• 更新日 : 2026年1月14日

アドラー心理学とは?代表的な理論や思想、ビジネスに活用する方法を解説

アドラー心理学とは、自己決定性などを軸に、人間の成長や関係性のあり方を見直す心理学です。ビジネスや人材育成の現場にも広まりつつあり、重要性は高まっています。しかし、活用方法を間違えると放任主義と捉えられるリスクもあるため、活用の仕方を理解することが重要です。

本記事では、アドラー心理学の代表的な理論や考え方、ビジネスに落とし込む際のメリット・デメリットについて解説します。また、ビジネスにおける活用方法も紹介します。

アドラー心理学とは?

アドラー心理学とは、精神科医アルフレッド・アドラーが提唱した、実践的な心理学です。心と体、意識と無意識といった要素に分けて考えるのではなく、統一された存在として捉える全体論の視点を特徴としています。

アドラー心理学は、人は誰でも幸せになれるという前提のもと、自立や健全な人間関係の構築を目指す思考法です。目的論や自己決定性をはじめとする考え方は、個人の行動変容だけでなく、職場でのコミュニケーション改善にも役立ちます。

アドラー心理学は、現代ではビジネスや子育て、教育などさまざまな分野で取り入れられており、実生活に活かしやすい心理学として支持されています。

アドラー心理学が注目されるようになった背景

アドラー心理学が広く知られるようになったきっかけは、2013年刊行の『嫌われる勇気』です。哲学者と青年の対話形式を採用して解説したことにより、難解になりがちな心理学が身近に感じられ、多くの読者の共感を得ました。

また、現代ではSNSの普及により、他者の評価や承認を過度に意識しやすい環境が生まれており、人間関係に疲れやすい人が増えています。

「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と説くアドラー心理学は、こうした時代の価値観と重なり、多くの人に受け入れられています。

フロイト心理学との違い

フロイト心理学との大きな違いは、人の行動をどのように説明するかという点にあります。フロイトは、過去のトラウマや無意識によって人間の行動が支配されるとする、原因論を提唱しました。一方、アドラーは、人間は未来の目的に向かって行動すると考える、目的論を主軸としています。

フロイトが夢分析や深層心理を重視したのに対し、アドラーは意識と無意識を切り離さず、行動の意味に着目した点が特徴です。未来志向で行動を変えられるという考え方は、ビジネスや人材育成の場でも実践しやすく、広く活用されています。

ユング心理学との違い

ユング心理学との違いは、人間理解の視点にあります。ユングは集合的無意識など人類共通の深層心理に着目し、神話や文化との関連性を探る理論を展開しました。また、内向型・外向型などの性格分類によって、心理学的タイプ論を確立しています。

一方、アドラーは、人間を個人の経験や環境、目的にもとづいて理解する立場をとり、個別性と行動の目的性を重視しました。ユングが人類全体の無意識を探求したのに対し、アドラーは目の前の個人の変化と成長に焦点を当てています。

アドラー心理学が提唱する主要な理論

アドラー心理学では、自己決定性をはじめとした理論が、考え方の軸となっています。ここでは、主な5つの理論について解説します。

自己決定性

自己決定性とは、人は自らの意思で行動や捉え方を選び取れるといった考え方です。過去の経験や置かれた環境が不利であっても、どう解釈し、どう行動するかは自分次第だとされます。

仕事においても、希望と異なる配属や周囲との能力差を、成長の機会として受け止めることが可能です。自分だけではなく、他者にとっても建設的かどうかを判断軸にすることで、主体的で納得感のある選択につながります。

自己決定性の考え方は、主体性だけでなく、職場でのエンゲージメント向上にも寄与します。

目的論

目的論とは、人のすべての行動には未来に向けた目的がある、というアドラー心理学の中核的な考え方です。過去の出来事そのものよりも、どのように意味づけ、どの方向へ進もうとしているかを重視します。

たとえば、出社できないのは過去の出来事が原因なのではなく、職場で嫌な思いを避けたいという目的として捉えることが目的論の視点です。原因を探すより、どうすれば良くなるかと未来に向けた行動を選ぶ姿勢が求められており、目的を見直すことで行動や思考を主体的に変えていけると主張しています。

全体論

全体論では、人は心と体、感情と理性を切り離せない一つの存在として捉えられます。たとえば、頭では理解しているのに行動できないという状態は内面の矛盾ではなく、目的に沿って自ら選択しているといった解釈です。

「やめられない」のではなく「やめたくない」、「できない」のではなく「しないだけ」という視点を持つことが、自分への責任感と行動変容につながります。全体論を意識すると自分自身を客観的に理解するきっかけとなり、行動を見直す一歩になります。

