• 更新日 : 2025年12月23日

派遣社員はストレスチェックの対象?派遣元と派遣先の対応を整理して解説

近年、働く人のメンタルヘルス対策として注目されている「ストレスチェック制度」。この制度は、派遣社員を含む労働者全体の健康保持と職場環境の改善を目的に導入されています。2025年の法改正により、遅くとも2028年までには従業員50人未満の企業にも実施が義務化される見通しとなり、派遣元・派遣先企業ともに適切な対応が求められるようになりました。

本記事では、派遣社員がストレスチェックの対象となる条件や、派遣元・派遣先それぞれの役割、法的留意点などを解説します。

目次

派遣社員はストレスチェックの対象?誰が実施する?

派遣社員にストレスチェックを実施する必要があるかどうかは、「常時使用する労働者」に該当するかどうかで判断されます。そして、ストレスチェックの実施主体は、派遣先企業ではなく雇用主である派遣元企業です。ここでは、対象となる条件と実施主体の役割を簡潔に整理します。

派遣社員は条件を満たせば対象になる

ストレスチェック制度では、「常時使用する労働者」が対象とされており、派遣社員もその条件に該当すれば対象となります。契約期間が1年以上(更新により1年以上となる見込みを含む)で、かつ所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の者が対象です。契約期間が1年未満や4分の3未満の短時間労働者は、義務の対象外です。

ただし、対象外となる場合でも、任意での実施を進める企業も増えています。

実施は派遣元企業、派遣先は協力者となる

ストレスチェックの法的な実施義務は、派遣社員の雇用主である派遣元企業が負っています。派遣元は、調査の実施から結果通知、高ストレス者に対する医師の面接指導まで一連の対応を行います。派遣先企業には法的な実施義務はないものの、派遣元が必要とする情報(勤務実態など)を提供したり、就業時間内に受検機会を設けるなどの協力が求められる場面もあります。

派遣先が自主的にストレスチェックを行うことも可能ですが、その場合は任意であり、派遣社員が二重に法的義務を負うことはありません。

派遣元企業はどのようにストレスチェックを実施する?

前述のとおり、派遣社員のストレスチェックは、雇用主である派遣元企業が主体となって行います。ここでは、実施手順と派遣先との連携について整理します。

派遣元がストレスチェックの実施とフォローを担う

派遣元企業は、自社の派遣社員に対して毎年ストレスチェックを行う義務があります。実施方法は通常の従業員と同様であり、産業医や外部サービスに依頼して調査票(例:職業性ストレス簡易調査票)を実施し、派遣社員に回答してもらいます。集計後、本人に結果を通知し、ストレスが高いと判断された場合には、本人の申出に基づき医師による面接指導を手配します。さらに、医師の意見をもとに、派遣社員の働き方に配慮した措置を講じる責任も派遣元が負います。

派遣先企業との情報共有と協力体制

派遣社員の勤務実態や職場環境については、派遣先企業が管理しているため、派遣元企業は面接指導等を適切に行うために、派遣先に情報提供を依頼できます。長時間労働の有無や職場の人間関係、作業負担などが該当します。また必要に応じて派遣元は、派遣先に就業上の措置への協力を求めることができますが、派遣社員本人の同意を得たうえで行う必要があります。これはプライバシー保護の観点から定められており、本人の同意なしに結果を共有することは禁止されています。

派遣元と派遣先が連携し、本人の意思を尊重しながら支援体制を整えることが求められます。

派遣元企業が高ストレスの派遣社員を検知した場合の対応フローは?

派遣元企業がストレスチェックにより高ストレスと判定された派遣社員を検知した場合、労働安全衛生法に基づき、本人からの申出に応じて医師による面接指導を実施し、その結果をもとに必要な就業上の措置を講じる義務があります。

1. 本人への結果通知と面接指導の案内

ストレスチェック結果を本人に通知した後、一定の基準を超える高ストレスと判定された場合、派遣元企業は本人に対して「医師の面接指導を受けることができる」旨を通知します。面接指導は強制ではなく、本人の申出があった場合に限り実施されます。

2. 医師による面接指導の実施と記録

申出があった場合、派遣元企業は速やかに産業医等の医師による面接指導を実施します。指導では、労働時間、業務内容、人間関係などストレスの要因や健康状態について医師が聴取し、必要な措置についての意見書を作成します。企業はその記録を5年間保存する必要があります。

3. 派遣先からの情報取得と連携

医師の意見を正確に判断するため、派遣元企業は派遣社員の就労実態(労働時間、業務状況、職場環境など)について、派遣先企業に情報提供を依頼することが可能です。この際は、派遣元が派遣社員本人の同意を事前に得なければなりません。

4. 医師の意見に基づく就業上の措置の実施

医師から配置転換、勤務時間の短縮、休養の推奨などの意見が出された場合、派遣元企業は就業上の措置を検討・実施します。実際の勤務環境を管理するのは派遣先企業であるため、必要に応じて派遣先に協力を要請し、調整を図ります。

5. 派遣社員への説明と継続的なフォロー

措置の内容や理由について、派遣社員に対し十分な説明を行い、本人の同意を得た上で実施します。また、実施後も定期的なフォローを行い、状態の変化に応じて対応を見直すことが望まれます。

派遣先企業がストレスチェックに関してすべきことは?

