- 更新日 : 2025年11月5日
人前での吊し上げはパワハラ?該当するケースや適切な指導との違いを解説
職場での「吊し上げ」は、内容によってはパワハラに該当する行為とみなされることがあります。そのため、問題が深刻化しないよう、適切な指導との違いを正しく理解しておくことが重要です。本記事では、人前での吊し上げがパワハラとされるケースや、正当な指導との違いについて詳しく解説し、職場環境を改善するためのポイントを紹介します。
目次
複数人の前で吊し上げるのはパワハラ?
複数人の前でミスを指摘する行為は、パワハラの6類型のうち「精神的な攻撃」に該当する可能性があります。特に人格を否定するような暴言や過度な叱責が行われる場合、パワハラと認定されやすいでしょう。
吊し上げがパワハラの6類型に該当するケースとは?
吊し上げがパワハラとみなされるケースには、以下があります。
- 人間関係からの切り離し:職場から隔離・仲間外し・無視をする
→ 例:自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
これらの行為は職場環境を悪化させ、被害者に深刻なストレスを与えるため、パワハラと認定される可能性が高いでしょう。
パワハラに該当する吊し上げの具体例とその特徴
以下は、吊し上げがパワハラと認定される具体例です。
- ミスを執拗に掘り返す
→ 例:「あれほど注意したのにまたミスか」「何度同じ失敗を繰り返すんだ」と過去のミスを何度も指摘する - 人格否定や侮辱
→ 例:「お前みたいな人間は必要ない」「頭が悪いからみんなに謝れ」と発言する - 過大な要求
→ 例:膨大な文字数の反省文を書かせる、土下座などの行き過ぎた謝罪を強要する行為
これらの行為は、いずれも被害者に心理的苦痛を与え、職場での信頼関係を損います。
人前での指摘がパワハラとされる理由
人前での指摘がパワハラとされる理由には以下があります。
- 心理的ダメージ:公然と叱責されることで、自尊心が傷つき、精神的苦痛を受ける
- 職場環境への悪影響:他の従業員にも恐怖心を与え、健全なコミュニケーションが阻害される
- 指導目的からの逸脱:再発防止ではなく、相手を意図的に傷つけることが目的となっている場合、指導ではなくパワハラ扱いになる
適切な指導は個別に行い、公平でかつ建設的なフィードバックを心がけることが重要です。
人前での注意や指摘がパワハラだと認定された裁判例
パワハラの中でも「吊し上げ」に相当する裁判例では、指摘の内容や態様が「精神的な攻撃」に該当します。業務上必要な範囲を超えた場合に、パワハラと認定されています。ここでは過去の裁判事例について触れていきましょう。
人前での注意がパワハラと認定された裁判事例
以下は、人前での注意がパワハラと認定された、実際の裁判事例です。
会社代表者が他の従業員の前で怒鳴りつけ、「何をしている、遅い!」といった発言をした事案 裁判所は、これらの行為が業務指導の範囲を超えた人格権侵害であると判断し、50万円の慰謝料を命じた |
秘書が顧客へのお茶出しが遅れたことに対して、上司から「自己愛が強い」「不要な人間」などの人格否定的な発言を受けた事案 人前での注意が重大な要素と評価され、パワハラと認定された |
生命保険会社の社員が支社長から不告知教唆(保険媒介者が保険契約者または被保険者に対して、告知事項の告知をしないようまたは不実告知をするようにすすめること)に関する問いただしを受けた事案 周囲に他の社員がいる状態で強い叱責を受けたことが違法行為とされ、30万円の慰謝料が命じられた |
裁判所が認定したパワハラの基準とその根拠
裁判所がパワハラと認定する基準には、以下の要素があります。
- 言動の内容:注意や指摘が人格的な攻撃や侮辱を含む場合、パワハラと判断される可能性がある
- 状況や環境:注意が行われた場所(公然か個室か)や、その際の言動の態様(感情的かつ高圧的か)も重要
- 優越的地位:上司から部下への注意は、優越的な関係に基づくものであり、特に配慮が求められる
- 被害者への影響:被害者に与える精神的苦痛やストレスも考慮される
パワハラと認定された事例の判決ポイント