認知論

認知論とは、人は物事を主観的に意味づけて捉えている、という考え方です。同じ出来事であっても受け止め方や感情は人によって大きく異なるため、事実よりもその人の認知が行動を左右します。

たとえば仕事でミスをしたときに、向いていないと思い込むのは、認知のゆがみによる自己評価の偏りの例です。認知のゆがみに気づくには、自分の認知を疑い、「本当にそうなのか?」と問い直す習慣が大切です。

アドラー心理学では、客観的な判断を下すために、共通感覚(他者視点での理解)を持つことが重要とされています。認知の仕方を変えるだけで、過去の経験や出来事の意味が変わり、行動や感情もより前向きに変化させられます。

対人関係論

対人関係論では、人の感情や行動は必ず誰かとの関係性の中で生まれると考えます。人間の悩みはすべて対人関係の悩みであるとして、「仕事・交友・愛」の3つの課題に分類しました。

人は状況や相手によって感情や行動を変えるため、どのような場面でどのように接するのかを観察することが、人物理解につながります。たとえば、職場では強気な人物が家庭ではおとなしいというように、人間は対人関係の中でさまざまな顔を見せます。

相手の本質を知るには、何をされたかよりも、自分がどのように反応したかに目を向けることが重要です。

アドラー心理学の代表的な思想

アドラー心理学には、課題の分離をはじめとする、人間関係や自己理解を深める代表的な思想があります。日常や仕事の悩みを整理し、より良い行動選択につなげる考え方です。

課題の分離

課題の分離とは、自分が向き合うべき課題と他者が引き受けるべき課題を明確に分けて、必要以上に相手の問題に介入しないという考え方です。他者の感情や反応は相手自身の課題であり、自分がどう思われるかを気にしすぎるとストレスが増大します。

たとえば、部下を注意する場面で、嫌われないかと悩むことは、相手の受け取り方という他者の課題に踏み込みすぎている状態です。自分にできることとできないことを切り分け、自分の課題に集中することで、人間関係のトラブルも減らせます。

課題の分離を実践すると、他者と対等な「横」の関係が築かれ、健全なコミュニケーションが可能になります。

勇気づけ

勇気づけとは、困難な状況に直面したときに前向きに課題を克服するための、内なる活力を引き出す行動や働きかけです。ビジネスの場にでは、命令や叱責ではなく、対等な立場で相手の努力や存在そのものを認めることが、勇気づけにつながります。

勇気づけを意識すると、相手の自己肯定感が高まり、主体的に課題へ取り組む姿勢や自立的な成長を促進できます。

劣等感

劣等感とは、他者と比べて自分が劣っていると感じる感情を指します。アドラー心理学では劣等感を否定すべきものとは捉えず、成長へ向かうきっかけとして位置づけています。人には自分の足りない部分を補おうとする力が備わっており、劣等感はその力を引き出す原動力です。

理想の自分像と現実とのギャップを認識することが、自らの行動を変えるきっかけとなり、自己成長につながります。健全な劣等感は自己改善のモチベーションとなる一方で、過剰な比較や自己否定は逆効果を招くため、注意が必要です。

共同体感覚

共同体感覚とは、自分は社会や集団の一員であり、他者とつながっているという実感や姿勢を指すアドラー心理学の最終目標です。他者との「横」の関係を前提に、信頼や尊重、協力を通じて、社会との健全なつながりを築くことが重要としています。

共同体感覚を育むには、以下の3つの土台を意識することが求められます。

  • 自己受容
  • 他者信頼
  • 他者貢献

他者と良好な関係を築くことで自己肯定感も高まり、自分も周囲も幸せにするという相互的な幸福を目指せるようになります。

アドラー心理学をビジネスで活用するメリット

アドラー心理学をビジネスに取り入れると、社員一人ひとりの主体性を引き出し、自律的な行動を促せます。人間関係の捉え方を変えることで職場のストレスが軽減され、内発的なモチベーション向上にもつながります。

主体的に行動できるようになる

アドラー心理学を実践すると、他責ではなく自分の行動に責任を持つ主体的な姿勢が育まれます。過去の失敗や周囲の評価にとらわれず、今できる行動を考える未来志向の思考習慣が身につくからです。

アドラー心理学では、上司は命令や指示ではなく、勇気づけやフィードバックを通じて部下の主体性を引き出す関わり方が求められます。自ら考えて行動し、成長を続ける人材は、組織の中でも自走力の高い存在として価値を発揮できます。

