- 更新日 : 2025年7月25日
給与前払いとは?仕組みや法律、メリット・デメリット、サービスの選び方まで解説
急な冠婚葬祭や予期せぬ事故など、どうしても今すぐお金が必要になる場面は誰にでも起こり得ます。そんな時、選択肢の一つとして「給与の前払い」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、「会社にどう思われるか不安」「そもそも違法じゃないの?」といった疑問や不安から、一歩踏み出せないケースも少なくありません。
この記事では、給与前払い制度の仕組みから法律上の位置づけ、メリット・デメリット、そして賢い利用方法まで徹底的に解説します。
目次
給与前払いとは
給与前払いとは、すでに働いた分の給与を、本来の給料日よりも前に受け取れる制度のことです。あくまで労働対価の前倒しであり、未来の給与を担保にお金を借りるわけではありません。
給料の前借りとの違い
給料の前借りは、まだ働いていない未来の給与を前借りする行為を指します。これは、労働することを条件にお金を貸し付け、将来の給料から天引きする「前借金相殺の禁止(労働基準法第17条)」に抵触する可能性があり、原則として認められていません。働いた分だけを受け取る前払いとは根本的に異なります。
カードローンとの違い
カードローンは、金融機関から個人の信用情報に基づいてお金を借りる金融商品です。勤務先は関係なく、審査に通れば誰でも利用できますが、利息が発生します。一方、給与前払いは働いた分を受け取る制度なので、原則として利息はかかりません。ただし、システム利用料などの手数料が発生する場合があるため、その点は確認が必要です。
給与前払いの仕組み
給与前払いを実現する方法は、大きく分けて2種類あります。自社で直接運用するのか、外部の専門サービスを利用するのかによって、申請方法や受け取りまでのスピードが異なります。
1. 企業が直接対応する方法
企業の経理担当者などが、従業員からの申請に応じて直接現金を支払ったり、給与口座に振り込んだりする方法です。古くからある方法ですが、担当者の業務負担が大きい、申請の心理的ハードルが高い、緊急時の即時対応が難しいといった課題があります。小規模な事業者などで見られるケースです。
2. 給与前払いサービスを利用する方法
近年増加傾向にあるのが、外部の専門業者が提供する「給与前払いサービス」を企業が導入する仕組みです。従業員はスマホアプリやWebから、人事や上司を通さずに直接申請できます。申請から入金までがスピーディーで、企業側の業務負担も大幅に軽減されるため、多くの企業で導入が進んでいます。
給与前払いに関する法律
労働基準法第25条では、労働者が出産、疾病、災害などの非常事態の費用に充てるために請求した場合、企業は支払期日前であっても、既に行った労働に対する賃金を支払わなければならないと定めています。これが、給与前払いの法的根拠の一つです。この非常時払いは、従業員の正当な権利です。
給与前払いサービスは貸金業に該当しない
外部の給与前払いサービスは、従業員に直接お金を支払うのではなく、企業に資金を立て替え、後日企業からその分を回収する仕組みが一般的です。この場合、サービス提供事業者は従業員個人にお金を貸しているわけではないため、貸金業には該当せず、貸金業法による規制(金利の上限など)は適用されません。これが、サービスが合法である理由です。
給与前払いサービスが違法となるケース
もし給与前払いサービスが、実質的に高金利の貸し付け(給与ファクタリングなど)を行っている場合は違法となります。例えば、法外な手数料を請求されたり、未来の給与を買い取る形式だったりする場合は注意が必要です。信頼できる運営元が提供するサービスを選ぶことが極めて重要です。
給与前払いのメリット・デメリット
給与前払い制度は、従業員と企業の双方にメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。両方の側面を理解し、制度を正しく活用しましょう。
従業員側のメリット
- 急な出費に対応できる安心感がある。
- 消費者金融などに頼らず、必要な時に資金を確保できる。
- 外部サービスを利用する場合、上司や経理に気兼ねなく、スマホで手軽に申請できる。
- 金銭的な不安が和らぎ、仕事に集中しやすくなる。
従業員側のデメリット
- サービス利用料や振込手数料がかかる場合がある。
- 使いすぎると金銭感覚が鈍り、計画性が失われるリスクがある。
- 前払いした分、本来の給料日に受け取る額が減ってしまう。
企業側のメリット
- 福利厚生の充実により、求人応募数の増加が期待できる。
- 従業員の定着率が向上し、人材流出を防ぐ効果がある。
- 採用競争において、特にアルバイト・パートへのアピール力が高まる。
- 従業員満足度の向上が、組織全体の生産性向上に寄与する。
企業側のデメリット
- 自社で直接運用する場合、経理担当者の業務負担が増加する。
- 外部サービスを導入する場合も、サービス利用料などのコストが発生する。
- 従業員の資金管理能力の低下を招く可能性が懸念される。
給与前払いの利用方法と注意点
実際に給与前払いを利用したいと考えたとき、どのような手順で進めればよいのでしょうか。申請方法から、利用する上での心構えまでを解説します。
まずは勤務先の制度を確認
最初に、ご自身の勤務先に給与前払いの制度があるかを確認しましょう。就業規則や社内ポータルサイトに記載があったり、入社時に説明があったりするはずです。不明な場合は、人事部や総務部の担当者に問い合わせてみましょう。外部サービスを導入しているかどうかも、この時に確認できます。
申請方法と伝えるべき理由
