- 更新日 : 2025年12月23日
従業員エンゲージメントとは?高い企業の特徴と向上施策・測定方法を解説
従業員エンゲージメントは、社員が自発的に組織に貢献したいと感じている状態を指し、業績や定着率、顧客満足度にも影響する指標です。しかし、向上させるための対策に悩む企業も少なくありません。
本記事では、エンゲージメントの定義から、測定方法、向上施策や実践企業の事例などを解説します。
目次
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、社員が会社や業務に対して情熱や責任感を持ち、組織の成功に向けて主体的に関与しようとする意識を示す概念です。ここでは、その意味と従業員満足度との違いを整理します。
従業員エンゲージメントは「社員の主体的な貢献意欲」を表す概念
エンゲージメントが高い社員は、組織の目的に共感し、自らの役割に誇りを持って積極的に行動します。業務を遂行するだけではなく、組織の成功に対して自発的に貢献する姿勢が特徴です。逆に、エンゲージメントが低い社員は「やらされ感」が強く、成果への関心が薄れる傾向にあります。
このような意識の違いは、職場の生産性や離職率にも大きく影響するため、多くの企業が人材戦略上の重点項目として位置づけています。
従業員満足度とは異なり、エンゲージメントは能動的な指標
従業員満足度は職場環境や待遇への満足度を測るもので、あくまで受け身の評価です。一方、エンゲージメントは「自分の力で貢献したい」という能動的な意志を示します。たとえば、福利厚生に満足していても、企業の理念に共感できなければエンゲージメントは高まりません。
この違いを正しく理解し、満足度の改善にとどまらず、社員の主体性や情熱を引き出す施策を講じる必要があります。
従業員エンゲージメントを高めるメリットは?
従業員エンゲージメントの向上は、企業活動に多面的な効果をもたらします。経営面でも人事面でもプラスの影響が大きく、多くの企業が注目しています。
業績・生産性の向上
エンゲージメントの高い社員は、自ら積極的に業務に取り組み、創意工夫を重ねながら成果を出そうとします。その結果、チーム全体のパフォーマンスが高まり、生産性や業績の向上につながります。また、職場に前向きな雰囲気が広がることで、新しいアイデアや改善の提案が生まれやすくなり、企業の競争力向上にも寄与します。
離職率の低下と顧客満足度の向上
エンゲージメントが高まると、社員は企業に対する信頼や愛着を持ちやすくなり、離職率の低下が期待されます。定着率の向上は、採用コストの削減やノウハウの蓄積にも効果があります。
また、仕事に誇りを持つ社員の姿勢は、顧客との接点にも現れます。丁寧で一貫性のある対応は、顧客満足度やロイヤルティの向上を促し、企業ブランドの信頼性にもつながります。こうした連鎖的なメリットは、企業の持続的成長を後押しします。
従業員エンゲージメントの測定方法は?
従業員エンゲージメントは目に見えない意識の状態ですが、定量的な調査によって可視化し、組織の課題把握や改善の評価に役立てることができます。測定には専用のサーベイと継続的な活用が重要です。
エンゲージメントサーベイで意識を数値化する
多くの企業では、匿名のアンケート形式で実施される「エンゲージメントサーベイ」によって、社員の貢献意欲や職場への意識を測定しています。
代表的な手法には、国内ツールのモチベーションクラウド、eNPS(社員が企業を他者に推薦する度合い)などがあり、質問内容は、やりがいの実感、企業理念への共感、成長機会の有無、上司・同僚との関係、報酬への納得感など、多角的な視点で構成されます。これらを集計・分析することで、組織全体や部門単位のエンゲージメント傾向が把握でき、重点的な施策設計に役立ちます。
「マネーフォワード クラウドサーベイ」は、社員の意識を定量的に把握できるクラウド型のサーベイ(アンケート)プラットフォームです。社員の心理的な状態やエンゲージメント、離職・休職リスクを“早期発見”する機能が充実しています。
測定は定期的に行い、現場にフィードバックする
年1回の実施に加え、四半期や月次で簡易的に行う「パルスサーベイ」も有効です。定期的な測定によって、組織の状態をリアルタイムで把握しやすくなります。
重要なのは、結果を収集して終わりにせず、分析したうえで現場にフィードバックし、改善策を講じることです。たとえば「◯◯のスコアが低いため、△△に取り組む」と明示することで、社員の信頼と次回以降の調査協力が得られやすくなります。こうしたPDCAサイクルを回すことで、エンゲージメント向上の効果が継続的に期待できます。
従業員エンゲージメントが高い企業の特徴は?
