- 更新日 : 2025年12月1日
個人事業主・フリーランスも再就職手当をもらえる?受給条件、開業届のタイミング、申請方法を解説
会社を退職し、個人事業主(フリーランス)として開業する場合でも、一定の要件を満たせば再就職手当を受給できます。
再就職手当とは、失業手当(基本手当)の受給資格者が、支給残日数を一定以上残して早期に安定した職業に就いた、あるいは事業を開始したときに支給される制度です。
しかし、再就職手当を受給するには、開業届を出すタイミングや事業の安定性など、会社員への再就職とは異なる注意点があります。
この記事では、個人事業主が再就職手当をもらえる条件、いくらもらえるのか、審査で何が必要なのかなどを解説します。
目次
そもそも再就職手当とは?
再就職手当とは、失業手当(基本手当)の受給資格者が、支給残日数を一定以上残して早期に安定した職業に就いた、または事業を開始した場合に支給される手当です。
早期の再就職を促進するための制度であり、ハローワークの定める要件に「事業を開始した場合」が含まれているため、個人事業主として開業した場合も対象となります。
再就職手当を受給するための条件は?
再就職手当は、ハローワークの定める要件をすべて満たした場合に支給されます。主な条件は次のとおりです。
- 失業手当(基本手当)の受給手続き後、7日間の待機期間を満了していること
- 失業手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上残っていること
- 1年を超えて事業を安定的に継続できるとハローワークが認めたこと
- 離職理由による給付制限がある場合(自己都合退職など)は、待機期間満了後の1か月の期間内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介による就職であること
- 退職した会社(離職前の事業主)と密接な関係がないこと
- 受給資格決定(求職申込日)より前に採用が内定していないこと
- 過去3年以内に、再就職手当や常用就職支度手当などを受給していないこと
- 就職の場合は、原則として雇用保険の被保険者資格を取得すること
参考:雇用保険受給資格者のみなさまへ 再就職手当のご案内|ハローワークインターネットサービス
個人事業主・フリーランスも再就職手当をもらえる?
個人事業主(フリーランス)として開業する場合でも、要件を満たせば再就職手当は受給可能です。なぜなら、再就職手当は安定した職業に就いた場合だけでなく、事業を開始した場合も支給対象となるためです。
ただし、個人事業主といっても状況は様々です。ここではケース別に注意点を解説します。
自己都合退職で開業する場合
自己都合退職などで給付制限がある場合、開業するタイミングに特に注意が必要です。具体的には、待機期間7日間の満了後、1か月以内は原則としてハローワーク等の紹介による就職のみが再就職手当の対象とされています。そのため、開業(事業開始)はこの1か月が経過した後でないと対象になりません。この1か月以内に開業届を提出したり、実質的な事業活動を開始したりすると、再就職手当の対象外となるため、スケジュール管理が重要です。
会社都合退職で開業する場合
会社都合退職の場合、自己都合と異なり給付制限がありません。自己都合と比べて早期に開業が可能です。具体的には、失業手当の受給手続きを行い、待機期間7日間が満了すれば、その翌日から開業(事業開始)が再就職手当の対象となります。
会社員時代の副業を本業にする場合
会社員時代の副業を本業にする場合、開業日の定義に注意が必要です。もし、失業手当の受給資格決定日(求職申込日)より前から事業(副業)を行っていたと判断されると、その時点ですでに事業主とみなされ、再就職手当の対象外となる可能性があります。
ただし、ハローワークの待機期間満了後(かつ給付制限期間の経過後)に事業を開始した(開業届を提出し、事業に専念した)と認められれば、受給できる可能性は残ります。判断が難しいため、必ず事前にハローワークに相談してください。
業務委託契約中心の個人事業主になる場合
業務委託契約中心の個人事業主の場合、1年を超えて安定的に事業を継続できることの証明が審査のポイントとなります。例えば、1か月のみの単発契約だけでは安定した職業とは認められにくい傾向があります。審査では、複数のクライアントとの継続的な業務委託契約書や、定期的な入金実績がわかる書類(請求書や通帳のコピーなど)の提出を求められることが一般的です。
個人事業主が再就職手当をもらえないケースは?