人間関係のストレスが軽減される

アドラー心理学は、人間関係のストレスを減らす思考法として活用されます。認知論によると、相手の意見や態度はその人の価値観や状況によるもので、自分への否定とは限らないと捉え直せるようになります。また、課題の分離を活用すると、自分が介入すべきでない問題を見極め、他者の反応や感情に振り回されにくくなるでしょう。

さらに共同体感覚を持つと、相手を支配せずに対等な関係を築けるようになり、職場のコミュニケーションも円滑になります。

モチベーションが向上する

上司と部下の「横」の関係を重視すると、モチベーションの向上につながります。叱る・褒めるによる上下関係のコミュニケーションではなく、勇気づけによって相手の存在や努力を認める姿勢が重要です。

アドラー心理学では行動の結果だけでなく過程を見守り、対等な立場で声をかけることで、部下は安心と信頼を感じやすくなります。受け入れられている実感があると、人は自発的に仕事へ取り組み、モチベーションが内側から湧きやすくなります。

アドラー心理学をビジネスで活用するデメリット

アドラー心理学の考え方は、運用を誤ると放任主義と誤解される可能性があります。考え方の浸透には時間がかかるため、短期間で成果を求めると効果を実感しにくい点も押さえておきましょう。

放任主義と誤解されるリスクがある

自己決定性や課題の分離を強調しすぎると、部下への無関心や放任と誤解される可能性があります。課題の分離により、自身が解決すべき課題に注力することで、部下の主観的な印象への関与が低下し、部下が突き放されたと感じてしまうケースがあるからです。

また、課題の分離を行う際も、共同体感覚を土台とした思いやりのあるコミュニケーションが欠かせません。とくに承認欲求がモチベーションになっている部下に対しては、全否定ではなく、適切なフィードバックや共感が求められます。アドラー心理学では、他者の課題を解決する必要はありませんが、必要な支援まで否定しているものではないことに留意しましょう。

短期間では効果が見えにくい

アドラー心理学は、思考や行動の習慣を根本から見直す考え方であるため、短期間での劇的な成果は期待しにくい側面があります。導入後すぐに職場の人間関係や業績が改善するとは限らないため、継続的な実践を通じて少しずつ変化を感じていくプロセスが重要です。

また、現状に満足していたり、現状維持バイアスや生存者バイアスといった変化に対する抵抗感が強かったりすると、導入効果を実感しにくくなります。とくに上司やベテラン層が、今のやり方で問題ないと思い込んでいる場合、変化への取り組みが進まない可能性があります。

アドラー心理学をビジネスに活用する方法

アドラー心理学を実務で活用するには、日々のコミュニケーションやマネジメントに取り入れることが重要です。フィードバックや1on1の進め方を工夫すると、現場に考え方を定着させられます。

フィードバックに勇気づけを組み込む

アドラー心理学では、フィードバックは相手を評価・指導する手段ではなく、勇気づけの機会と捉えています。結果だけでなく、結果に至る努力やプロセスに目を向けて認めることで、相手の自己肯定感と成長意欲が高まるからです。

フィードバックは、「〜すべき」という決めつけではなく、次にどう活かせそうかと選択肢を提示することが求められます。失敗を責めるのではなく、前向きな視点でともに改善策を考えるフィードバックこそが、組織全体の信頼関係とモチベーションを育てます。

目的に着目した1on1ミーティングを実施する

アドラー心理学の目的論を活用すると、1on1ミーティングが単なる進捗確認ではなく、本人の内発的動機に働きかける場となります。なぜこの行動を取ったかではなく、何のために取り組んでいるかという目的志向の問いかけが効果的です。

上司は上下関係を強調せず、フラットな対話を心がけることで、部下が本音を語りやすい心理的安全性が高まります。また、問題点の指摘ではなく、どうすれば理想の状態に近づけるかを一緒に考えると、主体性と前向きな行動を引き出すことが可能です。

目的を共有する1on1を継続的に行うことで、本人の成長と組織の目標がリンクし、自走するチームづくりにもつながります。

褒めない・叱らない・教えないを意識する

アドラー心理学では、褒める・叱る・教えるは上から目線の行為とされ、部下の主体性や自立を妨げる要因になると考えられています。

褒める代わりに行動や努力を観察し、ありがとうといった主観的な感想や感謝の言葉で勇気づけることが重要です。叱ることは相手の意欲を奪うリスクがあるため、できた部分やプロセスに注目し、次に活かす対話に切り替える姿勢が求められます。また、教えるよりも、余白を残して相手に考えさせる問いかけを行い、必要に応じて支援するスタンスが効果的です。

評価や命令によるコントロールを手放し、対等な立場から部下の思考と行動を引き出す関わり方が、自律型人材の育成につながります。


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