• 更新日 : 2025年12月11日

重度訪問介護は儲かる?きついと言われる理由や事業立ち上げのポイントなどを解説

重度訪問介護事業は、重度訪問介護事業は、事業として一定の収益性が見込める一方で、運営体制や人材確保が不十分だと赤字に陥るリスクもあるビジネスです。サービスの特性上、介護報酬の単価が高く設定されており、利用者一人当たりのサービス時間も長いため、売上は安定しやすい構造を持っています。しかし、24時間体制、夜勤、医療的ケアといった専門性の高さから人手不足に陥りやすく、売上の多くが人件費に消えていくという厳しい実態もあります。

この記事では、重度訪問介護が儲かる理由や現場のきつい現状、経営に向いている人や業界の将来性まで詳しく解説します。

重度訪問介護が儲かると言われる理由は?

重度訪問介護が他の介護サービスと比較して収益を上げやすいと言われる主な理由は、以下の通りです。

24時間体制のサービスによる売上の安定

重度訪問介護は、一般的な訪問介護とは異なり、常に介護を必要とする重度の障害を持つ方を対象に、見守りを含む長時間の支援が基本となります。

一般的な訪問介護が30分などの短時間訪問を多数組み合わせる必要があるのに対し、重度訪問介護は24時間体制でのサービスが計画されることも珍しくありません。

これにより、ヘルパーの稼働スケジュールを効率的に組むことができ、売上予測が立てやすく、安定した収益基盤を築きやすいという大きな特徴があります。

専門性を反映した高い介護報酬単位

重度訪問介護の収益性の高さは、専門性を前提とした介護報酬単位の設計にあります。

このサービスに従事するには「重度訪問介護従業者養成研修」の修了が必要であり、その専門性と長時間提供を前提に、報酬単位は一般的な訪問介護より優遇されています。

介護報酬は「1単位=約10円」で計算されますが、重度訪問介護はサービス提供時間や内容(日中、夜勤、深夜、医療的ケアの有無など)に応じて細かく単位が設定されており、特に長時間サービスにおいて効率的に売上が上がる仕組みになっています。

重度訪問介護の基本報酬単位(概算例)

サービス提供時間基本報酬単位(概算例)
1時間未満約180単位
1時間30分まで約270単位
8時間程度(日中)約1,200単位程度
12時間(夜勤帯含む)約2,500単位超
24時間(1日)約4,000単位超

※あくまでイメージであり、実際の単位数は報酬改定の内容や地域区分、加算の有無によって大きく異なります。詳しくは最新の「障害福祉サービス等報酬告示」を必ず確認してください。

この表からも分かる通り、1日を通してサービスを提供する場合、利用者1人あたりの売上が非常に大きくなります。さらに、喀痰吸引などの医療的ケアを行えば「医療連携体制加算」などが付き、単位はさらに増加します。

参考:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について |厚生労働省

重度訪問介護が儲からない・きついと言われる理由は?

高い収益性が見込まれる一方で、重度訪問介護事業が儲からない・きついと言われるケースも多々あります。理由は以下の通りです。

人手不足による機会損失

事業所が儲からない最大の原因は、専門人材を確保できず、新規の利用依頼を断らざるを得ない状況にあることです。

24時間体制を維持・拡大するには膨大な人員が必要ですが、業務のきつさから、専門人材の確保が非常に困難です。ある調査では、人手不足を理由に新規依頼を相当数断らざるを得ない事業所が多いと指摘されており、これが深刻な売上不振に直結しています。

高い人件費率

重度訪問介護の経営を圧迫するのは、売上の大部分を占める人件費です。

ヘルパーの給与水準は、資格手当や過酷な夜勤手当が上乗せされるため、一般的な介護職の平均よりも高い傾向にあります。例えば、夜勤1回あたりの日給が2万円以上になるケースも珍しくありません。

ヘルパーにとっては高い給与が魅力となりますが、経営者側から見れば、これが売上の8割を占める重いコストとなります。この高い人件費を支払いながら、いかにして利益を確保するかが経営の最大の課題です。

現場のきつい実態

重度訪問介護の現場がきついと言われるのは、精神的・肉体的な負担が大きい夜勤を含む長時間拘束と、医療的ケアなどの高い専門性が求められるためです。このきつい実態が、人手不足に直結しています。

  • 長時間拘束:1回の勤務が8時間、12時間、あるいは24時間(仮眠あり)となるケースも珍しくありません。
  • 夜勤の負担:深夜帯の見守りや定期的な体位交換、排泄介助は、生活リズムが崩れやすく体力的にきついと感じる大きな要因です。
  • 医療的ケアの緊張感:喀痰吸引や経管栄養など、利用者の生命に直結するケアを担当するプレッシャーは計り知れません。
  • 精神的負担:利用者と1対1で長時間過ごすため、相性やコミュニケーションの難しさから精神的にきついと感じることもあります。

重度訪問介護ヘルパーの1日と給与実態は?

