• 作成日 : 2025年12月8日

スプレッドシートでデータ分析を効率化するには?基本手法から高度な関数活用まで

Googleスプレッドシート(Google Sheets)は、専門的な統計ソフトウェアを使わなくても、実用的なデータ分析を行えるツールです。売上データの傾向分析、顧客行動の把握、業務効率の測定など、ビジネスで必要となる様々な分析をクラウド上で実行でき、チーム全体でリアルタイムに結果を共有できます。

本記事では、スプレッドシートを使った効果的なデータ分析の方法から、分析を効率化する関数の活用法まで、実務ですぐに使える手法を詳しく解説します。

スプレッドシートでデータ分析する方法は?

データ分析を成功させるには、まずデータの準備と整理から始める必要があります。スプレッドシートでは、データの取り込みから前処理、分析、可視化まで一連の作業を効率的に行うことができます。

データの準備と前処理

効果的なデータ分析の第一歩は、分析可能な形式にデータを整えることです。まず、分析対象のデータをスプレッドシートに取り込みます。CSVファイルのインポート、他のスプレッドシートからのコピー、Googleフォームからの自動収集、外部APIとの連携など、様々な方法でデータを集約できます。

データを取り込んだら、重複の削除と欠損値の処理を行います。「データ」→「データクリーンアップ」→「重複を削除」機能で同一データを除外し、空白セルや異常値を特定して適切に処理します。

COUNTBLANK関数で空白セルを確認し、必要に応じて平均値や中央値など適切な統計値で補完するか、該当行を削除します。データの品質は分析結果の信頼性に直結するため、この段階での丁寧な処理が重要です。

データ型の統一も欠かせません。日付データが文字列として認識されていたり、数値にカンマが含まれていたりすると、正しく分析できません。DATEVALUE関数やVALUE関数を使用して、適切なデータ型に変換します。また、TEXT関数を使って表示形式を統一することで、後の分析作業がスムーズになります。

データの構造化も重要なステップです。分析しやすいデータは、各列が一つの変数を表し、各行が一つの観測値を表すテーブル形式になっています。ピボットテーブルを使用する前提で、データを縦持ち形式に整理することで、柔軟な分析が可能になります。

基本的な統計分析の実施

データの準備が整ったら、基本的な統計量を算出して全体像を把握します。AVERAGE関数で平均値、MEDIAN関数で中央値、MODE関数で最頻値を計算し、データの中心傾向を理解します。これらの値を比較することで、データの分布の偏りを把握できます。

ばらつきの指標として、STDEV関数で標準偏差、VAR関数で分散を計算します。これらの値が大きいほどデータのばらつきが大きいことを示します。変動係数(標準偏差÷平均値)を計算することで、異なる単位のデータのばらつきを比較することも可能です。

PERCENTILE関数を使用した四分位数の計算も有用です。第1四分位数(25パーセンタイル)、第2四分位数(中央値)、第3四分位数(75パーセンタイル)を求めることで、データの分布をより詳細に理解できます。箱ひげ図の作成に必要な情報もこれらの関数で取得できます。

相関分析も重要な分析手法です。CORREL関数を使用して2つの変数間の相関係数を計算し、関係性の強さと方向を数値化します。相関係数が1に近いほど正の相関が強く、-1に近いほど負の相関が強いことを示します。ただし、相関関係は因果関係を示すものではないことに注意が必要です。

ピボットテーブルによる多次元分析

ピボットテーブルは、大量のデータを様々な角度から集計・分析できる強力な機能です。「データ」メニューから「ピボットテーブル」を選択し、分析したいデータ範囲を指定することで作成できます。

ピボットテーブルの構成要素は、行、列、値、フィルターの4つです。例えば、売上データを分析する場合、行に「商品カテゴリー」、列に「月」、値に「売上金額の合計」を配置することで、カテゴリー別・月別の売上マトリックスを瞬時に作成できます。

集計方法も柔軟に変更できます。合計だけでなく、平均、カウント、最大値、最小値など、様々な集計関数を選択できます。また、前年比や構成比などの計算フィールドを追加することで、より深い分析が可能になります。「値の表示方法」で「総計に対する割合」を選択すれば、構成比分析が簡単に実行できます。

「データ」→「スライサーを追加」でスライサー機能を追加することで、インタラクティブな分析環境を構築できます。特定の条件でデータをフィルタリングしながら、リアルタイムで集計結果を確認できるため、探索的なデータ分析に最適です。複数のスライサーを組み合わせることで、多次元的な絞り込みも可能です。

