- 更新日 : 2025年7月7日
内部通報制度に弁護士を起用するメリットとは?費用や選定のポイントを解説
内部通報制度(社内通報制度)において、弁護士を外部の相談・通報窓口として活用する企業が増えています。IPOを目指す企業やコンプライアンス意識の高い企業では、改正公益通報者保護法(2022年施行)への対応も踏まえ、弁護士の活用による内部通報制度の強化が注目されています。さらに、2025年には公益通報者保護法が再改正され、2026年施行予定です。新たな改正では、通報者の範囲拡大や保護強化、企業の体制整備義務の厳格化、通報妨害や通報者探索の禁止などが盛り込まれており、弁護士窓口の重要性が一層高まっています。
本記事では、内部通報制度における弁護士の役割や活用メリット、選定のポイントなどを解説します。
目次
内部通報制度の窓口は弁護士が多い
近年、多くの企業が社外に内部通報窓口を設置しており、その受け皿として法律事務所(弁護士)を起用するケースが一般的になっています。消費者庁の調査によれば、内部通報制度を導入している企業の約3分の2が社外窓口を設けており、そのうち約49.2%は自社の顧問弁護士に通報窓口業務を委託しています。大企業(従業員1000人超)では過半数が顧問弁護士を外部窓口にしている状況です。
なお、内部通報制度において、通報窓口となる選択肢は弁護士だけではありません。「社内窓口」「民間の第三者通報受付会社」も一般的です。社内窓口は人事部門やコンプライアンス部門などが担当し、自社の状況をよく理解している点が強みです。一方、第三者通報受付会社は通報の受付業務を専門とし、24時間対応や多言語対応など柔軟な運用が可能です。企業の規模や体制に応じて複数を併用するケースも増えています。
弁護士が内部通報制度において果たす役割
弁護士が内部通報制度の外部窓口を担うケースでは、通報の受付から報告、法的助言、通報者の保護まで、幅広い役割を担います。匿名性や中立性、専門性を求める企業にとって、弁護士の関与は制度の実効性を高めるうえで非常に有効です。ここでは、弁護士が果たす具体的な役割について、段階ごとに解説します。
通報の受付と一次対応
弁護士が通報窓口として対応する場合、まず社員などから寄せられる内部通報(公益通報)を直接受け付けます。この際、通報者が希望すれば匿名での通報も可能となっており、通報者の不安や緊張に寄り添いながら、内容を丁寧にヒアリングします。通報者の氏名や部署など、本人が特定されうる情報は厳格に管理され、通報者の同意なく会社側に開示されることはありません。こうした秘密保持の徹底が、通報者の心理的な安心につながります。
客観的な事実調査・評価
通報を受けた後、弁護士は通報内容の信憑性や事実関係を把握するために、必要に応じて関係者への聞き取りや証拠資料の収集など初期的な調査を実施します。法律の専門家である弁護士は、組織内部の利害関係を見極めながら、どのような問題が潜在しているのかを冷静かつ公平な視点で分析します。犯罪行為の疑いがあるか、不正が継続的に行われているかなどを独立した立場から判断し、適切な初動対応につなげます。
会社への報告と助言
調査結果や通報内容の整理ができ次第、弁護士は企業のコンプライアンス部門や経営層に報告を行います。報告に際しては、通報者が特定されないよう細心の注意を払いながら、必要最低限の情報にとどめて共有されます。報告内容には、事案が公益通報者保護法や労働関連法規に該当する可能性、放置することによる法的リスク、業務上の対応策などが含まれ、企業がどのような手順で対応すべきかについて、具体的な法的助言がなされます。
通報者の保護とフォロー
通報者が報復や不利益を受けないようにするための支援も、弁護士の大切な役割のひとつです。公益通報者保護法に精通している弁護士は、通報後の処遇についても適切な配慮を促し、企業に対して注意喚起や改善提案を行います。場合によっては、通報者に対する適切なフィードバックの支援も行い、通報後のフォローを通じて信頼関係を維持します。このような体制が整うことで、通報者が社外機関へ情報を持ち出すリスクを低減し、企業にとっての信頼維持にも寄与します。
2025年の改正法では、通報後1年以内の解雇・懲戒は公益通報を理由としたものと推定されるほか、「通報妨害の禁止」や「通報者探索の禁止」も新たに規定されました。また、フリーランスや委託先など、従来は保護対象外だった立場の通報者も新たに保護範囲に含まれます。弁護士は、こうした最新法令に基づき、通報者の権利保護や企業の適正対応をサポートします。
弁護士活用のメリットと他の窓口との比較