重度訪問介護ヘルパーの1日のルーティンは、利用者の状態や勤務帯(日勤・夜勤)によって全く異なります。以下はあくまで一例です。

時間帯日勤ヘルパーのルーティン夜勤ヘルパーのルーティン
9:00サービス開始、バイタルチェック、朝食介助、口腔ケア
10:00排泄介助、体位交換、室内清掃
12:00昼食介助、服薬介助
14:00入浴介助または清拭
16:00散歩や外出の介助
18:00夕食介助、排泄介助サービス開始、夕食介助
19:00勤務終了就寝準備、排泄介助
21:00利用者就寝、見守り、定時体位交換
0:00定期巡回、呼吸器チェック、交代で仮眠
3:00排泄介助、体位交換
6:00起床準備、バイタルチェック、排泄介助
8:00朝食介助
9:00勤務終了

重度訪問介護ヘルパーの給与水準(時給・日給)は、専門性や夜勤手当が上乗せされるため、一般的な介護職より高い傾向にあります。

事業所や地域によっては夜勤1回あたりの日給が2万円を超えることもあり、これはヘルパーにとって大きな魅力です。しかし、経営側にとっては、この高い給与水準が高い人件費率となり、利益確保を難しくする最大の要因ともなっています。

重度訪問介護事業で黒字化するための経営戦略は?

黒字化が難しい・きついという課題を克服し、重度訪問介護で黒字化を実現するには、戦略的な事業の立ち上げと、人件費をコントロールしながら売上を最大化する運営が不可欠です。

1. 事務所の立ち上げの要件の確認

重度訪問介護事業の立ち上げには、まず指定基準を満たす事務所の確保と、常勤の「サービス提供責任者(サ責)」の配置が最低条件となります。

重度訪問介護は障害者総合支援法に基づく指定事業であり、開業には都道府県(または市)への申請と指定が必要です。事務所は、必ずしも一等地に構える必要はなく、指定基準を満たしたうえで事務作業とヘルパーの待機、面談ができるスペースがあれば十分です。

立ち上げ時に最も重要なリソースは人であり、特に事業運営の要となる「サ責」の確保が最優先課題です。

参考:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 | e-Gov 法令検索

2. 向いている人材の採用と定着

重度訪問介護事業の成功は、現場の仕事に向いている人を的確に採用し、定着させられるかに全てがかかっています。人手不足による機会損失が儲からない最大の原因であるため、採用と定着の成功がそのまま収益に直結します。

重度訪問介護ヘルパーに向いている人
  • 忍耐強く、誠実な人:利用者と長時間1対1で向き合うため、信頼関係を築ける誠実さが求められます。
  • 観察力がある人:利用者は言葉で不調を訴えられないケースも多いため、小さな変化に気づける観察力が必要です。
  • 夜勤や長時間勤務に抵抗がない人:体力と精神的なタフさも求められます。
  • 学ぶ意欲がある人:医療的ケアなど、常に新しい知識や技術を学ぶ姿勢が重要です。

経営者は、これらの資質を持つ人材を惹きつけるための労働環境を整備することが最優先課題です。

3. 報酬単位を最大化する加算の活用

売上を最大化し、利益を確保するには、基本報酬に上乗せされる「加算」の取得が必須です。

  • 特定事業所加算
  • 処遇改善加算
  • 医療連携体制加算 など

これらの加算を漏れなく算定することが、利益率を改善し、ヘルパーの給与(時給・日給)を上げる原資となります。加算は、質の高いサービス提供体制やヘルパーの待遇改善努力を評価する追加報酬です。

特に「特定事業所加算」は、熟練したヘルパーの配置や24時間連絡体制の確保など、要件はきついですが、取得できれば報酬全体が大きく底上げされます。立ち上げ時から加算取得を視野に入れた体制づくりが重要です。

4. 相談支援事業所との連携

人材が確保できたら、次は効率的に利用者を獲得し、事務所の稼働率を上げる必要があります。そのためには、地域の「相談支援専門員」と密に連携することが重要です。

やみくもに利用者を紹介してもらうのではなく、「この曜日の夜勤なら対応可能です」「喀痰吸引ができるヘルパーがいます」など、自社の空き枠と強みを明確に伝え、効率的なシフトを組める利用者を獲得することが重要です。これにより、ヘルパーの移動時間や待機時間を最小限に抑え、稼働率を高めることが可能になります。

重度訪問介護事業の将来性は?

現場の課題は山積みですが、重度訪問介護事業の社会的な需要は、今後ますます高まっていくとされています。

その理由は、医療の進歩により、重度の障害や医療的ケアが必要な状態であっても、病院ではなく自宅での生活を選択する(または、せざるを得ない)方が増加しているためです。

国も、施設入所や長期入院を減らし、在宅での生活を支援する「地域移行」の施策を強力に推進しています。この流れにおいて、在宅での24時間ケアを唯一担うことができる重度訪問介護の役割は、今後さらに重要になります。

ただし、これは「需要に応えるだけの人材を確保・育成できる事業所だけが生き残る」という厳しい現実も意味しています。

重度訪問介護で儲かる経営を実現するために

重度訪問介護事業は、介護報酬単価が比較的高く、事業として一定の収益性が見込まれる一方で、きつい夜勤や深刻な人手不足により黒字化が難しくなる側面も併せ持つ、難易度の高いビジネスです。事業の立ち上げは可能でも、それを継続し、高い人件費を払いながら利益を出すことは容易ではありません。

しかし、持続可能な経営を実現する鍵は、そのきつい現場を支えるヘルパーの採用・育成・労働環境の整備に全力を注ぐことにあります。法令を遵守し、戦略的に加算を取得する堅実な経営を行えば、社会的な需要を背景に安定した収益を生み出すことは十分に可能です。


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