エンゲージメントの高い企業には、組織文化や人材育成の在り方にいくつかの共通点があります。
社員が企業のビジョンと価値観に共感している
エンゲージメントの高い企業では、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)が明確に示され、社員がそれに共感して働いています。
社員一人ひとりが、自分の仕事が企業の目的にどう貢献するかを理解しているため、日々の業務に意味を感じ、前向きな姿勢で取り組めます。ビジョンが浸透した職場では、組織の方向性と個人のキャリアが重なり、自然と一体感が生まれやすくなります。
社員が成長とやりがいを実感できる環境がある
社員が仕事を通じて成長を感じ、自分の強みを発揮できる環境は、エンゲージメント向上に直結します。
高エンゲージメント企業では、成果が見える業務配置や、能力開発のための研修・支援が整っており、社員が学び挑戦し続けられる体制が整っています。「この職場で成長できる」という実感は、組織への信頼や貢献意欲を高めます。
上司が信頼され、心理的安全性が確保されている
直属の上司との関係性は、エンゲージメントに大きな影響を与えます。
信頼できる上司が、1on1などを通じて継続的にコミュニケーションを取り、社員の意見に耳を傾ける環境が整っている職場では、「自分は大切にされている」と社員が感じやすくなります。また、部署を超えて自由に意見を共有できる風土も心理的な安心感につながり、働きがいを支えます。
柔軟な働き方と公正な評価制度が整っている
高エンゲージメントの企業は、多様な働き方を認め、社員のライフスタイルに配慮した柔軟な制度を整えています。
フレックスタイムやリモートワーク、育児・介護制度などが整備されており、社員は「配慮されている」と感じやすくなります。同時に、成果に応じた公正な評価が行われていれば、「努力は報われる」という納得感が生まれ、さらなる貢献意欲が引き出されます。
従業員エンゲージメントを向上させる方法は?
エンゲージメント向上には、社員一人ひとりとの信頼関係を築き、働く意義や成長を実感できる環境づくりが求められます。以下に取り組みを紹介します。
社員の声を拾う「1on1や意見共有の場」をつくる
日常的に社員の声を聴く仕組みを整えることで、信頼関係が強まります。
定期的な1on1や社内アンケート、タウンホールミーティングなどを通じて、社員が安心して意見を出せる風土をつくります。心理的安全性が高まることで、本音が共有され、職場への信頼と貢献意欲が高まります。
頑張りを認める「具体的なフィードバックと公正な評価」を行う
社員の努力を適切に評価し、タイムリーに承認することが意欲の維持につながります。
明確な評価基準を設け、成果に対する具体的なフィードバックを行うことで「報われている」という実感が生まれます。また、日常の小さな行動にも感謝を伝える「称賛の文化」を根づかせることが効果的です。
スキルアップを支える「研修・キャリア支援」を提供する
成長の機会を提供することで、社員は長期的に会社に関与しようという気持ちを持ちます。
研修や自己啓発支援、ジョブローテーション、キャリア面談などを通じて、社員の目標と企業の方針をすり合わせます。成長を後押しされていると感じた社員は、会社に貢献しようとする意欲が高まります。
働きやすさを高める「柔軟な制度とビジョン共有」を行う
柔軟な働き方の導入と、企業の目指す方向性の共有は、安心と共感を生み出します。
テレワーク、時短勤務、育児・介護支援などを取り入れ、社員がそれぞれの事情に合わせて働ける環境を整備します。また、経営層がビジョンや価値観を発信することで、社員は自らの業務と企業の目的を結びつけて働けるようになります。
経営層・管理職がエンゲージメント向上に果たす役割は?