内部通報制度における通報窓口の選択肢としては、社内の担当部署や民間の通報受付サービス会社、そして弁護士による外部窓口が考えられます。中でも弁護士を起用する方法は、法的観点からの適正対応や通報者保護の徹底を図るうえで、数々のメリットがあります。ここでは、他の手段との比較を交えながら、弁護士活用の優位性を項目ごとに整理します。
中立性・独立性の確保
弁護士は企業から独立した外部の専門家であるため、通報対応における中立性と客観性を確保しやすいという特長があります。
社内窓口では、通報の対象が経営幹部や直属の上司である場合に、情報の取扱いや処理に偏りが生じる懸念があります。一方、弁護士を外部窓口とすることで、通報者の利害から独立した立場で対応がなされ、経営陣による圧力や揉み消しの影響を受けることなく、公平な判断が期待できます。また、弁護士は倫理上の責任を伴う職業でもあり、原則として公正な対応が求められる点も信頼につながります。
匿名性・守秘性の担保
外部の弁護士窓口は、通報者との直接的な利害関係を持たないため、匿名通報にも柔軟に対応できる体制が整っています。弁護士には法的に守秘義務が課されており、通報者に関する情報や通報内容が外部に漏洩するリスクは極めて低く抑えられます。社内窓口では、部署間の連携や情報共有の中で通報者の特定につながるリスクが拭いきれませんが、弁護士を窓口とすることで、通報者は安心して情報を提供しやすくなります。この安心感が、制度の活用促進にも大きく寄与します。
専門知識と問題解決力
弁護士は法令順守や企業不祥事対応の分野において高度な専門知識を有しており、通報案件の性質を的確に判断し、適切な対応を講じる能力に長けています。通報内容がハラスメント、経理不正、法令違反など複雑な事案であっても、弁護士であれば即座に法的観点からの分析を行い、初動調査から再発防止策まで一貫した対応を提案できます。社内窓口の担当者では法的知見や経験が十分でない場合もあり、対応に遅れが生じる恐れがあります。第三者の通報受付代行会社も存在しますが、法的な助言や対応力は弁護士には及ばないケースも少なくありません。
法的リスクへの対応力
通報内容によっては、企業が刑事責任や民事責任を問われるリスクが伴うことがあります。弁護士であれば、どのようなリスクが潜在しているか、違法行為の放置によってどのような結果が招かれるかを事前に判断し、法的な観点から適切な措置を提案できます。例えば、不正競争防止法や労働法規違反、ハラスメントに関する通報があった場合でも、弁護士であれば冷静かつ合法的な対応により、企業が重大な損害を被る前に問題を収束させることが可能です。民間の受付会社では通報受付にとどまり、こうしたリスクへの法的対応まで担うことは難しいのが実情です。
従業員からの信頼性
従業員にとって、自社内の担当者よりも外部の弁護士という立場の方が、より公正で誠実に話を聞いてもらえるという印象を持たれる傾向にあります。弁護士資格を持つ者が対応することで、守秘義務への信頼や問題解決への期待感が高まり、「通報しても無駄ではない」「守られる環境がある」という認識が浸透します。これにより、通報の敷居が下がり、内部通報制度の利用件数が増えることで、企業としても早期に問題を発見しやすくなります。実際、弁護士の外部窓口を設けて以降、制度の活性化が進んだという報告も多く見受けられます。
内部通報制度に適した弁護士の選定ポイント
内部通報制度の外部窓口を弁護士に依頼する際、どの弁護士(あるいは法律事務所)を選ぶかは、制度の信頼性や実効性を左右する重要な判断となります。通報の対応が形式的に終始したり、公平性を欠くリスクを避けたりするためには、実績・体制・専門性のある弁護士を選ぶことが欠かせません。ここでは、選定時に確認しておきたい主なポイントを解説します。
独立性と公正さの確保
弁護士を通報窓口に選定する際には、企業との関係性、とりわけ顧問契約の有無に注意する必要があります。一般的に、既存の顧問弁護士は企業の法務相談や経営支援を日常的に担っており、経営陣との関係も深くなりがちです。そのため、経営層が通報の対象となる場合には利害が衝突し、公正な調査や報告が困難になるおそれがあります。この点から、可能であれば顧問契約を結んでいない第三者の弁護士を選ぶことが望ましいとされています。やむを得ず顧問弁護士に依頼する場合でも、通報者や社内に対し、中立性を保って対応する旨を明確に周知することが信頼確保に繋がります。弁護士自身も利害関係に配慮した上で職務を遂行することが求められます。
実績・専門分野
