- 更新日 : 2023年7月6日
個人事業主・フリーランスは再就職手当をもらえる?条件や開業届のタイミングは?
会社を退職したら、離職票などの提出書類を用意し、ハローワークに失業手当(失業保険)の給付申請をします。(なお、失業手当(失業保険)の正式な名称は「基本手当」です。)
会社員は雇用保険に加入しているため、勤めている会社を退職すると、一般的に失業手当や失業保険とよばれる「基本手当」の給付が受けられます。また、早期に再就職をした場合で一定の要件を満たすと、再就職手当を受け取ることもできます。
では、会社員が個人事業主やフリーランスになった場合は、再就職手当を受け取れるのでしょうか。
ここでは、そもそも再就職手当とは何か、また開業届の提出など手続きや必要な書類、条件、再就職手当を受給するタイミングや平均金額はいくらかなどについて、詳しく解説します。
目次
個人事業主・フリーランスは再就職手当をもらえる?
はじめに、個人事業主やフリーランスが再就職手当をもらえるかどうかを見ていきましょう。
そもそも再就職手当とは?
そもそも再就職手当とは、雇用保険の基本手当(失業手当、失業保険)の給付金を受け取っている人が、早期に就職した場合に受け取れる手当のことです。
※雇用保険の基本手当は一般的に失業手当、または失業保険とよばれることが多いため、この記事ではこれ以降、基本手当を「失業手当(失業保険)」と表現しています。
会社を退職すると、失業手当(失業保険)が受け取れます。失業手当(失業保険)は、退職理由や雇用保険の加入期間、給料の額などで受給できる期間や金額が決まります。失業手当(失業保険)を受給できる期間内に就職すると、本来もらえるはずの失業手当(失業保険)を受け取れないので、就職を遅らせる人も出てきます。
そこで、早期の再就職を促進するため、「再就職手当」として早期に再就職しても手当を受け取れる制度が作られました。
再就職手当の受給条件は?
再就職手当の受給条件は、次のすべてを満たすこととなっています。
- 待機期間の満了後に、就職もしくは事業を開始したこと
- 就職もしくは事業を開始する日の前日までで、基本手当が受け取れる残日数が所定給付日数の3分の1以上であること
- 1年を超えて働くことが確実であると認められること
- 離職理由により給付制限を受けている場合、待機満了後1か月間は、ハローワークや職業紹介事業者の紹介により就職していること
- 離職前の事業主に再び雇用されていないこと(資本や人事などの状況からみて、離職前の事業主と密接な関係にある場合も含む)
- 前3年以内に、再就職手当などの支給を受けていないこと
- 受給資格が決定される前から就職することが決まっていないこと
- 原則、雇用保険に加入する雇用であること
参考:再就職手当のご案内|厚生労働省・都道府県労働局 ・公共職業安定所(ハローワーク)・地方運輸局
会社を退職し、個人事業主になる場合は再就職手当をもらえる可能性がある
上述した再就職手当の受給条件を見ると、「待機期間の満了後に就職」もしくは「事業を開始した」こととあります。条件に就職だけでなく「事業の開始」とあるため、会社を退職し、個人事業主になる場合であっても、条件を満たせば再就職手当が受け取れます。
個人事業主が再就職手当をもらえないケースは?
個人事業主が再就職手当を受給できない具体的な例を3つ取り上げます。
会社を退職してすぐに開業する場合
会社を退職してすぐに開業した場合、再就職手当の支給対象にならない可能性があります。再就職手当の支給の要件に「受給手続き後、7日間の待機期間を経た後に就職や事業を開始すること」とあるためです。待機期間とは、受給資格決定日以後7日間の期間をいいます。待機期間中に開業すると、再就職手当の受給資格を失います。
離職理由が自己都合の場合も注意しましょう。自己都合の場合は、待機期間終了後1か月を経過した後でないと個人事業主の開業は再就職手当の対象にならないためです。
以上のことから、退職した後にすぐ個人事業主として開業すると、再就職手当を受けられないリスクがあります。
副業をしている場合
会社員として勤務しているときから副業をしている場合も注意が必要です。会社を退職してすぐに開業するケースと同様に、待機期間中に副業をすると再就職手当の要件を満たさなくなるためです。退職後も副業をしながら再就職手当を受ける場合は、待機期間中の労働に気をつけましょう。
雇用保険の加入期間が1年未満の場合
再就職手当は、雇用保険の受給資格者が早期に就労することをサポートする目的のある給付金です。再就職手当を受給するには、再就職手当の受給要件を満たすだけでなく、雇用保険の受給資格も満たさなくてはなりません。
雇用保険の受給資格を得るには、原則的に、離職するまでの2年間に被保険者である期間が12か月以上あることが必要です(倒産や解雇などやむを得ない事情で離職した場合は、離職するまでの1年間に通算で6か月以上被保険者である期間があったこと)。
つまり、離職するまでの直近の2年間において、雇用保険に加入している期間が1年に満たない場合は、雇用保険の受給資格も再就職手当の受給資格も有しないことになります。
個人事業主が再就職手当を申請するための手続きは?