会社の担当者に直接申請する場合、理由を伝える必要があります。労働基準法で定められた非常時払いに該当する理由であれば、会社は支払いに応じる義務があります。それ以外の理由でも、福利厚生として柔軟に対応してくれる会社は多いですが、正直かつ簡潔に伝えるのが良いでしょう。
手数料と上限額を必ずチェック
給与前払いサービスの利用前には、手数料がいくらかかるのか、一度にいくらまで申請できるのか(上限額)を必ず確認してください。手数料は、1回の申請ごとにかかる場合や、利用金額に応じた料率でかかる場合があります。また、前払いできるのは「すでに働いた分の給与の〇%まで」といった上限が設けられているのが一般的です。
給与前払いサービスやアプリの選び方
もし勤務先が外部サービスを導入している場合、あるいはこれから導入を検討している企業担当者向けに、信頼できるサービスを選ぶためのポイントを3つ紹介します。
1. 手数料の体系が明確か
利用者が最も気にするのが手数料です。料金体系がWebサイトなどで明確に公開されており、利用前にシミュレーションできるなど、透明性の高いサービスを選びましょう。「手数料無料」を謳っていても、他の名目で費用がかかる場合もあるため、総額でいくらかかるのかを確認することが重要です。
2. 入金までのスピード
給与前払いを必要とするのは、緊急性の高い場面がほとんどです。「即日払い」「24時間365日対応」など、必要な時にすぐ対応してくれるサービスかを確認しましょう。スマホアプリで簡単に申請でき、申請から着金までがスムーズなサービスは、利用者にとっての満足度が高い傾向にあります。
3. 運営会社の実績と信頼性
大切な給与を扱うサービスですから、運営会社の信頼性は最も重要です。上場企業やそのグループ会社が運営しているか、導入実績が豊富か、セキュリティ対策は万全かなどをチェックしましょう。利用者の口コミや評判を参考にするのも良い方法ですが、最終的には公式サイトの情報で判断することが大切です。
給与前払いに関してよくある質問
最後に、給与前払いに関して多くの方が疑問に思う点をQ&A形式でまとめました。
正社員でも給与前払いを利用できる?
はい、利用できます。給与前払い制度は、雇用形態(正社員、契約社員、アルバイト・パートなど)に関わらず、その企業で働くすべての従業員が対象となるのが一般的です。ただし、企業の規定によっては勤続期間などの条件が設けられている場合もありますので、詳細は勤務先にご確認ください。
申請理由がないと給与前払いを利用できない?
労働基準法第25条に基づく非常時払いの場合は理由が必要ですが、福利厚生として導入されている多くの給与前払いサービスでは、特に理由は問われません。スマホアプリなどから、私的な理由で自由に申請できる場合がほとんどです。これにより、心理的な負担なく利用することが可能です。
給与前払いは賢く計画的に利用しましょう
給与前払いは、急な出費に困った際の心強い味方となる、労働者の権利に基づいた便利な制度です。特に外部サービスを利用する場合は、誰にも知られずスピーディーに必要な資金を確保できます。
しかし、その手軽さゆえに使いすぎてしまい、かえって家計を圧迫するリスクもはらんでいます。手数料や本来の給料日に受け取る額が減ることを十分に理解し、「本当に今必要なのか」を冷静に判断することが不可欠です。
この記事で得た知識をもとに、ご自身の状況に合わせて給与前払い制度を賢く、そして計画的に活用してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
時間外労働の割増率、割増賃金の計算方法を解説
時間外労働が発生した場合、企業は1時間あたりの賃金単価に割増賃金率を掛けて時間外労働の賃金を支払わなければなりません。割増賃金は、通常の労働時間に対する賃金の計算とは異なります。 給与計算を正しく行うために、ケース別の割増賃金率を理解してお…
詳しくみる定額減税は育休中や産休中どうなる?詳細をわかりやすく解説
「育休中の定額減税はどうなるのか知りたい」とお悩みの方は多いでしょう。原則、令和6年6月1日時点で在職者(基準日在職者)であれば育休中の従業員も対象となります。ただし、育休復帰が令和6年中であるかによって事務処理が異なります。 今回は、育休…
詳しくみる所得税は扶養人数でいくら変わる?年齢による違いや給与計算の注意点
家族を扶養する従業員は、その人数に応じて源泉所得税が減額されます。そのため、給与計算においては、所得税と扶養人数の関係を理解することが欠かせません。当記事では、所得税と扶養人数の関係について解説します。扶養親族の年齢による違いや人数の数え方…
詳しくみる早見表つき!年収から手取りを計算する方法
給与は、支給額から税金と各種保険料が控除され支払われます。正確な手取りの計算には健康保険料・介護保険料・厚生年金保険・雇用保険に加え、所得控除を考慮にいれた所得税の算出、住民税の計算が必要です。ただし早見表があれば、手取りが一目でわかります…
詳しくみる宝塚市の給与計算代行の料金相場・便利なガイド3選!代表的な社労士事務所も
宝塚市は華やかな宝塚歌劇団を擁するエンターテインメントの街として有名で、多くの観光客や地元企業が活発に活動しています。こうした地域特有のビジネスニーズに対応するためには、給与計算の正確性と効率性が不可欠です。しかし、専門的な知識や時間を内部…
詳しくみるパートでも住民税が給与から天引きされる?引かれる金額を年収別に解説
パートも、正社員と同様に給与から住民税が天引きされます。給与明細で自身の給与から住民税が天引きされていると知り驚いた人もいるでしょう。 住民税は、前年度のパート収入が100万円より高い場合に納める義務が生じるため、給与から天引きされるのです…
詳しくみる