グラフによる可視化と洞察の発見

数値の羅列だけでは見えないパターンや傾向も、適切なグラフを使用することで明確になります。スプレッドシートでは、データを選択して「挿入」メニューから「グラフ」を選ぶと、システムがデータ構造に基づいて適切なグラフタイプを自動提案します。

時系列データの分析には折れ線グラフが適しています。複数の系列を重ねることで、トレンドの比較が容易になります。移動平均線を追加することで、短期的な変動を除いた長期トレンドを把握できます。また、トレンドラインを追加して将来予測を行うことも可能です。

カテゴリー間の比較には棒グラフや円グラフを使用します。棒グラフは大小関係を明確に示し、円グラフは構成比を直感的に表現します。積み上げ棒グラフを使用すれば、全体量の変化と内訳の変化を同時に表現できます。

散布図は2変数間の関係性を視覚的に確認する際に有効です。相関関係の有無や、外れ値の存在を一目で把握できます。近似曲線を追加することで、関係性をモデル化し、予測に活用することもできます。

スプレッドシートでデータ分析するのに便利な関数

スプレッドシートには、データ分析を効率化する強力な関数が豊富に用意されています。これらの関数を適切に組み合わせることで、複雑な分析も簡単に実行できます。

QUERY関数:SQL風のデータ操作

QUERY関数は、SQL(Structured Query Language)に似た構文でデータを操作できる最も強力な分析関数の一つです。大規模なデータセットから必要な情報を抽出、集計、並び替えする作業を、一つの関数で実現できます。

基本的な使用方法は =QUERY(データ範囲, “クエリ文字列”) です。例えば、売上データから特定条件を満たすレコードを抽出する場合、=QUERY(A:E, “SELECT * WHERE C > 10000 AND D = ‘東京'”) のように記述します。これにより、C列(売上金額)が10000より大きく、かつD列(地域)が東京のデータのみが抽出されます。

集計機能も充実しています。=QUERY(A:E, “SELECT D, SUM(C) GROUP BY D ORDER BY SUM(C) DESC”) という記述で、地域別の売上合計を降順で表示できます。GROUP BY句による集計、ORDER BY句による並び替え、WHERE句による絞り込みを組み合わせることで、ピボットテーブルに近い分析が可能です。

QUERY関数の強みは、動的な分析が可能なことです。条件部分をセル参照にすることで、ユーザーの入力に応じて分析結果が自動更新されます。=QUERY(A:E, “SELECT * WHERE C > “&F1) のように記述すれば、F1セルの値を変更するだけで抽出条件を変えられます。

参考:QUERY – Google ドキュメント エディタ ヘルプ

ARRAYFORMULA関数:配列計算の効率化

ARRAYFORMULA関数は、配列全体に対して一括で計算を実行する関数です。通常は各セルに個別に入力する必要がある数式を、一つの数式で列全体や範囲全体に適用できるため、大規模データの処理が劇的に効率化されます。

例えば、売上金額と数量から単価を計算する場合、通常は各行に =B2/C2 のような数式をコピーする必要がありますが、ARRAYFORMULA関数を使用すれば =ARRAYFORMULA(B2:B100/C2:C100) という一つの数式で全行の計算が完了します。

条件付き計算も可能です。=ARRAYFORMULA(IF(A2:A100>1000, B2:B100*0.9, B2:B100)) のように記述すれば、A列の値が1000を超える場合は10%割引を適用する計算を全行に対して実行できます。この機能により、複雑な条件分岐を含む分析も効率的に行えます。

ARRAYFORMULA関数は他の関数と組み合わせることで、さらに強力になります。VLOOKUP、SUMIF、COUNTIFなどの関数と組み合わせることで、複数の条件を満たすデータの集計や、マスターデータとの結合処理を高速に実行できます。

参考:ARRAYFORMULA – Google ドキュメント エディタ ヘルプ

FILTER関数とSORT関数:動的なデータ抽出

FILTER関数は、指定した条件に基づいてデータを動的に抽出する関数です。ピボットテーブルよりも軽量で、リアルタイムでデータが更新される利点があります。=FILTER(A:E, C:C>10000, D:D=”東京”) のように、複数条件での絞り込みも簡単に実現できます。

