• 更新日 : 2026年7月13日

民法109条(代理権授与の表示による表見代理等)とは?要件や110条との違いをわかりやすく解説

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Point民法109条の表見代理とは何か?

実際には代理権を与えていなくても、代理権があるように見せる行為をした場合、相手方が善意・無過失であれば、その者が行った契約の効力は本人に及びます。

  • 代理権授与の表示とは委任状の交付や役職名の使用などを指す
  • 善意・無過失の第三者を保護し、取引の安全を守る
  • 2項は表示した範囲を超える代理行為に110条と同様の考え方を適用する

表見代理の成否は状況次第で、当事者となった場合は弁護士への相談が有効です。

民法109条は、代理権を与えた旨を表示した者が、その表示を信頼して取引した善意・無過失の相手方を保護する規定です。無権代理人による行為は原則として無効ですが、本人側の行為によって代理権の存在を信じさせた場合は、本人が責任を負う形で契約の効力が認められます。

本記事では、民法109条の条文の意味と要件、代理権授与の表示に該当する具体的な行為、民法110条との違い、および関連判例を解説します。

民法109条とは?

民法109条は、代理権のない者(無権代理人)が代理権を持つかのように見せかけて行った代理行為について、一定の要件を満たす場合にその効力を本人に帰属させると定めた規定です。

条文の内容と概要

民法109条は1項と2項から構成され、「代理権を与えた旨の表示」を前提とした表見代理の要件と効力を規定しています。

(1項)第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

(2項)第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

参考:民法(第109条)|e-Gov 法令検索

表見代理が問題となった場合、責任を免れたい本人側が、相手方の悪意または過失を立証しなければなりません。

民法109条1項ただし書きは、相手方が「代理権のないことを知り、または過失によって知らなかったとき」には表見代理が成立しないと定めています。ここで立証責任を負うのは、責任を争う本人側です。

相手方は原則として善意・無過失と扱われるため、本人が「相手方は代理権がないことを知っていた(悪意)」あるいは「通常の注意を払えば知りえた(有過失)」ことを証明できなければ、表見代理の成立を阻止できません。代理権授与の表示をした側にとって、立証のハードルは高くなりやすい点に注意が必要です。

「代理権授与の表示」とは?

民法109条における代理権授与の表示とは、第三者に対して「他人に代理権を与えた」と誤信させる行為や状態のことです。次のような場合が該当しやすいとされています。

  • 代理権授与書や委任状、これらに類似する書類を交付する
  • 従業員に決定権者と誤認させるような役職名(「〇〇統括責任者」「〇〇部長」)を名乗らせる
  • 相手方に代理人であるかのように紹介する

ただし、上記に該当する行為があったとしても、通常の注意を払えば代理権がないことに気づけたケースでは、表見代理とは認められません。表見代理の成否は、相手方の認識や状況全体を踏まえて総合的に判断されます。

参考:民法(第109条)|e-Gov 法令検索

「代理権があると信ずべき正当な理由」とは?

民法109条2項における「代理権があると信ずべき正当な理由」は、表示した範囲を超える代理行為に対して相手方の信頼が正当と評価されるかどうかを問うものです。該当するケースは限られます。

代理権授与の表示に加えて、本人が相手方の信頼をさらに強める行動を取っていた場合に、正当な理由が認められやすいでしょう。

たとえば、建物売買の代理権授与表示に加えて、白紙の委任状をCに交付したり、相手方Bに「Cに何でも任せている」と述べたりしていた場合は、Bが土地についても代理権があると信じたことに正当な理由があると判断される可能性があります。

一方で、相手方が少し調べれば代理権の範囲が限定されていることを知りえた状況では、正当な理由は認められません。取引の安全と本人の保護のバランスを図りながら、個別の事情を踏まえた判断がなされます。

参考:民法(第109条)|e-Gov 法令検索

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民法109条2項と民法110条の違いは?

民法110条は、正式な代理権を与えられた代理人が、その権限の範囲外の行為をした場合の取り扱いを規定しています。民法109条2項との大きな違いは、代理権授与の有無にあります。

比較項目 民法109条2項 民法110条
代理権の有無 代理権なし(無権代理人) 代理権あり(正式な代理人)
前提条件 代理権授与の旨の表示がある 与えられた範囲内の代理権がある
問題となる行為 表示した範囲を超えた代理行為 与えられた権限を超えた代理行為
成立要件 相手方の善意・無過失と正当な理由 相手方の善意・無過失と正当な理由

いずれの規定も「代理権があると信ずべき正当な理由」(相手方の善意・無過失)が要件となる点は共通しています。異なるのは、対象となる行為者が無権代理人か、正式な代理権を持つ代理人かという点です。

参考:民法(第110条)|e-Gov 法令検索

表見代理の3類型における民法109条の位置づけは?

