- 更新日 : 2025年4月3日
外国人労働者を農業分野で雇用できる!現状や課題について徹底解説
外国人労働者を農業分野で雇用することは、労働力不足を解決する一つの手段です。
しかし、受け入れにあたっては在留資格や制度に関する理解が重要です。本記事では、農業分野における外国人労働者の現状、課題、制度の詳細について解説します。
目次
農業分野で働く外国人労働者の現状
農業分野で働く外国人労働者の数は年々増加しています。農林水産省のデータによれば、令和5年12月末時点で農業分野の技能実習生と特定技能外国人は約5万4千人、特定技能外国人のみでは令和6年6月末時点で約2万8千人に達しています。
外国人労働者の国籍別内訳(上位国)は以下のとおりです。
国籍 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
インドネシア | 8,514人 | 30.6% |
ベトナム | 8,504人 | 30.6% |
フィリピン | 2,845人 | 10.2% |
カンボジア | 2,625人 | 9.4% |
令和元年末には292人だった特定技能外国人の在留者数は、令和6年6月末時点で27,786人まで増加しています。さらに、特定技能2号も令和4年6月末時点では0人だったのに対し、令和6年8月末には42人に増えています。
令和6年6月末時点での都道府県別の特定技能1号外国人の在留者数上位の都道府県は以下のとおりです。
1位 茨城県 | 3,879人 |
2位 北海道 | 3,353人 |
3位 長野県 | 2,267人 |
今後も農業分野での外国人労働者の需要は拡大が予想され、適切な雇用管理が求められます。
下記の記事では、農業での起業方法についても解説しているため、あわせてご覧ください。
農業分野における外国労働者の問題・課題
農業分野では外国人労働者の増加に伴い、雇用だけでなく生活環境や将来のキャリアに関する課題も浮上しています。
課題の分類 | 課題の内容 |
---|---|
相互理解・共生 | 外国人労働者の境遇や目的を互いに認め合う関係性が築けないこと |
生活環境の整備 | 農村での生活支援の不足であること |
キャリア支援 | 技能実習生が母国で農業技術を活かせていないこと |
まず、外国人労働者がどのような目的・背景を持って農業に従事しているかが十分に理解されておらず、互いに認め合う関係性が築けないことが課題です。農業は多様な人々に支えられていますが、それぞれの境遇や価値観の違いから、現場での意思疎通が難しいことがあります。そのため、外国人労働者との相互理解を深め、支え合う仕組みを構築することが大切です。
また、農村での暮らしを支える支援が不十分なことも課題です。農村は都市部に比べ生活環境が整っておらず、外国人にとって不便な点もあります。公共交通機関が少ない地域では車がないと暮らしにくく、買い物や病院へのアクセスが難しいこともあるため、生活支援が重要な課題です。
さらに、技能実習生の多くは帰国を前提に来日していますが、日本で習得した農業技術を帰国後に活かせていないケースがあります。そのため、学んだ技術を帰国後にも活かせるような仕組みづくりが求められます。
上記の課題を解決することで、外国人労働者にとっても持続可能な雇用環境を実現できるでしょう。
農業分野の外国人労働者の在留資格制度について
農業分野で働く外国人労働者は、適切な在留資格を取得していることが重要です。在留資格の種類によって、就労できる業務や在留期間、更新条件などが異なります。
以下では、農業分野で主に適用される在留資格制度について解説します。
技能実習制度(技能実習法)
外国人技能実習制度は、発展途上国の人材育成を目的とし、日本の技術を実習生に習得させ、本国の経済発展に貢献することを目的とした制度です。農業分野でも広く活用されており、耕種農業や畜産農業での技能実習が行われています。
技能実習生の主な要件は、以下のとおりです。
- 18 歳以上であること
- 技能実習の目的を理解して行おうとする者であること
- 修得した技能を帰国後活用し、本国で農業に従事する予定があること
- 本国で農業経験がある、または日本で実習する特別な事情があること
- 本国の政府や地方公共団体等からの推薦を受けていること
- 第3号移行には、第2号修了後または第3号開始後1年以内に 1ヶ月以上の一時帰国していること
- 同じ段階の技能実習を過去に行っていないこと
参考:農業分野における外国人技能実習制度の概要|一般社団法人 全国農業会議所
技能実習生の在留期間は、以下の3段階に分かれ、最長5年までとなります。
在留資格 | 在留期間 |
---|---|
技能実習1号 | 1年以内 |
技能実習2号 | 2年以内 |
技能実習3号 | 2年以内 |
制度を活用することで、外国人労働者は日本の農業技術を学び、本国での就農につなげることが期待されています。
従事できる業務
技能実習制度では、実習生が日本の農業技術を習得するために、特定の業務に従事します。業務は耕種農業と畜産農業の2つに分類され、それぞれに必須業務が定められています。
業務 | 分野 | 必須業務 |
---|---|---|
