」「管理部門で3名の人員が過剰になる可能性がある」「次世代リーダー候補が5名不足している」といった、質・量の両面における具体的な過不足(ギャップ)が数値として明らかになります。
ステップ6. ギャップを埋めるアクションプランの策定
特定された要員ギャップを、どのような方法で解消するのか、具体的な行動計画に落とし込みます。
| ギャップの種類 | 主なアクションプラン | 具体的な施策例 |
|---|---|---|
| 人員が不足する場合 | 外部からの獲得(採用計画) |
|
| 内部での育成(人材育成計画) |
| |
| 内部での最適配置(配置計画) |
| |
| 人員が過剰な場合 | 内部での調整 |
|
| 外部への流動化 |
| |
| 採用の抑制 |
|
これらのアクションプランには、それぞれ「担当部署」「実施時期」「予算」「評価指標(KPI)」を具体的に設定し、実効性を高めます。
ステップ7. 計画の実行と継続的な評価・改善(PDCA)
人員計画は、策定して終わりではありません。計画(Plan)を実行(Do)し、その進捗と結果を評価(Check)、そして改善(Action)していくPDCAサイクルを回し続けることが最も重要です。
- 採用充足率、採用コスト、内定承諾率
- 離職率、定着率
- 研修の受講率、理解度、行動変容率
- 一人当たり人件費、労働生産性
- 定期的な進捗確認:月次や四半期ごとに人事戦略会議などを設け、KPIの進捗を確認し、計画と実績の差異を分析します。
- 柔軟な計画修正:事業環境の変化や、計画の前提が崩れた場合には、当初の計画に固執せず、迅速かつ柔軟にアクションプランを修正します。
そもそも人員計画とは?
人員計画とは、企業の経営目標や事業戦略を達成するために必要な人材を「質」と「量」の両面から計画的に確保・配置・育成するための中長期的な計画のことです。
単なる採用計画とは異なり、採用から配置、育成、評価、退職に至るまで、人材に関するあらゆる要素を網羅した戦略的なプランを指します。
人員計画と要員計画の違い
人員計画と似た言葉に「要員計画」があります。要員計画は、一般的に部署や、プロジェクト単位で必要となる人数を算出し、それらに合致した採用や配置を計画します。
一方の人員計画では、部署やプロジェクト単位で、必要とされるスキルや技術に着目することで、それらに合致した採用や配置を行います。量的な側面を持ち、マクロ視点で立案するのが要員計画、質的な側面を持ち、ミクロ視点で立案するのが人員計画と分類することも可能でしょう。
ただし、両者に厳密な定義はなく、同様の意味で使われることも多くなっています。
人員計画を策定する目的・メリット
緻密な人員計画を策定し、実行することには多くのメリットがあります。これらは、計画的な組織運営を実現し、企業の競争力を高める上で不可欠な要素です。
- 経営戦略の実現:事業計画と連動した人材戦略により、目標達成の確度が高まります。
- 採用活動の効率化:必要な人材像が明確になるため、採用のミスマッチを防ぎ、計画的な採用活動が可能になります。
- 適材適所の人員配置:従業員のスキルやキャリア志向を考慮した戦略的な配置により、生産性の向上と従業員のモチベーションアップにつながります。
- 人材育成の計画的実施:将来必要となるスキルを逆算して育成計画を立てることで、効果的に次世代リーダーや専門人材を育てることができます。
- 人件費の最適化:人員の過不足をなくし、無駄な人件費を抑制することで、経営の効率化に貢献します。
- 従業員のエンゲージメント向上:会社が計画的に人材へ投資する姿勢を示すことで、従業員は自身のキャリアパスを描きやすくなり、会社への信頼感や貢献意欲が高まります。
人員計画の策定に役立つツールやテンプレート
実効性のある人員計画を策定するには、必ずしも高価な専用ツールは必要ありません。多くの企業で利用されているExcel(エクセル)やGoogleスプレッドシートでも、重要な項目を網羅したテンプレート(フォーマット)を作成すれば、十分に機能的な人員計画表を管理できます。
Excelやスプレッドシートを活用したテンプレート
手軽に始められ、自社に合わせて柔軟にカスタマイズできる点がメリットです。一方で、ファイルの属人化や、人事評価など他データとの連携が手作業になりやすい点がデメリットと言えるでしょう。「人員計画表」の作成にあたっては、少なくとも以下の要素を盛り込むことをお勧めします。
| 分類 | 主な項目 | ポイント |
|---|---|---|
| 現状人員の可視化 |
| 誰がどのようなスキルを持っているかを正確に把握するための基礎情報。 |
| 人員数の増減計画 |
| ステップ5のギャップ分析の結果を一覧化し、全社の人員バランスを可視化する。 |
| 具体的なアクションプラン |
| ギャップを埋めるための具体的な打ち手を時系列で管理する。 |
タレントマネジメントシステムや人事管理システムの活用
より戦略的かつ効率的に人員計画を進めたい場合は、タレントマネジメントシステムや人事管理システムの活用が有効です。従業員のスキルや経歴、評価といったデータを一元管理し、現状分析や将来のシミュレーションを容易に行うことができます。手作業による集計ミスを防ぎ、より客観的なデータに基づいた計画策定を支援します。
人員計画の策定で注意すべきポイント
実効性のある人員計画を立てるためには、経営層との連携、データの客観性、そして計画自体の柔軟性を担保することが重要です。これらのポイントを押さえることで、計画が「絵に描いた餅」で終わるのを防ぐことができます。
経営戦略との連動性を確保する
人員計画は、必ず経営戦略や事業計画と強く結びついている必要があります。もし計画が経営の方向性から乖離してしまうと、必要なタイミングで必要な人材を確保できず、事業の成長を阻害する要因になりかねません。策定プロセスの初期段階で経営層と十分にコミュニケーションを取り、事業のビジョンや目標を正確に共有することが不可欠です。
客観的なデータに基づいて策定する
担当者の勘や過去の経験だけに頼った人員計画は、説得力に欠け、関係部署の協力を得にくくなります。現状分析で触れたような、人員構成、離職率、人件費、スキルデータといった客観的なデータを根拠とすることが極めて重要です。データに基づいた計画は、論理的で説得力を持ち、経営層や現場からの納得も得やすくなります。
現場の意見をヒアリングする
トップダウンだけで策定された計画は、現場の実態と乖離し、実効性のない「机上の空論」になる危険性があります。各部門の管理職や従業員へのヒアリングを通じて、現場が抱える課題、業務の実態、本当に必要としているスキル、人員の過不足感を丁寧に吸い上げることが大切です。ボトムアップの情報を加味することで、計画の精度と現場の納得度を大きく高めることができます。
柔軟に見直せる計画にする
市場環境、技術革新、競合の動向など、企業を取り巻く環境は絶えず変化しています。一度策定した計画に固執するのではなく、変化に対応して柔軟に見直せる運用を前提とすることが成功の鍵です。
年に1回、あるいは半期に1回など、定期的な見直しのタイミングをあらかじめプロセスに組み込んでおきましょう。これにより、常に現状に即した最適な人員計画を維持することが可能になります。
人員計画を策定し、企業の未来を創ろう
本記事では、人員計画の策定について、その具体的な手順から目的、成功のポイントまでを網羅的に解説しました。効果的な人員計画は、経営目標を起点とし、客観的なデータ分析と現場の声を融合させながら体系的に策定することが成功の鍵です。この戦略的な人員計画の立て方を実践し、環境変化に合わせて継続的に見直していくことが、企業の持続的な成長を支える礎となります。この記事が、貴社の未来を創る計画策定の一助となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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