ここでは、個人事業主が再就職手当を受け取るための申請手続きの手順について、解説します。
ハローワークで離職票を提出し、求職申込をする
再就職手当の申請をするためには、まず失業手当(失業保険)の受給資格を得る必要があります。ハローワークで離職票を提出し、求職申込をすると、失業手当(失業保険)の受給資格が得られます。
離職票は勤めていた会社から受け取ります。一般的に、退職すると会社から離職票が渡されますが、受け取っていない場合は勤めていた会社に連絡しましょう。
雇用保険説明会に出席し、失業認定を受ける
ハローワークで求職申込をしたら、次は雇用保険説明会に出席します。雇用保険説明会の日程はハローワークから指定されるので、指定日になったらハローワークに出向き、雇用保険説明会に出席します。
雇用保険説明会に出席すると、雇用保険受給資格者証明など、失業手当(失業保険)などを受けるための重要な書類が渡されます。雇用保険説明会では、初回の失業認定日(おおよそ2週間後)の指定を受けます。
初回の失業認定日に再度ハローワークに行き、手続きをすると失業手当(失業保険)や再就職手当を受けるために必要な失業認定が受けられます。
開業届や再就職手当支給申請書などの提出書類の準備
失業認定を受けたら、いつでも開業ができます。再就職手当を申請するためには、一般的に次の書類が必要です。
- 開業届(コピー)
- 再就職手当支給申請書
- マイナンバーカード(※)
- 雇用保険受給資格者証明
- 印鑑
- 業務委託契約書など、仕事をしていることがわかる書類
※マイナンバーカードがない場合は、マイナンバーを証明できる書類と運転免許証などの身分証明書(顔写真つき)が必要です。
開業届は税務署に提出します。開業届の書類は税務署の窓口や国税庁のサイトからダウンロードして入手できます。また、再就職手当支給申請書は、ハローワークやハローワークインターネットサービスで入手できます。
【個人事業主となる人の再就職手当支給申請書の記載例】
出典:再就職手当支給申請書|ハローワークインターネットサービス を加工して作成
個人事業主となる場合、「事業主の証明」欄にはご自身が始める事業に関する情報を記載します。この欄の具体的な記載内容や「仕事をしていることがわかる書類」については、申請書を提出するハローワークでお尋ねください。
再就職手当の申請・審査と決定
必要書類の準備ができたら、ハローワークで再就職手当の申請を行います。ハローワークは提出された書類をもとに審査を行い、問題なければ再就職手当の支給を決定します。
再就職手当の振込
再就職手当の支給が決定されたら、指定した口座に再就職手当が振り込まれます。
個人事業主が再就職手当を受け取るタイミングは?
個人事業主になったら、すぐに再就職手当を受給したいところです。では、個人事業主が再就職手当を受け取るタイミングはいつなのでしょうか。
個人事業主が再就職手当を受け取るタイミングは、再就職手当の申請から1か月以上かかると思ってください。なぜなら、再就職手当の申請後、おおよそ1か月後に事業継続の確認がされるからです。
再就職手当は、開業届などの申請書類の提出のみで受付を行うため、事業を本当に行っているのかどうかを確認する必要があります。そこで、再就職手当の申請後、おおよそ1か月後に、電話で事業継続の確認が行われます。事業継続の確認ができたら、その後1週間程度で、指定した口座に再就職手当が振り込まれます。
個人事業主が再就職手当をもらえなかった場合どうなる?
再就職手当は、申請後に支給要件の確認や調査が行われます。支給までに時間がかかるため、おおむね申請から1か月半程度は見ておくとよいでしょう。再就職手当を申請した場合で支給とならなかった場合は、ハローワークから「不支給決定通知書」が自宅宛てに郵送されます。
個人事業主の再就職手当の平均金額はいくら?
個人事業主の再就職手当の金額は、その人によって異なります。支給される金額は、支給残日数がどれだけあるのかで決まります。そのため、平均金額を出すのは難しいですが、自分の支給額がおおよそいくらになるのかは、次の計算式で求められます。
所定給付日数が2/3以上残っている場合
所定給付日数が1/3以上残っている場合
基本手当日額は、離職前6か月の給与の総支給額や、離職時の年齢などにより、ハローワークで計算されて決まります。金額は、雇用保険受給資格者証に載っています。
例えば、所定給付日数が2/3以上残っていて、基本手当日額6,000円、所定給付日数の支給残日数100日の場合における再就職手当は次のようになります。
個人事業主が再就職手当を受け取る際の注意点は?