従業員エンゲージメントを高めるには、現場の制度や施策だけでなく、経営層・管理職の関わり方が重要です。社員の意欲や信頼感に直接影響を与える立場として、両者が果たすべき役割を整理します。
経営層が「理念と方向性」を示し、社員の共感と納得を生む
エンゲージメントは「自分の仕事が組織の目的とつながっている」と社員が実感することで高まります。そのため経営層は、企業のミッションやビジョン、戦略を自らの言葉で繰り返し語り、現場に届ける必要があります。
社内報や全社朝礼、経営層との座談会を通じて「なぜこの事業をやるのか」「社員にどう期待しているか」を発信することで、社員の納得感が醸成されます。経営トップが現場と接点を持ち、自ら行動で価値観を体現することが、組織全体の方向性の共有とエンゲージメント向上につながります。
管理職は「日常的な対話と承認」で信頼と貢献意欲を引き出す
直属の上司との関係は、エンゲージメントを左右する最大の要因の一つです。管理職が果たすべき役割は、単なる指示・評価ではなく、日々のコミュニケーションと個別支援を通じて信頼関係を築くことです。
1on1ミーティングで業務状況やキャリア希望を丁寧に聞き取る、日々の努力や成果を具体的に認める、困難な状況でも味方でいると伝える──こうした積み重ねが、社員に「自分は見てもらえている」「この職場で成長できる」という感覚を与えます。結果として、自発的に貢献しようという姿勢が育まれ、チーム全体のエンゲージメントが底上げされていきます。
従業員エンゲージメントの向上に取り組む企業の事例は?
多くの日本企業が従業員エンゲージメント向上に取り組み、成果を上げています。ここでは、公式サイトで公開されている各社の実践例を紹介します。
成長と貢献を両立する人材戦略|株式会社マネーフォワード
株式会社マネーフォワードは「Talent Forward」という人材戦略のもと、従業員エンゲージメント向上に向けて成長支援と制度設計を両立した施策を展開しています。フレックスタイムやリモートワークなどの柔軟な働き方を整備しつつ、社員が自ら希望して異動できる「MFチャレンジ制度」や、キャリア研修・マネジメント研修を通じて学びの機会も提供しています。
月次のサーベイや目標連動制度「Goal for Growth」により、個人の状態や成果を定期的に捉え、成長と組織貢献を結びつける文化を育んでいます。こうした一貫した施策が、エンゲージメントの土台となっています。
参考:Talent Forward 社員の可能性をもっと前へ。|株式会社マネーフォワード
従業員の状態可視化と学び支援を仕組み化する|ロート製薬株式会社
「従業員エンゲージメント」や「ウェルビーイング」を経営指標として扱っており、「5つの質問による10段階の自己評価『Well‑beingポイント』」を年2回、全従業員を対象に実施しています。これを基に「社員一人ひとりが 今どのような状態で日々仕事と向き合っているか」を把握し、経営側が施策を企図する仕組みを構築しています。
また、キャリア自律・主体性の支援にも力を入れており、「ロートアカデミー」など学びの機会も整備されています。
このように「測定」「施策」「支援」のサイクルを明文化することで、従業員エンゲージメントを高めるための仕組み化が進んでいると言えます。
社員の声を起点に改善と対話を継続する|株式会社LIXIL
LIXILは「働きがいのある職場」づくりを明文化し、公式ホームページ上で「従業員エクスペリエンス(Employee Experience)」に注力している旨を掲げています。たとえば、全従業員を対象とした年1回の意識調査「LIXIL Voice」を実施し、従業員の声を収集・分析しています。加えて、柔軟な働き方、育児・介護支援制度、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進など、制度面・環境面の改善も行っています。
このように、エンゲージメントを高めるために「定期的な調査+制度・環境整備」を組み合わせて取り組んでいる点が特徴です。
多様な能力開発とグローバル調査による変革|株式会社小松製作所
建設機械大手である小松製作所も、「社員エンゲージメントの向上」を掲げ、グローバルエンゲージメントサーベイを2021年から開始し、部門・地域ごとに課題分析・アクションプランを策定・実施しています。 さらに、マネージャー層向け研修やワークショップを通じて、「コマツウェイ」という共通の価値観・行動指針を浸透させ、現場のエンゲージメントを高めるための仕組みづくりも紹介されています。
このように、文化・価値観の浸透と測定・改善のPDCAがセットになっている点が、エンゲージメントを高めている事例として参考になります。
参考:多様な能力開発機会の提供とエンゲージメントの向上|株式会社小松製作所
従業員エンゲージメントを高める取り組みを始めよう
従業員エンゲージメントは、企業の生産性や定着率、顧客満足度にも直結する経営課題です。エンゲージメント向上には、社員の声を活かし、成長機会を提供し、柔軟で公正な職場環境をつくることが求められます。まずは自社の現状を正しく把握し、小さな改善から着実に取り組みを始めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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