ここでは、個人事業主が再就職手当を受給できない代表的なケースを紹介します。
会社を退職してすぐに開業する場合
会社を退職してすぐに開業した場合、再就職手当の支給対象にならない可能性が高いです。なぜなら、受給要件に「受給手続き後、7日間の待機期間を経た後に事業を開始すること」と定められているためです。待機期間中に開業すると、受給資格を失います。
特に注意が必要なのは、離職理由が自己都合の場合です。自己都合退職の場合、待機期間終了後さらに1か月間は、原則としてハローワーク等の紹介による就職でなければ手当の対象となりません。この1か月以内に個人事業主として開業しても対象外となるため、開業のタイミングには注意が必要です。
副業をしている場合
会社員時代から副業をしている場合も、再就職手当の対象外となる可能性があるため注意が必要です。これは、ハローワークでの受給資格決定日(求職申込日)より前から実質的に事業を行っていたと判断されると、その時点ですでに事業主とみなされ、手当の対象外となるリスクがあるためです。
また、待機期間中に副業(事業活動)を行うと要件を満たさなくなります。退職後も副業を継続しつつ再就職手当を申請する場合は、少なくとも待機期間中の活動についてはハローワークに確認が必要です。
待機期間中やそれ以前に開業準備をしていた場合
開業準備も事業開始とみなされる可能性があるため、注意が必要です。
例えば、事務所の賃貸借契約、高額な業務用機材の購入、事業用Webサイトの本格的な公開など実質的な事業活動が確認できると「事業開始」とみなされる可能性があります。
どこまでが準備でどこからが事業開始かはハローワークの判断となるため、高額な投資や契約を伴う準備は、必ず待機期間満了後(給付制限がある場合はその1ヶ月後)に行うのが安全です。
雇用保険の加入期間が12か月未満の場合
原則として、雇用保険の加入期間が1年未満の場合は再就職手当を受給できません。なぜなら、再就職手当は、まず失業手当(基本手当)の受給資格があることが大前提であり、基本手当が受給できない場合は、再就職手当の対象にもなりません。
失業手当の受給資格を得るには、原則として、離職するまでの2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上必要です(倒産や解雇などの特定受給資格者、特定理由離職者に該当する場合は要件が緩和される)。この期間を満たせない場合は、失業手当も再就職手当も受給できません。
そのため、離職前の雇用保険加入期間が足りているかを確認しておくことが重要です。
個人事業主の再就職手当における開業日の定義とは?
再就職手当における開業日は、単に開業届の提出日だけを指すわけではありません。ハローワークは実質的な事業活動の開始日をもって開業日と判断する場合があります。
例えば、失業手当の受給資格決定日 や待機期間中 に開業届を提出していなくても、実質的な事業活動(副業の継続 や本格的な準備行為 )を行っていると判断されると、その時点が開業日とみなされ、手当の対象外となるリスクがあります。
安全に手当を受給するためには、開業届の提出と実質的な事業開始の両方を、待機期間満了後、かつ自己都合の場合は給付制限1か月経過後に行うことが重要です。
個人事業主が再就職手当を申請するための手続きは?
個人事業主が再就職手当を申請するには、失業手当(基本手当)の受給資格を得ていることが前提になります。そのうえで、開業届や事業の実態を示す書類を揃えてハローワークに提出するという流れになります。具体的な手順は以下の通りです。
1. ハローワークで離職票を提出し、求職申込をする
まず、管轄のハローワークで離職票を提出し、求職申込を行います。これにより、失業手当(基本手当)の受給資格を得ることが、再就職手当の申請の第一歩となります。
離職票は、退職した会社から交付されます。一般的に、退職すると会社から離職票が渡されますが、受け取っていない場合は勤めていた会社に連絡しましょう。
2. 雇用保険説明会に出席し、失業認定を受ける
求職申込後、指定された日時の雇用保険説明会に出席します。この説明会で雇用保険受給資格者証などの書類が交付され、初回の失業認定日が指定されます。初回の失業認定日にハローワークへ行き、失業状態の確認(認定)を受けることで、失業手当や再就職手当の受給に必要な手続きが完了します。
3. 開業届や再就職手当支給申請書などの必要書類を準備する
失業認定を受け、待機期間(+自己都合の場合は給付制限1か月)が経過したら、開業の準備を進めるとともに申請書類を準備します。
再就職手当の対象となる開業日は、原則として7日間の待機期間満了後である必要があります。さらに、自己都合退職などで給付制限がある場合は、待機期間満了後の1か月間が経過した後の開業でなければ、手当の対象となりません。
この条件を満たすタイミングで開業(開業届の提出や事業開始)し、以下の書類を準備します。
- 開業届(税務署の受付印があるもののコピー)
- 再就職手当支給申請書
- 雇用保険受給資格者証
- 本人確認書類(マイナンバーカード含む)
- 事業の実態・安定性を証明する書類(業務委託契約書、請求書、オフィスの賃貸借契約書など)
開業届は税務署に提出します。書類は税務署の窓口や国税庁のサイトからダウンロードして入手できます。再就職手当支給申請書は、ハローワークやハローワークインターネットサービスで入手できます。
【個人事業主となる人の再就職手当支給申請書の記載例】

出典:再就職手当支給申請書|ハローワークインターネットサービス を加工して作成