SORT関数と組み合わせることで、抽出結果を自動的に並び替えることができます。=SORT(FILTER(A:E, C:C>10000), 3, FALSE) という記述で、売上金額が10000を超えるデータを3列目(売上金額)の降順で表示できます。

これらの関数の組み合わせは、ダッシュボード作成に特に有効です。元データが更新されると自動的に抽出・並び替え結果も更新されるため、常に最新の分析結果を表示できます。UNIQUE関数を追加すれば、重複を除いたリストの作成も可能です。

参考:FILTER 関数 – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:SORT – Google ドキュメント エディタ ヘルプ

VLOOKUP関数とINDEX/MATCH関数:データの結合

異なるテーブルからデータを結合する際には、VLOOKUP関数が便利です。=VLOOKUP(検索値, 範囲, 列番号, FALSE) の形式で、マスターデータから必要な情報を取得できます。顧客IDから顧客名を取得したり、商品コードから単価を参照したりする場面で活用されます。

より柔軟な検索が必要な場合は、INDEX関数とMATCH関数の組み合わせが有効です。=INDEX(データ範囲, MATCH(検索値, 検索列, 0), 列番号) という形式で、VLOOKUPでは対応できない左側の列の参照や、複数条件での検索が可能になります。

XLOOKUP関数(利用可能な場合)は、VLOOKUPの制限を克服した新しい関数です。左右どちらの方向でも検索でき、エラー処理も組み込まれているため、より堅牢なデータ結合が可能です。

参考:VLOOKUP – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:INDEX – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:MATCH 関数 – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:XLOOKUP 関数 – Google ドキュメント エディタ ヘルプ

統計関数の活用:高度な分析

FORECAST関数は、過去の数値データと対応する時系列に基づいて線形回帰モデルを作成し、将来値を予測します。売上予測や需要予測など、ビジネスプランニングに欠かせない機能です。

TREND関数やGROWTH関数を使用すれば、より複雑な予測モデルを構築できます。TREND関数は線形トレンド、GROWTH関数は指数トレンドに基づいた予測を行います。複数の説明変数を使用した重回帰分析も可能です。

LINEST関数は、回帰分析の詳細な統計情報を提供します。回帰係数、決定係数、標準誤差などを一度に取得でき、モデルの精度を評価できます。これらの情報を基に、予測モデルの妥当性を判断することができます。

参考:FORECAST – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:TREND – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:GROWTH – Google ドキュメント エディタ ヘルプ
参考:LINEST – Google ドキュメント エディタ ヘルプ

データ分析の実践的なワークフロー

効果的なデータ分析を行うには、適切なワークフローを確立することが重要です。スプレッドシートを使った分析プロセスを標準化することで、再現性のある分析が可能になります。

分析テンプレートの作成と活用

頻繁に行う分析については、テンプレートを作成しておくことで効率化できます。データ取り込みシート、前処理シート、分析シート、レポートシートという構成で、各段階の処理を明確に分離します。これにより、新しいデータでも同じ手順で分析を実行できます。

名前付き範囲を活用することで、数式の可読性と保守性が向上します。重要なデータ範囲に意味のある名前を付け、数式内で参照することで、後から見ても理解しやすい分析シートを作成できます。

自動更新システムの構築

IMPORTRANGE関数を使用して、複数のスプレッドシートからデータを自動収集するシステムを構築できます。各部門が個別に管理しているデータを、分析用のマスターシートに集約することで、リアルタイムでの全社分析が可能になります。

Google Apps Scriptを活用すれば、定期的なデータ更新や分析レポートの自動生成も実現できます。毎日特定の時刻にデータを取得し、分析を実行し、結果をメールで送信するような自動化が可能です。

スプレッドシートで本格的なデータ分析を実現

Googleスプレッドシートは、適切な手法と関数を組み合わせることで、専門的なツールに匹敵するデータ分析が可能です。データの前処理から基本統計、ピボットテーブル、高度な関数の活用まで、段階的にスキルを向上させることで、より深い洞察を得ることができます。

QUERY関数、ARRAYFORMULA関数、FILTER関数などの強力な機能を使いこなすことで、大規模なデータセットも効率的に分析できます。重要なのは、目的に応じて適切な手法を選択し、分析結果を実際の意思決定に活かすことです。本記事で紹介した手法を参考に、自社のデータ分析基盤を構築し、データドリブンな経営を実現してください。

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