通報対応の現場では、コンプライアンス、労務、個人情報保護、不正会計など、多岐にわたる法律知識が必要とされます。そのため、企業法務全般に強みを持ち、内部通報制度の設計・運用経験を有する弁護士を選定することが大切です。過去に通報制度の構築支援やトラブル対応に携わった実績があれば、企業の状況に即したアドバイスが期待できます。
また、弁護士が業界特有の商慣行や規制に通じていれば、対応のスムーズさはさらに高まります。例えば、製造業や医療業界、福祉法人などでは、通報事案の背景に法令やガイドライン特有の論点が絡むこともあります。実際、ある中堅企業では顧問弁護士とは別に、外部の専門法律事務所に通報窓口業務を委託し、制度設計や従業員説明会も含めて支援を受けた結果、制度の定着が図られました。このように、経験と専門性が自社の業種に合致しているかどうかも、弁護士選びの判断材料になります。
対応範囲と報告体制
通報窓口の役割は、単なる受付にとどまりません。内容に応じて適切な初動判断や社内調査の助言、通報者への配慮、調査結果の報告・改善提案まで対応する必要があります。そのため、受付だけで終わらず、事案解決まで伴走してくれる弁護士を選ぶことが制度の実効性を高めます。
事前に確認すべき点としては、どのような流れで通報情報を共有するか、どの段階で社内に報告されるのか、通報者や対象者への対応方針をどう取り決めるかなど、報告・運用体制の明確化が欠かせません。
例えば、ある社会福祉法人では、他社の外部通報サービスを利用していたものの、複雑な人間関係が絡むハラスメント事案に対応しきれず、調査から改善までサポート可能な弁護士へ切り替えたケースがあります。このように、「受付のみ」では制度の信頼性が担保できず、調査・助言・再発防止までワンストップで対応できる弁護士を選定することが効果的です。
単なる受け皿ではなく、通報に基づく問題解決までを見据えたパートナーとして、どの弁護士に任せるかを慎重に見極めることが求められます。
弁護士に内部通報制度を委託する場合の費用と契約形態
弁護士を外部窓口として起用する際、多くの企業が気にするのが費用と契約内容です。導入を検討するうえで、月額費用の相場感や契約プランの種類、どのような要素で料金が変動するのかを事前に把握しておくことは重要です。ここでは、弁護士への内部通報制度委託における費用の目安と代表的な契約形態について整理します。
費用相場について
弁護士に内部通報制度の窓口業務を委託する場合の費用は、一般的に月額固定報酬制が採用されています。料金は法律事務所ごとに異なりますが、相場としては月額2万円から10万円程度が多く見られます。企業の規模や通報件数、求めるサポートの範囲によっても金額に差が生じます。例えば、従業員数の多い企業や、月ごとの通報件数が想定される企業では、対応量が増える分だけ費用も高めに設定される傾向があります。
一部の法律事務所では、企業の規模や業種に応じた段階的な料金プランを用意しており、必要なサポート内容と予算のバランスを取ることが可能です。また、初期導入時には別途費用(初期設定料)を設定している事務所もありますので、トータルでのコストを事前に把握しておくことが望ましいです。
契約形態の種類
契約形態としては、通報の有無に関わらず毎月定額を支払う月額制(顧問契約型)と、通報が発生した場合にのみ費用が発生する案件対応型(従量課金制)の2種類が主流です。
例えば、ある法律事務所では以下のような料金設定が行われています。
- 初期設定費用:約10万円
- 月額3万円で月2件までの通報に対応
- 3件目以降は1件あたり2万円
- 通報件数が0件の場合は、翌月に繰越可能な制度あり
こうした柔軟な料金体系により、通報が頻繁にある企業から、年に数件程度の中小企業まで、自社のニーズに合わせて無理のない範囲で制度を導入することが可能となっています。
弁護士の起用で内部通報制度に安心と信頼を
内部通報制度を社内で形骸化させず、従業員が安心して声を上げられる環境を築くには、弁護士の起用が大きな力になります。中立性や守秘義務を備えた弁護士を窓口とすることで、通報者の匿名性を確保しつつ、法的リスクへの適切な対応も可能になります。また、2025年改正の公益通報者保護法(2026年施行)では、通報者保護の強化や体制整備義務の厳格化が求められます。弁護士窓口の設置や制度運用の見直しを通じて、最新法令に即した「機能する内部通報制度」を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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