裁判の判決には、その判決を下すための「判決のポイント(理由)」があります。以下は、過去の判決が下された際に決め手となった、判決のポイントです。
- 人格否定的発言:裁判所は、注意内容が人格否定的である場合、高い評価を与える
→ 特に「不要な人間」など人格を侮辱する表現は重大な問題 - 公然性:人前で行われた注意は、その影響力から特に厳しく評価される
→ 周囲にいる他の従業員への影響も考慮される - 適切な配慮:注意や指摘を行う際には、個室などプライバシーを配慮した場所で行うべきとされる
→ 公然と叱責することは不適切とされることがある - 慰謝料額:パワハラとして認定された場合、慰謝料額は状況に応じて変動する
→ 具体的には50万円から100万円程度となることがある
人前での注意や指摘がパワハラに該当しない場合
人前での注意や指摘が必ずしもパワハラに該当するわけではありません。指摘が適切な目的や方法で行われた場合、パワハラとは認定されないことがあります。以下では、その具体的なケースについて解説します。
目的が指導であり、発言が適切な場合の注意
人前での注意や指摘がパワハラに該当しない場合には、以下の条件が満たされる必要があります。
- 明確な指導目的:注意や指摘が従業員の成長を促すためのものであり、業務上必要な範囲内であること
→ 例:新入社員に対して業務の進め方を教える際の注意は、教育的な意図があるため問題ない - 適切な言葉遣い:発言内容が冷静かつ具体的であり、感情的な攻撃や人格否定を含まないこと
→ 例:「この部分をもう少し工夫してみてください」など、アドバイスを兼ねた建設的なフィードバックはパワハラとはみなされない - 状況に応じた配慮:注意を行う場面やタイミングも重要
→ 例:業務上の会議など、全員が同じ情報を共有する必要がある場面では、全体に対する指導としても受け取ることができる
上記のように目的と内容が適切であれば、人前での注意や指摘であってもパワハラには該当しません。
安全配慮義務違反となる業務での指摘がパワハラに該当しない理由
業務上の安全配慮義務違反に関する指摘は、安全配慮義務違反に関連する指摘は正当性があるため、パワハラには該当しない場合があります。
- 法的義務の履行:企業には従業員の安全を確保する義務がある
→ 危険な行為や不適切な作業方法について注意を促すことは、この義務を果たすために必要 - 従業員の健康と安全を守るため:作業中に危険な行動をしている従業員に対して「その作業は危険なのでやめてください」と注意することは、安全確保のために必要な行為
→ 注意は従業員の健康を守るためのものであり、パワハラとは認定されない
注意や指摘がパワハラに該当しない具体的なケース
伝えたい内容が業務上必要なものであり、状況や相手に応じて適切に注意や指摘をする場合、パワハラ扱いになりません。
- 教育目的によるフィードバック:新入社員への教育として「この資料はこう直してください」と具体的かつ建設的なフィードバックを行う場合
- 業務改善を目的とした会議での発言:定期的な会議で、「このプロジェクトについて改善点があります」と全体に向けて意見を述べること
- 安全上の問題への迅速な対応:工場などで「その機械の使い方は間違っています」と即座に注意することで事故を未然に防ぐ場合は、安全確保という観点から必要かつ重要
- チーム内での協力促進:チームメンバー同士で、「このタスクについて一緒に考えよう」と協力を促す発言は、ポジティブなコミュニケーションとして評価される
- 個別対応による配慮:「あなたには特別にこの件についてお願いしたい」と個別対応として配慮した発言は、相手への信頼感を示す場合がある
上記の行為は、人前であっても注意や指摘が適切に行われているため、パワハラには該当しません。大切なのは、その目的と内容が建設的かつ配慮されたものであることです。
適切な指導とパワハラ発言の違いは?
言葉によるパワハラは、行為が明らかな暴力と異なり、適切な指導との線引きが難しい場合があります。同じミスを繰り返すなど労働者に落ち度がある場合でも、指導が冷静で建設的であればパワハラには該当しません。ここでは適切な指導とパワハラの発言の違いについて解説します。
適切な指導とパワハラの線引きとは?
