- 更新日 : 2025年6月2日
健康診断は有給、無給?業務時間内、休日どちらで行くべき?ルールを解説
会社は労働者に対して健康診断を受けさせる義務があります。働く人の健康を維持し、職場の安全を確保するために必要だからです。しかし、「健康診断を受けるときに有給休暇を使わなければならないのか?」や「業務時間中に受けても良いのか?」といった疑問を持つ人もいるでしょう。健康診断が「労働時間として扱われるのか」「給与が支払われるのか」は状況によって変わります。
この記事では、健康診断の受診義務や、健康診断に関する労働時間や賃金の扱いについてわかりやすく解説します。しっかり理解して、安心して健康診断を受けましょう。
目次
健康診断は受けなければならない?
健康診断は、労働安全衛生法によって会社に義務付けられています。会社は、働く人が健康で安全に仕事ができるように、定期的に健康診断を受けさせなければなりません。
健康診断には「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2つがあり、それぞれ対象となる労働者や検査内容が異なります。
一般健康診断を受ける人
一般健康診断は、ほとんどの労働者が対象となる健康診断です。特に、常時雇用されている労働者(正社員・契約社員・パートタイマーなど)は、受ける必要があります。また、以下のようなタイミングで、健康診断を実施します。
- 雇入時健康診断:新しく会社に入る際に受けるもの。
- 定期健康診断:1年に1回、企業が実施する義務があるもの。
- 特定業務従事者健康診断:深夜勤務など、特定の業務に従事する人向けの追加検査。
- 海外派遣労働者健康診断:海外に派遣される際に実施する健康診断。
一般健康診断の検査内容には、身長・体重測定、視力・聴力検査、血圧測定、血液検査、胸部X線検査などが含まれます。企業はこれらの健康診断を実施し、従業員の健康管理を行う必要があります。
特殊健康診断が必要な人
特殊健康診断は、特定の有害業務に従事する労働者が受けなければならない健康診断です。これは、粉じんや有機溶剤、鉛、放射線などの影響を受ける職場で働く人々の健康を守るために必要な措置です。特殊健康診断の対象となる業務には以下のようなものがあります。
- 粉じん作業(鉱山・工場の粉じんが発生する現場)
- 有機溶剤を扱う作業(塗装業、印刷業、クリーニング業など)
- 鉛を扱う作業(電池製造、鉛管工事など)
- 放射線を扱う作業(医療・研究機関など)
特殊健康診断の内容は業務によって異なりますが、通常の健康診断に加え、血液検査や尿検査、呼吸機能検査などが含まれることが多いです。また、定期的に検査を行い、健康状態に問題がないかを継続的に確認する必要があります。
健康診断の費用負担はどちら?
健康診断にかかる費用は企業が負担することが義務付けられています。労働者が自己負担する必要はありません。
健康診断は有給、無給?賃金はどうなる?
健康診断を受けるときに給与はもらえるのでしょうか。労働基準法では、企業は労働者に健康診断を受けさせる義務があります。ただし、それが労働時間として扱われるかどうかは状況によって異なります。
会社が決めた時間に健康診断を受ける場合
会社が決めた時間に健康診断を受ける場合、それは勤務時間とみなされることが多いです。特に、企業が健康診断の時間を業務の一部として指定した場合は、労働時間と認められ、給与が支払われます。労働基準法では、使用者(企業)が業務命令として行う健康診断は「指揮命令下の労働」とみなされるため、賃金が発生します。また、特殊健康診断の受診は業務の遂行に必要なものであるため、その時間は勤務時間とみなされ、必ず賃金の支払いが必要です。
業務時間外や休日の場合
業務時間外や休日に健康診断を受ける場合は、労働時間とはみなされないことが多いです。この場合、企業が特別に手当を支給しない限り、給与は発生しません。ただし、企業によっては、健康診断を休日に受けた場合に代休を与えることもあります。
有給を使って健康診断を受診するように言われたら?
会社から「健康診断を受けるなら有給休暇を使うように」と指示された場合、どのように対応すればよいのでしょうか。健康診断は労働安全衛生法で定められた企業の義務であり、労働者が有給休暇を使用しなければならないとは限りません。
会社は健康診断に有給休暇を強制できる?
有給休暇は労働者の自由な意思で取得するものとされています。そのため、会社が労働者に対して一方的に有給休暇を使わせることはできません。
特に、健康診断は企業の義務として実施されるものであり、労働者が自らの有給休暇を使って受診する必要はありません。
企業が指示し、業務時間内に健康診断を実施する場合、通常の勤務時間として扱われ、賃金が支払われます。しかし、企業が業務時間外に受診を求める場合、有給休暇を消化させることなく、適切な代休や手当を支払うべきと考えられます。
有給休暇を使用するよう求められたら?