個人事業主が再就職手当を受け取る際、最も注意しなければならないのが、税務署に開業届を提出する時期です。実は、個人事業主が再就職手当を受けられるのは、待機期間の後に失業認定を受け、基本手当の受給資格を得てから開業した場合のみです。厳密にいうと、待機期間7日と給付制限のはじめの1か月が経過してから開業した場合のみ、再就職手当を受給できます。
給付制限とは、会社を自己都合で退職した場合に、2か月間または3か月間は失業手当(失業保険)を受給できないというものです。会社都合で退職した人には、給付制限はありません。
つまり、会社都合で退職した人は待機期間の7日目より後、会社を自己都合で退職した場合は待機期間7日+1か月より後に開業届を提出しないと、再就職手当が受給できません。
また、開業届の提出日が上記の日数経過後であっても、業務委託契約書などで、それ以前に仕事をしていることが明らかな場合も再就職手当の受給ができないので、注意が必要です。
個人事業主は失業手当(失業保険)も受給できる?
失業手当(失業保険)は、あくまで失業をしており、再就職の意思がある場合に支給されるものです。そのため、個人事業主になったら失業手当(失業保険)は受給できません。
例えば、失業して最初は別の会社に再就職する意思があったが、再就職先が決まらず、自分で開業した場合は、失業して別の会社に再就職の意思があった期間のみ、失業手当(失業保険)が受給できます。
また、個人事業主は雇用保険の適用外です。もし個人事業主が廃業した場合、失業手当(失業保険)を受け取れない点にも注意しましょう。
再就職手当の受給要件をあらかじめ確認しましょう!
個人事業主であっても、再就職手当が受給できます。しかし、開業届の提出など、会社に就職した場合と必要書類が異なる部分もあるので注意が必要です。
また、開業届を出すタイミングも重要です。それは、待機期間7日と給付制限のはじめの1か月が経過してから開業した場合のみ、再就職手当が受給できるからです。それ以前に開業している場合は、再就職手当を受給できません。
受給要件をあらかじめ確認し、再就職手当を受給できるようにしましょう。
よくある質問
そもそも再就職手当とは?
失業保険を受け取っている人が、早期に就職した場合に受け取れる手当のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
個人事業主・フリーランスは再就職手当をもらえる?
はい。受給条件を満たせば、個人事業主・フリーランスでも再就職手当をもらえます。詳しくはこちらをご覧ください。
再就職手当支給のための必要書類は?
開業届や再就職手当支給申請書、雇用保険受給資格者証明などの書類が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
個人事業主・フリーランスの関連記事
新着記事
創業融資の7つのリスク!後悔しない借入のコツ、審査落ちの対策を解説
創業融資にはメリットだけでなくリスクもあります。この記事を読めば、「創業融資のリスクは?」「審査落ちの対策がわからない」という悩みを解決できます。 本記事で、創業融資で想定可能なリスクや、創業後にオススメの補助金などについて確認していきまし…
詳しくみる法人化のリスクとは?後悔しないための対策、タイミングを徹底解説
個人事業主の中には、節税などのメリットを享受するために法人成りを検討している人もいるでしょう。ただし、法人化にもデメリットがあり、必ずしも得するとは限りません。 本記事では、法人化のリスクについて解説します。法人化して後悔しないための対策や…
詳しくみるレンタルオフィスでの創業融資は可能?審査のコツや補助金も解説
レンタルオフィスでも創業融資を受けることは可能です。ただし、金融機関の信頼を得るためにきちんとした創業計画書を準備しなければなりません。 本記事では、レンタルオフィスでの創業融資が可能かどうかについて解説します。レンタルオフィスで利用できる…
詳しくみる医療法人の資金調達方法は?一般企業と異なる点や注意点を解説
医療法人の資金調達は、一般企業とは異なる特徴を持ち、特有の制約や課題が伴います。医療機器の導入や施設の維持には、多額の費用が必要となるため、安定した資金調達手段の確保が不可欠です。 本記事では、医療法人の資金調達の重要性や一般企業との違い、…
詳しくみる違法な資金調達とは?ファクタリングの危険性や関連する法律なども解説
違法な資金調達は、企業や個人の信用を失墜させ、法的な制裁を招く危険な行為です。ファクタリングを装った詐欺や、補助金の不正受給など、巧妙化する手口に巻き込まれないよう注意が必要です。 本記事では、違法な資金調達の実態や安全な資金調達方法などに…
詳しくみる印鑑登録は法人登記と同時に行う?印鑑証明書を取得するまでの流れを解説
法人の印鑑登録とは、会社の実印となる代表者印を法務局に届け出て登録することを指します。原則として法人登記の際に代表者印を提出する必要があるため、法人の設立登記とあわせて印鑑登録を済ませることが一般的です。 この記事では、印鑑登録を法人登記と…
詳しくみる