耕種農業 | 施設園芸 | 施設園芸作業、安全衛生作業 |
畑作・野菜 | 畑作・野菜作業、安全衛生作業 | |
果樹 | 果樹作業、安全衛生作業 | |
畜産農業 | 養豚 | 養豚作業、安全衛生作業 |
養鶏 | 養鶏作業、安全衛生作業 | |
酪農 | 酪農作業、安全衛生作業 |
参考:農業分野における外国人技能実習制度の概要|一般社団法人 全国農業会議所
必須業務は、技能実習生が修得する技術に関わる技能検定や技能実習評価試験の試験範囲に基づいて設定されています。実習生は必須業務を経験し、適切な技術を習得することが義務付けられています。さらに、必須業務に加え、関連業務や周辺業務にも従事する場合があることも事前に理解しておきましょう。
受け入れ方法
技能実習生の受け入れは、主務大臣の許可を受けた監理団体を通じて行われます。農業法人や個人の農業者は、外国人労働者を直接受け入れることはできません。受け入れは農業協同組合や事業協同組合などの監理団体が担い、傘下にある実習実施者(組合員・会員)が技能実習を実施します。
実習実施者は、技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構の認定を受けなければいけません。監理団体の許可には「一般監理事業」(技能実習1号・2号・3号を受け入れ可能)と「特定監理事業」(技能実習1号・2号に限定)の2種類があります。
許可を受けた後も、違反があれば改善命令や業務停止命令、許可取消しの対象となる場合もあります。許可が取り消されると技能実習の監理を継続できず、取消し日から5年間は新たな許可を取得できません。
特定技能制度(出入国管理及び難民認定法)
特定技能制度は、特定の産業分野で即戦力となる外国人を受け入れるための在留資格制度です。
特定技能1号は、相当程度の知識や経験を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。在留期間は1年、6ヶ月、4ヶ月ごとの更新で、通算5年が上限とされています。技能水準は「1号農業技能測定試験」に合格する必要がありますが、技能実習2号を良好に修了した者は免除されます。
日本語能力は「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」が求められ、家族の帯同は認められません。受け入れ機関または登録支援機関による支援が必要です。
特定技能2号は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。在留期間は3年、1年、6ヶ月ごとに更新できます。技能水準は「2号農業技能測定試験」に合格することが必要です。
現場で従業員を指導しながら作業を進め、工程を管理する実務経験が求められます。家族の帯同は要件を満たせば可能ですが、受け入れ機関や登録支援機関による支援はありません。
下記の記事では、特定技能について具体的に解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。
従事できる業務
特定技能制度では、特定技能1号と特定技能2号で従事できる業務が異なります。
特定技能1号では、「耕種農業全般」や「畜産農業全般」に従事できます。
特定技能2号では、特定技能1号の業務に加え、耕種農業や畜産農業に関する管理業務にも従事可能です。そのため、現場の指導や作業工程の管理など、より高度な業務に携わることが可能です。
受け入れ方法
特定技能外国人の受け入れには複数の採用ルートがあります。
- 農協や管理団体
- 業界団体や海外法人
- 公的・民間の職業紹介機関
- 外国政府が関与するマッチングシステム
上記のような手法を組み合わせることにより、企業のニーズに合った特定技能外国人を確保しやすくなります。
農業分野で特定技能外国人を受け入れる際の条件
農業分野で特定技能外国人を受け入れるには、法律や制度に基づいた条件を満たす必要があります。条件を知らずにいると、労働者の定着が難しくなり、事業の継続にも影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。以下では、具体的な受け入れ条件について解説します。
農業特定技能協議会に加入する
特定技能外国人を農業分野で受け入れる場合、農業特定技能協議会への加入が必要です。農業特定技能協議会は農林水産省が設置し、制度の適切な運用が目的です。
協議会は事業者間の連携強化、法令遵守の啓発、人手不足の把握などを主に行います。加入費用はかかりませんが、構成員は必要に応じて協議会に協力する必要があります。また、在留資格申請時に構成員であることを証明する書類を提出しなければいけません。
さらに、令和6年6月15日以降、初めて特定技能外国人を受け入れる企業は事前加入が義務化されます。
外国人労働者の支援体制を整備する
農業分野で特定技能外国人を受け入れるには、受け入れ機関が適切な支援体制を整える必要があります。
まず、雇用契約が適正であるかを確認し、日本人と同等以上の賃金水準を確保しなければいけません。また、受け入れ機関自体が法令を守り、欠格事由に該当しないことが求められます。さらに、外国人を支援する体制と計画を整備し、計画に基づいた支援を実施することが必要です。