健康診断を受ける際に有給休暇を使用するよう求められた場合、まずは就業規則を確認しましょう。企業によっては、健康診断に関するルールを明確に定めており、「業務時間内での受診を認める」と記載されている場合もあります。もしそのような記載があれば、会社の人事担当者に相談し、有給休暇を使用しなくてもよいことを確認することが大切です。
また、企業が業務時間外に健康診断を設定し、有給休暇を使うよう求めた場合、労働基準監督署に相談するのも一つの方法です。労働者の権利を守るための相談窓口が設置されており、不当な扱いを受けた場合の対処方法についてアドバイスをもらうことができます。
健康診断は業務時間内と休日、どちらで行くべき?
健康診断を受けるタイミングは、業務時間内と休みの日のどちらが適切なのか、企業や働き方によって異なります。企業が健康診断を実施する義務を負っているため、労働者が負担を感じない形で受診できることが望ましいです。
正社員の場合
多くの企業では、正社員に対して業務時間内に健康診断を受診させることが一般的です。企業側も、従業員の健康を維持するために、業務時間中に受診できるよう配慮することが求められます。業務の都合上、どうしても時間を確保できない場合には、事前にスケジュールを調整し、無理なく受診できるようにしましょう。
パート・アルバイトの場合
パートやアルバイトの場合、健康診断の受診に関するルールは企業によって異なります。一部の企業では、勤務時間内に受診できるよう調整していますが、業務時間外の受診を求める場合もあります。企業が業務時間外に健康診断を設定する場合、労働時間として扱われるかどうかを事前に確認しておくことが大切です。
派遣社員の場合
派遣社員の場合、健康診断の実施や費用負担については派遣元(派遣会社)が責任を負うことが一般的です。派遣先企業の指示で業務時間外に受診するよう求められた場合、まずは派遣元に相談し、適切な対応を確認しましょう。派遣契約の内容によっては、健康診断の受診時間を労働時間として扱うこともあります。
健康診断を受けるタイミングについては、労働者の負担を減らし、適切な形で実施されることが理想です。企業側も、労働者の健康管理をサポートするために、柔軟な対応を行うことが求められます。
健康診断について就業規則で定めるには?
企業には、従業員の健康診断を実施する義務が課されていますが、健康診断を業務時間内に受診できるか、給与の支払いはどうなるかといった具体的な対応は法律で細かく決められていません。そのため、企業ごとに就業規則を定め、統一したルールを設ける必要があります。
例えば、業務時間内に健康診断を受けられるようにするのか、それとも業務時間外に受診を求める場合は補償をどうするのかなどを、明確に決めておくことが求められます。
就業規則に入れるべき内容
健康診断に関するルールを明確にするために、就業規則には次のような点を記載するとよいでしょう。
- 健康診断の受診時間(業務時間内・業務時間外)
- 健康診断を受ける際の賃金の取り扱い(勤務扱いとするかどうか)
- 受診費用の負担(会社負担であることを明記)
- 受診証明書の提出義務(受診後の手続き)
例えば、「健康診断は原則として業務時間内に実施し、その時間は労働時間として扱う」と定めれば、従業員が有給休暇を使わずに受診できることが明確になります。また、「業務時間外に受診する場合、代休または手当を支給する」と記載すれば、休日に健康診断を受ける際の補償が明確になります。
就業規則を変更したときの対応
健康診断に関するルールを新しく決めたり、変更したりする場合は、社内での周知が大切です。就業規則の変更には、労働者代表との協議や、労働基準監督署への届け出が必要になることもあります。また、周知されていない就業規則の変更は効力を持ちません。従業員にとってわかりやすく説明し、スムーズに運用できるようにしましょう。
健康診断の有給ルールを確認し、適切に対応しよう
健康診断は、企業が労働者の健康を守るために実施するものです。しかし、健康診断の受診方法や費用の負担は労働安全衛生法で決められていますが、具体的な運用は会社によって異なります。そのため、就業規則を確認し、自分の職場ではどのような対応が取られているのかを知ることが大切です。
もし、会社から「健康診断を受けるために有給休暇を使うように」と言われた場合は、まず就業規則を確認し、労働基準法の観点から適切な対応かどうかを判断しましょう。不明な点があれば、人事担当者や労働基準監督署に相談することで、正しい対応方法を知ることができます。
企業側も、従業員が安心して健康診断を受けられるように、適切なルールを設けることが求められます。法律を遵守しながら、働く人の健康を支える環境を作ることが、結果として職場全体の生産性向上にもつながります。
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