- 作成日 : 2024年9月30日
企業の牽制機能とは?定義、導入例、課題と解決策を解説
企業にとって健全な経営は、顧客、取引先、投資家、社員などのステークホルダーからの信頼を得ることや法律を遵守する上で重要です。健全な経営のためには、企業内で牽制機能が正しく機能している必要があります。
牽制機能とは、組織内部や取引先などの不正行為やミスを防ぐための仕組みやプロセスのことです。本記事では、牽制機能の概要や要素、内部統制における牽制機能の位置づけ、牽制機能の具体例、そして牽制機能を導入する際の課題とその対処法について解説します。
目次
牽制機能とは
はじめに、牽制機能の定義や内部統制における位置づけについて解説します。
牽制機能の定義
牽制機能とは、企業の内部で特定の業務や活動が適切に行われるように、相互に監視・チェックし合う仕組みを指します。具体的な要素として、以下が挙げられます。
- 職務分掌
役割や業務を明確に分担し、1人の従業員によってすべての業務プロセスを完結しない - 相互牽制
複数の従業員や部門が相互に業務を監視し合う - 権限と責任の分離
意思決定と実行を異なる人が行うようにし、透明性を確保する
牽制機能は、特定の権限や責任が一部の個人や部門に集中しすぎないようにし、不正やミスの発生を防止するために重要です。
内部統制における牽制機能の位置づけ
内部統制とは、企業が健全かつ効率的に事業活動を行うための仕組みです。
金融庁によれば、内部統制には以下の4つの目的があります。
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令などの遵守
- 資産の保全
また、内部統制には以下の6つの基本的要素があります。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング
- ITへの対応
この中で、牽制機能は「3.統制活動」(リスクに対処するための方針や手続き)に該当します。
出典:金融庁「I. 内部統制の基本的枠組み(案)」
牽制機能の導入例
ここでは、企業活動における具体的な牽制機能の導入例を解説します。
- 購買プロセス
- 経費プロセス
- 在庫管理プロセス
- 人事管理プロセス
導入例①購買プロセス
購買プロセスにおける導入例として以下の3つが挙げられます。
- 発注者と承認者の分離
発注を行う担当者と発注を承認する担当者を分けることで、不正発注を防止することに役立ちます。 - 受領担当者と検収担当者の分離
商品やサービスを受け取る担当者と、それを検収する担当者を分けることで、受領した商品の数量や品質が正確に確認されます。 - 発注承認フロー
外部業者への発注に複数人、複数部署の承認を必要とすることで不正発注を防止できます。
導入例②経費プロセス
経費プロセスにおける導入例として以下の3つが挙げられます。
- 経費申請者と承認者の分離
経費を申請する担当者と、その経費を承認する担当者を分けることで、不正な経費申請を防ぐことができます。 - 経費承認者と経費支払い担当者の分離
経費の承認者と支払いを行う担当者を別に設けることで、承認された経費が正確に支払われることを保証できます。 - 経費申請の承認フロー
経費申請に、複数人、複数部署の承認を必要とすることで不正な経費の申請を未然に防ぐことができます。
導入例③在庫管理プロセス
在庫管理プロセスにおける導入例として以下の3つが挙げられます。
- 入出庫担当者と在庫管理担当者の分離
商品の入出庫を担当する担当者と、在庫全体を管理する担当者を分けることで、在庫の不正操作を防止できます。 - 複数の棚卸し担当者の設置
定期的な棚卸しを行う担当者を複数設置することで、在庫データの正確性を保つことができます。 - 在庫調整の承認
在庫の数量調整や廃棄処理に複数の担当者や部署による承認を必要とすることで、在庫データの不正な操作を防ぐことができます。
導入例④人事管理プロセス
人事管理プロセスにおける導入例として以下の4つが挙げられます。
- 面接担当者と最終承認者の分離
採用プロセスにおいて、候補者の選考を行う担当者と最終的に採用を承認する担当者を分けることで、公平な採用が保証されます。 - 評価担当者と給与決定担当者の分離
社員の評価を行う担当者と、その評価に基づいて給与を決定する担当者を分けることで、不正な評価や給与の操作を防ぐことができます。 - 評価結果の二重承認
社員の評価結果に直属の上司と人事部門の二重承認を必要とすることで、公平な評価が行われます。 - 給与改定の承認
給与の改定に複数の管理職や部署による承認を必要とすることで、透明性を確保します。
牽制機能の課題と対応
牽制機能の導入には多くのメリットがありますが、いくつかの課題も存在します。
- コスト増加
- 業務の非効率化
- IT面での課題
- 内部監査のリソース不足
課題①コスト増加
監査やチェック体制の整備、職務分離のための人員増加などによってコストが増加することが課題となりますが、これに対して何ができるでしょうか。