個人事業主となる場合、「事業主の証明」欄にはご自身が始める事業に関する情報を記載します。この欄の具体的な記載内容や「仕事をしていることがわかる書類」については、申請書を提出するハローワークでお尋ねください。
4. 再就職手当の申請を行う
必要書類がすべて揃ったら、ハローワークの窓口で再就職手当の申請を行います。提出された書類(特に事業の実態や安定性を証明する書類)をもとにハローワークが審査を行い、要件を満たしていると判断されれば、支給が決定されます。
5. 再就職手当が振り込まれる
支給が決定されると、後日、申請時に指定した金融機関の口座に再就職手当が振り込まれます。
再就職手当が振り込まれるタイミングは、申請からおよそ1か月から2か月が目安です。なぜなら、開業の場合は申請書類の提出だけでなく、その後ハローワークによる事業実態の確認が行われるためです。申請からおおむね1か月前後で事業を本当に行っているかの確認(調査)が行われるのが一般的です。その確認が取れ次第、1週間程度で指定した口座に振り込まれます。
個人事業主が再就職手当の審査に通過するポイント
個人事業主の審査で最も重要なポイントは、「事業を開始し、1年を超えて安定的に継続できるか」を客観的に証明することです。
再就職手当は「安定した職業に就いた、または事業を開始した」場合が対象であり、雇用就職では「1年超の勤務が確実」という要件が明示されています。自営についても、実態と継続性が厳密に確認されます。
開業届のコピー提出は必須ですが、それだけでは事業の実態や安定性の証明にはなりません。以下の書類を準備して、現に事業を行っていることと継続見込みを示すことが重要です。
- クライアントとの業務委託契約書
- 事業用オフィスの賃貸借契約書
- 事業のホームページ、パンフレット
- 発行済みの請求書や領収書の控え
- 売上が入金された通帳のコピー
これらを提出し、1年を超えて事業を継続できると客観的に認めてもらう必要があります。
個人事業主は再就職手当をいくらもらえる?
個人事業主の再就職手当の金額は、以下の計算式で決まります。
- 支給率70%:支給残日数が所定給付日数の3分の2以上ある場合
- 支給率60%:支給残日数が所定給付日数の3分の1以上(3分の2未満)の場合
※基本手当日額は、雇用保険受給資格者証に記載されている金額です(上限額あり)。
※支給残日数は、開業(事業開始)と判断された日の時点で残っている日数です。
- 例1:所定給付日数90日、残日数70日(2/3以上)で開業した場合
6,000円 × 70日 × 70% = 294,000円 - 例2:所定給付日数150日、残日数60日(1/3以上)で開業した場合
6,000円 × 60日 × 60% = 216,000円
個人事業主が再就職手当をもらう場合の注意点
再就職手当の受給にはメリットだけでなく、将来的なリスクや注意点も存在します。特に以下の3点は事前に理解しておく必要があります。
1. 受給後3年間は再受給できない
再就職手当を一度受給すると、その後3年間は再受給できません。たとえ開業した事業がうまくいかず、再度会社員になって失業・再就職したとしても、3年以内は再就職手当の対象外となります。
2. あえて再就職手当をもらわない選択もある
あえて再就職手当をもらわない選択もあります。もし再就職手当を受給せずに開業し、万が一事業がうまくいかず短期間で廃業した場合、失業手当(基本手当)の受給を再開できる特例があります(受給期間の特例)。
再就職手当を受給してしまうと、この特例は使えません。事業の先行きに不安がある場合は、どちらが有利か検討する価値があります。
3. 個人事業を廃業しても失業手当(失業保険)は受給できない
再就職手当を受給して開業した後、その事業を廃業しても、個人事業主は雇用保険の加入対象外であるため、次の失業手当(失業保険)は受給できません。
個人事業主として開業したが再就職手当をもらえなかった場合どうなる?
申請した結果、審査で要件を満たさないと判断された場合(もらえなかった場合)、ハローワークから不支給決定通知書が自宅に郵送されます。再就職手当は、申請後すぐに結果が出るわけではなく、前述の審査や調査が行われます。支給・不支給の決定までには、申請から1か月〜2か月程度は見ておくとよいでしょう。
なお、不支給となった場合でも、離職後に事業を開始・専念した方は、「受給期間の特例」の適用により、基本手当の受給期間から事業実施期間(最長3年)を除外できる可能性があります。
原則は「開始等の翌日から2か月以内」に申請が必要ですが、再就職手当を申請して不支給となったケースは、この2か月超でも手当の申請日を特例の申請日として扱えます。該当し得る場合は、不支給通知と必要書類を持参のうえ早めに窓口で相談してください。
再就職手当の受給要件をあらかじめ確認しましょう
個人事業主として開業する場合でも、要件を満たせば再就職手当の受給は可能です。しかし、会社員への再就職とは異なり、「開業届の提出」や「事業の安定性を示す書類」など、独自の準備が必要です。
特に重要なのが開業のタイミングです。待機期間7日間の満了後、さらに自己都合退職の場合は給付制限の1か月が経過した後でなければ、手当の対象となりません。これらの受給要件をあらかじめハローワークでよく確認し、計画的に準備を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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