派遣社員に対するストレスチェックの実施義務は派遣元企業にありますが、派遣先企業にも実務上の関与が求められる場面があります。協力義務や職場環境の改善への取り組み、配慮すべき禁止行為など、派遣先企業が担うべき役割を具体的に説明します。

派遣社員が受検しやすい環境を整える

派遣社員が勤務時間中に無理なくストレスチェックを受けられるように、回答時間の確保や業務スケジュールの調整を行うことが求められます。また、面接指導が必要となった場合も、業務調整や時間確保に協力します。こうした配慮は派遣元企業の制度運用を円滑にするために不可欠です。

派遣元からの情報提供依頼に協力する

派遣社員の勤務実態や職場の状況については派遣先が把握しているため、派遣元から依頼があれば速やかに情報提供を行います。これには労働時間や業務内容、職場環境に関する情報が含まれ、医師の判断材料として重要です。情報提供の際は、必ず派遣社員本人の同意を得る必要があります。

派遣社員も含めた職場の集団分析を実施する

ストレスチェック制度には、職場単位でのストレス傾向を把握し、環境改善につなげる「集団分析」の努力義務があります。派遣先企業が職場を管理する立場であるため、自社社員とともに派遣社員も含めて実施することが推奨されます。実施にあたっては、派遣社員に目的を明確に伝え、匿名で扱うことを説明したうえで協力を得ることが重要です。

結果を理由に不利益な扱いをしない

ストレスチェックの結果や医師の意見を理由に、派遣社員の契約を打ち切る、交代を求めるといった不利益な扱いは禁止されています。また、自主的に行ったストレスチェックを派遣社員が拒否しても、それを理由に不利益を与えてはなりません。派遣先企業は結果を「人材管理」ではなく「職場改善」の視点で活用する姿勢が求められます。

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従業員50人未満の会社もストレスチェックが義務になる?

これまで努力義務とされていた従業員50人未満の事業場でも、法改正によりストレスチェックの実施が義務化されることが決まりました。派遣元・派遣先企業のいずれであっても、事業規模に関係なく対応が求められるようになります。

2028年までにすべての企業が義務化対象に

2025年に公布された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務とされていた小規模事業場でも、ストレスチェックの年1回実施が法律で義務付けられました。施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、遅くとも2028年5月までにはすべての事業場で義務化される見込みです。中小企業の急激な負担とならないよう、準備期間が確保された形です。今後、企業規模に関係なく、従業員のメンタルヘルス管理体制が標準化される方向へ進んでいきます。

参考:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案 |厚生労働省

小規模な派遣元企業も義務の対象に

この改正により、従業員50人未満の派遣元企業も、派遣社員に対してストレスチェックを実施する法的義務を負うことになります。これまでは「規模が小さいから」として未実施だった派遣会社でも、今後は対応が必須となるため注意が必要です。まだ義務化されていない現段階から、産業医との契約有無の確認や外部ストレスチェック機関の選定など、制度導入に向けた準備を始めることが望まれます。

小規模で社内リソースが限られる場合は、外部委託も有効な選択肢となります。

派遣先企業も体制整備が求められる

派遣先企業でも、これまで従業員数が50人未満であったためにストレスチェックを実施していなかった事業所では、今後に向けて社内体制の整備が必要です。実施担当者の明確化、従業員への制度説明、プライバシーに配慮した運用ルールの策定などを早めに準備しておくことで、義務化後の混乱を避けられます。派遣社員も含めた対応を想定し、派遣元との情報共有体制の構築や、実施時の調整ルールもあらかじめ決めておくことが望ましいでしょう。

義務違反に直接の罰則はなくとも軽視は禁物

現行法上、ストレスチェック未実施そのものに対して刑事罰などの直接的な罰則規定はありません。しかし、義務化された以上、違反企業には労働基準監督署からの是正勧告や行政指導が入る可能性があります。また、ストレスチェックを怠った結果としてメンタルヘルス不調や労災が発生した場合、企業責任が問われやすくなることも懸念されます。

法令順守というよりも、従業員の健康を守り、職場リスクを最小化する重要な手段として前向きに取り組むことが求められます。

ストレスチェックと人事評価・配置転換との関係は?

ストレスチェック制度は、従業員のメンタルヘルス保持を目的とした仕組みであり、人事評価や異動判断と直接結びつけることは認められていません。ここでは、評価や配置転換に関する誤解を防ぐためのポイントを整理します。

結果を評価や処遇に使ってはならない

ストレスチェックの結果や面接指導内容は、個人のセンシティブな情報として、本人の同意なしに第三者へ提供することは法律上禁じられています。したがって、これらを人事評価や昇進・降格の材料に使うことはできません。厚生労働省の指針でも、評価や人事処遇と切り離して運用するよう明確に求められています。従業員が安心して制度に参加できる環境を守ることが、企業にとっても信頼構築の基本です。

配置転換は医師の意見と本人の意向をもとに判断

高ストレスと判定された従業員が医師の面接指導を受け、「配置転換が望ましい」とされた場合、企業は就業上の措置を検討する必要があります。ただし、あくまで本人の意向を尊重し、強制的な異動ではなく、話し合いによる対応が基本です。必要に応じて、勤務時間の調整や業務内容の見直しといった代替案を検討することも重要です。ストレスチェックの目的は排除ではなく、職場環境の改善にあります。

ストレスチェックは制度理解と現場での協力体制が重要

派遣社員に対するストレスチェックの対応には、派遣元企業が制度の責任主体であること、派遣先企業が実務面で協力すべき立場であることを明確に区別して進める必要があります。高ストレス者への対応や職場環境の改善には、両者の適切な連携と、本人の意思を尊重した丁寧な対応が求められます。2028年には事業規模を問わず義務化が予定されており、あらかじめ社内体制を整え、継続的なメンタルヘルス対策に取り組む姿勢が、従業員の安心と企業の信頼形成につながります。


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