表見代理は民法上、権限授与表示型・権限外行為型・権限消滅後型の3類型があり、民法109条1項は権限授与表示型にあたります。

表見代理が成立しうるのは、大きく次の場面に分けられます。

  • 代理権を与えた旨を表示したケース(民法109条1項)
  • 与えられた権限を超えた代理行為が行われたケース(民法110条)
  • 代理権消滅後に代理行為が行われたケース(民法112条)

表見代理が成立すると、代理権の存在を信頼して取引した者が期待した法的効果が生じます。たとえば、表見代理によって土地を購入した相手方は代金の支払い義務を負う一方で、土地の所有権移転登記を請求する権利を得ます。民法109条2項はさらに、無権代理人が表示した範囲を超えた行為をした場合についても、110条と同様の考え方を準用する規定です。

民法109条が適用されるケースは?

民法109条1項または2項が適用される場面を具体的に解説します。「代理権を与えた旨を表示」しているかどうかの判断は難しい面があります。当事者となった場合は弁護士への相談をお勧めします。

1項が適用される場合

1項が適用されるのは、本人が第三者に対して「他人に代理権を与えた旨を表示」し、その表示を信じた相手方が無権代理人と取引を行った場合です。

具体的な例を挙げましょう。B所有の建物の購入を希望するAが、代理権を与えていないCを建物売買交渉の代理人であるかのように紹介し、CがAの名前でBと売買契約を締結したとします。

Cは無権代理者であるため売買契約は原則無効です。しかし、AがCを代理人として紹介した(代理権授与の表示)ことが認められれば表見代理が成立し、Aは売買契約を履行(不動産を購入して代金を支払う)する責任を負います。

一方、Cに代理権がないことをBが知っていた場合(悪意)、または注意を払えば知りえた場合(有過失)は、表見代理は成立せず契約は無効となります。

2項が適用される場合

2項が適用されるのは、代理権授与の表示はあるものの、無権代理人がその表示した範囲を超えた代理行為を行った場合です。

先ほどの例でいえば、Aが建物の売買について代理権を与えた旨を表示していたところ、Cが土地についても売買契約を締結してしまったケースが該当します。

表示した範囲を超えた代理行為は原則無効ですが、BにCへの「代理権があると信ずべき正当な理由」があったと認められれば、土地に関する契約についても効力を持ちます。Bが善意・無過失であることが前提です。

ビジネスシーンでの具体例

取引先に「担当者が契約に伺います」と伝えた場合、その担当者に実際の契約権限がなくても、表見代理が成立する可能性があります。

たとえば、X社がY社に対して「次回の発注はうちの担当Zが伺って契約します」とメールで通知したとします。実際にはZに契約締結の権限を与えていなかった場合でも、Y社がその通知を信じてZと契約を結んだなら、X社は表見代理の責任を負いうる立場になります。

Y社がZに代理権がないことを知らず、かつ知らなかったことに過失がなければ(善意・無過失)、X社はその契約の効力を否定できません。X社が責任を免れるには、Y社の悪意または過失をX社自身が立証する必要があります。

このようなリスクを避けるためには、社内の担当者が取引先とやり取りする際に「契約権限の範囲」を書面で明示しておくことが有効です。口頭や非公式なメッセージで代理権があるような印象を与えてしまうと、意図せず表見代理の成立を招くおそれがあります。

民法109条に関連する判例は?

民法109条の解釈に影響を与えた最高裁判所の判決を紹介します。

最高裁判所昭和45年7月28日判決(民集24巻7号1203頁)

白紙委任状の交付が「代理権があると信ずべき正当な理由」の判断材料となった事例です。

この事件の概要は次のとおりです。

  • AがBに不動産を販売し、AはBの代理人Cに白紙委任状を交付した
  • Cは白紙委任状を濫用し、Aの代理人としてDとの間で不動産の交換契約を締結した
  • DはAからCに白紙委任状が交付されていることを根拠に、Cに代理権があると信じた

最高裁は、Dに「代理権があると信じたことに正当の理由」があればAが責任を負うとして、原判決を破棄しました。白紙委任状という書類の交付が、正当な理由の有無を判断する重要な根拠となった点が注目されます。

この判決は、委任状の管理を徹底しなければ意図しない責任を負うリスクがあることを示しています。代理を依頼する際は、委任状の交付範囲と内容を厳密に定めておくことが重要です。

民法109条の表見代理を理解してトラブルを防ごう

民法109条は、代理権を与えた旨を表示した者が、善意・無過失の相手方に対して責任を負う形で表見代理の効力を認める規定です。無権代理人の行為であっても、本人側の行為が相手方の信頼を生んだと評価される場合には、契約の効力が本人に帰属します。

代理権授与の表示は、委任状の交付や役職名の使用など、日常的なビジネス場面でも生じうるものです。代理を依頼するとき、または代理人と契約するときは、代理権の範囲を書面で明確に定め、意図しない表見代理の成立を防ぐことが大切です。

民法109条の適用が問題となる場面では、成立要件の判断が複雑になるケースも少なくありません。トラブルが生じた場合や不安がある場合は、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。

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