まずはリスク領域を選択することが有効です。つまり不正のリスクが高い領域に重点を置き、リスクが低い領域では簡素な牽制機能を導入します。これにより、コストを最小限に抑えながら効果的な内部統制を実現できるでしょう。
経費申請や在庫管理などの自動化も有効な手段です。一部のチェックや承認プロセスを自動化することで人件費を削減し、コストの増加を抑えることができます。
また、段階的に牽制機能を強化することで、一時的なコスト負担を分散させることも検討しましょう。
課題②業務の非効率化
職務分離や承認手続きの強化によって業務フローが複雑化し、業務の効率を損なうという課題も挙げられます。
この課題への対応としては、プロセスの見直しが考えられます。例えば、現行の業務プロセスを再評価し不要な手続きを削減することや、重複する手続きの統合・簡略化を行うことなどが有効でしょう。
また、担当者に対するトレーニングを行い、システムやプロセスの理解を深めることで業務の効率化を図ることもできます。
課題③IT面での課題
3つ目の課題は、牽制機能の強化に伴い、ITシステムの整備やセキュリティ対策が求められることです。
対応としてまず考えられるのは、ITインフラの強化です。セキュリティ強化やシステムの円滑性を確保するために、データバックアップやアクセス制御の強化を実施します。
セキュリティやシステム管理に精通した専門家を採用し、IT面でのリスクを低減することも検討してみましょう。
また、複数のシステムが存在する場合に、それらを一元管理できる統合プラットフォームを導入し管理コストや手間を削減することも、対策として挙げられます。
課題④内部監査のリソース不足
4つ目の課題は、内部監査部門の業務量が増加し、リソースが不足することです。
これに対しては、内部監査の一部を外部の専門機関にアウトソーシングすることで、リソース不足を補うことなどが対策として考えられます。
リスクが高い領域に内部監査のリソースを集中させるリスクベースの監査計画を策定することも有効です。
また、データ分析ツールや監査支援システムを導入し、内部監査の効率を向上させることも効果的です。
まとめ
牽制機能とは、企業の内部で特定の業務や活動が適切に行われるように、相互に監視・チェックし合う仕組みを指します。職務分掌、相互牽制、権限と責任の分離などの要素で構成され、内部統制の統制活動に該当し、重要な位置を占めています。
購買プロセス、経費プロセス、在庫管理プロセス、人事管理プロセスなど企業活動のさまざまなプロセスにおいて牽制機能を導入することで、不正を未然に防止することができます。
牽制機能を導入する際にコスト増加、業務の非効率化、IT面での課題、内部監査のリソース不足などのさまざまな問題に直面する可能性はありますが、適切に対応することで、問題を解決しつつ、牽制機能を円滑に導入することができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
スタートアップの知財戦略の重要性は?競争力強化と成長のポイントを解説
スタートアップの成功には、革新的なアイデアや技術をどれだけ適切に保護し、資産化できるかが大きな影響を及ぼします。 知的財産(知財)は、企業の競争力を確保し長期的な成長を支える重要な資産です。しかし多くのスタートアップにとって、限られたリソー…
詳しくみるIPOを目指す企業が行うべきセキュリティ対策とは?必要な理由や課題を解説
中小企業の中には、IPO実現を目指している企業もいるでしょう。企業が上場を目指す過程では、多くの機密情報が外部に公開されるリスクが高まります。 不正アクセスや情報漏洩を防ぐため、適切なセキュリティ対策を講じることは、投資家の信頼を得るための…
詳しくみるショートレビューでよくある指摘事項とは?【テンプレート付き】
これから上場したいと考えている株式会社は、上場のための監査のことを考慮して、上場基準に合わせた経営を行う必要があります。ただ、基準に合わせるにあたり、現在の経営について具体的にどの部分を改善すべきなのかがわからないという場合も多いのではない…
詳しくみる監査基準とは?概要と構成要素、最新の動向を解説
監査基準とは、監査人に対して財務諸表監査の際に遵守すべき事項を定めた基準です。企業会計審議会が定めた監査基準に加えて、日本公認会計士協会の「監査実務指針等」などもこれに含まれます。 監査基準は、IPOを目指す経営者からすれば、監査人の考えや…
詳しくみる監査難民とは?監査難民の増加理由や影響、監査法人の選定ポイントを解説
監査難民とは、IPOを目指す企業がIPO申請に必要な監査サービスを提供してくれる監査法人を見つけられない状況を指します。監査難民の発生は監査法人のリソース不足などが原因です。 企業は監査難民に陥ってしまうとIPOを達成できず、資金調達に深刻…
詳しくみる中小企業において内部統制が重要な理由3つ|進め方をわかりやすく説明
内部統制は法律で定める大企業、上場企業に義務化されています。しかし、対象外の企業も内部統制を構築しても何ら問題はありません。むしろ中小企業が内部統制を整備することで、企業の成長を促進できる可能性があるのです。 本記事では、中小企業に内部統制…
詳しくみる