農林水産省では相談窓口を設置し、労働環境の調査や雇用主への助言を行っています。適切な支援体制を構築し、外国人労働者が安心して働ける環境を整えましょう。
外国人労働者を農業で受け入れる3つのメリット
農業分野で外国人労働者を受け入れることには多くのメリットがあります。日本の農業は高齢化や人手不足が深刻化しており、労働力の確保が課題です。外国人労働者を受け入れることで、労働力の補強だけでなく、新たな視点や技術の導入にもつながります。
以下に、外国人労働者を農業で受け入れる具体的なメリットを3つ紹介します。
1. 人手不足を解消できる
日本では少子高齢化の進行と、大都市への人口集中により、地方の農業従事者が減少しています。とくに若者の多くが都市部へ流れ、農業の後継者不足が深刻化していることが現状です。
人手不足の解決策の一つに、外国人労働者の受け入れが挙げられます。外国人労働者を受け入れることで求職者の母数が増え、採用の選択肢が広がることが大きなメリットです。農業は体力や技術が求められる職種ですが、意欲のある外国人労働者を採用することで、担い手不足の解消につながる可能性があります。
外国人労働者の受け入れは、人材確保が難しい地域でも優秀な人材に出会える機会が増え、農業の継続がしやすくなるでしょう。
2. 即戦力となる人材を確保できる
特定技能「農業」の外国人労働者を受け入れると、一定の技術と知識を持つ即戦力の人材を確保できることがメリットです。
特定技能の在留資格を取得するためには、農業技能測定試験に合格する必要があり、基礎的な農業スキルが証明されています。そのため、一から育成する手間が省けます。とくに繁忙期には、即戦力の人材がいることで作業効率が向上し、農業経営の安定につながるでしょう。
3. 長期的に人材確保できる
特定技能「農業」の外国人労働者を受け入れると、長期的な人材不足の改善につながるメリットがあります。
令和5年の閣議決定で、特定技能2号「農業」が認められ、在留期間の制限が撤廃されました。制限の撤廃により、一定の条件を満たせば長期間にわたる雇用が可能となり、安定的な労働力の確保が期待できます。
とくに慢性的な人手不足に悩む農業分野において、持続的な経営がしやすくなるでしょう。
農業分野で外国人労働者を受け入れる際の注意点
農業分野で外国人労働者を受け入れる際には、事前に注意点を把握することが重要です。労働条件の違いや文化の差を理解せずに雇用すると、トラブルが発生し、働き手の定着や生産性に影響を及ぼす可能性があります。
以下では、各注意点について解説します。
不法就労にならないよう在留資格を確認する
外国人労働者を受け入れる際は、在留資格を必ず確認することが重要です。不法就労となるケースには、以下のようなものがあります。
- 不法滞在者や退去強制対象者が働く場合
- 就労資格がない外国人が許可なく働く場合
- 認められた範囲を超えて就労する場合
参考:外国人を雇用する事業主の皆様へ 不法就労防止にご協力ください。|出入国在留管理庁
さらに、事業主も処罰の対象です。不法就労を助長すると「不法就労助長罪」に問われ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。知らなかった場合でも、在留カードを確認しない過失があれば処罰対象です。
雇用の際は在留資格の確認を徹底しましょう。
外国人労働者にも労働基準法が適用されることを理解する
外国人労働者を受け入れる際は、労働基準法が適用されることを理解しましょう。
外国人労働者に対して最低賃金を下回る賃金の支給は認められず、日本人労働者より低い水準での賃金設定も禁止されています。「外国人労働者=低コスト」という認識は誤りであり、労働時間や休日などの労働条件も同様に適用されます。
労働基準法第3条では、国籍による差別を禁止しており、公平な雇用環境の整備が必要です。そのため、外国人労働者に対しても労働基準法に基づいた適正な待遇を確保し、法令遵守を徹底しましょう。
最低賃金に関する情報は、下記の記事で解説しているためぜひ参考にしてください。
文化の違いを理解する
外国人労働者を受け入れる際は、文化の違いを理解することが重要です。
宗教や仕事観の違いを尊重しているつもりでも、相互理解がなければトラブルにつながる可能性があります。たとえば、家族との時間を大切にする国民性の場合、母国に帰省できるよう配慮することが求められます。
価値観の違いによる誤解やストレスを防ぐためにも、事前に互いの文化を学び、必要に応じてルールを定めることが効果的です。
外国人労働者の農業分野での受け入れも検討してみよう
日本の農業は人手不足が深刻化しており、外国人労働者の受け入れが重要な課題です。
外国人の受け入れを積極的に行うことで、労働力の確保だけでなく技術の継承にもつながります。持続可能な農業を実現するために、外国人労働者の受け入れをどのように進めるべきか、慎重に検討することが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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