適切な指導とパワハラの違いを明確にするためには、以下のポイントを押さえる必要があります。
- 目的の違い
適切な指導:従業員の成長や業務改善を目的としている
パワハラ:感情的な攻撃や相手を傷つけることが目的となっている - 言葉遣いの違い
適切な指導:冷静かつ具体的なアドバイスや改善案を提示している
パワハラ:侮辱的な言葉や人格否定的な発言を含んでいる - 行動の範囲
適切な指導:業務上必要かつ相当な範囲内で行われる
パワハラ:業務上必要性がなく、過剰または不適切な方法で行われる
上記の基準をもとに、指導が業務改善につながるものであるかどうかを判断することが重要です。
労働者に落ち度がある場合の指導とパワハラの違い
労働者に落ち度がある場合でも、適切な指導を行っていれば、パワハラには該当しません。
- 冷静さ
指導:冷静に事実を伝え、改善策を提案する
パワハラ:感情的になり、大声で叱責する、または侮辱的な言葉を使う - 具体性
指導:「この部分をこう改善してください」と具体的なアドバイスを行う
パワハラ:「お前は何もできない」など、非建設的かつ不愉快な発言をする - 頻度と執拗さ
指導:必要最低限の回数で行われる
パワハラ:執拗に繰り返し責め立てる - 場所と状況
指導:個別対応やプライバシーに配慮した場で行う
パワハラ:人前で恥をかかせるような状況で行う
上記の点を意識することで、正当な指導とパワハラとの区別が明確になります。
改善が見られない場合の叱責がパワハラにならない理由
同じミスを繰り返すなど改善が見られない場合でも、叱責する理由が以下の条件であればパワハラには該当しません。
- 業務上必要性がある:ミスによって業務に支障が出ている場合、その改善を求める叱責は正当性がある
- 相手への配慮がある:叱責内容が具体的であり、人格否定ではなく行動や結果に焦点を当てている
- 建設的な目的:叱責が従業員の成長や再発防止につながるものである、「次回はこうしてみよう」など、具体的な改善案を提示している
- 冷静さを保っている:感情的にならず、落ち着いたトーンで伝えることで、相手への精神的負担を軽減する
- 頻度と状況に配慮している:必要以上に繰り返さず、人前ではなく個別対応として行うことで、不必要なストレスを取り除く
上記の叱責は、適切な指導として評価されます。一方で、感情的であったり過剰だったりする叱責はパワハラとみなされる可能性があります。
吊し上げにあったとパワハラの相談をされた場合の対応
従業員から「上司から吊し上げのパワハラを受けた」と相談された場合、人事や管理職は適切に対応することが求められます。以下では、具体的な対応の流れや重要なポイントについて解説します。
パワハラ相談を受けた際の初期対応の流れ
従業員から、吊し上げによるパワハラを受けたと相談された場合は、以下の流れに添った初期対応をすることをおすすめします。
- 相談内容の傾聴:従業員の話を丁寧に聞く
→ 感情的な状況にあるため、共感を示しながら、具体的な状況や発言内容を確認する - 記録の作成:相談内容を詳細に記録する
→ 日時、場所、発言内容、関係者など、後で調査を行う際に役立つ情報を整理しておく - 秘密保持の約束:相談者には秘密保持を約束し、安心して話せる環境を提供する
→ 秘密保持の約束を交わすことにより、従業員はより詳細な情報を提供しやすくなる - 必要な情報提供:相談者に対して今後の流れや利用できる相談窓口について説明する
→ 会社内での必要な手続きについても明確に伝える - 適切なフォローアップ:初期対応後も定期的にフォローアップし、従業員が安心できるよう配慮する
→ 必要に応じて心理的サポートを提供することも考慮する
パワハラの相談は、初期対応が適切であることが、その後の調査や解決策に大きく影響します。
調査方法と被害者への配慮が重要な理由
パワハラの相談を受けたあとは、調査に取りかかります。調査を行う際も被害者へのさまざまな配慮は欠かせません。
- 調査方法
→ 相談内容に基づいて、公正かつ客観的な調査を行う
→ 関係者へのヒアリングや証拠(メールやメッセージなど)を集め、事実関係を把握する - 被害者への配慮
→ 調査中は被害者への配慮が重要
→ 例えば、調査結果が出るまでの間、被害者が安心して働けるよう配属先の変更や業務内容の調整を検討する - 公正性の確保
→ 調査は中立的な立場で行う必要がある
→ 特定の人物への偏見なく、公平に事実確認を進めることが信頼性につながる - 心理的サポート
→ 調査中は被害者が不安を感じることがあるため、必要に応じて専門家による心理的サポートを提供することも考慮する
上記のような配慮がなされていることで、従業員は安心して調査に協力できるようになります。
パワハラ対応後の適切な対応策と再発防止の取り組み
パワハラの相談から解決までの対応を済ませたら、今後の対応策や再発防止の施策に取り組みます。
- 結果の報告と説明
→ 調査結果が出たら、その内容と今後の対応策について従業員に説明する
→ 情報に透明性を持たせることで信頼感が生まれる - 必要な処分の実施
→ パワハラが認定された場合は、加害者に対する適切な処分(注意・警告・研修など)を行う - 再発防止策の策定
→ パワハラ防止のための社内ルールや研修プログラムを見直し、新たな取り組みを導入する - 定期的なフォローアップ
→ パワハラ防止策の効果を評価するため、定期的にフォローアップ調査やアンケートを実施し、職場環境について確認する - コミュニケーション促進
→ 職場内でオープンなコミュニケーション文化を醸成するため、意見交換会やチームビルディング活動なども積極的に行う
上記の取り組みを通じて、安全で健全な職場環境を維持し、再発防止につながる体制づくりが求められます。
吊し上げのパワハラを未然に防ぐには適切な指導が重要
本記事では、吊し上げによるパワハラについて解説しました。上司からの注意や厳しい指導を受けた際、多くの従業員が緊張し、それがパワハラではないかと疑念を抱くことも少なくありません。指導を行う側は、感情的な態度を避け、相手の状況や心境に配慮することが重要です。さらに建設的で前向きな指導・教育を心がけることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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